水銀条約政府間交渉委員会第5回会合(INC5) 2013年1月13日(日)〜1月18日(金)ジュネーブ、スイス
各国政府代表、国際機関、NGOs、オブザーバーが約140の国・地域から約800名が参加
内容(項目)
1.概要
■水銀条約制定の経緯
国連環境計画(UNEP)は2001 年以来、水銀問題に対応するための活動を展開しています。2002 年、世界水銀アセスメント報告書を発表したUNEP は、水銀の放出はヒト健康に有害影響を及ぼし、環境生態系と経済を損なうかもしれないと言及しました。この重要な報告は、水銀汚染への世界の継続的な取り組みをもたらしました。
管理理事会(GC)における様々な決議を経て、2009年の第25回管理理事会(GC25)において、水銀に関する世界的な法的拘束力のある文書を準備するためにの政府間交渉委員会(INC)を召集すること及び2013年の第27回管理理事会/グローバル閣僚級環境フォーラムまでに完成させることという目標の下に、下記スケジュールで2010 年に作業を開始しました。2013年1月のジュネーブでのINC5で、条約内容を決定し、2013年2月のUNEP 第27回管理理事会への報告を経て、2013年10月の熊本市/水俣市での外交会議で採択・署名される予定です。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Shiryou/Minamata_and_Global_Hg_Treaty_jp.pdf
2009年2月 | UNEP 第25回管理理事会:法的拘束力のある条約制定とINC召集を決定 |
2010年6月7日〜11日 | 第1回政府間交渉会合(INC1):ストックホルム、スウェーデン |
2011年1月24日〜28日 | 第2回政府間交渉会合(INC2):千葉、日本 |
2011年10月24日〜11月4日 | 第3回政府間交渉会合(INC3):ナイロビ、ケニヤ |
2012年6月27日-7月2日 | 第4回政府間交渉会合(INC4):ウルグアイ(プンタデルエステ) |
2013年1月13日〜18日 | 第5回政府間交渉会合(INC5):ジュネーブ、スイス |
2013年2月18日-22日 | UNEP 第27回管理理事会へ報告:ナイロビ、ケニア |
2013年10月9日〜11日 | 外交会議(条約採択/署名):日本 |
■INC5 概要
- 2013年1月13日(日)から1月18日(土)(実際は19日(日)早朝)まで、スイスのジュネーブで、UNEPによる「水銀条約条約の制定に向けた政府間交渉委員会第5回会合(INC5)」が開催され、各国政府代表、国際機関、NGOs、オブザーバーが約140の国・地域から約800名が参加しました。
- INC5開始前日の12日(土)から地域会合(注1)が開催され、以降、原則として毎日本会議前の9時〜10時まで開催され、ビューローからの報告、各地域内の意見調整などが行なわれました。日本が共同議長を務めるアジア太平洋地域会合は、初日の12日(土)はクローズドでNGOは傍聴できませんでしたが、13日(日)以降は、一部制限はありましたが、基本的にはオープンでした。
- 本会議では、事前に発表されていた水銀に関する法的拘束力のある国際的文書への議長提案が討議されました。また下記に述べるコンタクトグループ/リーガルグループの討議結果が報告されました。
- 特定条項について複数のコンタクトグループが設立され、本会議と並行して、あるいはランチタイム及び本会議終了後から深夜(未明)までコンタクト・グループ会議が開催され、討議された結果はリーガルグループに送付されて審査されました。
- NGOsは、これらの会議に先立つ1月11日(金)に、NGO準備会合を開催しました。
注1:地域・グループ会合
アフリカ地域、アラブ地域、アジア・太平洋地域、中央・東ヨーロッパ地域、ラテンアメリカ・カリブ海諸国地域(GRULAC)、西ヨーロッパ・その他の地域、JUSCANZ グループ(日、米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)
■INC5 会議議題
Provisional agenda
1.開会
2.組織事項
(a)議題採択
(b)作業組織
3.水銀に関する法的拘束力のある文書の準備
4.その他の事項
5.報告書の採択
6.閉会
■水銀に関する法的拘束力のある国際的文書への議長提案
会議議題のうち、「3.水銀に関する法的拘束力のある文書の準備」が中心議題であり、UNEP事務局が事前に発表していた「水銀に関する法的拘束力のある国際的文書への議長提案(UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3)」の条項にそって討議されました。(オリジナル(英語版)|当研究会日本語訳)
水銀条約議長提案(本文と付属書)
A 前文 | |
B はじめに | |
C 供給 | |
D 水銀の国際貿易 | |
E 製品とプロセス | 付属書 C 水銀添加製品 付属書 D 水銀又は水銀化合物が使用されている製造プロセス |
F 人力小規模金採鉱 | 付属書 E 人力小規模金採鉱 |
G 大気排出と水と陸地への放出 | 付属書 F 水銀及び水銀化合物の大気排出源のリスト 付属書 G 水及び陸地への水銀放出源 |
H 保管、廃棄物、汚染サイト | 付属書 H 環境的に適切な保管に関する[ガイダンス][要求の策定] |
I 財源と技術的及び実施支援 | |
J 意識向上、研究と監視、情報伝達 | |
(以下省略)
■IPEN及びZMWGの見解
ドラフト・テキストについて、IPEN と ZMWG は、それぞれINC5に先立つ12月及び11月に、組織としての見解と勧告を発表しので、当研究会は日本語版を下記ウェブページに掲載しました。
■毎日の典型的なスケジュール
毎日の典型的なスケジュールは下記の通りであり、早朝から夜遅くまでの非常にハードなスケジュールでした。
- 8時〜9時:NGO会議
- 9時〜10時;各地域会合(当研究会はアジア太平洋地域会合を傍聴)
- 10時〜13時:本会議
- 15時〜18時:本会議
- 本会議の合間、及び本会議終了後深夜(未明)までコンタクト・グループ会合。
■開催期間中のNGOsの活動概要
- 1月11日(金)午前:ZMWG準備会合、IPEN戦略会議
- 1月11日(金)午後:IPEN準備会合 夕方:NGO全体準備会合
- 1月11日(金)夜:NGO夕食会(IPEN/ZMWG主催)
- 1月12日(土)ZMWGサイドイベント(水銀汚染に関するセミナー)
NGOブース設営(IPEN、ZMWG、その他NGO)
- 1月13日(日)朝8時30分〜9時 IPEN 水俣キャンペーン
- 1月13日(日)地域会合、本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
- 1月14日(月)地域会合、本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
昼食時:IPEN ASGMキャンペーン
- 1月15日(火)地域会合、本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
昼食時:IPEN フィッシュ・キャンペーン
- 1月16日(水)地域会合、本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
昼食時:IPENサイドイベント「世界の水銀ホットスポット」各国代表者向け
- 1月17日(木)地域会合、本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
昼食時:IPEN / BRI 毛髪と魚サンプリング水銀分析結果発表記者会見
IPEN 1月17日 プレスリリース
- 1月18日(金)本会議/NGO発言、コンタクトG会議参加
- 1月19日(土)早朝 コンタクトG報告、クロージングセクション/NGO発言
午前中:IPEN記者会見「水銀条約の結果と将来の影響に関する分析」、UNEP記者会見
IPEN 1月19日 プレスリリース
■IPENのキャンペーン/サイドイベント
▼IPEN 水俣キャンペーン
- INC5の初日の1月13日(日)、本会議場に隣接するロビーで、国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)は、”水俣を敬うキャンペーン”の一環として、「Honoring Minamata Victims」と書かれたおそろいのTシャツを着て、プラカードを掲げ、水俣ポストカードと水俣連帯リボンを会議参加者に配布しました。
ポストカードの表は、INC2(2011年1月千葉)で水俣被害者の坂本しのぶさんが、フェルナンド・ルグリスINC議長と握手している写真と、INC5に向けての坂本しのぶさんのメーセージを英文で記載しました。
- 写真
▼IPEN ASGMキャンペーン
▼IPEN フィッシュ・アクション
2.討議内容/結果/問題点
■参考資料
■討議内容/結果の詳細(IISD報告) (13/02/04)(13/02/14)更新
◇序文
◇序文最終テキスト
◇第1条 目的
◇第1条 最終テキスト
◇第2条 定義
◇第2条 最終テキスト
◇第3条 水銀供給源と貿易
◇第3条 最終テキスト
◇第6条 水銀添加製品 (13/01/30)
◇第6条 最終テキスト (13/01/30)
◇第7条 水銀が使用される製造プロセス (13/01/30)
◇第7条 最終テキスト (13/01/30)
◇第8条 要求に基く締約国に利用可能な免除(13/01/30)
◇第8条 最終テキスト(13/01/30)
◇第9条 ASGM (13/02/03)
◇第9条 最終テキスト (13/02/03)
◇第10条 排出 (13/02/03)
◇第10条 最終テキスト (13/02/03)
◇第11条 放出 (13/02/03)
◇第11条 最終テキスト (13/02/03)
◇第12条 廃棄物水銀以外の水銀の環境的に適切な暫定的保管 (13/02/04)
◇第12条 最終テキスト (13/02/04)
◇第13条 水銀廃棄物 (13/02/04)
◇第13条 最終テキスト (13/02/04)
◇第14条 汚染サイト (13/02/04)
◇第14条 最終テキスト (13/02/04)
◇第15条 財源とメカニズム (13/02/08)
◇第15条 最終テキスト (13/02/08)
◇第16条 技術的援助、能力構築、技術移転 (13/02/10)
◇第16条 最終テキスト (13/02/10)
◇第17条実施及び遵守委員会 (13/02/11)
◇第17条 最終テキスト (13/02/11)
◇第18条 情報交換 (13/02/11)
◇第18条 最終テキスト (13/02/11)
◇第19条 広報、意識向上、教育 (13/02/11)
◇第19条 最終テキスト (13/02/11)
◇第20条 研究、開発、監視 (13/02/13)
◇第20条 最終テキスト (13/02/13)
◇第20条bis. 健康面 (13/02/13)
◇第20条bis 最終テキスト (13/02/13)
◇第21条 実施計画 (13/02/14)
◇第21条 最終テキスト (13/02/14)
◇第22条 報告 (13/02/14)
◇第22条 最終テキスト (13/02/14)
◇第23条 効果の評価 (13/02/14)
◇第23条 最終テキスト (13/02/14)
◇閉会 (13/02/14)
■条約の問題点(13/02/06)(13/02/15)更新
◇自主的条項(13/02/14)
◇第3条 水銀供給源と貿易(13/02/06)(13/02/14)更新
◇第6条 水銀添加製品(13/02/06))(13/02/15)更新
◇第7条 水銀が使用される製造プロセス(13/02/06)
◇第8条 要求に基づく免除(13/02/15)
◇第9条 人力小規模金採鉱(ASGM)(13/02/06)
◇第10条 大気への排出(13/02/06)
◇第11条 水/陸への放出(13/02/06)
◇第14条 汚染サイト(13/02/06)
◇自主的条項(13/02/14)
◆水銀条約の条項/要素には、義務的なものと自主的なものが混在している。
◆条約の資金メカニズムは、義務的な措置に対して優先的に適用されるので、自主的な措置の実施に適用される可能性はほとんどない。
◆従って、これら資金の裏付けのない自主的な措置が実施されることは、特に発展途上国においては、ほとんど期待できない
◆完全に自主的な条項の例
- 第14条(汚染サイト)
- 第20条(研究・開発・監視)
- 第20条bis(健康面)
- 第21条(実施計画)
◇第3条の問題点(水銀供給源と貿易)(13/02/14)更新
◆締約国にとっての条約発効前に実施されていなかった一次採鉱(新規)は禁止されるが、 発効を遅らせれば、新規ではなくなり禁止対象とならない。(13/02/14)
◆既存の一次採鉱は、締約国にとっての条約発効後15年間許されるが、発効を遅らせれば、それだけ一次採鉱禁止の開始を遅らせることができる。(13/02/14)
◆水銀貿易は禁止されない。
- 締約国にとっての条約発効前に実施されていなかった一次採鉱(新規)は禁止。
- 条約発効日にその領土内で実施されていた一次採鉱(既存)は、発効後15年間は許される。
- 書面による同意を与えられた輸出締約国には、条約の下に許容される製品(第6条)及びプロセス(第7条)の用途のため、又は第12条に規定されている環境的に適切な暫定的な保管のためには、一次採鉱の水銀の輸出が許される。
- 一次採鉱以外からの水銀は、ASGMを含んで条約で許容される用途のための貿易が許される。(例えば、日本が行なっている非鉄金属精錬廃棄物や水銀含有製品廃棄物からの回収水銀の輸出)。
- 年間10トンを超える在庫を生成する水銀供給源、及び、50トンを超える水銀又は水銀化合物の個別の在庫を特定するよう努力しなくてはならない(義務ではない)。
◇第6条の問題点(水銀添加製品)(13/02/15)更新
◆禁止製品だけがリストされるポジティブリスト・アプローチである。
◆既存ストック品の販売は規制されないので、大量に製造しておくことが可能。
◆国民保護(定義不明)と軍事用途とチメロサールは対象外。
◆歯科アマルガムは禁止されない(期限のない段階的な廃止)。
ポジティブリスト・アプローチ:リストされていない水銀添加製品は規制されない。
除外製品:国民保護(定義不明)及び軍事用途にとって必須の製品は対象外。保存剤としてのチメロサールを含むワクチンも途上国の冷蔵庫による保管事情が難しいという理由で規制対象外である。
パートT
禁止製品だけがリストされるポジティブリスト・アプローチである。
製品の製造、輸入、輸出が許されない期日として2020年が設定されている。
(在庫品の販売は規制されないので、それまでに大量に製造しておくことが可能)
- バッテリー、スイッチとリレー、コンパクト蛍光ランプ(CFL)、直管蛍光ランプ、高圧水銀ランプ。
- 冷陰極蛍光管(CCFLs)及び電子表示用の外部電極蛍光管(EEFL)中の水銀。
- 化粧品。
- 殺虫剤、殺生物材、及び局所消毒薬。
- 気圧計、湿度計、圧力計、温度計、血圧計。
パートU
- 廃止期日が示されていない段階的な廃止(phase-down)対象となる製品で、歯科アマルガムは、パートUにリスされている唯一の製品。対処すべき措置として9項目の中から2項目を選ぶことを求めているが弱い。
◇第7条の問題点(水銀が使用される製造プロセス)
◆塩素アルカリプロセスの廃止は2025年と長いが、さらに第8条の免除延長要求により最高2035年まで延長可能
◆塩ビモノマーは禁止されない。
- パートT
- 塩素アルカリ製造プロセスでの水銀の使用を2025年までに禁止。
- アセトアルデヒド製造プロセスでの水銀の使用を2018年までに禁止。
- パートU
- 塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀の使用は削減するための措置を求めるだけで、使用は禁止されていない。
◇第8条の問題点(要求に基づく免除)(13/02/15)
◆第6条(水銀添加製品)及び第7条(プロセス)の禁止開始期限を最高10年延ばせる。
- 締約国による免除登録の中でより短い期間が示されていなければ、付属書C又はDにリストされている当該廃止期日後5年で全ての免除は失効しなくてはならない。 (最高5年の免除が許されるということ)
- 締約国からの報告を正当に検討して、さらに5年間免除を延長することを決定してもよい(前項と合わせて最大10年の免除が許される)。
◇第9条の問題点(人力小規模金採鉱(ASGM))
◆水銀使用と貿易は禁止されていない。(締約国自身が決める。)
◆あるASGMが規制対象となるかどうかは締約国が決める。
- ASGMを持つ締約国は、水銀と水銀化合物の使用、及び環境への放出を削減し、実行可能なら廃絶するための措置をとらなくてはならないとする自主的な要求であり、禁止していない。
- 些細の定義がないのに、ASGMと処理が些細なものではない(more than insignificant)と決定したら、事務局に通知、国家行動計画を策定、実施し、条約発効後3年以内に事務局にそれ提出し、その後3年毎に進捗状況の更新するとしている。
- ASGMで使用する国外及び国内の両方の供給源からの水銀及び水銀化合物の貿易と流用防止の管理のための戦略を国家行動計画に含める。 (ASGMは許容される用途であり、貿易は禁止されない。)
- ASGM関連の貿易条項は不必要であると結論付け、それを削除。
◇第10条の問題点(大気への排出)
◆新規排出源:自主管理であり排出量規制はない。 BAT及びBEP の使用だけが求められている。
◆既存排出源:条約発効後1年以内の建設着工なら既存排出源とみなされ、BAT及びBEPの適用が義務づけられない。
◆既にタジキスタンでは既存排出源とするために、多くの火力発電所のかけ込み建設が行なわれていると言われている。
◆施設毎の排出削減目標であり、総排出削減目標ではない。(施設が増えれば、排出量も増える)
◆石油・ガス製造施設を除外
- 新規排出源
- 締約国は排出を管理し、実行可能なら削減するために、できる限り早急に、しかし各締約国にとっての発効後5年以内に、BAT及びBEPを使用すること。
- 既存排出源
- 締約国は国家の事情、経済的及び技術的実行可能性、及び措置の実行可能性を考慮しつつ、できる限り早急に、しかし各締約国にとっての発効後10年以内に、下記の措置のひとつ又はそれ以上を国家計画の中にも含め、そして実施すること。
- 排出源からの排出を管理し、実行可能なら削減するための定量的目標。
- 排出源からの排出を管理し、実行可能なら削減するための排出制限値。
- 排出源からの排出を管理するため BAT と BEP の使用。
- 水銀排出の管理のために共通の利益をもたらすであろう多種汚染管理戦略。
- 排出源からの排出を削減するための代替措置。
(注)
BAT(利用可能な最良の技術)
BEP(環境のための最良の慣行)
◇第11条の問題点(水/陸への放出)
◆自身で削減対象を特定し、国家計画を策定するという自主的で弱い管理である。
◆国家実施計画の策定はオプションであり、義務ではない。
- ”関連ある放出源(relevant source)”:締約国により特定される人間活動に由来する著しい放出の点源であり、この条約の他の条項で対応されていないもの。
- 締約国は発効後3年以内に、それ以後は定期的に関連ある削減対象施設を特定する。
- 新規、既存施設とも、放出管理措置と目的、目標、及び結果を示し、下記のひとつ又はそれ以上を適宜含んで、発効後4年以内に提出されるべき国家計画を策定してもよい。
- 放出源からの放出を管理し、実行可能なら削減するための放出制限値。
- 放出源からの放出を管理するため にBAT と BEP の使用。
- 水銀放出の管理のために共通の利益をもたらすであろう多種汚染管理戦略。
- 放出源からの放出を削減するための代替措置。
◇第14条の問題点(汚染サイト)
▼汚染責任、被害者補償義務、汚染の修復義務が全く求められていない。
▼汚染サイトに対応するための資金・技術援助の規定を排除した。
- 汚染責任、被害者補償義務、汚染の修復義務が全く求められていない。
- 日本は、ブラジル、イラン、モロッコに反対されたが、カッコ付の[汚染サイトを特定し、評価し、優先付け、管理し、適切な場合には修復するための、資金的及び技術的援助の規定を求める]というテキストを削除することを求め、最終日に削除された。
- このことは日本が汚染サイトに資金に裏付けられた義務的な措置をとることを主張せずに、水俣の汚染修復についてこっそり水俣の人々を裏切っただけでなく、世界の発展途上国や移行経済国の汚染サイトに対する措置に資金調達する可能性を積極的に排除したことを意味する。
- IPENは、締約国が汚染サイトを特定し浄化することについて、またそのことに関する資金援助について、義務的な文言とすることを求めた。
- 水銀又は水銀化合物で汚染されたサイトを特定し、評価するための適切な戦略を開発するよう努力するという、非常に弱い自主的な要求である。
- そのようなサイトにより引き起こされるリスクを低減するためのどのような行動も、適切な場合には、サイトが含む水銀及び水銀化合物からの人の健康と環境へのリスクの評価を反映しつつ、環境的に適切な方法で行なう。
- 日本政府は”序文”に汚染者負担の原則を入れるよう主張したが、受け入れられなかったとしているが、第14条に「汚染責任」を入れなかったことの言い訳にはならない。たとえ序文に入れたとしても、それは精神論であり、実効性は期待できないからである。
(続く)
3.国際NGOの活動
IPEN INC5 ウェブサイト
ZMWGウェブサイト
■参加NGO
下記に示すNGOネットワーク及び国から約50人強が参加し、IPEN/ZMWGと行動を共にしました。
(当研究会は、IPEN及びZMWGの両方のメンバーですが、今回は主にIPENとして活動しました。)
NGOネットワーク
- IPEN:国際POPs廃絶ネットワーク(様々のWGがあるが、水銀は重金属WGが対応)
- ZMWG:ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(水銀に専門性を持つ団体/個人)
- HCWH:ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(医療関係者の団体)
- その他の団体(歯科アマルガムに取り組む団体、先住民族の団体、人権団体など)
NGO参加国:29ヶ国
- アルメニア、バングラデシュ、ブラジル、ベルギー、カメルーン、カナダ、クック諸島、チェコ共和国、グリーンランド、フランス、インド、インドネシア、象牙海岸、日本、ケニア、 レバノン、モーリシャス、メキシコ、ネパール、ニュージランド、パキスタン、フィリピン、ロシア、スペイン、南アフリカ、タンザニア、チュ二ジ、ウルグアイ、アメリカ
■NGO 発表プレスリリース
IPEN
- 2013年1月19日 IPEN プレスリリース 水銀条約は世界の水銀排出を低減しそうにない−提案された条約名は水俣の悲劇の被害者の尊厳を損なう (日本語|英語)
- 2013年1月17日 IPEN プレスリリース 水銀条約は世界の水銀排出を低減しないという懸念が高まる (日本語|英語)
- 2013年1月9日 IPEN プレスリリース 世界の人と魚の水銀レベル 健康勧告レベルを超えている−国際水銀条約最終交渉が1 月13 日から始まる (日本語|英語)
ZMWG
- 19 January 2013, Geneva, Mercury treaty rises but weak emissions regime undercuts progress (英語)
- 2012年12月 ZMWG 声明 世界の水銀危機を解決する最後のチャンス (日本語|英語)
IITC (International Indian Treaty Council)
■本会議におけるNGOの発言
IPEN グループの発言
- 2013年1月19日 INC5閉会(クロージングセッション) 安間武の発言 「条約名」(日本語版|英語版)
- IPEN intervention on Article 20bis (Health aspects) (Delivered by Dr. Olga Speranskaya)(英語版)
- IPEN intervention on Article 9 (ASGM) (Delivered by Ms. Yuyun Ismawati)(英語版)
- IPEN intervention on Articles 12 (Environmentally sound interim storage of mercury, other than waste mercury) and 13 (Mercury wastes) (Delivered by Dr. Shahriar Hossain)(英語版)
- IPEN intervention on Article 10 (Emissions) (Delivered by Dr. Olga Speranskaya)(英語版)
- IPEN intervention on Article 14 (Contaminated sites) (Delivered by Mr. Jindrich Petrlik)(英語版)
- CEPHED intervention on Article 8 (Exemptions available to a Party upon request) and 8bis (Special situation of developing countries) (Delivered by Mr. Ram Charitra Sah)(英語版)
- CCMDV & IPEN Joint Opening Intervention (オープニング 谷洋一の発言)(日本語版|英語版)
- Opening Statement by Global Indigenous Peoples Caucus (Delivered by Ms. Danika Littlechild)(英語版)
- Opening statement by SDPI (Delivered by Dr. Mahmood A. Khwaja)(英語版)
ZMWG グループ(後日紹介予定)
4.報道
■International
- Chemical & Engineering News. Nations Strike Mercury Deal, by Britt E. Erickson, January 28, 2013
- Associated Press. More than 140 nations adopt treaty to cut mercury. John Heilprin, Jan 19, 2013
- Reuters. Update 2-U.N. clinches global deal on cutting mercury emissions. Tom Miles and Emma Farge, Jan 19, 2013
- Agence France Presse. Groundbreaking mercury treaty adopted by 140 countries. Nina Larson (AFP), Jan 19, 2013
- Inter Press Service. Q&A: New Binding Treaty on Mercury Emissions is “Ambitious”, January 21, 2013
- World News Network. UN covenant to extent (sic) mercury emissions sealed by 140 countries. Cam Kleven, January 22, 2013
■Japan
- Daily Yomiui Online. Minamata sufferers aim to teach world, Jan. 21, 2013
- The Japan Times. Japan, 140 countries adopt groundbreaking treaty to cut mercury emissions (AP, Kyodo), Jan. 20, 2013
- The Japan Times Minamata-named treaty, like disease, contentious. Kenji Hirano Kyodo, Jan.10, 2013
(http://megalodon.jp/2013-0125-0555-37/info.japantimes.co.jp/text/nn20130110f4.html)
5.「水俣条約」命名問題 (13/01/26)
■経緯
- 2010年5月1日:鳩山由紀夫総理大臣は水俣で行なわれた54年目の水俣病慰霊式に参列し、「政府として被害拡大を防止できなかった責任を認め、衷心よりおわび申し上げます」と被害者に謝罪しました。また、このような水銀中毒を防止するための国際条約を作るために日本は積極的に貢献し、この条約を「水俣条約」と名付けたいと述べました。
- 2010年6月にスウェーデンのストックホルムで開催された水銀条約政府間交渉委員会第1回会合(INC1)の最終日に日本政府は、2013年に制定される条約名称を”水俣条約”としたいと本会議で正式に提案しました。
- 日本政府の提案に対して、当研究会の安間武が、参加NGOの連合体であるIPENとZMWGの支援を得て、この条約を”水俣条約”と命名することについてのNGOとしての意見を本会議で発言しました。(INC1 における”水俣条約”に関する当研究会の発言とその背景説明)
- その後、当研究会や水俣の被害者・支援組織は、下記の声明を含んで、様々な機会に水俣の教訓が水銀条約に反映されないなら、「水俣条約」という命名に反対すると表明してきました。
- 2011年1月23日 水銀条約を“水俣条約”と命名するとの日本政府の提案に対する水俣被害者団体及び支援者団体の声明(pdf)
- 2012年1月23日 市民団体共同声明 水銀条約に「水俣の教訓」を反映するよう求める(pdf)
- 2012年12月27日 水俣病被害者・市民団体共同声明 水俣の問題が解決されず、水銀条約に水俣の教訓が反映されないなら水俣条約という命名に反対する(pdf)
■IPENの「水銀条約」命名に対する考え方
- 2012年12月にIPENは、「水銀条約交渉代表者へのIPEN文書」(pdf)を発表しました。そこでは現状の水銀条約の多くの問題点を列挙して、▼将来、水俣のような悲劇が世界で起きるのを防ぐこと。▼ 将来の水銀による悲劇の被害者は、水俣の被害者と同様な扱いを受けて悲運をたどることがないようにすること。▼世界のメチル水銀汚染レベルの現状の著しい上昇傾向を下降傾向に逆転すること−ができそうにないので、「水俣条約」という名称はふさわしくないとして、違う名前にするよう求め、当研究会を含むIPEN参加メンバーは自国政府にこの文書を送付しました。
- 2013年1月19日に IPEN プレスリリース 「水銀条約は世界の水銀排出を低減しそうにない 提案された条約名は水俣の悲劇の被害者の尊厳を損なう」(pdf)を発表しました。
このプレスリリースの概要は下記のようなものです。
国際水銀条約は、1)将来の水俣病の発生を防止し、2)将来の水俣病のような悲劇に対して適切な対応を義務付け、3)魚と海産物中のメチル水銀の世界のレベルを低減させるのに十分であると信じるのがふつうであるが、この条約は、これらの目標のどれをも達成しないであろう。これらの理由により、この条約は、”水俣条約”ではなく、”水銀条約”と呼ばれるべきである。条約は水銀の水への放出を削減するための義務も、汚染サイトを浄化する義務も含んでいない。このような条約を”水俣条約”と呼ぶことは、被害者の尊厳を損なうものである。
■INC5でのNGOの活動(最後まで主張)
- 2013年1月13日 INC5 開会(オープニングセッション)で谷洋一さん(水俣病協働センター)がIPENと同センターを代表して発言しました。(pdf)
- INC5期間中、NGOは各国代表に対して、「水俣条約」という命名の問題点を提起し、このような政治的な議論ある条約名ではなく、単純に「水銀条約」とするように働きかけました。
- 谷洋一さんは、多くの国の代表者に個別に働きかけ、一方IPENは、国連地域グループ毎に、所属するメンバーが代表者(国)に働きかけました。その結果、多くの国の代表者、特にアフリカ地域の代表者(ケニア、カメルーン、リビア、モロッコ、スーダン、チュニジア、イエメーン、パレスチナなど)から、「水俣条約」ではなく「水銀条約」とすることに賛意が示されましたが、最終的には、日本政府の根回しが功を奏したと思われ最終予定日の18日を超えた1月19日早朝に”水俣条約”命名が提案され、”全会一致”で採択されました。
- IPENは、提案がなされた時点で発言を求めましたが(写真1)、採択される前の発言は許されず、採択後のクロージングセッションで安間武が発言することを許されました。19日の早朝7時近くになっていました。
- IPENと化学物質問題市民研究会を代表して安間武が発言を始めると、周囲のIPENのメンバーは起立して強い連帯の意を示してくれました。発言の最後に水俣の被害者のための短い黙とうを会場の全ての人々にお願いしましたが、その間、会場は水を打ったように静まりかえりました。
- 2013年1月19日 INC5 閉会(クロージングセッション)安間武の発言 (写真2)(pdf)
- INC5閉幕後の同日午前中、INCの高官と話をする機会のあったIPENメンバーに対し、高官は「あの発言に感動し、心を動かされた」と述べました。「あれがNGOsの役割というものだ。違いを示し、それを指摘すること。そしてあたかも政府やその関連団体の一部であるかのような行動をしないこと。NGOの役割はそのようなことではない。彼が水俣の被害者のために求めた黙祷は、水銀汚染の継続を防止するための真の約束の欠如と、各国が水俣の被害者に対して沈黙してきたことにも向けられていたと思う」。このメッセージはIPEN全体に向けられたものです。
■水俣条約という命名の逆説的な意味
逆説的に言えば、日本政府は、水銀条約が将来の水俣の悲劇を防げそうになく、日本の行政とチッソが50年以上にわたり水俣の被害者を苦しめ、反社会的、反道徳的行為をしてきたという事実を永遠に世界中の人々に思い起させるのに役立つ水俣という条約名を選択したということです。
■汚染サイトでの署名式
- 日本政府は、水俣問題がまだ十分には解決されていない状況で、将来の水俣の悲劇を防ぐことができないとNGOが指摘するこの弱い水銀条約に、「水俣条約」 と命名することに成功しました。
- 大量の水銀で汚染された150万立方メートルというヘドロが、未処理のまま、寿命が50年とも言われる鋼矢板セルで仕切られて、58.2ha という広大な面積で、水俣湾に既に30年以上、暫定的に埋め立てられています。そしてこの巨大な汚染は、人の目に触れることなく、”エコパーク水俣”により隠蔽されています。
- さらにチッソによるもうひとつの汚染サイト、八幡残渣プールからは、水銀だけでなく、いろいろな有害物質が、カーバイド残渣と一緒に埋め立てられ、何の対策も取られておらず、廃水等が海や川に流れ込んでいます。
- このような”環境モデル都市”水俣で、各国代表者が 「水俣条約」 に署名するということは、皮肉であり、また滑稽なことでもあります。水銀条約の汚染サイトの条項に修復義務がないために、このようなことが臆面もなくできるのでしょうか?
- 署名式参加の代表団に、“あなたが立っているその下に、150万m3もの水銀で汚染されたままのヘドロがあります”と伝えましょう。
- 日本政府は、これらの汚染サイトを暫定的ではなく、永久に人の健康と環境に被害をもたらさない方法で浄化することが求められます。
(水俣汚染サイト参考資料)
▼2011年6月26日 水俣汚染サイト見聞録 水銀へドロ埋立地及び八幡残渣プール(pdf)
▼Contaminated Sites in Minamata(pdf)
(水俣汚染サイト紹介英文パワーポイント:水俣の教訓を世界に発信しよう!)
6.写真集
■クロージングセッションで最後の主張 (1月19日(土)朝7時前)

(写真1) 条約名採択前に発言を求めたが不許可。
正面スクリーンはルグリス議長。
条約名採択後に発言を許可された。
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(写真2) 最後の主張 (1月19日(土)朝7時前)
発言の間、起立して強い連帯の意思を示すIPENメンバー。
最後に、水俣の被害者への黙とうを会場の全参加者に求めた。
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■本会議/NGO発言 (1月13日(日)〜19日(土))
■NGO準備会合 (1月11日(金))
■IPEN ブース
■IPEN 水俣キャンペーン (1月13日(日))
■IPEN ASGM キャンペーン (1月14日(月))
■IPEN フィッシュ・アクション (1月15日(火))
■IPEN 記者会見

ジョー・ディガンギ博士(IPEN)
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IPEN/BRI 記者会見 (1月16日(水)) (世界の水銀ホットスポット)
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IPEN 記者会見 (1月19日(土)午前10時) (水銀条約交渉が閉幕)
水銀条約は世界の水銀排出を低減しそうにない
提案された条約名は水俣の悲劇の被害者の尊厳を損なう |

IPEN 記者会見 (1月19日(土)午前10時) (水銀条約交渉が閉幕)
水俣の現状について説明(安間)
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