EHN 2013年6月17日 特別報告
シンジェンタのアトラジン擁護キャンペーン
批判者の信用を傷つける


情報源:Environmental Health News, June 17, 2013
Special Report: Syngenta's campaign to protect atrazine, discredit critics
By Clare Howard, 100Reporters and Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2013/atrazine

訳:野口知美(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年8月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/
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Will Fuller/Flickr

 シンジェンタ・クロップ・プロテクションは、物議を醸した同社の除草剤アトラジンをめぐる訴訟により脅かされた利益を守るため、数百万ドルもの資金をかけた攻撃的なキャンペーンを開始した。例えば、興信所に依頼して連邦諮問委員会の科学者たちを調査したり、裁判官の私生活を調べたり、アトラジンに批判的な一流科学者の心理分析を依頼したりした。

 スイスを拠点としたこの農薬製造会社はまた、日常的に「第三者の協力者」に金銭を支払って独立した支援者のように装ってもらい、同社との関係を公表しない専門家として採用できる130もの人や団体をリスト化して保存していた。

 最近公開された裁判所文書により明らかにされたのは、同社の企業戦略が批判者の信用を傷つけ、原告が集団訴訟を起こす機会を剥奪しようとしているということであった。同社が特に標的にしていたのは、最も激しく辛辣にアトラジンを批判しているカリフォルニア大学バークレー校のタイロン・ヘイズである。彼の研究では、アトラジンがオスのカエルを雌性化することが示唆されている。

 シンジェンタのキャンペーンの詳細については、イリノイ州マディソン郡巡回裁判所に提出された覚書や送り状などの文書に何百ページにもわたり記されている。こうした文書は、ホリデー・ショアーズ衛生管理区域が2004年に起こした訴訟の一環として当初は非公開であった。2011年末に公開された過去の文書に加え、この新しい文書から垣間見られるのは、米国でのアトラジンンの販売を実質的に終わらせることになりかねないとシンジェンタが主張する訴訟に同社が打ち勝つための戦略である。

 この訴訟はもともと、シンジェンタに対してイリノイ州セントルイスの北東にあるエドワーズビルの飲料水のアトラジン除去費用を支払わせようとするものであったが、最終的には6つの州にまたがる1000以上の水道システムにまで支払い範囲が拡大されることになった。

 シンジェンタの昨年度の総所得は142億ドルであったが、同社にとってこの訴訟のリスクは高かった。アトラジンは広範囲の雑草除去に効果的かつ効率的であるため、1950年代以降、農家の間でその評価は高かった。米環境保護庁(EPA)によれば、米国では毎年約8000万ポンドのアトラジンが使用されており、そのほとんどが中西部のトウモロコシに散布されているという。アトラジンは全米のトウモロコシの4分の3に投与されているが、ゴルフ場やクリスマスツリー売り場、公共用地にも利用されている。

 長い間論議を呼んでいたこの除草剤の使用をEPAが認可したのは、つい最近の2003年のことであったが、今年の夏にも登録レビューを再び実施する予定である。

 アトラジンは、田畑から流出し水道を汚染する傾向があるということが研究により明らかになっている。さらに、散布された場所から空気を通じて何百マイルも浮遊するとのことである。

 ヒト被験者を用いてアトラジンの健康影響を調査した研究は比較的まれであるが、アトラジンは内分泌かく乱物質として作用する、つまりホルモンを阻害または模倣しかねないということが証明されている。ヒト研究の中には、アトラジンが胎児に悪影響を及ぼし、ヒト精子の質を低下させるおそれがあることを示唆するものもある。インディアナ大学の研究では、水に高レベルのアトラジンが含まれる地域に住む女性は何らかの先天性性器異常をもつ子どもを産む確率が高いということが分かった。(http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2013/atrazine-health 参照)

 ホリデー・ショアーズの起こした訴訟は集団訴訟へと発展し、8年にも及ぶ訴訟期間を経て、最終的には2012年に決着した。シンジェンタは責任を認めなかったものの、イリノイ州、ミズーリ州、カンザス州、インディアナ州、アイオワ州、オハイオ州の1000以上にものぼる地域水道システムに対し、ろ過費用として1億500万ドルを支払うことに昨年合意した。

 この訴訟の証拠開示文書は、非営利の調査報道団体100 Reprtersの情報開示要求に応えてマディソン郡巡回裁判所により公開された。

 シンジェンタは、あらかじめ準備された声明において自らの行動を擁護し、この訴訟は米国でのアトラジンの販売を終わらせることを意図したものであると述べた。原告がアトラジン除去費用の償還を求めたことについては、「これによって、50年以上も安全な雑草防除の要となってきた重要商品の使用が実質的に禁止されることになるであろう」とEメールに記した。

 証拠開示文書により明らかになったのは、シンジェンタが裁判官の弱点やヘイズの私生活について調査していたということである。同社の元通信部長シェリー・デュバル・フォードは2005年4月の社内会議メモに従って、ヘイズに対する戦略をリスク順にランク付けしていた。ヘイズが「無制限に研究資金を使うのを妨害すること」が一案。彼の妻を調査することもまた一案であった。

 フォードは宣誓証言において、同僚たちに送ったEメールのメモを抜粋して読み上げたが、その内容はシンジェンタが興信所に対し、アトラジンを研究しているEPA科学諮問委員会(SAP)のメンバーを調査するよう依頼していたことを示唆するものであった。

 「私たちがSAPのメンバーを調査していることが一般に知られてもいいことはないでしょう」と、フォードは読み上げた。「すっごくいいネタを掴んでるの. . .おかげでアトラジン担当のジャニスは安泰よ」(ジャニス・E・マクファーランドはシンジェンタの広報活動に携わっている社員。)

 シンジェンタは、興信所を利用してEPAの諮問委員会の科学者たちを調査したことや、裁判官の私生活を調査した理由についての質問には答えなかった。ヘイズの精神分析を依頼した理由については以下のような声明を発表している。

 「シンジェンタはアトラジンを擁護するにあたって、科学及び事実を重視している。そして科学的事実が絶えず明らかにしているのは、水中のアトラジンに曝露して健康影響が出た者はこれまで誰一人いなかったし、これからも出てくるはずがないということである。原告は、訴訟が8年続いているにもかかわらず、現実世界で人々が曝露し得る量のアトラジンが健康に及ぼす悪影響について何1つ示すことができなかった。この訴訟に関係しているほとんどの水道システムにおいて、大量のアトラジンが水中から検出されるなどということは決してなかった」。

第三者の協力者

 さらに、シンジェンタと同社に雇われた広報会社がやり取りしたメモやEメールによれば、シンジェンタはアトラジンがもたらす経済的利益を絶賛し、その環境・健康リスクを矮小化するため、一見独立して見える学者などの「専門家」に対してひそかに金銭を支払っていた。シンジェンタとの資金関係は公表されなかったが、同社はこうした専門家の言うことに厳しい制限を課していたという。

 シカゴ大学公共政策学部に所属するドン・コーシーは、アメリテック社のお抱え教授である。コーシーからフォードに宛てた2006年4月25日のEメールによると、彼はアトラジンの必要性を唱える経済分析を執筆することで、シンジェンタから時給にして500ドルもの金銭を授受していた。フォードの宣誓証言によれば、シンジェンタはコーシーが引用するべきデータを提供し、彼の執筆した論文を編集し、彼が同社との取り決め内容を公表することなく論文について新聞やテレビ、ラジオで話すよう金銭を支払っていた。コーシーの論文は2010年にナショナル・プレスクラブで発表され、独立した分析として米国全土の新聞に広く取り上げられた。彼はまた、環境規制を主眼とする自由主義の NPOハートランド・インスティテュートにも所属している。

 2005年付けの記録によれば、この訴訟を担当するとシンジェンタがにらんでいたマディソン郡の裁判官の弱点分野をフォードが記載している。それは、「欠勤、私生活上の行い、ティレリーから譲り受けた特別観覧席、出会い系サイト―法服姿の写真」であった。

 この訴訟の原告代表であるコレイン・ティレリーを所有するスティーブン・ティレリーによれば、同社は裁判官に特別観覧席を譲ったことなどないとのことであった。「裁判官と特別観覧席でご一緒したことはない」。「この訴訟を担当した裁判官は彼じゃなかった。シンジェンタは彼だろうとにらんで、失脚させる手だてを模索していた」。

 特別観覧席に関する申し立ては、シンジェンタがティレリーをイリノイ州弁護士登録・懲戒委員会に正式に提訴する根拠になったが、審査するに値しないとして却下された。

 記録によれば、少なくとも4つの広報会社がシンジェンタのキャンペーンに協力するよう依頼されていた。シンジェンタとの関わりが深かったのは、ワシントンD.C.を拠点とするホワイトハウス・ライターズ・グループとシカゴを拠点とするジェーン・トンプソン&アソシエイツである。ホワイトハウス・ライターズ・グループは、2010年と2011年に1600万ドル以上もの金銭を受け取っていたことが請求書により明らかになっている。「トンプソン」とは、イリノイ州の元ファーストレディー、ジム・トンプソン元州知事夫人のことを意味する。

 ティレリーは言う。「彼らは汚いやり方を使って、できる限りのことをやった。これにまでないところまで行った」。しかし、シンジェンタのために働いていた会社の中で、シカゴのマクダーモット・ウィル&エメリーだけは「汚いやり方」に手を染めなかった、と彼は付け加えた。

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攻撃の的となったヘイズ

 ヘイズはアトラジンの主要研究者かつ批判者であるため、最大の標的となった。彼が発表した研究報告によれば、アトラジン曝露の化学的作用によってオスのカエルが去勢されるうえ、生存可能なメスに変化し、受精可能な卵を産むこともできようになるという。

 ヘイズは1997年にアトラジンの研究を始めたが、その資金はシンジェンタの原型となる2つの企業の1つ、ノバルティス・アグリビジネスから出ていた。ヘイズが言うには、ノバルティスが予期しない、または望まない研究結果が出たとき、彼がそれを発表することは認められなかった。彼は他から資金を確保し、この研究を再現してその結果を発表した。アトラジンへの曝露によって雌雄同体のカエルが作り出されたという結果である。これがきっかけとなって、この科学者とシンジェンタとのし烈な争いが始まった。

 シンジェンタがヘイズの心理分析を依頼していたことが新たな記録によって明らかになった。フォードは2005年の会議のメモにおいて、ヘイズを「妄想型統合失調症のナルシスト」だとしている。

 2006年のメモに記されたジェーン・トンプソンの戦略案によれば、シンジェンタはヘイズの講演会を調べ上げ、毎回熟練した批評家を送り込み、ときには彼の発言を録画していた。このことは、のちにヘイズ自身によって確認されている。シンジェンタは「タイロン・ヘイズ」というインターネット上の検索ワードを購入し、同社の販促資料に誘導する案を模索していたが、結局やめることに決めたようだ。

 ヘイズは、シンジェンタがインターネットの検索ワードとして自分の名前を購入しようと話し合っていたことに気づかなかったという。「シンジェンタがそのようなことをしても驚きはしない」。「これでシンジェンタのやっていたことが科学的研究や学術研究ではなかったということがはっきりと分かった。ただ単に広報活動と駆け引きをしていただけだ」。

 ヘイズは冷静な学者から反アトラジンの戦士へと「一線を越えた」ことをためらうことなく認めた。彼はアトラジンを酷評し、atrazinelovers.comにウェブサイトを開設してアトラジンの危険性に関する情報提供を行っている。

 ヘイズは声高に主張するようになった理由について尋ねられると、次のように答えた。「僕は奨学金でハーバード大学に行った。借りがあるんだよ! 賄賂をつかまされて真実でないことを話すために大学へ行ったんじゃない」。

 彼はシンジェンタに怒りのEメールや、ときにはあざけりのEメールを送り、酷評するとともに悪態をついたり、性的な侮辱をしたりしていた。

 シンジェンタはカリフォルニア大学バークレー校に対して倫理規定違反の不服申し立てを行い、ヘイズからのEメールを2010年に公表したが、この不服申し立ては審査するに値しないと判断された。

 ヘイズはシンジェンタに対し、カリフォルニア大学バークレー校の職員を通じて圧力をかけたとして非難した。現在のところ、彼は研究室の活動費を他の研究者の20倍以上も支払っているという。しかも、彼の連邦補助金申請は最も高い評価点を得ているにもかかわらず、却下されているそうだ。このように突如目の前に現れた困難には、シンジェンタが関与しているのではないかと彼はにらんでいる。

 ヘイズによれば、シンジェンタの社員に言葉で脅され、家族をつけ回すと言われたが、こうした計画を書面で見たのは初めてだという。

 「シンジェンタは公私にわたり私の生活に影響を及ぼしてきた」と、彼は言った。「彼らから罵詈雑言を受けてきたことの裏付けができて、目の覚めるような思いがする」。

 シンジェンタの主張によれば、ヘイズのカエルの研究には欠陥があり、同社の研究では彼と同じ結果が再現されることはなかったという。しかし、別の科学者たちはアトラジンが他の両生類の性的発達までも阻害することを証明している。

 あるメモにおいて、シンジェンタはデューク大学に対しヘイズを採用しないよう圧力をかけたことを否定していた。しかし、元広報担当のフォードが2011年6月9日に行った宣誓証言によれば、社員のゲーリー・ディクソンがデューク大学の学部長に接触し、ヘイズとシンジェンタが犬猿の仲であることを伝えていた。

 ジェーン・トンプソン&アソシエイツによる別の文書には、なぜ「ダラムにあるデューク大学がグリーンズボロにあるシンジェンタ・クロップ・プロテクション本社とRTP(リサーチ・トライアングル・パーク)にあるわれわれの研究施設に隣接しているのか」、そしてなぜ「われわれが社内及びコミュニティ内での評判を守りたいと思っているのか」について示唆されていた。

 フォードはまた、シンジェンタがハドソン研究所に資金援助を行い、同研究所の世界食料問題センターに所属するアレックス・エイブリーに対しヘイズに批判的な報告書を書くよう依頼したと述べた。のちに、エイブリーはヘイズと違い、彼女の知る限り論文審査のあるいかなる専門誌にも発表せず、シンジェンタからの報酬についても公表しなかった、と語った。

 ハドソン研究所は、国際関係からテクノロジー、ヘルスケアに至るまでの幅広い問題に関する公共政策の形成に焦点を置いた保守派の非営利団体である。

 フォードはある文書において、ホワイトハウス・ライターズ・グループの会長がヘイズとの電話を録音して「彼を嵌めた」、と指摘した。ヘイズはシンジェンタの協力者たちからのEメールによって罠にかけられ、この科学者のEメールはシンジェンタのウェブサイトに掲載されることになった。彼の信用を傷つけるキャンペーンの一環であった。

 「もしTH(タイロン・ヘイズ)がスキャンダルに巻き込まれたら、環境保護主義者はさっさと彼を見捨てるだろう」と、フォードは書いている。「THは信用するに値しないということを暴露すれば、彼のデータが引用されるのを防ぐことができる」。

「独立した」協力者へのひそかな報酬

 裁判所文書には、130もの人や団体で構成される「第三者の支援者データベース」が含まれている。シンジェンタはこのデータベースにある人々や団体にしばしば金銭を支払い、アトラジンを公に支援してもらうのを当てにすることができた。文書が示すところによると、リストにある人々は指導を受け、アトラジンを支持する声明はシンジェンタが編集し、彼らへの報酬は公にされることはなかった。場合によっては、シンジェンタやその広報部が新聞の論説ページの記事を書き、これに署名してくれる人や団体をこのデータベースから探していた。

 ジェーン・トンプソンは、シンジェンタのフォードに宛てた2009年10月17日付けのメモにおいて、ホワイトハウス・ライターズ・グループが執筆した4つの論説記事の言い回しが記事の出所を示唆していると警告し、こうしたことは「何としてでも回避しなければならない」としている。

 裁判所文書には、シンジェンタの社員が上司に宛てた2009年10月28日付けのEメールがあり、そこでは第三者の協力者にアトラジンを支持する記事を書いてもらったことに対する報酬の支払い方法について尋ねられている。さらに、支援者はシンジェンタと関わりがなく独立して見えるようにせよという警告は一貫して存在している。

 シンジェンタが非営利の米国保健科学協議会(ACSH)に対して10万ドルを支払い、ニューヨーク・タイムズ紙のジャーナリスト、チャールズ・デュヒッグの記事を批判する論説を書くなどといった支援をしてもらうというケースもあった。チャールズ・デュヒッグは、2009年にニューヨーク・タイムズ紙で連載された'Toxic Waters'の中で、アトラジンに関する記事を書いていた。ACSHの会長であり創設者でもあるエリザベス・ウィーランは、シンジェンタからの資金援助について明らかにせず、ニューヨーク・タイムズ紙のアトラジンに関する記事について「すべて恐れるに値するニュースである」と愚弄した。ACSHは、科学・健康問題に対する政府の過剰規制と考えられることに反対する非営利団体である。

 ACSHの医師であるギルバート・ロスは、「親愛なるシンジェンタの友人たちへ」と題した2009年のEメールで、シンジェンタが長年にわたり報酬や資金援助を与えてくれたことに感謝の意を示した。「経営全般に対するこうした支援は、われわれのような小さい非営利団体にとっては生命線となる。必要不可欠なものをいただき、大変感謝している」とロスは書いている。

 ロスは論説に関するEメールでの質問に対し、シンジェンタからの報酬を公表しなかったのは正しい判断だったと擁護した。ヘイズについては、「異端者」だとして一蹴した。

 「われわれが扱うテーマは数多くあるが、それらすべてに対する資金援助を『公表』していたら、誤った印象を与えることになる。つまり、まず寄付金ありきで、寄贈者に都合よくテーマを取り上げるようわれわれが奨励または説得されているという印象を与えてしまう」と、ロスは書いている。

 アトラジンは、と彼は言う。「有名であり、農業や作物の収穫量、農場経営の経済性を大いに高めるということが広く証明されてきた。アトラジンにヒステリーを起こしたり、理由なく(通常、訴訟のために)攻撃を加えたりすることを奨励する人々は、正しい科学的観点に基づいていない。それゆえ、われわれは作物保護化学物質を開発・販売する企業から支援を受けていることを謝罪する必要も、弁解する必要もないと考えている。作物保護化学物質は明らかに有益であり、健康上のリスクも単なる仮説上の『リスク』も引き起こすことはない」。

 junkscience.comの経営者であり「誠実な科学のための市民」の会長であるスティーブン・ミロイもまた、シンジェンタの第三者の支援者データベースに登録されている。

 ミロイはシンジェンタに宛てた2004年12月3日のEメールにおいて、非営利団体のFree Enterprise Education Instituteがアトラジン管理の費用効果分析プロジェクトを実施した見返りとして、シンジェンタに対し1,5000ドルの助成金を支払うよう要求している。

 2008年8月6日付けの手紙では、全米公共政策研究センターによる非営利のフリー・エンタープライズ・プロジェクトに対し25,000ドルの助成金を支払うよう要求していた。同日付けのEメールでミロイは、「いつもどおり小切手を送ってくれれば、私が何とかする」と書いている。

 世論形成を目的としている新聞の論説記事も重要だが、費用効果分析もまた重要といえる。なぜなら、農薬の使用に関するEPAの決定は、健康・環境・経済効果に基づいているからである。

 トンプソンは、シンジェンタの広報責任者へのEメールにおいて、イリノイ州エドワーズビルから約20マイルのところにある新聞社が発行するベルビル・ニュース・デモクラットの評論を称賛した。エドワーズビルは、上記の訴訟を初めに起こした市である。

 ハートランド・インスティテュートのジェイ・レアーが執筆したこの2006年の評論では、ホリデー・ショアーズの訴訟が成功した場合、米国の食糧自給率が低下しかねないということが主張されていた。

 「こうした新聞記事は役に立つ。公平な専門家のような印象を与える誰か(レアーなど)が、われわれの言いたいことをある程度伝えてくれるからだ。シンジェンタからのメッセージのようには聞こえないところもいい」とトンプソンは書いている。

 ハートランド・インスティテュートは2012年、はるばるイリノイ州最高裁判所まで出頭せよとの召喚状に応じまいと抵抗した。この裁判で同NPOは、シンジェンタとのあらゆる金銭的関係も、アトラジンを支持する記事の情報源も公開しなければならなくなるところであった。ハートランド・インスティテュートは、情報公開は米国憲法修正第1条に規定された権利に反すると主張した。しかし、この裁判は判決が下される前に和解が成立したため、シンジェンタとの関係は現在も公開されていない。

 Eメールでの質問に対し、ハートランド・インスティテュートはシンジェンタから資金提供を受けたことを否定しなかった。同NPOの主張によれば、資金をいくら受け取ろうとも非営利団体への寄付とみなされるため、寄付者の情報を公開する義務はないとのことであった。代表のジョセフ・バーストは、「今まで寄付者との会合で作成してきたメモをたった1つでも公開するくらいなら」法廷侮辱罪で刑務所行きになる方がましだ、と言っている。

 シンジェンタは勝訴するための取り組みとして、第三者の協力者に働きかけていたほか、原告と原告候補者のところに直接足を運んでいた。

 フォードは宣誓証言において、シンジェンタがフォーカスグループを招集したり、地域水道システムの管理者と接触したりして訴訟について話し合い、訴訟に参加することによる金銭的・政治的影響について説明し、集団訴訟を続けるべきか、やめるべきか判断するための手助けをしたということを正式に認めた。

 フォードはさらに、訴訟が不動産価値を低下させると話すことにより、いかにしてホリデー・ショアーズの自宅所有者や不動産業者が訴訟から手を引くよう圧力をかけるか弁護士たちと話し合っていたことも認めている。

 フォードがこの戦略は実行されなかったと主張したところ、読み上げるよう要請されたのは、以下のような会議の協議事項であった。「グループを特定し、不動産業者 / ホリデー・ショアーズの住民 / 栽培業者のリストを作成する者を決めること」。そして「こうした人々に状況説明するために必要な付随的資料を決めること。彼ら一人一人に実際に働きかける者を決めること」。

 フォードは、自分の記憶しているところでは、このような接触は行われなかったとしている。

 シンジェンタは和解合意について、次のような声明を発表した。「和解したことによってビジネスの不確実性は消え去り、50年以上も雑草防除の要となってきたこの重要商品をめぐり長引いていた訴訟の費用を支払わずに済むようになった。これで農家は農業、経済、環境に対してアトラジンの恩恵を与え続けることができる」。

 この声明が出されたあと、ティレリーは戦略を変えた。飲料水中のアトラジンに関する集団訴訟を起こそうという計画はもうない。その代わり、先天異常児のために個別訴訟を開始する計画を立てている。


訳注:アトラジンは日本では登録農薬である
訳注:シンジェンタと雇われコンサルタント会社がアトラジンンで科学を歪曲
訳注:アトラジン関連記事


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