Rock Listner's Guide To Jazz Music


Jeff Beck


Truth

曲:★★☆
演奏:★★★
入門度:★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1968/May-Jun?
1967-68? [9]
Released in 1968

[1] Shapes Of Things  
[2] Let Me Love You  
[3] Morning Dew  
[4] You Shook Me  
[5] Ol' Man River  
[6] Greensleeves  
[7] Rock My Plimsoul  
[8] Beck's Bolero  
[9] Blues Deluxe  
[10] I Ain't Superstitious
Rod Stewart (vo)
Jeff Beck (g)
Ron Wood (b)
Mick Waller (ds)

Jimmy Page (g [8])
John Paul Jones
   (org [5], b [8])
Nicky Hopkins
   (p [3] [8] [9])
Keith Moon (ds [8])

Produced by Mickie Most
華やかな外見を持つシャウト・スタイルのヴォーカリストにギター・ヒーローを組み合わせ、ヘヴィなロックを演る・・・今では珍しくもなんともないハード・ロック・グループのコンセプトを最初に実践したのは第1期ジェフ・ベック・グループであり、レッド・ツェッペリンの雛形としても広く知られている。しかし、第1期ジェフ・ベック・グループが現代において話題になることはほとんどない。理由は簡単、単に音楽が古臭いから。ツェッペリンの曲の多くが、また第2期ジェフ・ベック・グループ以降のジェフの音楽が古さを感じさせない(もちろん表面的なサウンドは古いが音楽として色褪せていない)のに対して、当時はきっと斬新だったであろうこのグループの音楽は圧倒的に古臭く感じる。また、個々のプレイヤー(ギターを除く)の実力もツェッペリンと較べると見劣りし、較べる相手が悪いとはいえ、やはりドラマーの差は明らか。また、曲も弱い。コテコテのブルースである[9]が強く印象に残るというのはいかにも新鮮味がないし、アルバム(アナログ)の裏面に「既にオリジナルの音楽はない」という意味のジェフのコメントがあるとおり、オリジナル曲作りを最初からあきらめている節がある。ブルースのカヴァーを2曲入れながら断然オリジナル曲が輝いているツェッペリンのファースト・アルバムと較べるとますます分が悪い。アコースティック・ギターだけの有名曲[6]や指向性が異なる[8]が入ることでトータル統一感にも欠ける。明快なギター・リフを持つツェッペリンの楽曲と較べるとアレンジの面でもサウンドイメージが曖昧に聴こえる。もっとも、カッチリしたリフはジェフには似合わないし、その型のなさこそがこのグループの魅力でもある。ツェッペリンとの比較するのは酷ながら、ヤードバーズの音楽と較べれば遥かにヘヴィで斬新なのは事実で、68年に新しい音楽を創造したことについては高く評価されても良いと思う。(2006年8月31日)

Beck-ola

曲:★★★
演奏:★★★
入門度:★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1969/May-Jun?
Released in 1969

[1] All Shook Up  
[2] Spanish Boots  
[3] Girl From Mill Valley  
[4] Jailhouse Rock  
[5] Plynth
    (Water Down The Drain)  
[6] The Hangman's Knee  
[7] Rice Pudding
Rod Stewart (vo)
Jeff Beck (g)
Nicky Hopkins(key)
Ron Wood (b)
Tony Newman (ds)

Produced by Mickie Most
ドラマーをチェンジ、ニッキー・ホプキンスを正式加入させて製作された第1期ジェフ・ベック・グループのセカンド・アルバム。サウンドは前作の延長線上にありながらよりタイトに、そしてヘヴィになっている。僅か30分という収録時間なのに、ピアノをフィーチャーしたバラードの[3]で全体のまとまりを台無しにしているところがいかにもジェフらしい。楽曲が魅力に欠けるという点で前作を踏襲してしまってるのは、それがこのグループの地力だったということだろうか。ヘヴィなロックをやっているジェフが好きな人にとってはBBAと並んで人気のあるアルバムとはいえ、やはり古臭さは否めない。レッド・ツェッペリンと比較すると、ベースは柔軟性を欠き、ドラムは力不足、アレンジのセンスを持ったメンバーも不在、プロデューサーはロックとは関係ない人、というわけで優っているのはギタリストだけというのが僕の第1期ジェフ・ベック・グループの評価。(2006年8月31日)

Rough And Ready

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1971/May?
Released in 1971

[1] Got The Feeling
[2] Aituation
[3] Short Business
[4] Max's Tune
[5] I've Been Used
[6] New Ways Train
[7] Jody
Bob Tench (vo)
Jeff Beck (g)
Max Middleton (p)
Clive Chaman (b)
Cozy Powell (ds)

Produced by Jeff Beck
第2期ジェフ・ベック・グループといえば多くの人がアルバム「Jeff Beck Group」を推す。その通称、オレンジ・アルバムは確かに素晴らしい。では、1作目の本作が劣るかといえばそんなことはまったくない。オレンジ・アルバムが落ち着い雰囲気を持っているのとは対照的に、こちらはガッツ溢れる、荒々しくも生々しいサウンドとなっており、ジェフのギターもコージーのドラムも聴き応え充分。第2期ジェフ・ベック・グループは、一言で言ってしまうとロックとソウルの融合という当時としては斬新なサウンドを狙っていて、そのサウンドは今もって唯一無二でカッコイイ。このグループ結成前にティム・ボガートとカーマイン・アピスとグループ結成に動いていたジェフは、自身の交通事故によってお流れになったのは有名な話で、その代わりのバンドが黒人ヴォーカリストを加えたこういう方向性になった理由がよくわからないけれど、そんな脈絡の無さもまたジェフらしい。その黒人シンガー、ボブ・テンチは一般的には無名ながらソウルフルな声を聴かせる通好みの素晴らしいボーカリストでこのグループでもっとも重要な要素となっている。内容は、ジェフ自身のオリジナル曲を中心としつつ、メンバーで書き下ろした曲で占められ、独自のサウンド作りに意欲的。次作の高評価に隠れてしまった影の名盤。(2006年8月27日)
リマスター盤(Blu-spec CD)は音像がまるで違う。旧盤ではジェフのダブルトラック録音されたギターがサウンドを支配していたのに対して、どういうわけか多くの場面でほぼ片方(主に左チャンネル)しか収録されておらず、強めのエコーがかった音場感が完全になくなっている。この影響で他の楽器の音が分離され鮮明に、そして全体にソリッドな仕上がり。ヴォーカルの質感やエレピやピアノの音像も質感が違うし、ベースの音もクッキリ。どちらが良いかは好みによるとしか言いようがないけれど、ギターの音が整理されている分、ジェフのギター・ワークを純粋に味わいたいならリマスター盤か。

Jeff Beck Group

曲:★★★★
演奏:★★★★
入門度:★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1971/Dec-1972/Jan
Released in 1972

[1] Ice Cream Cake
[2] Glad All Over
[3] Tonight I'll Be Staying Here
                                 With You
[4] Sugar Cane
[5] I Can't Give Back The Love
                        I  Feel For You
[6] Going Down
[7] I Got To Have A Song
[8] Highways
[9] Definity Maybe
Bob Tench (vo)
Jeff Beck (g)
Max Middleton (p)
Clive Chaman (b)
Cozy Powell (ds)

Produced by
Stephen L. Cropper
プロデューサーにメンフィス・ソウルの大御所スティーヴ・クロッパーを迎え(録音もメンフィス)更にソウル色を強めた第2期ジェフ・ベック・グループのセカンド・アルバム。録音状態のせいか音のバランスが「Rough And Ready」と大きく異なるためにサウンドもずいぶん違う印象を受ける。特にコージー・パウエルのドラムの音は控えめ(しかし、演奏はパワフル)で全体的に落ち着いた感じ。曲やアレンジについては、ロックならではのアグレッシヴさも良く出ている前作と較べると聴かせるタイプのものが多い。時に女性コーラスも入れて、ますます持ち味を生かしたヴォーカルを聴かせるボブ・テンチが秀逸でソウル・ムードを印象付ける立役者となっている。それでも基本的な部分はロックであることがこのグループの良さ。ジェフのギターは前に出すぎることがないので物足りなさを感じる人もいるかもしれないけれどツボを押さえた味のあるプレイをたっぷり聴くことができる。また[5][9]はジェフのギターをメインにしたインストゥルメンタルで、特に[9]は素晴らしいバラードになっており「Blow By Blow」が既に見え隠れする。これだけの成果を残しながらこのグループが発展する可能性を捨てて解散させてしまうのもジェフらしい。同じラインナップでアルバムを製作したことから充実期にあったと錯覚しそうになるけれど活動期間はわずか1年。要は飽きっぽい。余談ながら、ロックとソウルの融合というとハンブル・パイもとても良いバンドだったけれど、音の印象はまったく違っていてそれぞれが評価されていたところにこの時代の良さを感じる。(2006年9月2日)

Pop Spectacular (Bootleg)

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1972/6/29

[1] Introduction
[2] Ice Cream Cake
[3] Morning Dew
[4] Piano Solo - Going Down
[5] Definity Maybe
[6] New Ways Train
            /Plynth/Drum Solo
[7] Ain't No Sunshine
[8] Got The Feeling
[9] Let Me Love You
[10] Tonight I'll Be Saying Here
                                With You
Bob Tench (vo, g [5])
Jeff Beck (g)
Max Middleton (p)
Clive Chaman (b)
Cozy Powell (ds)
第2期ジェフ・ベック・グループのライヴ演奏が聴けるブートレグ。「Pop Spectacular」は、BBC に残されているさまざまなアーティストの音源を発掘しているブートレグ・シリーズ。放送用とあってステレオで収録されており音質は良好。各楽器のバランスも僕の好みに完璧に合っていて言うことなし。特にコージー・パウエルのドラムがパワフルに収録されているのが良い。ピアノ・ソロやドラム・ソロもフィーチャーされ、そしてなんと言ってもジェフが変幻自在のプレイを聴かせておりライヴらしいムード満点。第1期の曲[2]は、「BBA Live In Japan」で聴けるアレンジと似ていて実はこのときから形ができていたんだなとわかる。この日より良い演奏のブートレグもあるらしいんだけれども、この音源でも演奏は充分素晴らしいと思うし、なによりこの音質で聴けるのはなんともありがたいこと。過去の音源発掘にほとんど関心を持っていないジェフでゆえに公式発売を期待できないこともあって、第2期ジェフ・ベック・グループが好きな人は必聴のブートレグと言える。(2006年9月2日)

Beck Bogert Appice

曲:★★★
演奏:★★★
入門度:★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1972/Nov-Dec
Released in 1973

[1] Bkack Cat Moan
[2] Lady
[3] Oh To Love You
[4] Superstition
[5] Sweet Sweet Surrender
[6] Why Should I Care
[7] Lose Myself With You
[8] Livin' Alone
[9] I'm So Proud
Jeff Beck (g, vo)
Tim Bogert (b, vo)
Carmine Appice (ds, vo)
ジェフの交通事故で一度は頓挫したティム・ボガート&カーマイン・アピスとのグループ結成をついに実現。アルバム製作に至るまでにキム・ミルフォード(ヴォーカル)、そしてミルフォードをクビにして呼び戻したボブ・テンチなどをグループに迎えるなどしたもののうまくいかず、結局トリオ編成での活動となった。ボガートのベースは柔軟かつアグレッシヴ、カーマインのドラムはボンゾ、コージー・パウエル系のパワフルなものということもあり、スーパー・グループとして当時話題のトリオだったらしい。僕は大学生だった86年くらいに初めて聴いたんだけれどあまりパッとしない印象だったし、正直なところ今もって魅力的なアルバムだとは思わない。アメリカン・ポップスのテイスト濃厚な曲が多く、曲調が英国ロック好きの僕の琴線に触れなかったんだと思う。ヴォーカルに魅力がないのは仕方ないとして、コモリ気味の録音状態がこのトリオのパワフルさをスポイルしていると思う。僕にとってはもっともつまらないジェフのアルバムだし、名曲[4]もスティーヴィー・ワンダーの方が断然カッコイイ。というわけで滅多に聴かずに18年くらい放置していた後、「BBA Live」を聴いてこのユニットに対する考えが・・・(2006年9月2日)

Beck Bogert Appice Live

曲:★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1973/5/18.19
Released in 1973

Disc 1
[1] Superstition
[2] Lose Myself With You
[3] Jeff(s Boogie
[4] Going Down
[5] Boogie
[6] Morning Dew
Disc 2
[7] Sweet Sweet Surrender
[8] Livin' Alone
[9] I'm So Proud
[10] Lady
[11] Black Cat Moan
[12] Why Shuld I Care
[13] Plynth/Shotgun

40th Anniversary Edition
Disc 1
[1] Superstition
[2] Livin' Alone
[3] I'm So Proud
[4] Lady
[5] Morning Dew
[6] Sweet Sweet Surrender
[7] Lose Myself
[8] Black Cat Moan
[9] Jeff's Boogie
[10] Why Should I Care
Disc 2 (Encore)
[11] Going Down
[12] Plynth/Shotgun
[13] Boogie
Jeff Beck (g, vo)
Tim Bogert (b, vo)
Carmine Appice (ds, vo)
大阪厚生年金ホールでのステージを収録した日本限定のライヴ・アルバム。欧米のCDショップでは日本語のオビが付いた輸入盤としてよく見かける。僕は学生時代(〜89年)にジェフのオリジナル・アルバムは全部揃えていたんだけれど「Beck Bogert Appice」のあまりのつまらなさと、このライヴ盤の悪評(ミキシングが悪い、音が悪い、本人たちが納得していないから日本でしか発売されないなど)のせいでこのライヴ盤は聴こうという気が起きなかった。2004年のある日、何気なくiPodをランダム再生させていたときに「Beckology」に収録されていた"Blues Delux/BBA Bogie"が流れてきて、「おお、結構イイじゃん」と思って、忘れていた思い出を取り戻すべく入手。いざ聴いてみて悶絶した。すべてにおいてスタジオ盤アルバムを軽く凌駕。録音状態、ぜんぜん悪くない。むしろタイトな音像が気持ちイイ。すべての楽器の音がクリアだし臨場感も満点。スタジオ盤のコモッた音より数段いいと思う。確かに左にベース、右にギターとハッキリ音を分けたのは好みが別れると思うけれどジャズの録音(50〜60年代の録音では楽器を左右に分けているものが少なくない)に馴れた身には全然気にならない。そしてなによりもスゴイのが演奏。楽器ができる人が聴けばミスも散見さえるラフな部分はあるんだろうけれどそんな些細なミスはロックには関係ない。そんなことより個々のプレイヤーの演奏がスタジオ盤よりも自由奔放で激しく熱いこと、最小ユニットだからこその阿吽の呼吸の妙味があること、そして全体に凄まじいパワーを放出していることの方が遥かに重要。ハードな曲だけでなくバラードにまで生気が漲っていてとにかく素晴らしい。このアルバムにはロックのそういう良い部分が凝縮されている。ハード・ロック・ギタリストとしてのジェフ・ベックを聴くとしたらどれか、と訊かれれば迷うことなく本作を推奨する。もっとも、ジェフのギターが型にハマッたハード・ロックであるはずもなく、ここでもフレージングは実に表情豊かで多彩。正直なところ、このユニットの音楽に革新性はなかったと思う。だから長続きしなかったのは当然のことだったのかもしれない。それでも、ただそこにある曲を演奏するだけでカッコいいロックにしてしまうだけのパワーとパッションがあった。それだけでこのグループには十分過ぎるほどの価値があったと思う。是非、大音量で!(2007年10月6日)
既存音源のリフレッシュに興味がまったくないジェフご本人に変わってレコード会社がリマスターしてきたジェフのカタログ、日本のレコード会社でしかできない企画として録音・ミキシングエンジニア自らがリマスタリングを施した40周年記念盤をリリース。アナログの収録時間の都合で大幅に入れ替えられていた曲順も本来の並びに。まず肝心な音を2004年リマスターと比較。音のクリアさは向上しており、最近ハイレゾ音源などと同様の傾向で滑らかで雑味がなく、ジェフのギターが織り成す繊細なトーン、ニュアンスをより再現できている。もっと大きな違いはベースとドラムの定位感で、塊感のある押し出しの強さがあった従来盤に対して、広い音場と更なるローエンド低音の再現性で上回る。ドラムとベースの存在感は従来盤の方が大きいが、これを強調されたものと見ると今回のリマスターは自然な仕上がりで好みが分かれるかもしれない。個人的には全体の音の滑らかさと録音エンジニアの意思で仕上げられた今回のリマスターを支持したい。曲順は従来盤に慣れた身としてはまだ体に馴染まないのは仕方のないところ。今後は現時点での決定版とも言える40周年記念盤を正規モノとして聴いていくことで違和感は解消されることでしょう。余談ながら、同梱されているブックレットのプロデューサーとエンジニアのインタビューは、70年代ならではエピソードに溢れていて、いい時代だったんだなあと羨ましくなる。(2013年10月27日)

BBA Working Version (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★
音質:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1974/Feb-Mar?

[1] Jizz Whizz
[2] Laughing Lady
[3] Prayin'
[4] (Get Ready) Yar Love Maker's
[5] Livin' Life Backwards
[6] Solid Lifter
[7] Satisfied
[8] All In Your Mind
[9] Time Is A Lady

[10] Definity Maybe (72/8/1)
[11] Superstition (73/May)
[12] Morning Dew (73/May)
[13] Satisfield (74/1/26)
[14] Livin' Alone (74/1/26)
[15] Laghing Lady (74/1/26)
[16] Lady (74/1/26)
Jeff Beck (g, vo)
Tim Bogert (b, vo)
Carmine Appice (ds, vo)
[1]〜[9]はBBA幻のセカンド・アルバム。ライヴでは"Morning Dew"に挿入していた部分をフィーチャーした[1]「Beckology」にも収録)からハード・ドライヴィングなロック・インストゥルメンタルで始まりファースト・アルバムとはだいぶ違う印象。[2]はカーマインの切ないヴォーカルが印象的なバラードでアメリカン・ポップス色が濃厚だった1stアルバムとはこれまた違う印象。[3]以降もタイトでハード・ロック的な演奏が展開されていて演奏の緊張感は前作を上回っている印象。[7]ではファンキーなジェフのリズム・カッティング聴けるのもちょっとレア。ただし、未発表に終わっただけに作りこみは甘く完成度という意味ではイマイチ。短い曲が多く、通して聴くとやや単調という感じもする。個人的にはこちらの方が1stアルバムよりもロックっぽくて好みである。ブートレグ故に音質はさすがに少し悪くドラムの音が割れ気味だったり、音が乱れる部分もあったりもするけれどなんとか鑑賞に耐えるレベル。ただし、後半どんどん音が悪くなって行くところがちょっと辛い。

以降の曲について。[10]は時期から言って第2期ジェフ・ベック・グループ最後期の演奏か。音質はあまり良くないけれどジェフのギターはなかなかいい。[11][12]がサンタ・モニカでのライヴ。ラジオ・オンエア用と思われるサウンドボード録音で音質はまずまず。「BBA Live」と同様にベースとギターと音を左右に分けているのが不思議。[13]〜[16]がレインボウ・シアターでの74年6月26日のライヴの2ndセットで音質はまずまず。尚、レインボウのライヴは有名な音源で「Atomic Fusion」などのブートレグで聴くことができるけれど、1stセットはもっと音が悪いので「Live In Japan」を聴き倒した人以外は手を出す必要はないでしょう。「Beckology」には、このレインボウでの"Blues De Luxe/BBA Boogie"が素晴らしい音質で収録されているのでなんとか正式発売をしてほしいところ。ただ、過去の音源リリースに消極的なジェフが許可する可能性は極めて低いように思える。(2006年9月2日)

Blow By Blow

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★
評価:★★★★★
Released in 1975

[1] You Know What I Mean
[2] She's A Woman
[3] Constipated Duck
[4] Air Brower
[5] Scatterbrain
[6] Cause We've Ended As Lovers
[7] Theronius
[8] Freeway Jam
[9] Diamond Dust
Jeff Beck (g)
Max Middleton (key)
Phil Chenn (b)
Richard Baoley (ds)

Produced by George Martin
このアルバムを買った学生時代、僕はハード・ロックに夢中で過去の名盤を漁りまくっていた。そんなロック・ビギナーは当然のようにジェフ・ベックの名前を知ることになり、とりあえず第一期ジェフ・ベック・グループを聴いたもののあまりピンと来ず、次にトライしたのがこのアルバム。そして、ハード・ロックには程遠いフュージョン系のソフィスティケイトされたサウンド、歌がない曲に戸惑いつつも、繰り返して聴くうちにジェフのギターに次第に魅了されていく。僕はもともと速さや正確さといったテクニックなんてどうでも良く、感性を重視するタイプ。そして、ジェフのギターは独自の感性の塊だった。指を速く動かすことでエキサイトメントを得る他のギタリストとはとにかく聴かせどころが違っていて「音」そのもので聴き手を興奮させてしまうギタリストがいることをこのアルバムで初めて知った。聴きはじめて20年以上経過して、様々なロックやジャズを聴くようになると共演者の実力も相当なものであることも解ってきて、しかもグループとしてまとまりもあるところがこのアルバムの美点と言える。特に当時18歳だったというリチャード・ベイリーのドラムはかなり凄い。[5][9]におけるジョージ・マーティンのストリングス・アレンジのセンスは正直なところ時代を感じさせるものではあるけれど曲としては十分カッコよくスリリング。ロック・ギタリストの在り方として新境地を開き、今もって誰もこの域に達することができていないことを考えると本当に驚異的なギター・アルバムと言える。(2006年12月23日)
SACDでは、当時流行った Quadrophonic 盤用音源をベースにしたマルチ・チャンネルも収録されているものの、新テクノロジーを強調したかった当時の浅はかな思想により、肝心のギターの音がサラウンド側に割り当てられていて極めて不自然な音場になる。マルチ・チャンネル目的で購入するとガッカリする可能性があるのでご注意を。しかも、2chで聴いても音のバランスがおかしく、ギターの音が遠い。リマスター盤CDの方が良い音で楽しめます。その後リリースされた「Wired」でも同じような傾向にあり、マルチトラックのマスターからトラックダウンしたときに省かれた音が復活したりという聴きどころはあっても、音楽全体のしての不自然さは否めない。(2009年1月25日)

Detroit Power (Bootleg)

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1975/5/9

[1] Constipated Duck
[2] Drum Solo / She's A Woman
[3] Freeway Jam
[4] Definitely Maybe
[5] Supestitions
[6] Cause We've Ended As Lovers
[7] Power
[8] Got The Feeling
[9] Diamond Dust
[10] You Know What I Mean
Jeff Beck (g)
Max Middleton (key)
Wilbur Bascom (b)
Bernard Purdie (ds)  
「Blow By Blow」リリース後のツアーから。ステレオのサウンドボード音源で若干のコモリと高音シャリシャリ感が伴う音質はオフィシャル・レベルとは言い難いものの、ベースの音を含めて各楽器の音はしっかり聴き取れるので十分に演奏を味わえる。マックス・ミドルトンのエレピやクラヴィネットがサウンドを彩っているためにムードは「Blow By Blow」に近い。次作「Wired」に参加するウィルバー・バスコムのベースはここでも躍動的。バーナード・パーディは当時凄腕ドラマーとして知られていたらしいんだけれど、個人的にはリチャード・ベイリーよりは格落ち感が否めない。とはいえテクニックはしっかりしているし、いかにも70年代的な手数の多いスタイルとやや軽めな感じがこのグループには良く合っている。肝心のジェフのプレイは、原曲のメロディを割と忠実になぞっているように見えて、微妙に崩したり、ニュアンスを変えたりしていかにも表情豊か。しかも燃焼度も高い。ジェフのブートレグは音質にまともなものが実に少ないこともあって、この時期のジェフのプレイが満喫できるこの音源は実に貴重。[9]は導入部だけがタイトル曲であとはミドル・テンポのファンキー・チューンなのであの曲のライヴ・バージョンだと思って聴くとガッカリするかも。(2007年1月12日)

Thelonius By The Riverside (Bootleg)

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1975/5/10

[1] Constipated Duck
[2] Drum Solo / She's A Woman
[3] Freeway Jam
[4] Definitely Maybe
[5] Supestitions
[6] Keyboard Solo
[7] Cause We've Ended As Lovers
[8] Air Blower
[9] Got The Feeling
[10] Diamond Dust
[11] Thelonius
Jeff Beck (g)
Max Middleton (key)
Wilbur Bascom (b)
Bernard Purdie (ds)
John McLaughlin (g [11])
上記「Detroit Power」の翌日公演。こちらもサウンドボード録音で、演奏の質についてもまったく遜色がない。ただし、音質はこちらの方がさらにコモリ気味で時々プチプチというノイズが入るところや不安定に乱れる部分がある。セットリストは[8]と[11]が違うだけ。もちろん、ジェフのプレイはその時々によって違うのは当たり前なのでそこにこだわる人はともかく、あえて両日入手する必要はなさそうに思える。ところが、こちらは[11]でなんとジョン・マクラフリンが飛び入りしてジェフとギターバトルを繰り広げているというレアさがある。いかにもジャムセッション風の単調なリズムに乗って(この曲は断じてTheroniousではない)2人で弾きまくっているところはなかなかの聴きどころ。そこに価値アリと考える人は入手してもいいでしょう。(2007年1月12日)

Wired

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1975/Sep-1976/Feb
Released in 1976

[1] Led Boots
[2] Come Dancing
[3] Goodbye Pork Pie Hat
[4] Head For Backstage Pass
[5] Blue Wind
[6] Sophie
[7] Play With Me
[8] Love Is Green
[1]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Clavinette)
Jan Hammer (syn)
Wilbur Bascomb (b)
Narada Michael Walden (ds)

[2]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Clavinette)
Jan Hammer (syn)
Wilbur Bascomb (b)
Narada Michael Walden (ds)
Ed Green (ds)

[3]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Fender Rhodes)
Wilbur Bascomb (b)
Richard Bailey (ds)

[4]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Fender Rhodes)
Wilbur Bascomb (b)
Richard Bailey (ds)

[5]
Jeff Beck (g)
Jan Hammer (syn, ds)

[6]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Clavinette, Fender Rhodes)
Wilbur Bascomb (b)
Narada Michael Walden (ds)

[7]
Jeff Beck (g)
Max Middleton (Clavinette)
Jan Hammer (syn)
Wilbur Bascomb (b)
Narada Michael Walden (ds)

[8]
Jeff Beck (g)
Wilbur Bascomb (b)
Narada Michael Walden (p)

Produced by George Martin
except [5] which is
produced by Jan Hammer
ジョン・マクラフリンに傾倒していたジェフがフュージョン系の一流どころをバックに従えて製作したアルバム。曲によってメンバーがバラバラでまとまりに欠ける部分もあるけれど全体の演奏のテンションは凄い。ジェフのギター
はバックが誰であろうと関係なく自由かつワイルドで熱い。変拍子ドラムのイントロから始まる[1]の緊張感がまた凄まじい。ライヴでもよく演奏されるこの曲、しかしスタジオ盤のこの緊張感を再現できているものを聴いたことがなく、このとき、このスタジオでしかなし得なかったスタジオ録音ならではの名演。[2]はいかにもこの時代らしいファンキーな曲で低音域を駆使したソロから登りつめるジェフのソロの奔放さが光る。[3]はチャールズ・ミンガスのムーディな曲をさらにリリカルにした、ジェフのバラードの中でも屈指の名演。[4]はフュージョン系リズム・セクションの凄さを見せ付ける導入部からジェフが1人でギターの掛け合い。[5]は名曲、名演とされているけれど、20年前に聴いたときですら古臭いシンセの音が気恥ずかしかった。それでもヤン・ハマーとのソロの応酬は聴き応えたっぷりで、加えてヤンの上手いのかヘタなのかわからないモタリ系ドラムも聴きどころ。[6]はリズム・セクションの凄さとヤン・ハマーとのバトルを堪能できるこれも名演。ファンキーでゆったりしたリズムの[7]もやん・ハマーとのバトルは聴き応えたっぷり。珍しくアコースティック・ギターを弾く[8]は、短いながらも後半の透明感溢れるエレキ・ギターがまるで暗闇の中に明かりが灯るかのような雰囲気を醸し出すバラード。とにかく全編にエネルギーが漲った無駄なところが一切ない究極のギター・インストゥルメンタル・アルバム。これを聴かずしてジェフは語れない。(2007年3月5日)

Jeff Beck With The Jan Hammer Group

曲:★★★
演奏:★★★★
入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1976/Aug-Oct?
Released in 1977

[1] Freeway Jam
[2] Earth (Still Our Only Home)
[3] She's A Woman
[4] Full Moon Boogie
[5] Darkness
     /Earth In Serch Of A Sun
[6] Scatterbrain
[7] Blue Wind
Unknown (vo)
Jeff Beck (g)
Jan Hammer (key)
Ferlando Saunders (b)
Tony Smith (ds)

Produced by Jan Hammer
途中からステージに加わるという形でヤン・ハマー・グループのツアーにジェフが同行していたときのライヴ。したがってこれをジェフのアルバムとするのは若干抵抗がある。とはいえジェフのギターは冴えているし、ヤン・ハマーとのバトルも堪能できる。「Wired」とはバンドのメンバーが違うためジェフのアルバムで演奏していた曲も違うムードになっているところも聴きどころ。[7]ではヤードバース時代の "Train Kept A Rollin'" まで飛び出すサービス精神まで見せているところが面白い。実はジェフの正式なライヴ・アルバムは本作だけだったということで長らく貴重品でもあった(「BBA Live In Japan」は日本でのみ発売)。恐らく本人がライヴ・アルバムが好きじゃないからなんだろうけれどどういういきさつでこのアルバムがリリースされたのかが謎、ついでに意味不明の邦題「ライヴ・ワイヤー」も謎である。(2007年3月5日)

There And Back

曲:★★★★★
演奏:★★★★☆
入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1978/Dec-1979/Jan [1]-[3]
1980/Jan-Apr? [4]-[8]
Released in 1980

[1] Star Cycle
[2] Too Much To Lose
[3] You Never Know
[4] The Pump
[5] El Becko
[6] The Golden Road
[7] Space Boogie
[8] The Final Peace
Jeff Beck (g)
Jan Hammer
   (syn [1]-[3], ds[1])
Tony Hymas (key [4]-[8])
Mo Foster (b [4]-[7])
Simon Philips
   (ds except [1] [8])

Produced by Jeff Beck and
Ken Scott
前作から4年のインターバルを置いて製作されたこのアルバムは、引き続きフュージョン系のギター・インストゥルメンタルながらメンバーが異なることもあり雰囲気は前作とはかなり異なる。[1]-[3]まではヤン・ハマーが参加、ジェフとのコラボレーションの妙味はここでも健在。ヤン・ハマー参加曲以外でサウンドのイニシアチブをに握っているトニー・ハイマスの洗練されたキーボードとサイモン・フィリップス(当時20歳くらいだったはず)のシャープなドラミングが新しい風を持ち込んでいて、録音状態がだいぶ現代的になったことも時代の進歩を感じる。荒々しさはやや抑えられたとはいえジェフらしいギターはここでも素晴らしく、透明感を増したそのトーンは70年代のそれからまた一歩進んだ印象を与えるし、実際「Wired」より本作の柔軟なプレイを好む人も少なくない。また、サイモン・フィリップスのテクニックは特筆モノで特に変拍子で叩きまくる[7]は凄まじい。全体にややアッサリした印象はあるものの、まとまりと質はかなりハイ・レベル。録音とサウンドが現代的で普遍性があるという意味では前2作より上だし、音楽的にも現代のジェフに通じるものがあり、これもやはり名盤だと言える。(2007年3月5日)

Flash

曲:★★★☆
演奏:★★★★
入門度:★
評価:★★★★
Released in 1985

[1] Ambitious
[2] Gets Us All In The End
[3] Escape
[4] People Get Ready
[5] Stop, Look And Listen
[6] Get Workin'
[7] Ecstacy
[8] Night After Night
[9] You Know, We Know

Bonus Track
[10] Night Hawk
[11] Back On The Street
Jeff Beck (g, vo [6] [8])
Carmaine Appice (ds)
Arthur Baker (ds)
Jimmy Bralower
Jay Burnett
Barry DeSouza
Jan Hammer (key [3])
Duane Hitchings
Tony Hymas (Key)
Nile Rodgers
Rob Sabino
Richard Scher
Curly Smith
Jeff Smith
Doug Wimbish (b)
Rod Stewart (vo [4])

Tina B (backing vocal)
Curtis King (backing vocal)
Jimmy Hall
   (vo [1] [2] [5] [7] [10])
David Smith (backing vocal)
Frank Smith (backing vocal)
George Smith
   (backing vocal)
David Spiner (backing vocal)

Produced By
Nile Rodgers
   [1] [3] [5] [6] [8] [10]
Aurthur Baker [2] [7]
Jeff Beck [4] [9] [11]
Tony Haymas [9]
前作から、なんと5年ぶりにリリースされた85年のアルバム。3作続いたそれまでのクロスオーヴァー/フュージョン路線とは何のつながりもないサウンドで、当時のニューヨークで最先端を行っていたナイル・ロジャース、アーサー・ベイカーをプロデューサーに迎えたヒット性の高い歌モノを中心としたアルバムに仕上がっている。これはあえてジェフが狙った路線ではあったものの、そんな路線とは関係ないカヴァーの[4]のみがスマッシュ・ヒットした程度だったというスカシ方がジェフらしい。その[4]は、素朴な原曲が、スターになってからの軽薄なロッドとは思えないソウル・フルな熱唱により素晴らしい名曲に仕上がっていてひとつの聴きどころ。それ以外は本当に当時流行の音楽そのもの。リアル・タイム体験者としては今風の音楽と感じたけれど今の若い人が聴いたら古臭く感じるだろう。もっともナイル・ロジャースとはそんなに親密に仕事をしていたわけではなかったようで「ナイルはマドンナの仕事(同時期に進行していた「Like A Virgin」のレコーディング)で忙しかったのさ」と語っており「お仕事」として取り組んでいただけかもしれない。ヴォーカルのジミー・ホールは、ジェフは気に入っていたらしいけれどお世辞にも一流とは言えないB級さがある。数多くクレジットされている参加メンバーは音がプロデューサーの色に加工されているために誰がどの曲に参加しているのか判別するのが困難。ナイルの曲はイマひとつパッとしない、アーサー・ベイカーの曲はわかりやすいもののちょっと俗っぽすぎるし、他の曲は音の感触がそれぞれまったく違う。まとまりがまったくないところもジェフならでは。そんなわけで、ファンの評価もジェフ自身の評価も低いアルバムではあるけれどジェフのギターは素晴らしい。特に[9] 。この曲を聴くためだけにCDをトレイにセットしても良いと思える。ギターはメロディやフレーズではなく「音」で聴き手の心を揺さぶることができるものだということを再認識する。(2006年8月27日

Freeway Summer Jam (Bootleg)

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
1986/6/1

[1] Star Sycle
[2] Love Will
[3] Ambitious
[4] Goodbye Pork Pie Hat
[5] Stop Look And Listen
[6] Cause We've Ended As Loves
[7] Escape
[8] Blue Wind
[9] Wild Thing
[10] Freeway Jam
[11] Going Down
[12] Super Boggie
[13] Hong Kong Blues
[14] People Get Ready
[15] Johnny B. Goode
Jeff Beck (g)
Jan Hammer (key)
Doug Wimbish (b)
Simon Phlips (ds)
Jimmy Hall
(vo [2][3][5][9][11][14][15])
Unknown
(vo [14] [15])
from Santana group?

Steve Lukather
   (g [10]-[15])
Carlos Santana
   (g [12]-[15])
86年6月、軽井沢プリンスホテルで開催された「サウンド・マーケット'86イン・軽井沢」というイベントの音源。このときの出演者はジェフ・ベック、サンタナ、スティーヴ・ルカサー。もっともルカサーはバンドではなく単独での参加で、実質はジェフとサンタナのイベントだった。ステージはテレビやFMで放送されていたこともありこのようなブートレグが当然出ているというわけで音質は少しコモリ気味ではあるものの充分普通に聴けるレベル。さて、このときのジェフはアルバム「Flash」リリース後で、それまでのフュージョン路線からポピュラー・ミュージックに戻ってきたこと、そして久しぶりにヴォーカリストを付けたことが話題になってた時期。演奏については言うことなし。ライヴでのジェフの演奏が荒いのは良く言われていることだけれど、それを承知の上で凄いと言い切れる。それにヤン・ハマー+サイモン・フィリップスという最強のメンバーがジェフのバンドにいたのもこれが最後(ただし、ヤンは2004年の短期ツアーで競演していたらしい)。決して評価が高いとは言えない「Flash」からのレパートリーが多いのが玉に瑕という人もいるかもしれないけれど、このメンツでの演奏が聴けるというだけでありがたい。またこのときのジャパン・ツアー、6月11日の武道館公演に行ったという思い出もあって、こうやって改めて聴くとこのときのメンバーは良かったなあとしみじみ思う。後年になっても重要なレパートリーの[8]は、やっぱりヤン・ハマーがいてこそ輝くことをここで再認識できる。後半はルカサー(ギターの音がヒドイと当時話題に)とサンタナも参加してお祭り風セッションを楽しめる。3人のギター・サウンドはまったく異なるので聴き分けは容易。余談ながらジェフ、ダグ・ウィンビッシュ、サイモン・フィリップスはミック・ジャガーのソロ・アルバム「Primitive Cool」に全面的に参加しており、抑え気味ながらここで聴けるそのままのサウンドでミックをサポートしている。(2006年8月26日)

Guitar Shop

曲:★★★★
演奏:★★★☆
入門度:★★★
評価:★★★
Released in 1989

[1] Guitar Shop
[2] Savoy
[3] Behind The Veil
[4] Big Block
[5] Where Were You
[6] Stand On It
[7] Day In The House
[8] Two Rivers
[9] Sling Shot
Jeff Beck (g)
Tony Hymas (key)
Terry Bozzio (ds)

Produced By Leif Masses,
Jeff Beck, Tony Haymas
and Terry Bozzio
「Flash」はある意味ジェフらしい気まぐれさが良く出たアルバムだった。ヴォーカル入りだったことを喜ぶ人がいれば、「Wired」や「There And Back」のようなギター・アルバムでなかったことに落胆する人もいた。ジェフ自身は「Flash」リリース時のインタビューで言っていたように「もう、ああいうギター・アルバムは時代遅れ」と思ったからこそのヴォーカル・アルバムだった・・・はずなのに、次はまたギター・インストゥルメンタル・アルバムを作ってしまった。ただし、このアルバムはフュージョン色は希薄で誰が聴いてもロック。その立役者はなんといってもテリー・ボジオのロックなドラミング。ベースなしのトリオ編成とあってボジオのドラムが一段と際立つ。ただし、そんなにヘンなリズムでは叩いておらず、わりとオーソドックスなプレイ。トニー・ハイマスは相変わらず裏方で控えめ。特筆すべきは、トニー・ハイマスが曲作りの中心ながらジェフもほとんどの曲にクレジットされていること。特にBBA以降は曲作りに消極的だっただけに、このトリオはギタリストとしてだけでなく音楽作りを積極的にさせるインスピレーションがあったのかと想像させる。実際、ここで展開されている音楽はジェフの他のアルバムにもない世界。それでもトータルで見ると個人的にはあまり強い印象がないアルバムでもある。例外的に、控えめなキーボードの彩りをバックに、ほとんどギター1本だけで聴かせる[5]は凄い。こんなニュアンスでエレキ・ギターを弾ける人は他にいない。尚、日本盤は来日公演に合わせての先行発売で初回プレスのみこのジャケットだった。(2006年8月27日)

Frankie's House

曲:★
演奏:★★★★
入門度:★
評価:★★☆
Released in 1992

[1] The Jungle
[2] Requiem For The Bao-Chi
[3] Hi-Heel Sneakers
[4] Thailand
[5] Love And Daeth
[6] Cathouse
[7] In The Dark
[8] Sniper Patrol
[9] Peace Island
[10] White Mice
[11] Tunnel Rat
[12] Vihn's Funeral
[13] Apocalypse
[14] Innocent Victim
[15] Jungle Reprise
Jeff Beck (g)
Jed Leiver (key)

Produced By Jeff Beck
and Jed Leiber
92年に突如と発表(日本発売は確か93年)された映画「フランキーズ・ハウス」のサントラ盤。ジェド・リーバーというキーボード奏者との共同名義になっており演奏もリーバーの演奏および打ち込みとジェフ自身のギターのみ。内容はサントラとあってインタールード的なものが多く、曲やアルバムとしての完成度を求めるのは酷というもの。しかしジェフのギターは素晴らしく、曲の体裁をなしていない曲でも存在感充分なのは流石で、指弾きとトレモロ・アームを駆使して微妙なニュアンスを表現したジェフならではのギターをたっぷり聴くことができるため、マニアは必聴。しかし、いくらギターが素晴らしくても曲の完成度が低いと何度も通して聴くのはちょっと辛い。(2006年8月3日)

Crazy Legs

曲:★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★
評価:★★★★
Released in 1993

[1] Race With The Devil
[2] Crusin'
[3] Crazy Legs
[4] Double Talkin' Baby
[5] Woman Love
[6] Lotta Lovin'
[7] Catman
[8] Pink Thnderbird
[9] Baby Blue
[10] You Better Believe
[11] Who Slapped John?
[12] Say Mama
[13] Red Blue Jeans And Pony Tail
[14] Five Feet On Lovin'
[15] B-I-Bickey-Bi-Bo-Bo-Go
[16] Blues Stay Away From Me
[17] Pretty Pretty baby
[18] Hold Me, Hug Me, Rock Me
Jeff Beck (g)
The Big Town Playboys:
 Mike Sanchez (vo, key)
 Adrian Utley (g)
 Ian Jennings (b)
 Clive Deamer (ds)
 Leo Green (ts)
 Nick Lunt (bs)

Produced by
   Stewart Coleman
「Frankie's House」を出したかと思ったら間髪いれずに93年6月に発売されたのがこのロカビリー・アルバム。一説によると6週間あまりで録音したらしい。85年ころからジェフはロカビリーをやりたいという発言を繰り返しており「Guitar Shop」後のインタビューでも「ロカビリーっぽいのをやろうと思ったけどテリー(・ボジオ)が許してくれなかった。"Savoy"の中間部のあたりにちょっとそれらしい雰囲気を取り込むのが精一杯だったのさ」なんて言っていたほど。そのロカビリー構想を具現化したのが、ロカビリー・グループ、ビッグ・タウン・プレイボーイズをバックに従えたこのアルバム。全曲ジーン・ヴィンセントのカヴァーで、ヴィンセントのバックバンドにいたクリフ・ギャラップこそがジェフのアイドルだったことがこの企画の核でもある。ジーン・ヴィンセントといえばロバート・プラントが熱心なファンであったりクイーンがライヴで彼の曲である"Be Bop A Lula"を取り入れていたりと英国人には慣れ親しんだシンガー。さて、肝心の内容は、ジェフが完全にロカビリー・ギタリストになりきっていて、いかにも趣味を真剣にやりましたという感じ。少年時代にこのようなギターに憧れ、コピーしていたに違いないジェフが今のスタイルに至ったと思うと非常に興味深い、というようにルーツを知る資料的な価値はあるけれどロカビリー好きでもなければ無理して入手することはないかと。(2006年9月3日)
10年ぶりくらいに改めて聴き直してみた。上手い。上手すぎる。ロカビリー・スタイルでこんなカッコいいギターがあるんだろうか。ブライアン・セッツァーとはまた違うスタイルで弾きまくるギターにはヴィヴィッドでエネルギーが満ちている。ビッグ・タウン・プレイボーイズも上手い。僕自身が年齢を重ねていろいろな種類の音楽への許容範囲がだいぶ広がり、ロカビリーを自然に受け入れて聴けるようになったことで、このアルバムの素晴らしさがわかるようになった。ロカビリーなんて聴きたくないという人にはもちろん勧められないけれど、そうでなければ聴いて損はない。(2023年1月15日)

Who Else!

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
入門度:★★★☆
評価:★★★★
Released in 1999

[1] What Mama Said
[2] Psycho Sam
[3] Brush With The Blues
[4] Blast From The East
[5] Space For The Papa
[6] Angel (Footsteps)
[7] THX138
[8] Hip-Notica
[9] Even Odds
[10] Declan
[11] Another Place
Jeff Beck (g)
Jennifer Batten (g)
Tony Hymas (key)
Randy Hope-Taylor (b)
Steve Alexander (ds)

Pino Palladino (b [2])
Manu Katche (ds, per [2])
Clive Bell (Ethnic fllute [10])
Bob Loveday (violin [10])
Mark John
   (acoustic guitar [10])
Simon Wallace (syn [10])
Jan Hammer (key, ds [9])

Produced by Jeff Beck
and Tony Hymas
映画のサントラ、ロカビリー・アルバムといった企画モノを除くとなんと10年ぶりのアルバム。Epicというレコード会社はなんと寛大なんだろう。それにしても10年である。最初の1音からして「どんな音が出てくるんだろう」とこんなに期待と不安が入り混じった経験は後にも先にもなかった。そして聴こえてきたのは、これまでのものとはまた違った現代風デジタル・ビートに乗ったロック。曲作りはジェフとトニー・ハイマスが中心で軟弱なフュージョン・キーボード・プレイヤーと思っていたハイマスとのコンビでこのようなロック色が強い音楽になったことに驚かされる。この路線はファンの間で未だに否定的意見もあるけれどドラムに打ち込みを使っていないところなどは「越えてはいけない一線」を死守していると思うしジェフなりのこだわりも感じる。これだけのブランクを経てアルバムを作る気になったのはいいとして、やりたいことを整理しきれなかったという印象もなきにしもあらずで、まとまり感、統一感がないのは仕方ないところか。好意的に取ればバラエティに富んでいるという言い方も可能で、[2]のハイパー・デジタル・ロックの次にブルースの[3]という展開はジェフだからこそ許される。その[3]はジェフがブルースが上手いのは当たり前だろうという思いから素直に喜べない音楽的選択ながら普通の60年代に英国で流行ったブルースとは明確に違っているところは流石。ヤン・ハマーとの久々の競演となった[9]がなんとも凡庸なロックで、音楽だけ聴いたらどこにヤン・ハマーが関わっているのかわからないほどつまらなくてズッコケさせるところもジェフらしい。また、巷では評判のジェニファー・バトゥンのギターは個人的にはまったくインプレッシヴとは感じない。いろいろとこのアルバムに文句をつけながらも、全編ジェフ以外のギタリストでは弾けないフレーズが満載されていて散漫な楽曲を結び付けているところ、そして枯れるという言葉とは無縁の生気に溢れた音色がただただ素晴らしい。(2007年3月8日)

You Had It Coming

曲:★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★
評価:★★★★★
Released in 2000

[1] Earthquake
[2] Roy's Toy
[3] Dirty Mind
[4] Rollin' And Tumblin'
[5] Nadia
[6] Loose Cannon
[7] Rosebud
[8] Left Hock
[9] Blackbird
[10] Suspension
Jeff Beck (g)
Jennifer Batten (g)
Randy Hope-Taylor (b)
Steve Alexander (ds)
Imogen Heap (vo [4])
Chris Jarrett
James Brown
Matt Tait

Produced by Andy Wright
2001年が近づくにしたがって巷では「今世紀最後の・・・」というキャッチフレーズがこれでもか、というくらいに溢れていて、99年にリリースされた「Who Else!」のオビにも「今世紀最高のギタリストが贈る、今世紀最後のアルバム」という安っぽい文句が謳われていた。そしてそれを嘲笑うかのようにわずか1年半後の「今世紀」中にリリースされたアルバムがコレ。「Who Else!」からはじめたデジタル・ビート・ロック、そしてその後のワールド・ツアーに手ごたえを感じたのか、その勢いそのまま持ち込んで、スケジュールの合わなかったトニー・ハイマスを置き去りしてまで製作されたこのアルバムはトータルでわずか36分弱。練り上げて作ったというよりは勢いで押し切ってしまった印象が強く、それが良い結果に結びついていると思う。前作は10年蓄えたネタをまとめきれずにいたところもあっただけにアルバムとしての統一感は当然こちらが上。ジェフのギターはただひたすらエモーショナルな音を発し続けており素晴らしいことこの上ない。枯れるどころかますます脂が乗ってきている。尚、ジェニファー・バトゥンはほとんど参加していないようでジェフのギターだけを堪能したい人にはそれも朗報。(2006年8月3日)

Jeff

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★
評価:★★★★★
Released in 2003

[1] So What
[2] Plan B
[3] Pork-U-Pine
[4] Seasons
[5] Trouble Man
[6] Grease Monkey
[7] Hot Rod Honeymoon
[8] Line Dancing With Monkeys
[9] JB's Blues
[10] Pay Me No Mind
     (Jeff Beck Remix)
[11] My Thing
[12] Bulgaria
[13] Why Lord Oh Why?
[14] Take A Ride
     (On My Bottleneck Slide)
[15] My Thing ( David Torn Mix)
Jeff Beck (g)
Dean Garcia (b, other)
Steve Burney (ds)
Tony Hymas (key [9] [13])
Safron (vo [3])
Ronni Ancona (vo [4])
Nancy Sorrell (vo [6] [11])

Produced by
 Andy Wright [3]-[5] [11]
 David Torn [2] [8]
 Dean Galcia [1] [9]
 Apollo 440 [6] [7]
 me one (?) [10]
 Jeff Beck and
 Andy Wright [12]
「Who Else!」から、世間ではテクノ路線だとかデジタル・ロック路線だとか言われているジェフの音楽がここに来てついに完成したといえる。このアルバムもドラムは人間が叩いて、打ち込みの単調なビートはここでも用いられていない。ナイン・インチ・ネイルズかと思わせる[5]、現代風ホットロッド[7] 、スペイシーな美しさを発散する[9]、ヒップホップにブルージーなギターを絡ませる[10]・・・といったように、幅広く音楽を取り込みながら統一感があり、完成度が高いのがこのアルバムで、その完成度はジェフのアルバムの中でも最上級。ギターは相変わらずラフでヴィヴィッドで繊細でとにかく表情豊か。ギターが弾けない僕でも「こんなカッコいい音をどうやって出すんだろう」と思ってしまうほど。とにかくここで聴こえてくる音楽は生きている。これが60歳を間近に控えた人間の作った音楽とはとても思えない。しかも、無理して若造りしている感じがまるでなく自然にやっているところが凄い。もっともこのデジタル路線は旧来からのファンの中には馴染めない人も少なからずいて、ジェフのギターが好きな人ならこの種の音楽は好みとしては対極にある可能性があるのでそれも仕方ないところかと思うんだけれど、そんな対極にあるサウンドを鋭いギターでねじ伏せるとことに面白みがあると思う。この路線はこれで打ち止めと本人は言っており、実際その後のライヴを聴くと確かにもっとオーソドックスなバンド・スタイルの音楽に回帰している。(2007年3月19日)

Jeff Beck Live

曲:★★★★★
演奏:★★★★
入門度:★★☆
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2003/9/13

[1] Roy's Toy  
[2] Psycho Sam  
[3] Big Block  
[4] Freeway Jam  
[5] Brush With The Blues  
[6] Scatterbrain  
[7] Goodbye Pork Pie Hat  
[8] Nadia  
[9] Savoy  
[10] Angel (Footsteps)  
[11] Seasons  
[12] Where Were You  
[13] You Never Know  
[14] A Day In The Life  
[15] People Get Ready  
[16] My Thing
Jeff Beck (g)
Tony Hymas (key)
Terry Bozzio (ds)
当初はインターネットのみで販売されていた、ニューヨークはBBキング・ブルース・クラブ&グリル(2018年3月に閉店、ソニー・ホールというタイムズスクエア近くの別の会場に一部運営を引き継いだらしい)におけるライヴ。ネットで注文して送られてきたCDは薄っぺらな紙のジャケットにディスクが裸で1枚入っているだけの、所有する悦びとは対極にある素っ気なさだった。さて内容はというと新旧とりまぜた選曲をギター・ショップ・トリオで堪能するという趣向。ジェフのギターがやりすぎと思えるほど強調された音のバランスでキーボードの存在感は薄く、ボジオとジェフを楽しむためかのようなミキシング。演奏はまとまりよりも勢いが遥かに勝り、ジェフの荒っぽいプレイが満喫できる。熱いギターは時に唸り、時に吠え、時に悲鳴を上げるかのような、この世のものとは思えない何かの声のように聴こえるほどエモーショナル。このメンツならではの演奏になっている[4]、猪突猛進の[6]は聴きどころだし、[7]も「Wired」のオリジナルとはまったく違うフレーズを連発。ビートルズの[14]も、メロディをなぞっているだけなのにジェフにしか出せない音で表現されている。(2019年1月21日)

Official Bootleg USA '06

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
2006/4/5

[1] Beck's Bolero
[2] Stratus
[3] You Never Know
[4] 'Cause We've Ended As Lovers
[5] Behind The Veil
[6] Two Rivers
[7] Star Cycle
[8] Big Block
[9] Nadia
[10] Angels
[11] Scatterbrain
[12] Led Boots
[13] Goodbye Pork Pie Hat
     /Brush With The Blues
[14] Somewhere Over The Rainbow
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Pino Palladino (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
ジェフ・ベックはライヴ・アルバムが少ない。きっとライヴをレコード(CD)として残すことが嫌いなのか関心がないのかどちらかなんでしょう。そんな状況下、そして今やロック・インストゥルメンタルの重鎮としてニュー・アルバムを出せば必ずグラミー賞候補になってしまうポジションにあるジェフが、ここ最近はオフィシャル・ブートレグという形でコアなファン向けにライヴ音源をリリースしているのは嬉しい限り。「Jeff Beck Live」との比較すると、やはりメンバーがガラリと変わったことは大きく、かなり違う印象。ヴィニー・カリウタは近年のジェフのバンド・メンバーの中では最も上手いドラマーであることは間違いないし、ピノ・パラディーノのベースも然り。キーボードはマックス・ミドルトンのようなエレピ・サウンドやヤン・ハマーのシンセサイザーのサウンドを再現してこの幅広い選曲を難なくこなす。そんな安心できるバック・メンバーを得たジェフのギターは相変わらずライヴならではの自由奔放さ、というかラフ。[8]で入りを思い切り外しているところなんてオフィシャル・アルバムならあり得ないところ。このメンバーでツアーをやっていることもあってか、まとまりという意味では 「Jeff Beck Live」 よりもこちらの方が断然上。でもあえて言うならば、だからこそつまらないと僕は思う。デジタル・ロックのジェフはバンドよりもあの音楽がジェフを煽っていたと思うんだけれど、ここで聴ける演奏は音楽に新鮮味はなくメンバーも行儀が良すぎてジェフを煽るところまでは行っていないと思う。これだけの実力のメンバーにケチをつけるのもどうかと思うものの、僕がジェフに求めるレベルは異常に高いので厳しい評価になってしまう。(2007年6月30日)

Crossroads Guitar Festival (Bootleg)

曲:★★★★☆
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2007/7/28

[1] Intro
[2] Resolution/Eternity Breath
    /You Never Know
[3] Cause We've Ended As Loves
[4] Stratus
[5] Behind The Veil
[6] Nadia
[7] Led Boots
[8] Angel (Footsteps)
[9] Big Block
[10] Goodbye Pork Pie Hat
     /Brush With The Blues
[11] A Day In The Life
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Tal Wikemfeld (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
「クロスロード・ギター・フェスティバル2007」でのステージを生収録した音源で、放送用ゆえか音質は最上級。ブートであるかどうかを抜きにして重低音まで拾った録音状態は非常に良い。フェスティヴァルでのステージとあって合計で46分という時間も聴き疲れしないちょうど良い長さ。その代わりにセットリストは厳選、[2]でマハヴィシュヌ・オーケストラが飛び出してくるなかなか乙なオープニング。すでに自身のレパートリーと化している[4]とともに、70年代前半のギター・フュージョンがジェフにいかに影響を与えていたかを表している。肝心のジェフのプレイも時間が短い分、集中力を高めたかのような密度の高いプレイが聴けるし、バンドの演奏もタイトでまとまりがある。ジャズ・フュージョン系小娘ベーシストのなかなかのプレイも含めて、ヴィニー・カリウタが加入してからのこのグループもだいぶ完成度が上がってきたなあという印象。ブートレグとしてという断り抜きに普通に楽しめるジェフのライヴ・アルバム。(2007年12月30日)

Performance This Week...Live At Ronnie Scott's

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2007/11/27-12/1

[1] Beck's Bolero
[2] Eternity's Breath
[3] Stratus
[4] Cause We've Ended As Lovers
[5] Behaind The Veil
[6] You Never Know
[7] Nadia
[8] Blast From The East
[9] Led Boots
[10] Angel(Footsteps)
[11] Scatterbrain
[12] Boodbye Pork Pie Hat
            / Brush With The Blues
[13] Space Boogie
[14] Big Block
[15] A Day In The Life
[16] Where Were You
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Tal Wikemfeld (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
それにしてもどうしたことだろうか。あれほどライヴ・アルバムを出すことに消極的だったジェフが3連発でライヴ盤をリリースしてくるとは。また99年以降、とりわけ2003年以降ここまでコンスタントに活動してくるとは。近年のライヴ盤と違うところは狭いジャズ・クラブでの収録ということ。録音状態はラインで拾った音そのものという感じながら、肝心なジェフのギターの音像はエコーがかかりすぎていたりリング・モジュレーターをかけすぎていたりと、せっかくのクラブだというのにダイレクト感が削がれているのが残念。YouTubeで観たときにはクラブらしいリラックスしたプレイの中にも適度なスリルを感じたのに、この音の感触のせいかあまり熱さを感じない。とはいえジェフへの期待値が異常に高い僕の厳しい見立てであってパフォーマンスは相変わらず素晴らしい。カリウタのタイトなドラミングは最近のジェフにはなくてはならない存在になったと言えるほどそのテクニックは申し分ない。[9][11]そして注目の[13]のような曲はこのくらいのドラマーでないと務まらない。残念ながらまたしても同じことを繰り返してしまうけれど、音楽性で新生面を打ち出さない近年のジェフはやっぱりちょっと物足りない。演奏の素晴らしさを認めつつ、音楽性の発展をあきらめて安易にライヴ・アルバムをリリースするその在り方はキース・ジャレット・トリオと似てきてしまった。きっと今のジェフはスタジオで音楽を作り込むよりもハイ・レベルなメンバーで気ままにギターを弾くことに心地良さを感じているのでしょう。(2008年11月29日)

Performance This Week...Live At Ronnie Scott's
(Blu-ray)

曲:★★★★☆
演奏:★★★★★
画質:★★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
2007/11/27-12/1

[1] Beck's Bolero
[2] Eternity's Breath
[3] Stratus
[4] Cause We've Ended As Lovers
[5] Behaind The Veil
[6] You Never Know
[7] Nadia
[8] Blast From The East
[9] Led Boots
[10] Angel(Footsteps)
[11] People Get Ready
[12] Scatterbrain
[13] Boodbye Pork Pie Hat
            / Brush With The Blues
[14] Space Boogie
[15] Blanket
[16] Big Block
[18] A Day In The Life
[19] Little Brown Bird
[20] You Nedd Love
[21] Rollin' And Tumblin'
[22] Where Were You

Bonus Track
with Big Town Play Boys
[1] Race With The Devil
[2] Crazy Legs
[3] Train Kept A Rollin'
[4] My Baby Left Me
[5] Matchbox
[6] Baby Blue
[7] Honky Tonk
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Tal Wikemfeld (b)
Vinnie Colaiuta (ds)

Joss Stone (vo [11])
Imogen Heap (vo [15] [21])
Eric Clapton (g, vo [19] [20])
ライヴもののリリースに開放的になっただけでなく、遂に映像まで惜しみなく放出。それほどまでに今のジェフは充実感があるのだろう。すでにCDで聴いているだけに新鮮味がないかというとさにあらず、しかしそれはクラプトンはじめゲスト参加の曲が追加されているからではなく、やはり映像の持つ説得力が絶大だから。今のバンドにいかに満足しているかという空気がこのライヴ映像からヒシヒシと伝わってくる。地元ジャズ・クラブでのライヴというのも気分良くプレイできた理由かもしれない。とにかくジェフの精神が充実しているし、それが他のメンバーにも当然伝染してバンドとして理想的な状態に到達している感がある。さすがに毒気溢れた勢いのようなものはなく、年齢相応の落ち着きが出ているとはいえ、枯れとは無縁、あくまでもジェフ流の円熟味が出た充実の熱演を映像で楽しめる。薄暗いクラブだけに画質の解像感はほどほどで、しかしそれがイイ味になっている。しかし、もっと重要なのはカメラワークで、おそらくかなり入念に準備してのビデオ・シューティングだったのではないかと思える素晴らしさ。ジェフの指の動きを良く捉えているのはもちろん、表情やバンド全体の捉え方とのバランス感覚も適切。ヴォーカル曲[11][15]における、サイド・ギタリストとしてのジェフのギターは、わかっているとはいえやはり素晴らしい。クラプトンとのブルース・セッション[19][20]も、わかっているんだけれどやっぱりイイ。アメリカで生まれたブルースが、60年代に英国で白人の手によって独自に発展、2008年にロンドンの小さなクラブでこんなに上等な音楽として今も演奏されているという事実に感動を覚える。そしてこんなに素晴らしいライヴを間近で観れたオーディエンスが実にうらやましい。ブルーノート東京でやってくれれば僕は5万出してでも行く。

おまけにはなんとビッグ・タウン・プレイボーイズとの貴重な演奏が収録されている。当日本番ステージ前の前座として演奏したと思われるこのロカビリー・セッション、ギターを曲ごとに持ち替え、"Train Kept A Rollin'" までも織り交ぜたリラックスしたパフォーマンスが思いのほか楽しめる。しかし、国内盤DVDには未収録。輸入盤でもインタビューは英語字幕でなんとか大筋は理解できる。

こうやって全体を観ると、CDはこのときロニー・スコッツ・クラブで起こっていたことの一部が収録されているに過ぎないことがよくわかる。これらの映像を観てこそ骨の髄までしゃぶり尽くせるのは間違いなく、CDで物足りなさを感じていた人は是非見直してもらいたいと思う。

尚、ブルーレイ盤は48Khz/16bitリニアPCM 2ch、Dolby Digital 5.1ch、DTS-HD Master Audio 5.1chの3種類を収録、臨場感、音の厚み、シンバルの細かい響きまでをしっかり捉えたDTS-HDが圧倒的に素晴らしく、音にこだわる人にはDVDではなく断然ブルーレイ盤をお勧めしたい。(2009年5月23日)

Emotion & Commotion

曲:★★★☆
演奏:★★★★
入門度:★★★
評価:★★★☆
Released in 2010

[1] Corpus Cristi Carol
[2] Hammerhead
[3] Never Alone
[4] Ovet The Rainbow
[5] I Put A Spell On You
[6] Serne
[7] Lilac Wine
[8] Nessun Dorma
[9] There's No Other Me
[10] Elegy For Dunkirk

bonus track
[11] Poor Boy
[12] Cry Me A River
Jeff Beck (g)
Pete Murray  
  (key, orchestra
   arr,) except [9]&[11]
Jason Rwbello (key [3][6][9]
Steve Lipson
      (programing [3][6][9])
Tal Wilkenfeld (b [2][6][9])
Pino Palladino (b [5])
Chris Bruce (b [7][12])
Ian Jennings (b [11])
Alessia Mattalia (ds [2])
Vinnie Colaiuta (ds [3][6][9])
Earl Harvin (ds [7][12])
Clive Deamer (ds [5])
Stephen Rushton (ds [11])
Luis Jardim (per [6])
Joss Stone (vo [5][9])
Imelda May (vo [7][11])
Olivia Safe (vo [10]
Darrel Higham (g [11])

Produced by Steve Lipson
Executive Producer:
Trevor Horn
前作「Jeff」以降、あんなにも継続的かつ精力的に活動すると予想した人がいただろうか。それは大いなる喜びであったのと同時に戸惑いでもあった。なぜかといえば、例え長いインターバルをおいても「ああ、ジェフじゃないとこんな音楽はできない」というアルバムを作ってこれたのは時間をかけていたからだと分かっていたからだ。ここ数年の安定したライヴ活動は確かに素晴らしかったんだけれど「ジェフじゃないと」いう意味(そこには斬新じゃないと、という意味も含まれる)では、少々モノ足りないと僕は感じていた。そしてついに、というかようやく届いた7年ぶりのスタジオ・アルバム。聴く前に「どんな音楽が展開されているんだろうか」という気分にさせてくれるのは今や僕の中ではジェフくらいしかいないだけに、そしてプロデューサーのクレジットにはトレヴァー・ホーンの名前まで見えるだけに期待はかなり大きい。しかし、最初に聴いたときの感想は「ツマラン」。曲によってバックを使い分けており、ここ数年お馴染みのメンバーの出番が思いのほか少ないのはライヴとは違うモノを狙ったからであるだろうし、そもそもオーケストラを大半の曲で導入、そのアレンジにピート・マーレイなる人物を重用しているのも「スタジオ・アルバム」としての作り込みを目的としていたからでしょう。そしてその目的と狙いはしっかりと達成されている。また、肝心のジェフのギターそのものは相変わらず閃きに満ちたもので大変素晴らしく、ジェフでなければ出てこないサウンドを聴くことができる。それでもツマランのは、ここで目指した音楽に刺激がなく、ジェフのギターも刺激を求めていないから。ツマラン理由のもうひとつはオーケストラやキーボードだけをバックにしたリズムのないゆったり調の曲が3曲(ボーナストラックを含めると4曲)も入っている事。無論、このテの曲をや演らせたら右に出る者がいないことは分かっているんだけれど、こんなに沢山は要らない。その他も激しさを持った曲は少なく、カッコいい[9]に至っては、さあこれからジェフが炸裂する、というところでフェードアウトしてしまう。つまり、このアルバムは刺激をあえて排除しており、ジェフには似つかわしくない円熟という言葉がフィットしていると言える。何度聴いても印象が変わらない僕は、たとえ質が高くとも今後あまり多くは聴かないような気がしてしまう。さらに言えばボーナストラックは要らない。[11]はお得意のロカビリー調ブルースながら他の曲に馴染まないし、[12]は前述の通り同型の曲が既に3曲も入っている。曲や演奏のクオリティは劣らなくともバランスを明らかに崩しており、削ったオリジナル盤制作者の慧眼にむしろ賛辞を送りたいところ。ジェフの曲ならなんでも聴きたいという僕のような人でもなければ輸入盤がお勧め。(2010年4月4日)
リリースされてから2年経ち、あまり聴いていなかったこのアルバムを、精神的に落ち着いているときに聴いてみた。以前ほどは刺激が少ないことに不足感を抱かず、思いのほか楽しめたので評価に★1個追加。録音が良いこともあって、じっくり聴き込むにはなかなか良い。この路線を続けられると困るけれど、こんなアルバムがあってもいいと思えるようになったのは自分が歳をとったからなんだろうか。(2012年8月31日)

Live & Exclusive From The Grammy Museum

曲:★★★
演奏:★★★★
入門度:★
評価:★★☆
[Recording Date]
2010/4/22

[1] Corpus Christi Carol
[2] Hammerhead
[3] Over The Rainbow
[4] Brush With The Blues
[5] A Day in The Life
[6] Nessun Dorma
[7] How High The Moon
[8] People Get Ready
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Rhonda Smith (b)
Narada Michael Walden (ds)
表だった宣伝もなく怪しげなジャケットで登場したこのCDは、2010年にLAにあるグラミー・ミュージアムで親しい友人を集めてこじんまりと行われたライヴとのこと。バランスが考慮されているとは思えない上に物足りない選曲、33分という極めて短い収録時間、曲間の拍手の切れ方の雑さなど、ステージをイメージさせるような商品としての作り込みはなされておらず、単なるライヴ音源集に留まっている。それどころか、この商品はCD-Rで販売されているという、ほとんどブートレグのような作り。これ、実は当初はiTunesのみで配信されていたもの。iTunesでは同じ曲の映像も合わせて2,400円で配信されている。その音源部分だけをCD-Rにしただけというのがこの商品の実態。それでも、それなりの価値があるのはリズム・セクションが変わってからのツアーの演奏を良い音質で聴けるから。特に、重いリズムを叩きつけるナラダ・マイケルウォルデンは前任者との違いが明確で興味深い。とはいえ、何度も聴く気になれないのはやはりライヴ・アルバムとして商品化できていないから。CDというメディアにこだわるつもりはないし全曲収録とまでは求めないけれど、せめてライヴの疑似体験と思わせるくらいの体裁(選曲、曲順、収録時間、編集)が整っていないと価値が下がることくらいは、作り手は理解するべきでしょう。これではジェフが気の毒すぎる。 (2011年3月20日)

Rock 'n' Roll Party: Honouring Les Paul (Blu-ray)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
画質:★★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2010/6/8, 9

[1] Baby Let's Play House
[2] Double Talkin' Baby
[3] Cruisin'
[4] Train Kept A Rollin'
[5] Poor Boy
[6] Cry Me A River
[7] My Baby Left Me
[8] How High The Moon
[9] Sitting On The Top Of The World
[10] Bye Bye Blues
[11] The World Is Waiting
                       For The Sunrise
[12] Voya Con Dios
[13] Mockin' Bird Hill
[14] I'm A Fool To Care
[15] Tiger Rag
[16] Peter Gunn
[17] Rocking Is Our Business
[18] Apache
[19] Sleep Walk
[20] New Orleans
[21] Walking On The Sand
[22] Please Mr.Jailer
[23] Casting My Spell On You
[24] Twenty Flight Rock
[25] The Girl Can't Help It
[26] Rock Around The Clock
[27] Shake, Rattle & Roll
Imelda May (vo, per)
Darrel Higham (vo, g)
Jeff Beck (g)
Jason Rebello (key)
Al Gale (b)
Stephen Rushton (ds)
Dave Priseman (tp)
Leo Green (ts)
Blue Lou Marini (bs)

Gests:
Trombone Shorty
           (tb [16][17][27])
Gary U.S. Bonds (vo [20])
Brian Setzer (vo, g [24][27])
ロニー・スコッツのロカビリー・セットでも共演していたダレル・ハイアムを含むイメルダ・メイ・バンドを従えてニューヨークのジャズ・クラブ、イリディウムで行われたレス・ポール追悼ロカビリー・ライヴ。発売前にジャケットを見て、「なんじゃこのB級ジャケットは。ひょっとして半分ブートレグみたいな粗悪品なんじゃ?」という不安を抱いていたんだけれど、実際にはしっかりと作られていていて一安心。いや、それどころか実はお祭りイベントを記録した貴重かつ素晴らしい作品である。満席でも150人入れない規模でステージが高くセットされていて見やすいこのクラブには2度訪れたことがあるだけに会場のイメージが湧いて身近に感じる(行った当時は毎週月曜日にレス・ポールが出演していた)。特別企画のロカビリー・ライヴだけに当然ジェフ本来のプレイと違うスタイルで演奏されていて、しかしそれはジェフのルーツであるだけに、実に楽しそうに演奏している。ジェフの見どころとしては、普段あまり手にしないレス・ポールをはじめ、いろいろなギターによる演奏が楽しめるところ。また、ある意味ジェフらしい微妙なファッションも見どころ。それにしてもイメルダ・メイのヴォーカルが予想以上にイイ。イメルダ自身が事前に入れておいたバッキング・トラックを加えての演奏もロカビリーそのもので楽しく聴ける。ホーン隊が入ってくると俄然賑やかになり、さらにいろいろなゲストが出てくると楽しさ倍増。タイトル通りのロックン・ロール・パーティ状態となってくる。個人的には特にブライアン・セッツァーとの絡みはテンションが上がる。この2人のツー・ショット、しかも短いながらギターの掛け合いがあったりして両者のファンとしてはもう堪らない。それにしても、ジャズ・クラブで見るジェフはより輝いて見える。そしてその場にいた人が実に羨ましい。ボーナスで入っている映像もファンなら興味深く楽しめるものばかりでかなり満足できる。特にジェフが自宅で自分のギターを紹介するとことはアマチュア・ギタリストにとってかなり興味深い内容ではないだろうか。ジェフをリスペクトするギタリストなら必見。尚、このイベントは音源のみをCDとしてもリリースしているけれど、収録時間の都合なのか、[1][5][7][23][27]がカットされている。音だけ聴けるのは大いにありがたいとはいえ、このイベントをとことん楽しむのなら音だけでは物足りない。やはり映像の力というのは大きい。(2011年3月日)

Live+

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2014/8/7-31

[1] Loaded
[2] Morning Dew
[3] You Know You Know
[4] Why Give It Away
[5] A Change Is Gonna Come
[6] A Day In The Life
[7] Supertition
[8] Hammerhead
[9] Little Wing
[10] Big Block
[11] Where Were You
[12] Danny Boy
[13] Rollin' And Tumblin'
[14] Going Down
[15] Tribal
[16] My Tiled White Floor
[1]-[14]
Jimmy Hall (vo)
Jeff Beck (g)
Nicolas Meier (g)
Rhonda Smith (b)
Jonathan Joseph (ds)

[15]
Ruth Lorenzo (vo)
Jeff Bsck (g)
Rhonda Smith (b)
Veronica Bellino (ds, per)

[16]
Veronica Bellino
      (ds, per, key, vo)
Jeff Bsck (g)
Rhonda Smith (b)

ジェフ・ベックはそもそもライヴ・アルバムにはあまり関心がない人で、昔から聴いていた人だと「Jeff Beck With The Jan Hammer Group」しかない時代が長〜く続いていた。その唯一のアルバムは、ジェフのステージではなくヤン・ハマー・グループに客演参加していたときのツアーからの抜粋という、どうして発売されたのかもよくわからないシロモノ。ライヴを聴きたければコンサートに行くかブートレグに手を出すしかなった。それが2003年に突然「Jeff Beck Live」という、どういうわけだかギター・ショップ・トリオによるライヴがインターネットのみで発売(その後、普通のCDでも流通)、すると堰を切ったようにに続々とライヴ音源がお目見えする(というかライヴ音源の方が数多くリリースされる)ことになった。しかし、これらはジェフがライヴ音源のリリースに力を入れはじめたというよりは、レコード会社が「この音源、ライヴ盤で出したいんだけど」と要望し、ジェフが「ま、勝手にやってもらっていいよ」という雰囲気が濃厚なものばかり。だからなのか、1日〜数日という限られた日数のステージの音源をまとめただけなので演奏は荒っぽく、ミスも漏れなく収録されている。そこでこの「Live+」、なんとプロデューサーはジェフ・ベック本人という、まずはジェフが主体で制作したことを示すクレジットが目に入る。2014年8月のアメリカ・ツアー1ヶ月弱の期間の中からベストテイクを選んだと思われるだけに演奏のクオリティが従来のライヴ盤にないくらい高い(安定している)ことが特筆される。特に[6][11][12]といったほぼギターのみの曲がラフでありながらも素晴らしく良い。驚くのはジミー・ホールを呼びつけて(ジェフはジミー・ホールに何か貸しでもあるんだろうか?) [2][4][5][6][9][13][14]といったヴォーカル入りチューンを披露していることで、オリジナルを超えていないにしても、僕が好きな歌伴におけるジェフのプレイを堪能できることが嬉しい。これぞ、そして今度こそジェフの本当のライヴ盤ができたと言ってもいいんじゃないだろうか。映像でのみのリリースになった最近の「Live In Japan」のデキが、これまでに比べると圧倒的に良くなくて、ジェフもちょっと衰えてきたのかな、と思っていたけれどこのアルバムを聴けばそんな思いは吹っ飛んでしまう。ならばライヴ音源で押し通してくれれば良かったのに、どういうわけか、デキがいいとは言えない、とても荒っぽいスタジオ録音2曲が最後に追加されている([16] はCurveというグループのカヴァーの模様)。まあ、正規スタジオ・アルバムには入れられるようなクオリティじゃないから、ここに入れときましょうかというのはわからなくはないんだけれど、わざわざプラスというタイトルにしてまで収録するほどのものではないものまで入れてしまうところに、ある意味ジェフらしさが出ているとも言える。 (2015年6月13日)

Loud Hailer

曲:★★★
演奏:★★★★
入門度:★★
評価:★★★☆
Released in 2016

[1] The Revolution Will Be Televised
[2] Live In The Dark
[3] Pull It
[4] Thugs Club
[5] Scared For The Children
[6] Right Now
[7] Shame
[8] Edna
[9] The Ballad Of The Jersey Wives
[10] O.I.L
[11] Shrine
Rosie Bones (vo)
Carmen Vandenberg (g)
Jeff Beck (g)
Giovanni Pallotti (b)
Davide Sollazzi (ds)

Produced by
Filippo Cimatti & Jeff Beck
クイーンのロジャー・テイラーのバースデイ・パーティで偶然見かけたヴォーカルのロージー・ボーンズとギタリストのカーメン・ヴァンデンバーグ(2人でBONESというユニットで活動しているらしい)を気に入ったジェフ。その後「なあ、俺とアルバム作らないか」と持ちかけたであろうことは想像に難くない。お世辞にも上手いとは言えない不安定なヴォーカルに、さして存在感のない(ジェフじゃない方の)ギター、そして一本調子な曲と音楽的にはたいしたことのないロックになっている。たぶんライヴはこの調子だけで90分持たせるのはキツいだろうし、これを聴いて「今風」と思う人はいても「斬新」と思う人は少ないだろう。ベテランが若手無名女ロック・ミュージシャンを従えたアルバムという意味ではPrince & 3rdeyegirlの方がパフォーマンスのレベルは遥かに高い。でも、72歳の老人が若い女子の感性に触発されてこんなロックなギターを弾いているというだけで良くないですか?万人受けする大人なアルバムの前作に失望していた僕は、完成度なんかよりもこういう音楽に触発されてジェフがギターを弾いているというだけで楽しく聴けてしまう。正座をして眉間に皺を寄せて聴かなくても、ロックというエンターテイメントの世界で楽しそうにプレイするジェフ・ベックを楽しむ。それで十分じゃないですか。(2016年7月17日)

18 / Jeff Beck & Johnny Depp

曲:★★★
演奏:★★
入門度:★
評価:★
Released in 2022

[1] Midnight Walker
   (Davy Spillane)
[2] Death And Resurrection Show
   (Killing Joke)
[3] Time
   (Dennis Wilson)
[4] Sad Motherfuckin' Parade
   (Johnny Depp)
[5] Don't Talk
   (The Beach Boys)
[6] This Is A Song
   For Miss Heady Lamarr
   (Johnny Depp)
[7] Caroline, No
   (The Beach Boys)
[8] Ooo Baby Baby
   (Smokey Robinson & The Miracles)
[9] What's Going On
   (Marvin Gaye)
[10] Venus In Furs
    (The Velvet Underground)
[11] Let It Be Me
    (The Everly Brothers)
[12] Stars
    (Janis Ian)
[13] Isolation
    (John Lennon)
[1]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (b)
Vanessa Freebairn-Smith (cello)
Robert Adam Stevenson (key)

[2]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (b, g, vo)
Robert Edward Bradley
 (g, b, programing, backing vo)
Vinnie Colaiuta (ds)

[3]
Jeff Beck (g, b)
Johnny Depp (vo)
Jason Rebello (p)
Robert Adam Stevenson
 (key, programing)
Ben Thomas
 (key, programing)
Vinnie Colaiuta (ds)

[4]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp
 (b, g, key, programing, vo)
Vinnie Colaiuta (ds)

[5]
Jeff Beck (g)
James Pearson (key)
Olivia Safe (voice)

[6]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (ds, b, g, vo)
Tommy Henriksen (key, programing, backing vo)

[7]
Jeff Beck (g)
James Pearson (key)
Rhonda Smith (b)

[8]
Jeff Beck (ds, b, g)
Johnny Depp (vo)

[9]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (vo, per)
Pino Palladino (b)
Robert Adam Stevenson
 (key, programing)
Vinnie Colaiuta (ds)

[10]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (ds, b, g, vo)
Robert Edward Bradley
 (ds programing, b. g)

[11]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (b, Baritone g, vo)
Robert Adam Stevenson
 (p, key)
Vinnie Colaiuta (ds)

[12]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (b, g, vo)
Robert Adam Stevenson
 (p, key, programing)
Vinnie Colaiuta (ds)

[13]
Jeff Beck (g)
Johnny Depp (g, vo)
Rhonda Smith (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
ハリウッドスター、ジョニー・デップとのコラボレーションという話題性に富んだアルバム、と言いたいところだけれども、ジョニー・デップのファンの一体どれだけの人がジェフ・ベックを知っているのかは甚だ疑問でもある。コラボの経緯は知らないけれどシングルとして発売された[13]だけならともかくアルバムまで作ってしまうとは、と多くのベック・ファンは思ったに違いない。[3](ベックとデップの共作)、[6](デップとトミー・ヘンリクセンの共作)を除き、古い曲のカバーという曲構成で幅広く取り上げている印象。肝心の音楽は、[2]は2000年前後の「Who Else!」や「Jeff」のようなスタイルで「おっ」と思うものの、他の曲はまったりした曲が多く、低い声で唸っているだけのデップのヴォーカルは魅力的とは言い難い。曲によっては従来のジェフの人脈の名手が参加していても、全体にこじんまりしている印象は拭えない。ジェフのギターは年齢(録音当時76歳くらいか)を考えると驚異的な若さで変わらぬ魅力があるとはいえ、これまでアルバムほどの鋭さはなく、ずいぶん丸くなったなと思う。ジェフ本人はデップを高く評価し、やる気にさせたようではあるけれど、このアルバムの何が問題かというと音楽的な魅力が薄いということ。インストで演奏されるマーヴィン・ゲイの[9]に「こういうのもありかな」と思う程度で、全体を通してスリルがなく、何度も繰り返し聴こうと思える魅力が感じられない。(2022年7月24日)

Beckology

曲:★★★★
演奏:★★★★
入門度:★
評価:★★★★
Disc 1
[1] Trouble In Mind
[2] Nursery Rhyme [Live]
[3] Wandering Man Blues
[4] Steeled Blues
[5] Heart Full of Soul
[6] I'm Not Talking
[7] I Ain't Done Wron
[8] Train Kept A Rollin'
[9] I'm A Man
[10] Shapes Of Things
[11] Over, Under, Sideways, Down
[12] Happenings Ten Years Time Ago
[13] Hot House Of Omagarashid
[14] Lost Woman
[15] Rack My Mind
[16] Nazz Are Blue
[17] Psycho Daisies
[18] Jeff's Boogie
[19] Too Much Monkey Business [Live]
[20] Sun Is Shining [Live]
[21] Mister, You're a Better Man
     Than I [Live]
[22] Love Me Like I Love You [Live]
[23] Hi-Ho Silver Lining
[24] Tallyman
[25] Beck's Bolero

Disc 2
[1] Shapes Of Things
[2] I Ain't Superstitious
[3] Rock My Plimsoul
[4] Jailhouse Rock
[5] Plynth (Water Down the Drain)
[6] I've Been Drinking
[7] Definitely Maybe
[8] New Ways Train Train
[9] Going Down
[10] I Can't Give Back the Love
                               I Feel For You
[11] Superstition
[12] Black Cat Moan [Live]
[13] Blues Deluxe/Bba Boogie [Live]
[14] Jizz Whizz

Disc 3
[1] Cause We've Ended As Lovers
[2] Goodbye Pork Pie Hat
[3] Love Is Green
[4] Diamond Dust
[5] Freeway Jam [Live]
[6] Pump
[7] People Get Ready
[8] Escape
[9] Gets Us All In The End
[10] Back On The Streets
[11] Wild Thing
[12] Train Kept A Rollin'
[13] Sleep Walk
[14] Stumble
[15] Big Block
[16] Where Were You
Disc 1
[1]-[3] (1963-1964)
Jeff Beck (g)
John Lucas (g, vo)
Paul Lucas (b, vo)
Ray Cook (ds)

[4]-[11][13]-[16][18]-[22] (1965-66)
Keith Relf (vo)
Jeff Beck (g)
Chris Dreja (g)
Paul Samuel-Smith (b)
Jim McCarty (ds)

[12] (1966/summer)
Keith Relf (vo)
Jeff Beck (g, vo)
Jimmy Page (g)
John Paul Jones (b)
Jim McCarty (ds)

[17] (1966/summer)
Jeff Beck (g, vo)
Jimmy Page (g)
Chris Dreja (b)
Jim McCarty (ds)

[23] (1967/Mar)
Jeff Beck (g, vo)
John Paul Jones (b)
Clem Catini (ds)

[24] (1967, Jun)
Jeff Beck (g, vo)
Ron Wood (b)
Aynsley Dumber (ds)

Disc 2
[3] (1967/Jun)
Rod Stewart (vo)
Jeff Beck (g)
Ron Wood (b)
Aynsley Dumber (ds)

[6] (1968)
Rod Stewart (vo)
Jeff Beck (g)
Ron Wood (b)
Nicky Hoplins (p)
Mick Waller (ds)

[13] (1973) [14] (1974)
Jeff Beck (g, vo)
Tim Bogert (b, vo)
Carmine Appice (ds, vo)

Disc 3
[7]
Rod Stewart (vo)
Jeff Beck (g)
Daune Hitchings (key)

[10] (1985/spring)
Karen Lawrence (vo)
Jeff Beck (g)
Daune Hitchings (key)
Curly Smith (syn)

[11] (1986)
Jeff Beck (g, vo)
John Van Tungren (key)
John Sieger (b)
Tony Beard (ds)

[12] (1988)
Andrew Roachford (vo)
Jeff Beck (g)
Tony Haymas (key)
Peter Richardson (per)

[13] (1985)
Jeff Beck (g, b)
Dave Charles (ds)

[14] (1988)
Jeff Beck (g)
Tony Hymas (key)
Terry Bozzio (ds)
ボックス・セット・ブームに乗って91年に発売されたジェフ・ベックのアンソロジー。フェンダーのギター・ケースを模したパッケージはギター・マニアの心をくすぐった(らしい)。以下、ヤードバーズ時代の曲、未発表曲、アルバム未収録についてのみ記す。

<Disc 1>
まず、ヤードバーズ加入前に在籍していたトライデンツ時代の3曲が貴重。音楽的にはロカビリーの域を出ておらず、ジェフのギターもまだまだとはいえ才能の片鱗はすでに見える。[4]以降はヤードバーズ時代の代表曲が中心。ジェフは既にインプレッシヴなプレイを繰り広げていて存在感タップリ。ヤードバーズのアルバムはさまざまな形でリリースされているため、どれから手を出したら良いのかわかりにくいけれど、ジェフ在籍時代に限ればこの1枚でいいと思う。[20]-[22]はBBCの未発表ライヴ音源でジェフの太いギターの音が印象的。またジミー・ペイジとの競演曲である [12][17]は単品アルバムでは入手できないのでありがたい。しかしながら "Stroll On(ペイジと競演した"Train Kept A Rollin'") が収録されていないのが痛い。この時代、ビートルズが「Help!」〜「Revolver」をリリースしていた頃に相当するんだけれど、曲やアレンジの斬新さでは足元にも及ばない一方で、演奏力についてはヤードバーズの方が上、ギターに関しては圧倒的に先進的だしテクニックに関しては較べるまでもないレベルであることがよくわかる。ミッキー・モストに乗せられて作ってしまったジョークのようなポップ・チューン[23][24]もアルバムに収録されていないのでありがたいけれど、どうせなら"Love Is Blue"も入れて欲しかった。

<Disc 2>
[3](「Truth」収録曲とは別録音)と[6]は、コマーシャル路線を狙ったジェフのソロ・シングルのB面に収録されていた曲で、こちらの方がヘヴィでジェフがやりたかったであろう音楽になっていることが面白い。[13]はBBAのレインボウ・シアターでのライヴ。音質が良いので是非オフィシャルでの完全版リリースを期待したいところ。[14]はBBA幻のセカンド・アルバムからでこちらもオフィシャル発売を望みたい。

<Disc 3>
[10]は、シングル"People Get Ready"のB面曲。謎の女性ヴォーカルをフィーチャーしたハード・ロック的な内容は「Flash」にはなかったもの(今ではボーナス・トラックとして収録)で、85年頃のジェフは一時期のフュージョン路線と決別してロックに戻ろうとしていたことを改めて知ることができる。ドラム・マシンを使ったサウンドは90年代後半からの音楽にも通じるところがあるかも。[11]は86年の来日公演でも演奏されたジミ・ヘンドリクスのパフォーマンスで有名なトロッグスのカヴァー。来日記念盤としてシングルでのみリリースされたと記憶している。[12]はヤードバーズ時代の曲を豪快に再演。[14]は後のギター・ショップ・トリオによるリラックスしたロカビリー調のインストゥルメンタルで[12]と共に映画「ツインズ」のサントラに収録されていたもの。[13]はロカビリーのスタンダードでこちらは「ポーキーズ 最後の反撃」というB級コメディ映画のサントラから。

以上、紹介した曲はコレクターなら何らかの形で所有しているものばかりでしょうが、とりあえずオリジナル・アルバムなら全部持っていますという程度の普通(?)の熱心なファンにとって、未発表曲やシングルでしか聴けなかった曲が結構収録されているこのボックスは非常にありがたい。ジェフは音源蔵出しのサービス精神がまったくないから、今後もこの種の発掘、コンピレーションが期待できないだけに尚更ありがたい。(2006年9月3日)