Rock Listner's Guide To Jazz Music


It Bites


The Big Lad In The Windmill

曲:★★★★
演奏:★★★★
入門度:★★★
評価:★★★★
Released in 1986

[1] I Got You Eating Out Of My Hand
[2] All In Red
[3] Whole New World
[4] Screamin On The Beaches
[5] Wanna Shout
[6] Turn Me Loose
[7] Cold, Tired And Hungry
[8] Calling All The Heroes
[9] You'll Never Go To Heaven
[10] The Big Lad In The Windmill
Francis Dunnery (g, vo)
John Beck (key, vo)
Dick Nolan (b)
Bob Dalton (ds, vo)

Produced by
   Alan Shacklock
80年代中ごろ、ネオ・プログレッシヴ・ロック・ブームなんてものがほんの少しだけあった。そして、風変わりな名前を持つこのグループもその中のひとつとして注目されていた。そもそもプログレなんて音楽はとうの昔に過去の遺物になっていたもので、演奏をひけらかす難解な音楽が80年代という時代に合うはずもなく、自分の中でもプログレは古き良きロック・クラシックとして完結していたから新人プログレ・グループが出てきて欲しいなんてこれっぽっちも思っていなかった。そんなときに出会ったのがこのイット・バイツ。曲はポップで現代(といっても80年代だけど)に通じるセンスがありながら、しっかりとした演奏力を持ちヒネリを効かせたアレンジや曲の展開で魅了する。その巧みさに僕は、楽器ができるわけでもないのに「こういう手があったのか」と嫉妬してしまったほどだ。さて、このファースト・アルバムから既に新人離れした完成度を持っているけれど、ここではまだ英国に掃いて捨てるほどあったポップ・ロックに近いサウンドであまり強い印象は残さない。それでも随所に聴かせどころのある演奏はプログレ・ファンの耳を惹きつけるものがある。フランシス・ダナリーの声質と相まってピーター・ガブリエル在籍時のジェネシス的な響きも感じさせる。しかし、その聴きやすく開かれたメロディは陰鬱な印象を与えるかつてのプログレとは決定的に違う。プログレの匂うが微かに漂う[4][8][9]がベストか。全作品中もっともポップな仕上がりを持つ佳作。(2007年2月12日)

Once Around The World

曲:★★★★☆
演奏:★★★★★
入門度:★★★★
評価:★★★★☆
Released in 1988

[1] Midnight
[2] Kiss Like Judas
[3] Yellow Christian
[4] Rose Marie
[5] Black December
[6] Old Man And The Angel
[7] Hunting The Whale
[8] Plastic Dreamer
[9] Once Around The World
Francis Dunnery (g, vo)
John Beck (key, vo)
Dick Nolan (b)
Bob Dalton (ds, vo)

Produced by
   Sreve Hillage [1]-[5]
Produced by
   IT BITES [6]-[9]
プロデューサーにプログレ界の大御所、スティーヴ・ヒレッジを迎えた2作目。前作よりロック色が強いサウンドになったのと同時により洗練された印象を受ける。反面、ポップな親しみやすさは後退。このあたりが一般ウケしなかった理由のような気がするとはいえ、プログレ・ファンはこのアルバムでも十分ポップ。変拍子を繰り出しながらもモッタリしたリズムを印象づけるドラムが気難しさを感じさせないところもこのバンドの持ち味。バンドとしての成長は明らかで、曲、演奏、アレンジに格段の進歩が伺える。もうひとつコーラスの美しさも忘れてはならない要素で、フランシス・ダナリーとジョン・ベックの声の相性の良さがそれをもたらしている。[2]のポップ性、[4]の緊張感が印象に残るところではあるけれど、なんと言っても15分に及ぶ大作[9]の存在が大きい。さまざまな音楽性を凝縮し、めまぐるしい展開を見せながらも見事にストーリーを紡ぎ、ドラマチックなエンディングまで聴かせる構成力と演奏力は見事。いささか時代錯誤な曲だとしてもこのアルバム最大のハイライト。(2007年2月12日)

Eat Me In St. Louis

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★★
評価:★★★★★
Released in 1989

[1] Sister Sarah
[2] Underneath Your Pillow
[3] Let Us All Go
[4] Still Too Young To Remember
[5] 'Till The End Of Time
[6] Murder Of The Planet Earth
[7] Positively Animal
[8] Vampires
[9] Leaving Without You
[10] People Of America
[11] The Ice Melts Into Water
[12] Charie
Francis Dunnery (g, vo)
John Beck (key, vo)
Dick Nolan (b)
Bob Dalton (ds, vo)

Produced by Mack
プロデューサーに、クイーンでお馴染みのマックを迎えた3作目にしてフランシス・ダナリー在籍時最後のアルバム。音の感触はさらに変わりソリッドなハード・ロック的なサウンドになった。コーラスがより強調されたのと合わせ、このサウンドはマックの手腕に負うところが大きいように思える。フランシスのギターはハードにドライヴし、歪んだその音はロック的ながらフレーズはどこかフュージョン・ギタリスト的な一面がある。ジョン・ベックのキーボードはよりカラフルになり、バンドの重要な要素としてサウンドを彩っている。曲は前作とは異なりコンパクト、しかしバラエティに富んだ曲調、想定できないような展開が目白押しのユニークさなど、プログレ・ファンの耳を捉える要素が満載。それでいてお高くとまっているように感じさせないポップ・センスも兼ね備えている。冷静に考えると一般ウケする明快なわかりやすさには少し欠けているし、ちょっとヒネた感性がヒットと無縁にさせた気もするけれど、ポップ感覚と音楽性の高さのサジ加減が絶妙で、これで解散してしまったのが本当に惜しまれるグループだった。(2006年8月5日)

Thank You And Goodnight

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
入門度:★★★★★
評価:★★★★★
Released in 1991

[1] Kiss Like Judas
[2] All In Red
[3] Underneath Your Pillow
[4] Murder Of The Planet Earth
[5] The Ice Melts Into Water
[6] Yellow Christian
[7] You'll Never Go To Heaven
[8] Caling Alll The Heroes
[9] Screaming On The Beaches
[10] Still Too Young To Remember
Francis Dunnery (g, vo)
John Beck (key, vo)
Dick Nolan (b)
Bob Dalton (ds, vo)
解散後にリリースされたライヴ・アルバム。あの奇天烈な楽曲をライヴでどう再現するかに興味が湧くところで、期待以上の演奏に圧倒される。フランシスのヴォーカルだけがやや不安定なのは仕方ない(あのギターを弾きながら歌っているわけで・・・)けれど、スタジオ盤よりダイナミックになった演奏を聴いていると生で観れなかったことをつくづく後悔してしまう。狭い会場ながらオーディエンスも熱狂的で特に後半の盛り上がりに加勢しているのが印象的。ファースト・アルバムの曲はライヴになるとより映えることもこのライヴを聴くとよくわかる。こんなユニークなバンドが田舎町から出てくるところに英国の奥深さを思い知る。(2007年2月12日)

Live In Montreux

曲:★★★★☆
演奏:★★★★★
入門度:★★
評価:★★★★☆
Recorded in 1987
Recording in 1988 [10]

[1] Fanfare
[2] Turn Me Loose
[3] All In Red
[4] Black December
[5] Never Go To Heaven
[6] Yellow Christian
[7] Screaming On The Beaches
[8] Calling All The Heroes
[9] I Got You Eating Out Of My Hand
[10] Once Around The World
Francis Dunnery (g, vo)
John Beck (key, vo)
Dick Nolan (b)
Bob Dalton (ds, vo)
確か以前はファンクラブのサイトでしか購入できなかったはずのライヴ盤。ライヴ盤としては「Thank You And Goodnight」があるけれど、本作の録音時期は「Eat Me In St. Louis」より前とあってやや選曲が異なる。重複曲のアレンジはほぼ同じなので、[2][4][9][10]がここでは注目。やはりライヴらしいダイナミックな曲に生まれ変わっていて、生で観れなかったことをまたしても後悔してしまう。そしてなんと言っても気になる[10]も完璧に再現。これを聴けばスタジオ盤のあのパフォーマンスが決して切り貼りだけでできた曲でないことがわかるはず。ただ、この曲だけギターの音が妙に強調されたバランスなのがちょっと痛い。いずれにしても既に新しいアルバムが望めないだけに、どんな形であってもリリースされているのは嬉しい限り。(2007年2月12日)

The Tall Ships

曲:★★★★
演奏:★★★★
入門度:★★★
評価:★★★☆
Recorded in 1987
Recording in 1988 [10]

[1] Fanfare
[2] Turn Me Loose
[3] All In Red
[4] Black December
[5] Never Go To Heaven
[6] Yellow Christian
[7] Screaming On The Beaches
[8] Calling All The Heroes
[9] I Got You Eating Out Of My Hand
[10] Once Around The World
John Mitchell (g, b, vo)
John Beck (key, b, vo)
Bob Dalton (ds, vo)

Produced by It Bites
これは驚き。2008年9月、いつの間にやらフランシス・ダナリー抜きでイット・バイツが再結成され、アルバムをリリースしていたとは。思えばジョン・ベックとボブ・ダルトンは解散後もジョン・ウェットンのバック・メンバーなどで行動を共にしていてKINOやForestというバンドでこの手のメンバーたちと地道に活動しているらしい。ダナリーの代役となるジョン・ミッチェルもそんな人脈の一人のようだ。ナニナニ、調べてみると2006年にはIt Bites名義でライヴ盤までリリースしているではないか。ロックの世界の関心が薄れてから、いつの間にかいろんな動き起きていたようだ。それはともかく、これはニュー・アルバム。そのライヴ盤もKINOも聴いていないのでこの際ポジティヴに受け止めて、あくまでもIt Bitesというバンドとして評価してみたい。まず、ジョン・ミッチェルのギターもヴォーカルも実力は確かで実に良い人材がいたもんだなあと思わせる。ただ、ダナリーと比べるとアクがなく、ギターのフレージングも旨いんだけれど意外性やトリッキーさがないところ、メロディーが耳に残らないところを旧来のファンは物足りないと感じるに違いない。それでもこのアルバムの評価が高い理由は曲にあると思われる。確かにこの柔らかいポップセンスや曲の展開はこのバンドにしか出せないもので、ポップなプログレとして十分に楽しめる。全体としてアクが薄まっている感じがするのはそのままダナリーとミッチェルの違いを表しているわけで、このアルバムで「おお、あの It Bites だ」と思わせる部分はジョン・ベックが、ここにないと思わせる部分はフランシス・ダナリーが持っていたんだということがよくわかる。このメンバーでこの名前を使うことには賛否両論あるだろうと思われるけれど、こういうグループ(いまどき誰が[11]のような曲名を付ける!)が活動していることじたいを支持したい。(2010年1月16日)

Map Of The Past

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
入門度:★★
評価:★★★★☆
Released in 2012

[1] Man In The Photograph
[2] Wallflower
[3] Map Of The Past
[4] Clocks
[5] Flag
[6] The Big Machine
[7] Cartoon Graveyard
[8] Send No Flowers
[9] Meadow And The Stream
[10] The Last Escape
[11] Exit Song
John Mitchell
   (g, vo, cello, violin)
John Beck (key, vo)
Lee Pomeroy (b)
Bob Dalton (ds, vo)

Produced by It Bites
ジョン・ミッチェルを迎えて再結成されたイット・バイツ、予想通り売れないにもかかわらずそこそこ精力的に活動しているようで、なんとこのラインナップによる2枚目のスタジオ盤が完成した。マイナー・レーベルからのリリースで、今日現在、日本盤がリリースされなていない(2ヶ月後に発売された)という状況は、決して将来を楽観できる状況ではないという悲しい思いと、それでもニュー・アルバムをリリースできたという喜びが複雑に交錯してしまう。このアルバムは、古い家族写真からインスパイアされ、19世紀末から20世紀初頭にかけての激動の時代を生きた英国家族の架空のストーリーを描いたコンセプト・アルバムとのこと。今どき、コンセプト・アルバムというものがもう古臭い。でも、本人たちは確信的に開き直って演っているじゃないだろうか。これが自分たちの音楽なんだ、と。曲はところどころつながっているとはいえ単独の曲として成立しており、無用に大作のように仕立ててはいない。それでも曲にはある程度の連続性を持たせてあり、現メンバー最大の弱点である曲やアレンジの幅の狭さが逆に功を奏したのか全体に統一感がある。一方で、大げさになりすぎない程度のプログレ的な構成、わざとらしさが特徴だった変拍子を音楽的にうまく処理しているとことなど開き直りが功を奏したと思われる演奏、そしてこのラインナップの成熟をうかがわせる曲の自由な展開という観点では前作よりもこちらのアルバムの方が上。また、ジョン・ベックがオルガンや「Thank You And Good Night」の" You'll Never Go To Heaven"のイントロで聴かせていたような重厚なシンセのサウンドを多用しているために、全体を落ち着かせたものにしているところも往年のプログレ・ファンにアピールするはず。一方で前作のポップ感覚が気に入っている人にはやや地味で物足りないと感じるかもしれない。ジョン・ミッチェルは相変わらず技量は確かで、前作よりはバンドに溶け込んでいるとは思うものの、もっと個性を見せてほしいと思うところも変わっていない。それを弱点とバンドとして認めた上で、このような作品性で聴かせようとしたのだとしたら、その狙いは成功していると思う。多くの人にアピールする音楽ではないけれど、ポップで叙情的な要素もあるプログレはとても上質。現在の Yes よりも遥かに良い音楽を演っている。他のミュージシャンのセッションやサポート・メンバーをしながらでも構わないので是非バンドを続けてもらいたい。(2012年5月1日)