歴史を貫く糸 |
〜 Plaza de las Tres Culturas, Ciudad de Mexico |
メキシコの歴史は大きく三つの時代に分かれる。マヤやアステカといった古代文明、スペインによる植民地支配、そして独立後現在に至るまでだ。興味深いことに、メキシコシティではこれらすべての時代の遺物が並存している。 まず目につくのはコロニアル建築だ。何の変哲もないビルの合間に、ときどきギリシャ・ローマ時代を思わせる壮麗な建物が現れる。中には国立芸術院宮殿のようにオペラハウスとして使われているものもあるが、多くは普通のオフィスビルか何からしい。時にはやたらと年季を感じさせる外観のものもあり、重厚な装飾と相まって歴史の重みを感じさせる。 街の中心であるソカロに隣接しては、アステカ時代の都テノチティトランの跡が、かなり崩れたとはいえ現存している。これは霞が関の官庁街のど真ん中に平城京があるようなもので、そのシュールな眺めは世界的にも類を見ない。 そして、メインストリートであるレフォルマ大通り沿いには、全面ガラス張りの鋭角的な高層ビルがこれでもかとばかりに林立している。こちらはマンハッタンか六本木かといった雰囲気で、発展途上にある国とは到底思えないほどキラキラと輝いている。 凄まじいまでのコントラストだ。しかし、その分、貧富の差もおそらく想像を絶するほどなのだろう。 この三つの時代の建物が一か所に集まっているのが三文化広場だ。街の北、大きな通りに面した芝生広場の周りに、アステカの神殿、植民地時代の教会、高層ビルが建ち、それぞれの時代を象徴している。 とはいうものの、実際に訪れてみると特に強い印象を受ける場所ではない。むしろ街中で古い建物に出くわした時の方がハッとする。「三つ」集まっているのがミソなのだが、教会の貫録ぶりがかなりのものなので、素人目には神殿との時代の違いがよくわからない。 むしろ少し離れたところにあるラテンアメリカタワーの方が気になった。空に突き刺さる尖塔を頂くこの44階建ての建物には展望台があり、メキシコシティの街並が一望できるという。国営石油企業であるPEMEXが入居しているとも聞くが、いかにも石油文明を象徴するかのような威容を誇っている。 「なんだかんだ言っても、結局、石油かよ」 「え、メキシコの主要産業って観光じゃないの」 数字的な根拠はともかく、バスの車窓から見る限り、この国の経済の多くは石油によって支えられているように思われてならない。なんというか、成金的な匂いを感じるのだ。ミニアメリカとでも言おうか。ユカタン半島ではあまり気にならなかったが、メキシコシティは特にそんな印象を受ける。 昼食はメキシコ料理のコースだった。主食はトウモロコシの粉で作ったトルティーリャ。これで野菜などを巻き、サルサと呼ばれるソースをつけて食べる。ソースには赤と緑があり、どちらもベースは唐辛子なのだが、緑の方がより辛い。それもかなり強烈で、舌が痺れるのはもちろんのこと、胃も灼けるようにヒリヒリする。嫌いな味ではないが、だんだんお腹が痛くなってきたので、あまり量は食べられなかった。 しかし、これこそが先住民から続く遺産と言えるだろう。中米が原産という食材は多い。三つの時代それぞれで多少のマイナーチェンジはあったかもしれないが、この国では歴史の始まりからこうしたものを食べてきたのだ。 |
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驚異のメキシコ |
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