ラテン系ですからね |
〜 Benito Juarez, Ciudad de Mexico |
僕たちが普段目にする地図の多くはメルカトル図法を用いて描かれている。これによると高緯度に近づくにつれ長さが縦にも横にも拡大されるため、極地に近い国ほど実際より面積が大きく表示されることになる。子供の頃、旧ソ連の存在感に面食らったものだが、本当は見た目ほどではなかったのだ。 同じように、デフォルメされたカナダやアメリカ合衆国のすぐ下にあるため、どうしても小さく見えてしまうのだが、メキシコも実はなかなかに広大な国土を誇る。たとえば東西は3000kmを優に超えるのだが、これはヨーロッパでいうとマドリードからモスクワまでの距離にほぼ匹敵する。東端のカンクンから入り、これまでユカタン半島をバスで横断してきたが、その行程もそろそろ終わりだ。 前の晩に移動しておいたビジャエルモッサから国内線でメキシコシティに向かう。地図上では大して離れていなさそうなのだが、羽田から札幌に行くのと同じくらいの時間がかかるということは、やはりバスで行くのは相当に無理がある。 飛行機は密集する住宅を眼下にかすめるように着陸した。ゲートを出てしばらく進み、角を曲がる。階段を下り、少し進むとまた角を曲がる。ん、だんだん自分がどこにいるのか、わからなくなってきたぞ。そんなことを幾度か繰り返し、ようやく荷物受取所に辿り着く。 「くねくねと、けっこう長い道のりでしたね」 「ここはいつもこうなのよ。需要が増えるたびにちょこちょこターミナルを増築してるんだけど、いつもその場しのぎでやっていて、全然計画性がないの」 「空港全体のマスタープランとかないんですか」 「そんなもの、ハナから考えもしないでしょうね。四角い建物の隣に丸い建物が建ってたりするから。日本や欧米だったらあり得ないと思うんだけど」 「どうしてなんだろう」 「ラテン系ですからね」 ガイドは一言で切って捨てた。なるほど、そういうことか。明日の風は明日吹く人たちというわけだ。この街が都市問題の縮図とされているのは、そうした国民性にも一因があるのかもしれない。 特に20世紀後半以降、メキシコシティは大都市に付随する多くの問題とともに語られてきた。大気汚染、人口過密、交通渋滞、治安、貧困、その他あれこれ。世界最悪の都市ランキングでは常に上位に位置付けられる。 迎えのバスを待つために建物の外に出ると、轟音と共に飛行機が頭上を通り過ぎて行った。すぐ隣の人の話がまったく聞こえなくなる。この騒音にしても、近隣住民に何かしら対策が打たれているとは思えない。 その時、目の前にタンクローリーに似た大きな車がやって来た。大勢の男たちが飛び出してきて、後ろのハッチを開けたかと思うと、そこら一帯に置かれていたゴミ袋を次々に投げ入れていく。その量たるや汲めど尽きせぬ泉のように半端ではないが、意外にも作業はテキパキと進んでいく。 「おお、ゴミ収集車は立派に機能しているじゃないか」 都市機能に問題があるからといって、何もかもが駄目なわけではないのだ。偏見を持って申し訳なかったが、これにはちょっと感動した。 |
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驚異のメキシコ |
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