柱の闇の一族〜Palenque
 
柱の闇の一族
〜 Palenque
 

   それは誰にも知られることなく、遠い昔からそこにいた。だが、我々はこの人物を知っているッ! いや、この独特の顔の造形と、世にも奇妙なファッションセンスを知っているッ! 100人が100人、そう言ったきり絶句するだろう。ただし「ジョジョ」を読んでいれば、の話だが。
 今や国民的とも言えるほどの人気を誇る漫画となった「ジョジョの奇妙な冒険」。その第2部で主人公の宿敵となったのが「柱の闇の一族」だ。
 人間が歴史を持つ遥か以前に進化の過程で地球上に出現し、食物連鎖の頂点に立っていた生物という設定で、人間を超越する寿命や知能、身体能力を誇るが、紫外線に弱く、太陽の光を浴びると消滅してしまう。2000年周期で眠りにつくことから、ジョジョたちと戦う前は、メキシコやローマの地下遺跡で石柱と一体化して眠っていた。
 歴代のライバルたちの中で僕が最も気に入っているキャラなのだが、そんな彼らにまさか会えるとは思わなかった。いや、いたのだ、本当に。漫画の中でなく現実の世界に。
 翡翠の仮面が見つかった碑銘の神殿の斜向かいに、宮殿と呼ばれる建物がある。基壇には人の背丈ほどもある大きな石板がいくつも立てかけられているのだが、その表面に彫られている神々や王たちの姿が、この「柱の闇の一族」にそっくりなのだ。
 鼻や口唇などの凹凸が必要以上にデフォルメされた顔、筋骨隆々とした肉体、古代の戦士を思わせるシンプルだが適度に装飾された服。そのいずれもが他の古代文明では全くありえないデザインセンスだ。カッコいいかと問われると返答に悩むが、一度見たら忘れられない強烈なインパクトがある。全然写実的でないにもかかわらず、なぜかリアル感がある。
 冷静に考えれば、これらのレリーフをモチーフとして「ジョジョ」の作者が創造したのが「柱の闇の一族」なのだが、最初に漫画から入っているだけに、どちらがオリジナルなのか、つい錯覚してしまう。フィクションだと思っていたが実在したのか。待て待て、勘違いするな。いやでも、実は古代には彼らは本当に存在していて、それを見たマヤ人がこのレリーフを残した可能性はないのか。などなど、妄想はいくらでも広がっていく。
 他のツアーメンバーはさして気に止めるでもなく一瞥して通り過ぎていくが、僕にとっては知り合いがそこかしこにいるようなもので、いちいちご機嫌伺いをしないとどうにも落ち着かない。いつの間にか隊列がだいぶ先に行ってしまった。
 それにしても、これまでに訪れたマヤ遺跡では、気がつくかぎりこのような石板を見かけなかった。文化の系統が違うのか、それとも年代的なものなのか。あるいは山岳地域であることが何かしら影響しているのか。もしかすると、デザインセンスも含めてパレンケ独特の遺物なのかもしれない。
 「柱の闇の一族」の頭領であるカーズは、太陽を克服し究極生物となるために、脳に眠る未知なる力を引き出すという石仮面を製作した。そして、そのパワーを増幅するエイジャと呼ばれる宝石を探し求めて世界中を旅していた。一方、パレンケのパカル王は、埋葬に際し翡翠でできた仮面を被せられていた。
 漫画では石仮面を被せられた人間は究極生物どころか吸血鬼に変身してしまったが、現実はどうだったのだろう。少なくとも究極の政治力くらいは手に入れられただろうか。何しろ宝石そのもので作られた仮面だ。ある意味石仮面の完成形とも言える。ということは、発揮されるパワーも想像を絶したに違いない。って、そもそも本家はこっちだったんだよな。
 

   
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驚異のメキシコ
 

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