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Lily

百合

百合の出てくる小説や漫画をご紹介しています。

百合

ユリ科の球根植物

〔花期〕5〜8月 

〔花言葉〕純潔(テッポウユリ)・威厳(テッポウユリ)・甘美(テッポウユリ)・荘厳(ヤマユリ)・富と誇り(オニユリ)

日本を含めた北半球に広く自生。 日本原産のヤマユリも含めて野生種も十分鑑賞できるものが多い。

 

<短歌・俳句>


夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の
   知らえぬ恋は 苦しきものそ
 (大伴坂上郎女/万葉集)

<詩>


クリスティーナ・ロセッティの詩より

The rose that blushes rosy red,
  She must hang her head;
The lily that blows spotless white,
  She may stand upright.

<小説>


ルイス・キャロル 『鏡の国のアリス』 新潮文庫など

猫のキティとつもりごっこをしていたアリスは、 鏡の中を通り抜けて鏡の世界へと行ってしまう。
そこはチェス盤のようにたくさんの正方形にくぎられた世界で、 アリスも女王を目指して、不思議な冒険をすることになるのだが……。

「あら、鬼ゆりさん」とアリスは風情よく風にゆれている鬼ゆりに話しかけながら、言いました。「あなたにお口がきけるといいのにねえ!」 (旺文社文庫版,p.30)

+ + +

鏡の国の花たちは当然おしゃべりをすることができます。
オニユリ以外にもヒナギクやバラなどが出てきます。

クリスティー 『復讐の女神』 ハヤカワ文庫

マープルは新聞の記事で、かつて一緒に協力したことのあるラフィール氏の死を知った。
その一週間ほど後、マープルのもとに弁護士事務所からの手紙が届く。
弁護士からラフィール氏の手紙を渡されたマープルは、彼からある犯罪の捜査を依頼される。
しかし、その犯罪がどういうものなのかは全く書かれていなかった。

マープルはラフィール氏の指示通りに、大英国の著名邸宅と庭園めぐりのツアーに出かけるのだが……。

手に大きなユリの花の束を持っていた。
『お葬式のお花よ』彼女がいった。『今日はこれを飾るべき日よ、ね?大きな花びんに入れとくわ。お葬式のお花』と突然笑い出した。


+ + +

『カリブ海の秘密』の続編です。未読の方はそちらの方からどうぞ。
何を捜査すればいいのか、どんな事件が起きていたのか、さっぱり分からないところからのスタートという設定が面白かったです。
何が待っているんだろとどきどきしながら読めました。

『イメージシンボル事典』によると、民間伝承では、「白ユリは結婚式の花であるが、また葬式の花でもある」(p.396)そうです。

クリスティー 『リスタデール卿の謎』 ハヤカワ文庫

セント・ヴィンセント夫人が借りることになったウェストミンスターの小住宅は、古きよき日の魅力に満ちたすばらしい建物だった。しかも、家具付きで、使用人は家主の負担だという。
たった一つ気になるのが、持ち主のリスタデール卿が失踪していることだったが……。

+ + +

クリスティーのノン・シリーズものも面白いです。

バーネット 『秘密の花園』 新潮文庫など

コレラで両親を亡くしたメアリは、ヨークシャーに大きな館を持つ叔父に引き取られることになった。今まで住んでいたインドとは全く違う場所にとまどうメアリだが、そこで出会ったマーサやその弟で、動物と話ができるディコンのおかげでしだいに元気になっていく。

ある日、メアリは10年前から誰も足を踏み入れたことがないと言われている秘密の庭の鍵を手に入れる。メアリたちは叔父の亡くなった妻が愛した秘密の庭を蘇らせようとするのだが……。

秘密の花園には、黄金色、紫色、青紫色、燃えるような赤色など秋の色彩があふれ、あちこちに遅咲きのユリが固まって咲いていた。白いユリもあれば、白に真紅を刷いたようなユリもあった。
(p.472)


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秘密の庭の鍵に子どものころ憧れていました。
また、春になったら読み返したくなりそうです。

菅浩江 『末枯れの花守り』より「第四話 山百合」 角川文庫

山百合の姿にされた尾城百合依は、自分を百合の姿にした二人の姫君の心に不安を覚えながらじっと待っていた。
人間であったころの生活は彼女にはつらいもので(主に名前と姿とのギャップに苦しんでいた)、彼女を花にしてくれるという姫君たちの言葉は喜ばしいものだったのだ。

どのぐらいたったのか、彼女の前に、学生服姿の青年が現れる。
彼女の言葉を聞いた青年は、彼女を突き放すように、もう人に戻ることはできない、花には花の生き甲斐があると諭す。
永遠の幸せを約束してくれたはずの姫君たちへの疑いがまた心に浮かび、それを青年に訴える彼女に、青年は言う。
お前はまさしく傘状の百合、と。

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傘状とは、複数の花が傘の骨のように放射状につく状態のこと。
山百合の姿にされた百合依も蕾を残り三つ持っており、残りの花が咲いたときに起こる騒動が見ものです。

夏目漱石 『それから』 岩波書店など

実家からの援助で働かないでも暮らしていける身分の代助のところに、中学時代からの友人・平岡がやって来た。
平岡は前の仕事先でいろいろと問題があったため、東京で新しい職につこうと思い、代助を頼りにしているらしい。
平岡と一緒に東京にやってきた彼の妻・三千代とも代助は再会することになり、彼らの関係は奇妙なふうに変わっていくのだが……。

三千代は何にも答へずに室(へや)の中に這入て来た。セルの単衣の下に襦袢を重ねて、手に大きな白い百合の花を三本許(ばかり)提げてゐた。其百合をいきなり洋卓(テーブル)の上に投げる様に置いて、其横にある椅子へ腰を卸した。

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百合は三千代にとって思い出深い花として描かれています。
代助を訪ねるのにわざわざ百合を選んだ三千代の心情とも関係する花です。

青空文庫で読むことができます。

夏目漱石 『夢十夜』より「第一夜」 岩波書店など

「こんな夢を見た。」
仰向けにして寝ている女との約束の話は、そう始まる。彼女はもう死にます、と話すのだが、元気そうにも見える。彼女は次のように言う。

死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから

彼女を待つ「私」のところにやって来たのは……?

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どこか懐かしさも漂う『夢十夜』の「第一夜」です。『夢十夜』のどの話も夢の話らしく、脈絡がないところが多いですが、終わり方がどれもかなり好みです。
2007年に映画が公開されたようです。
10分×10本で監督も全部違うとか。

青空文庫で読むことができます。

三浦しをん 「花」(『むかしのはなし』収録) 幻冬舎

元彼の友人に強引プロポーズされて結婚することになった「私」。
だまされて結婚したと憤りつつ、「私」はプロポーズのシーンなどを思い出す。

彼は自分で開発した百合を腕いっぱいにくれた。そして……。

+ + +

彼のくれた水色の百合は、花粉が金色、花弁はセロファンみたいに薄くすけているという変わったもの。

<漫画>


花郁悠紀子 「夢ゆり育て」(『夢ゆり育て』収録) 秋田書店

父が亡くなり、片田舎に住む母親に会いに行くことになったウィリスは、小さい頃から母に会えるのを楽しみにしていた。
しかし、やっと出会えた母はウィリスの父への憎しみのためにウィリスの存在さえ覚えていなかったのだ。

母の住むフランス風の城の周りには、たくさんのユリが植えられており、ユリの香りが窓からも入り込んでくる。そこで、ウィリスはリースという名前の少女に出会うのだが……。

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息苦しいまでにユリの香りのする短編です。

山口美由紀 「ひとゆり峠」(『ひとゆり峠』収録) 白泉社

不思議な力を持ってうまれたために、家族にもうとまれ放浪の旅を続ける男が主人公。
彼が子どもの頃出会った宿場で働く女性は、産まれたばかりの弟のために自分からそこへ売られてきていた。他人の行く末(人がどうやって死ぬのか)を見ることの出来る女性が越えてきた「ひとゆり峠」の本当の名前とは……?

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「桜」の物語でもご紹介したこの『ひとゆり峠』は、連作短編ですべて花がテーマとなっています。
順番は、あざみ→桜→あやめ→ゆり。
少女漫画には「花」をテーマ、モチーフにした作品が多いですね。