Phlox
宿根フロックス
宿根フロックス(オイランソウ)の出てくる小説をご紹介しています。
ハナシノブ科の耐寒性多年草
〔別名〕花詰草・桔梗撫子・オイランソウ・クサキョウチクトウ
〔花期〕6〜9月
〔花言葉〕合意
北アメリカ原産。オイランソウの名前は、花の香りが花魁の白粉の香りに似ているところから。花がキョウチクトウに似ていることから、クサキョウチクトウとも呼ばれる。
<小説>
横光利一 「榛名」
考えることからせめて一週間逃れたいと思い、都会を逃げ出してきた私は、汽車の隣に座る代議士を追いかけるようにして、本来自分の降りる駅ではない場所で降りてしまった。しかし、しばらく代議士の後を追ううちに、その目的さえも忘れてしまい、「忘れる」ということに安堵している自分に気づく。
その後、私はかつて友人が推賞していた榛名へと向かうことになる。その山頂にある円い湖を私は思い浮かべていた私は、そこに着いてからは、宿の女中と話をしたり、湖畔を散歩したりと静かな日々を過ごすことができた。
木の枝をへし折る音、四肢をときどき慄はして眠つてゐる犬、腹を干した岸のボート、ぼつりと一つ芝生の上に見えるキャムプ。森の中に生えてゐる丈長い蘆。白い樹間を絡りながら流れる煙。淡紅色に塊つた花魁草の花の一群。絶えず水甕へ落ちる水の音。
私の短い休息の日々を描いた短編。
+ + +
榛名湖畔の様子が細部まで描かれ、特に自然描写が詳しいです。花の名前が延々続く箇所があって、「私」がその花のトンネルを抜けるところが何とも恐ろしく美しい。
よくこんなに花の名前が分かるものだ、と別の意味でも感心してしまいました。
青空文庫で読むことができます。