Water lily
睡蓮の出てくる小説・詩などをご紹介しています。
スイレン科の水草(多年草)
〔花期〕5月〜10月
〔花言葉〕心の純潔・清純・信仰
古代エジプトでは熱帯睡蓮が神聖視されていた。モネの絵に描かれたことでも有名 。
<短歌・俳句>
睡蓮は 皆花閉ぢつ 宵の星 (月斗)
この三朝 あさなあさなを よそほひし 睡蓮の花 今朝はひらかず (土屋文明)
<小説>
ボリス・ヴィアン 『うたかたの日々』 早川書房
友人シックの恋人の話を聞き、自分も恋をしたいと思っていたコランが出会った少女はクロエという名前だった。幸福な結婚をし、幸福な生活を送るはずの二人だったが、クロエの病気がそこに影を落とす。彼女の片肺には睡蓮が巣食っていたのだ。
コランはクロエの苦しみを和らげようと、医者の言葉に従い、手を尽くすのだが……。
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睡蓮をやっつけるために、コランはクロエを花で取り囲みます。その美しいイメージとは逆に、彼らの目に触れるすべてのものがしだいによくない方向へと変容し、彼らには止めることが出来ません。
また、同じ時期、コランの友人シックはジャン・ソル・パルトルの著作の蒐集のために恋人を嘆かせ、破滅的な行動へと走らせます。
テオドル・シュトルム 「みずうみ」 岩波文庫
月光に照らされたエリーザベトの肖像が、ラインハルトを遥か昔少年の頃へと誘った。
少女エリーザベトは5つぐらい。少年はその2倍の年齢のころ、彼らは誰よりも仲良く、それは彼らが大きくなっても変わることがなかった。しかし、彼が高等の教育を受けるために故郷を離れてからは、彼らの距離も少しずつ変わっていってしまう……。
「僕は以前この花と親しかったことがあるんだ」とラインハルトは言った。「もう遠い昔のことだがね」 (p.63)
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月の光に照らされた肖像画と呼応するように、月光の中に浮かぶ白い睡蓮の花をラインハルトが近づいて見ようとする場面があります。ラインハルトがついに手に取ることのできない睡蓮が象徴するものとは?
二人でついに探すことの出来なかったイチゴ。エリーザベトの飼っている黄色いカナリヤをきらいだというラインハルト……。何度も読み返したくなる短編です。
ウルフ・スタルク 『地獄の悪魔 アスモデウス』 あすなろ書房
悪魔の中の悪魔であり、地獄の支配者でもある悪魔を父に持つアスモデウスは、悪魔たちの中でも変り種。まったく悪魔らしい行動を取らないのだ。
そのことを心配に思うアスモデウスの父は、彼を地上に送り出し、人間の魂を持ってこさせることを決意した。 地上に送られたアスモデウスの見た世界、そして、人間たちは……?
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アスモデウスが人間をだまして(願い事とひきかえに)魂をもらおうと頑張るシーンが笑えます。空回りしているんですよね……。最初に話を持ちかける相手が「めうし」ですし。
スイレンはアスモデウスが自分は地獄から来たもので、何でも願い事をかなえることができることを証明するシーンに登場します。「ゆらゆらとゆれるランプみたいです」(本文p.38より)とあるように、幻想的な情景です。
夢野久作 「ルルとミミ」
昔ある国に、水晶のように光る水であふれた湖があり、その近くに村があった。そこに住む人々は親切な人ばかりで楽しい村だったのだが、湖が濁ると悲しいことがあると伝えられていた。
その村に鐘造りの上手な父親を亡くしてから、二人きりで暮らしているルルとミミという兄妹がいた。彼らの父親は村の寺の鐘を作ったのだが、結局は鳴ることがなかったため、恥ずかしさのあまり湖に身を投げてしまったのだった。
二人きりで仲良く暮らしていたルルとミミだが、ある日、湖の水が黒く濁りだしてしまう。父親と同じように寺の鐘を新しく作ったルルなのだが……。
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湖に咲く睡蓮の花は、ルルとミミをつなぐ役割を果たす、静かで清浄なイメージの花として描かれています。ミミが湖の底で見たものは夢なのか、それとも……?
悲しいお話です。
青空文庫で読むことができます。
横光利一 「睡蓮」
十四年前、北沢の辺りに家を建てた私は、その近くで若い夫婦を見かけるようになった。二人は裕福な生活を送っているわけではなかったが、互いに信じあい愛し合っているように見えた。
そのうちに、彼ら――加藤夫妻が私の家の近くに小さな家を建てることになり、隣人として彼らの生活を間近に見るようになる。互いの家庭に子どもが産まれ、子ども同士のつきあいがはじまっても、初めて彼らを見たときと変わることのない愛情にあふれた生活が続くかと思われたのだが……。
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加藤氏は歌を詠む人でもあり、睡蓮は彼の歌の中に出てきます。彼が睡蓮によって悟ったことは、彼の性質、行動にそのまま現れていると「私」の目には映ったようです。
その睡蓮の花言葉は、「心の純潔」「清純」「信仰」。野生の睡蓮が白いところから生れた花言葉がほとんどのようですが、この話にいかにもふさわしいと思います。
青空文庫で読むことができます。
<漫画>
今市子 「水蓮の下には」(『百鬼夜行抄 3』収録) 朝日ソノラマ
留年仲間と伊豆へ旅行に行くことになった司(主人公の従姉)は、途中で道に迷ってしまい、不思議な人影を目撃した後、途中のドライブ・インで六ヶ月間行方不明だった少女に声をかけられる。
少女は次の日、司たちのところへとお礼を言いにやってくるのだが……。
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式神や妖魔と人間の関係を考えさせられる話です。