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夢を見ていた。心地よい夢だった。俺の背中に二枚の大きな羽がつき、太古の大草原を飛ぶ夢だった。
俺は午前七時に目覚めた。ベッドの上で夢の余韻を暫く楽しんでいた。
やがて起き上がると、顔を洗い、簡単な朝食を作った。トーストとベーコンエッグとホットミルクにレタスとトマトのサラダだった。
テレビをつけた。英語のチャンネル、北京語のチャンネル、ニッポン語のチャンネル・・・。どれもくだらなかった。まともなニュースは入って来ない。テレビの画面には、騒々しいショウ・ビジネスの世界の話題のネタばかりだった。
十二月某日。俺は外出着に着替えて、コートを羽織ってアパートの自室を出た。俺の住んでいるのは七十階建てのビルの二十四階だった。このビルも二十世紀末には、東洋一の高さを誇るビルだったと聞いた事がある。かつては有名な高速エレヴェーターで最上階に客を運び、三六0度のパノラマを楽しませたという事らしい。まさにHamatownの一大観光名所だった訳だ。
今は全くその面影は無い。今から二十年位前から、つまり二0二0年頃から、この巨大なビルのテナントのオーナーたちはオフィスをたたみ、膨れ上がった多民族社会の巨大なアパートになった。
エレヴェーターもあるにはあるが、しょっちゅう故障するので誰も使っていない。従って俺は二十四階の自室から一階まで、階段を降りなければならない。多少億劫だが、足腰のトレーニングにはなる。
俺はいつもの通り階段を降り、一階からは歩いてオフィスのあるカンナイを目指した。

自室を出て三十分。俺はオフィスのある十五階建てのビルディングに着いた。エレヴェーターを使って七階の俺の探偵事務所へ。廊下を歩いて、オフィスのドアの電子ロックにパスワードを打ち込み中に入った。
オフィスは来客用の応接室とその奥の自分の個室になっている。俺は配達された新聞をとって、個室のデスクの椅子に座った。時刻は午前九時になっていた。もう三週間依頼は無い。今日も来客の無いまま夕方まで時間をつぶすのかと思うと少し憂鬱な気分になった。俺は、お気に入りのガラムを一本とって吸った。
テレビをつけた。くだらない放送の中で、わりとまともなニッポン語の公共放送をつけた。ニュース番組だった。近く行われる国政選挙の行方をニュースキャスターとコメンテーターたちが論じ合っていた。
国政選挙。もはやHamatownでは、あまり意味をなさない出来事になっていた。二十一世紀の初頭の中国の内戦。それに続く朝鮮半島の戦争。それに伴う中国・朝鮮の難民はニッポンの一・三億人だった人口をあっという間に二億にした。勿論その時期にアジアを中心とした世界の各地から難民が押し寄せて来た上での数字だ。
このHamatownこそ、まさに人種のるつぼだ。五百数十万人いる人口の中で、はたして純粋なニッポン人はどれだけいる事か。主に使われる言葉は英語・北京語、その次の公用語としてニッポン語・アラビア語などが使われている。
国政選挙の政策論議と言っても、もうどうにもならない程にニッポンはそしてHamatownは堕落してしまった。
もはやこのHamatownを、或いはニッポンという国を誰が動かしているのか全く判らない。政治家などは単なるお飾りに過ぎない。フィクサーと呼ばれる黒幕が、それぞれの民族のエゴを競い合って足の引っ張り合いをしている。
俺は孤児だから、自分がどの民族かは判らない。従ってどのエスノ・コミュニティにも属していない。従って選挙に行く時には、特定のエスノ・コミュニティに属していない政治家に票を入れる事にしている。しかしそんな政治家は本当に少ない。
俺はオフィスの窓からダウンタウンの朝鮮系の八百屋と通りを挟んだ向かいのパキスタン系の八百屋の商売争いを目にした。今日はケンカをしていない様だが、またいつおっ始まるかは判らない。
俺は自室のドアに掛けられている二十世紀最大の画家ピカソのカレンダーに目を向けた。十二月のカレンダーの絵は、俺のお気に入りの“アヴィニヨンの娘たち”だ。「ばらの時代」から「キュービズムの時代」に移ろうとする最中の名画だ。アフリカの仮面にインスパイアされた表と裏の顔を一緒に描いた女の顔も良いが、女たちの日に焼けた褐色の肌がとても素晴らしかった。
生命感に溢れていて、素晴らしい感動をもたらしてくれる。
その時チャイムが鳴った。

俺は廊下に備えられている防犯カメラで、チャイムの主を確認した。それは子供だった。中学生くらいの少女がモニターに映し出されていた。いたずらだろうかと、最初に思った。
俺はインターフォンを使って、それでも丁寧に話しかけた。
「はい。どちら様ですか?」
「ヘティと言います。依頼に来ました」
「依頼?」
俺は今一つ納得がいかなかったが、オートロックを外し、少女に中に入る様に言った。
その少女は長い髪の上に、野球のキャッチャーの様に帽子を反対側に被り、ブルージーンズのオーバーオールを身に付け、白いスニーカーを履いている。服装はボーイッシュな印象を与える。顔は整っていて聡明そうな顔だちをしている。大きな瞳が特徴的だ。
本来なら依頼に来た客には飲み物を出すのが俺のしきたりだったが、今日はおそらくいたずらであろうこの少女に何も飲み物を出さなかった。何しろ三週間依頼が無いのだ。暇つぶしにはなるだろう。
「依頼というのは何?どうして俺の所に来たの?」
最初に俺が口を開いた。
「わたし新市街に住んでるんだけど、学校の友達が旧市街のマーシャル・アーツの道場に通っていてあなたを知ったという訳なの。マーシャル・アーツのシハンの代理をしているが、本業は探偵でものすごく強いって」
Hamatownは二十一世紀に入って北の新市街と南の旧市街に分かれた都市になってしまった。新市街は金持ちの住む所で、新市街の住人が旧市街に来る事はあまり無いし、その逆もあまり無い。
「ノリコの事かな。それでどういう用件?」
ヘティはショルダーバッグから新聞を出して開いて見せた。今日の朝刊だった。そこには、一家惨殺のニュースが社会面に載っていた。
〈十二月七日の午前十一時頃、Hamatownの旧市街サクラギチョウのマンション・アームハイツでニッポン人一家四人が銃によって惨殺されているのを、隣の住民が発見して、警察に通報した。殺害されたのは、安藤弘男さん(四十四歳・会社員)と妻・良枝さん(四十二歳)、長男・仁志ちゃん(八歳)、長女・弘子ちゃん(五歳)の四人。四人は銃でいずれも心臓を撃ち抜かれていたが、額に十文字の鋭利な刃物による切り傷があった。カナガワ県警は、七年前にHamatownの新市街コーホク・エリアで起こった同様の一家惨殺事件との関連を調べている。この事件でも、一家四人が銃で惨殺され、額が十文字に鋭利な刃物で切られていた。なお、このコーホク・エリアの事件では運良く末っ子が生き残っている。カナガワ県警は、こうした手口で殺人を繰り返すと噂されている通称“シンガ”の存在と情報を確認している。〉
「この事件が君とどういう関係が?」
「わたしの名はヘティ・スカエシ。ジャワ人よ。わたしがこの七年前のコーホク・エリア一家惨殺事件の生き残りという訳なの」
俺は内心驚いた。そしてガラムに火をつけて吸った。
「わたしは、今十三歳の中学一年生。事件が起きたのは七年前だった。わたしが六歳の時だったわ。“シンガ”はいきなりわたしたちが眠っている夜中に襲って来たの。わたしは次の日が遠足だったから、大きなクローゼットに入って、一人で次の日着ていく洋服を選んでいた。そこに“シンガ”がやってきて、目の前で同室の姉を銃で撃ち殺したわ。そして殺した後にナイフで額を十字に切りつけていったの。わたしはこわかった。クローゼットの中で、どうかわたしに気が付かないでと祈りながらシンガが立ち去るのを待ったわ。やがてシンガはわたしに気付かずに家から立ち去っていった。わたしはその後、家の中を走り回ったわ。隣の部屋で兄が、そして一階の寝室で父と母が、全く同じ手口で殺されていたの」
ヘティは目に涙を溜めて、それでも何とか気丈に話し続けた。
俺は突然の展開に戸惑いながら席を立ち、冷蔵庫からライムジュースの紙パックをとってグラス二つに注いで、ヘティにさし出した。
ヘティは頷いて、ライムジュースを一口飲んだ。
「そのシンガがこの新聞にある通り、Hamatownに戻って来たの。わたしはこのチャンスをずっと待っていたわ。復讐するチャンスをね。警察は頼りにならないわ。あなたに捕まえてほしいの」
俺は口を開いた。
「シンガって何者なんだ?」
「シンガというニックネームはサンスクリット語で獅子という意味よ。でもあいつは殺人する時、マスクを被って行動するので顔はわからない。どこの国の人間かもね。ただわたしはシンガの左手首の大きな傷を見ているわ。クローゼットの中からね。自殺未遂をしたのかもしれない」
「手掛かりはそれだけか。それで捕まえるのは至難の業だな」
「どう、引き受けてくれる?金ならあるわ」
ヘティは預金フロッピーを差し出した。俺は自分のパソコンにフロッピーを入れてみた。驚く事に五十万ドル以上の金が入っていた。
「こんな大金、どうしたんだ?」
「家族が殺されて生命保険がおりたの。今はやはりコーホク・エリアの叔母の所に住んでるから生活費は問題ないし」
俺は押し黙って、必死に頭を働かせていた。

「ハマオって呼んでいいかしら。ハマオ、お願い。シンガを捕まえて」
「これは危険な仕事だ。下手をすれば、こっちが殺される」
「銃ならあるわ。それにあなたはマーシャル・アーツの達人じゃない」
そう言ってヘティはバッグの中から新型の高性能の拳銃を出して見せた。
「銃なら必要は無い。しかし・・・」
俺は二の足を踏んでいた。
「お願い。あの時、クローゼットの中で震えていて、目の前で姉をムザムザ殺させた自分が許せないの。あいつを捕まえて復讐したいのよ」
ヘティの瞳に溜まっていた涙が一粒頬を伝って下に落ちた。
俺は立ち上がって個室のドアを開けて窓に向かい、ヘティに背を向けて立った。
「基本的に費用は一日一二0ドルにプラス経費。しかし危険の伴う仕事だから、三倍の一日三六0ドルはもらわないとな。そしてもしシンガを捕まえられたらボーナスとして十万ドルもらいたい」
「引き受けてくれるのね」
ヘティは席を立って喜びの表情を満面に浮かべた。
「しかし手掛かりが少なすぎる。政府の情報部員に一人知り合いがいる。そいつにまず聞いてみる必要がある」
俺はヘティの方に向かって言った。
「他に何か知らないのか?何でも良いんだ」
「シンガの仕事と思われる殺人がアジア各地で起きてるわ。タイペイ、ホンコン、シャンハイ、マニラ、プノンペン、シンガポール、ジャカルタ・・・」
そう言ってヘティはバッグの中からスクラップブックを取り出した。新聞の切り抜きもあれば、インターネットのプリントアウトされた紙の切り抜きも貼ってあった。
俺は黙ってスクラップブックを斜め読みした。
「猟奇的殺人のホームページがあるの。趣味は悪いけど役には立つわ。これらによるとやはり銃で殺した後、死体の額に必ず鋭利な刃物で十文字を刻んでいるわ。銃弾はその時によって違うけど」
「シンガの左手首を見たと言ったな。肌の色はどんなだったんだ?」
「肌は浅黒い感じだったわ。しかし暗いクローゼットの中から見たから確信は持てないけど」
「シンガと言うのは、シンガポールと何か関連があるんじゃないか?」
「このホームページを見ると、そうは出ていない。あくまでサンスクリット語で“獅子”と言う意味だと」
「だったらサンスクリット語と言うならインド系じゃないのか?」
「それも判らないわ」
二人は黙って相手を見つめ合った。
「全く手掛かりの少ない事件だな」
「いずれにしてもシンガはHamatownをもう出て行ってしまうかもしれない。一刻も早く調べて頂戴」
「判った。まず、口座番号を教えるから、そっちに入金してくれ」
ヘティは俺の口座番号と携帯電話の番号をメモした。俺はヘティの自宅の住所と電話番号、そして携帯電話の電話番号をメモして、二つの電話番号を携帯のメモリに入れた。
「なるべく頻繁に電話を入れる。それと、旧市街は危ない奴が多いから注意して帰れよ」
「判ったわ」
俺はヘティを事務所の外まで送り出した。そして個室に戻ると椅子に座ってまたガラムを一本吸った。

俺は電話をかけた。
「もしもし」
「カリーナか。俺だ、ハマオだ。今話せるか?」
「大丈夫よ。あら、こんな時間に何の用?」
「仕事絡みだ」
「何の仕事?またヤバイ仕事でしょう」
「その通りだな。今日の朝刊読んだかい?」
「目は通したわよ」
「サクラギチョウの一家惨殺事件は読んだか?」
「ええ。シンガかもしれないという事件でしょ」
「シンガを知ってるのか?!」
「一応、情報部員だからね」
「今朝シンガを捕まえてほしいというヘティと言う少女の依頼を受けた。何でも良い、シンガの情報が欲しい」
俺はヘティが七年前のコーホク・エリア一家惨殺事件の生き残りである事やその他の事をカリーナに話した。カリーナは以前カルト教団事件で知り合い、中国系麻薬組織スネークヘッド壊滅作戦でも一緒にコンビを組んだ政府の情報部員だ。中国系だが、名は洋風だ。年齢は二十代半ばだ。
「一時間ぐらい待てる?警察庁のシンガ担当者に聞いてみるから」
「判った」
そう言って俺は電話を切った。時刻は午前十一時半を過ぎていた。時間が余ったので昼食用に冷凍庫から冷凍したピザを取り出し、オーブントースターに入れて温めた。
ピザを食べ終え、コーヒーを飲んでいるところに、電話が鳴った。
「もしもし」
「ハマオ?聞いてみたわ」
「なんて?」
「やはり昨日のサクラギチョウの事件と七年前のコーホクエリアの事件は同一犯である可能性が高いって。銃弾は違うけど、額に刻んだ十文字の切り口がそっくりだったらしいわ」
「殺人があったのはいつだ?」
「死後推定九時間で午前十一時に発見されているから、殺されたのは昨日の午前二時くらいね」
「目撃者や指紋など手掛かりは?」
「無いわ。残念だけど」
「情報部や警察はシンガについてどこまで知ってる?」
「東アジア各地で同様の手口で犯行が行われてるから、プロの殺し屋である可能性が高いわね。でも殺された人間たちに何の共通点も無いから、動機は不明ね」
「くそっ」
「ただね。共通点は無いと言ったけど、殺されたのは皆犯罪者なのよ。サクラギチョウの主人はヤクザだったわ。コーホク・エリアの主人・・・あなたの依頼人のお父さんね・・・彼も麻薬の売人だったわ」
「本当か?!」
あの純粋無垢なヘティの父親が麻薬の売人・・・。
「でもコーホク・エリアの主人は、殺されるまではエリート・サラリーマンと近所で通ってたみたい。だからあなたの依頼人である娘・・・ヘティも知らなかったんじゃない」
「しかし犯罪者ばかりを殺すというのは何なのだろう?まさか義賊じゃないだろう」
「それはないでしょう。ただ情報によると、殺されたアジア各地の犯罪者たちがこの世の中から消えてしまうと、対立関係にある犯罪者が必ず利益を上げてるの。証拠は無いんだけどね」
「どういう事だ?」
「例えば、コーホク・エリアのジャワ人のヘティの父親が殺されてから、対立組織であるベトナム系の麻薬組織が勢力を大幅に伸ばしたの」
「と言う事は・・・」
「そう。義賊では無く、金の為なら誰でも殺す、単なるプロの殺し屋である可能性が高いわね」
「なるほど」
「それを考えると、昨日のサクラギチョウのニッポン人・・・会社員となっていたけど本当はヤクザよ・・・このヤクザが死んで儲かるのは、タミール系インド人の組織“タミールの虎”と中国系流氓(リューマン)の“三合会”なのよ。警察もあたってるみたいだけどね。奴らの居所が良く判らないのよ。警察は駄目ね。正面からやろうとするからね」
「“タミールの虎”と“三合会”か。なるほど、俺なら奴らの居場所の見当は大体つく」
「さすがダテにHamatownの裏町に三十年暮らしているだけの事はあるわね」
「ありがとう。俺はとりあえず“タミールの虎”をあたりにホンモクに行ってみる」
「気を付けてね。でもまた何でこんなヤバイ仕事を引き受けたの?そのヘティって子、幾歳?」
「一三歳。中学一年生だ」
「どうせ可愛い子でしょ?ロリコンはやめてね」
「馬鹿言うな」
俺はカリーナに再び礼を言って電話を切った。

俺はカンナイの事務所を出てエレヴェーターを使って下に降りた。歩いて地下鉄の駅を目指した。このHamatownの旧市街では車は、慢性渋滞のためほとんど役に立たない。最近流行のエア・カーもあるにはあるが、値段が高いのでほとんど新市街の人間しか使っていない。
地下鉄は他の電車に比べて治安が悪いが俺は良く利用していた。切符を買って自動改札を通る。
ホームで電車を待っていると、五十歳くらいの一見してホームレスとわかる大男が近寄って来た。顔は垢にまみれて汚く、髪も伸ばし放題だ。冬だというのに、ズボンの上の裸の体に大きな汚いジャケットをまとっている。顔だちからすると南アジア系の人間のようだった。
「兄さん、金はあるかい?」ホームレスの男が話しかけた。
「あるけど、ただでやる訳にはいかない。あんたどこの出身だい?」
「スリランカだ。俺はタミール人だ」
何という偶然だろう。ホームレスの男の風呂に何百日も入っていない、強烈な異臭を我慢しながら、話を続けた。
「“タミールの虎”に用があるんだが、ホンモクの何処に行けば良い?」
「さあな。あいつらヤバイ連中だぜ。でも“セイロン”って言うクラブに寄ってみな。何かわかるかもしれない」
「そうか、ありがとう。これはほんの気持ちだ」
俺は十ドルをホームレスの男に渡した。そのままホームレスの男はホームを出て行った。あの十ドルも一時間もしないうちにアルコールに代わってしまうのは目に見えていた。
電車がプラットホームに来た。俺は乗り込んだ。乗客はいつもながらまばらだった。俺はナップ・ザックからいつでも電子トンファーを取り出せる姿勢を取った。何処に狂気を持った人間がいるのか良く判らないのがこのHamatownだ。ヘティは無事に帰れたろうか。エア・カーで来たと言っていたが、運転手の腕が確かな事を祈った。
二十分程して地下鉄はホンモク駅に着いた。一番先に降りていったのは、昼から酔っぱらった白人の男たちだった。
俺はエレヴェーターで上がり地上を目指した。地上の空は先程よりずっとどんよりしており、いつ雨か雪が降ってもおかしくない空模様だった。寒かった。俺はコートの前ボタンをしっかりと閉じた。
ホンモクは二十世紀にHamatownが世界最大の貿易港として栄えていた頃に活躍した大埠頭のある街で、当時は米軍が軍人用住宅などを建設していた事もあるエキゾチックな街だった。今でも港の大埠頭は使用されており、街には世界中から来た様々な人種・民族で賑わっている。
人込みの中をかき分け、“セイロン”と言うクラブを探した。このホンモクには幼少時から何度も来ている。土地勘があるので、タミール人の集まりやすい方角へ向かって行った。
タミール人も広い意味ではインド人の一種と言えるが、インドという国は二十世紀半ばにインド・パキスタン・バングラディッシュ・スリランカの四カ国に分断されており、またその中で宗教・民族によって沢山に分かれている。
その中でタミール人はインド亜大陸の南西部とスリランカに住み、スリランカではマジョリティであるシンハリ人とマイノリティであるタミール人が内戦を繰り返してきた。
“タミールの虎”はスリランカの反体制ゲリラ組織から分かれて、南アジアから東アジアに勢力を伸ばしたマフィアだ。
やがて俺はホームレスに教わった“セイロン”というクラブを見つけ、中に入って行った。時刻は午後二時になっていた。

外装はお世辞にも立派とは言えないクラブだったが、中に足を踏み入れると、とてもきらびやかでお洒落なクラブだった。受付で二十六ドルの入場料を払うと、午後二時と言うのに沢山の民族の若者が大音量の音楽に合わせて踊っていた。
俺は壁際のバーのスツールに腰掛けた。従業員は皆、色の濃いタミール人で、目の前に立ったバーテンもやはりタミール人だ。
年齢は二十代半ばといったところで、なかなかハンサムな顔をしているスリムなバーテンだった。
「お客さん、何にしますか?」
「君はタミール人だろ?」
「そうですが」
「タミールのカクテルを頼むよ」
わかった、という表情を作ったバーテンは何種類かの酒を混ぜてシェイカーに入れ、そのシェイカーを慣れた手つきで振ると、グラスに注ぎ俺の前に出した。
「タミール・スリングです」
「ありがとう」俺は一口飲んだ。あまりアルコールのきつくない、さっぱりとした喉ごしだった。
クラブの踊り場の中央では黒人が見事なダンスを見せて、女たちの目をひきつけていた。黒人ほど、リズム感のある人種は無い。世界中のクラブで何処でも見られる光景だ。
「ところで君、ここは麻薬(クスリ)は置いていないのかい?」
俺は直球勝負に出た。
「は、はい?麻薬(クスリ)ですか?」
ハンサムなバーテンは、俺を探る様な目つきでこちらを見た。
「大麻(グラス)が切れてるんだ。LSD(アシッド)でもコカインでも良い。何か売ってくれないか?」
「お客さんは刑事ですか?」
俺は笑い飛ばした。
「刑事がこんな事するかよ」
俺はバーテンの前に五十ドルさしだした。
バーテンは五十ドルをポケットにしまって、ニヤッとした。
「ちょっとお待ちを」
ハンサムなバーテンは店の奥に消えた。俺はガラムを吸った。
十五分程して、ハンサムなバーテンは一人の私服のタミール人と共に戻って来た。
「この人に聞いてください」バーテンは言った。
俺は私服のタミール人を見た。リッチなスーツを着ているが、何処か垢抜けない。マフィアだ、と瞬間そう思った。
「ついてきな」私服の小柄なタミール人は横柄にそう言った。
やがて我々は、クラブの裏の小部屋に入った。
「何をやりたいんだ?」
私服のタミール人はそう言った。
「コカインが良い」
「どのくらい買う?」
「十キログラムだ」
私服で小柄なタミール人は表情を変えた。
「てめえ、ふざけてるのか?」
「ふざけてはいないさ。昨日サクラギチョウでニッポン人が殺された。あんた達“タミールの虎”もこれから景気が良くなるんだろう?」
「この野郎!!」
小柄なタミール人は、俺に殴りかかってきた。
右のストレートをヘッドスリップでよけると、勢いのついた小柄なタミール人に足をひっかけた。
小柄なタミール人は派手に転んで、うつむけに倒れた。
ナイフを抜いた小柄なタミール人は、ナイフで俺に刺し掛かってきた。俺は強烈な右の前蹴りを相手の腹に放ち、相手のナイフを持っている右手の手首を手刀でたたいて、ナイフを床に落とした。
物音に気付いて三人のマフィアらしき男たちが入ってきた。一人目の殴りかかってきた筋肉質な男のパンチをパーリングしてかわすと強烈な左ミドルキックで倒した。長身の男に左足の横蹴りを相手の右足の膝関節にたたき込んで倒すと、続いてもう一人のでっぷりと太った男の顔面に右のハイキックをたたき込んで倒した。
四人のマフィアはいずれも呻き声をあげて、床をのたうちまわった。
俺は最初にこの小部屋に案内した小男の頭を掴むと言った。
「おまえら“タミールの虎”のボスは何処にいる?」
「し、知らねえ」
「すっとぼけるな」
俺は小男の右腕を後ろにとり、ねじ上げた。小男は悲鳴をあげた。そしてナップ・ザックから電子トンファーを取り出し男に言った。
「この電子トンファーをケツに突っ込むと三ヵ月は動けなくなるぞ。それでも良いのか?」
「やめてくれ!ボスなら二階にいる筈だ。助けてくれ!」
その時だった。小部屋の表と裏のドアから銃を持ったタミール人の男たち十人位が、入ってきた。
そして裏から入ってきた男たちの中央に四十歳くらいの体格の良い大男が、一歩前に出た.
「俺がHamatownの“タミールの虎”のボスだ。話をしようじゃないか。その代わり武器を置いて手を挙げてもらおう」
ボスと名乗った男の低い声には威圧感があった。俺は電子トンファーを机の上に置くと、両手を上に挙げた。

マフィアたちは俺の服とナップザックをチェックした。電子トンファーを取り上げられた。
それから俺は後ろから銃を突きつけられて、目隠しをされて別の場所に移動させられた。店を出た。視界は塞がっているが、外のけたたましい物音が響いている。十五分程歩いただろうか。何処かの建物に着いた。
ビルディングの様だ。エレヴェーターを使って上の方の階へ上がった。
そしてエレヴェーターを降りると、廊下を歩かされて一つの部屋に入った。
目隠しを解かれた。どうやら“タミールの虎”のアジトの様だ。十五畳ほどある部屋にボスと手下がいた。マフィアの部屋のわりには、機能的できれいに片づけられている整った部屋だ。
俺は一つの椅子に座らされ、ボスはその向かい側の大きな机の椅子に深く座った。
「おまえは誰だ?何しに来た?」
ボスはそう言った。不思議な程落ち着いている。威圧感のある低い声だが、他のマフィアたちと違い、粗野な所が無い。大胸筋が発達していて胸が分厚く、二の腕も太い。きっとウェイト・トレーニングを積んでいるに違い無い。
「俺は探偵だ。あんたたちは、昨日サクラギチョウで安藤というヤクザを殺しただろう?」
ボスは暫く黙っていた。
「何を根拠にそんな事を言う?」
「安藤が死ねば、あんたの“タミールの虎”と流氓(リューマン)の三合会が儲かる」
「誰に頼まれた?」
「依頼人の氏名は教えられない」
「それで俺たちにどうするつもりだったんだ?たった一人で何が出来ると思ったんだ?」
俺はボスの眼をしっかり見据えた。
「俺はあんたたちの組織に興味は無い。興味があるのは“シンガ”だけだ」
ボスは葉巻を吸った。
「何で“シンガ”と俺たちに関係がある?」
「“シンガ”はサンスクリット語で“獅子”という意味だからさ。インド系のあんたらに関係がありそうじゃないか」
「それは随分と短絡思考だな。三合会はあたってみたのか?」
「まだだ」
「おまえは随分と正直だな」
ボスの顔に笑みが浮かんだ。
「三合会をあたってみろ。ウチは関係ない」
「本当か」
「同じ事を二度言わせるな」
俺はボスの眼を再び見据えた。
「あんたの名は?」
「シンだ。おまえは?」
「村田茂だ」
俺は偽名を言った。
「それではもうお引き取り願おうか。俺は意味の無い殺しはしない。トンファーもナップ・ザックも返してやる。今日のケンカは、部下の者の力不足だ。もう一度鍛え直さなくてはならない。良い宿題を与えてくれたよ。それにおまえは度胸がある」
そう言ってシンという名のボスは、部下を促してまた俺に目隠しをして、外へ送りだした。

俺は部下三人に銃を突きつけられ、目隠しをされたまま再び外の路上を歩かされた。街の喧騒がかまびすしい。
十五分歩いただろうか。後頭部を鈍器の様な物で突然殴られた。俺は路上に倒れた。強烈な痛みが頭を走って、俺は意識を失った。
殴られて五分くらい経っただろうか。俺は意識を取り戻し自ら目隠しをとった。タミール系のマフィアの姿は消えていた。街の人間は俺が殴られた事に気がつかない。路上で頭を押さえた俺のもとに、北東アジア系の七~八歳の少年が新聞を持って駆け寄って来た。
「夕刊買わない?」
「いらない。男たちは・・・?」
「男たちって、誰の事?」
眼が丸く可愛い少年は、きょとんとして、街の人並みにまぎれた。
タミール系のマフィアは、俺にアジトの在り処を知られない様にしたのだろう。殴ったのは、おそらく銃の台尻だろう。俺は立ち上がった。
シンという名の大男のボスの顔を思い出していた。シンガはウチとは関係無いと言ったが、あのポーカーフェイスでは、本当の事を言っているのか、嘘をついているのか判らない。
しかし殺されなかっただけでもラッキーだった。俺は後頭部の痛みを堪えながら歩き始めた。流氓(リューマン)を当たりに行きたかったが、後頭部の痛みがひどくてそれどころではなかった。俺は近くのスーパーマーケットでアイスノンとタオルを買って、頭を冷やした。
そして地下鉄のホンモク駅を目指して歩き、地下鉄に乗り自宅に向かって帰った。地下鉄の中では緊張の連続だった。こんな体調で、誰かに襲われたらかなりヤバイ状況だった。しかし無事に地下鉄を降りた。
アパートの自宅のある二十四階に歩いて帰るのは一苦労だった。

10

俺はベッドの枕にアイスノンを置いて、暫く横になって眠った。
俺は二時間ぐらいして目覚めた。時刻は午後六時になっていた。俺はテレビのスウィッチをつけ、冷蔵庫から氷を取り出し、バーボンのオン・ザ・ロックスを作って飲んだ。生き帰る様な気がした。
テレビは英語のニュース番組だった。ぼんやりアルコールの酔いにまかせていた俺は、ニュースから聞こえる言葉で、すぐにテレビの前に走った。
五十代くらいの銀縁の眼鏡を掛けた白人の男性アナウンサーが原稿を読み上げていた。
〈本日午後四時、Hamatownノゲのアパート、メゾン・ノゲに於いて、イラン人男性アヤトラ・アッバースさん二十八歳が殺されているのをアッバースさんの会社の同僚が見つけました。アッバースさんの同僚の話によれば、アッバースさんが今朝出勤してこないのを同僚が不審に思い、アッバースさんの携帯電話に何度電話をかけてもかからない事から、同僚がアッバースさんのアパートを訪れたところ、アッバースさんがベッドの上で銃で射殺されているのを発見したと言うことです。またアッバースさんの額は鋭利な刃物で十文字に切り付けられていたそうです。連絡を受けてカナガワ県警は、一昨日の深夜起こったサクラギチョウの安藤弘男さん一家惨殺事件との関連を調べています。ノゲとサクラギチョウは地理的にも近い距離にあり、七年前にコーホク・エリアで起こった殺人も同様の手口で行われており、三件とも東アジア一帯で起こっている通称“シンガ”と言う殺し屋の仕業ではないかとカナガワ県警が慎重に捜査しているところです。・・・〉
やられた、と俺は思った。サクラギチョウもノゲも俺のアパートから近い距離にある。その近い距離に矢継ぎ早に二件もの殺人事件を起こされたのだ。
悔しさのあまり壁に思い切り、拳をたたきつけた。その時、携帯が鳴った。
「もしもし」
「ハマオ。ヘティよ」
「ヘティか」
「ニュース見た?」
「今、見た。やられたよ」
「シンガはまだHamatownにいるわ。きっと」
「ああ」
「今日は何をしていたの?」
俺はカリーナの伝聞で、シンガが対立している犯罪者の片方を消すと、もう片方の犯罪者が儲かるという話を聞かせた。辛い事だがヘティの父親が麻薬の売人だった事も話した。
「嘘よ!お父さんが麻薬の売人だったなんて。お父さんは○○製薬の優秀な社員だったのよ」
「君が信じたい気持ちもわかる。しかし事実を事実として見つめないと、事態は一向に進まない」
「でも・・・」
「それより、昨日の日本人のヤクザが殺された一件で、儲かるのはタミール系マフィアの“タミールの虎”と中国系の“三合会”だ。今日早速、“タミールの虎”を当たってみたが、殺人を依頼したのかどうかの確率はフィフティ・フィフティだ。マフィアを四人倒して、ボスに会ったがおかげで後頭部を銃の台尻で殴られたよ」
「・・・・・」
「俺は今からノゲに行ってみる。“三合会”に当たるのは明日以降になると思う」
「わたしも行きたい!」
「駄目だ。夜の旧市街はひときわ危険だ。それにこれは探偵である俺の仕事だ。今日はドジったが俺に任せてくれ」
「わたしはじれったい。このHamatownの何処かにあの憎たらしいシンガが同じ空気を吸っていると思うと」
「分かる。でも今は俺に任せてくれ。いいな」
俺は興奮しているヘティを上手くなだめて、電話を切った。
俺はバーボンのオン・ザ・ロックスをもう一杯飲んだ。後頭部の痛みはようやく軽くなってきていた。
そこにまた携帯のベルが鳴った。
「もしもし」
「私よ。カリーナ。シンガがまたやったわね」
「ああ」
「ホンモクには行ったの?」
「行った。“タミールの虎”に当たってみたが、良く分からない。明日は“三合会”に当たるつもりだ」
「そう」
「それより、俺は今からノゲに行ってみる。シンガの殺しを、匂いだけでも掴んでおきたいんだ」
「私も行くわ。今日はもうする事が無いし」
「情報部員がそんなにウロウロして大丈夫かい」
「情報部員の私が行かなければ、あなたは殺人現場にも入れないわ」
「それもそうだな。七時に来れるかい?」
「大丈夫よ。それじゃ、ね」
カリーナと待ち合わせの場所を決めて電話を切った。
「俺はコートを羽織って外に出た。

11

ノゲは俺のアパートから三十分程歩いた所にあった。ノゲという街は、二十世紀の太平洋戦争後に闇市のあった所で、生存競争の激しい街だった。
かつては大きな市民動物園があったが、今は公園になり、沢山のホームレスの溜まり場になっている。
図書館で待ち合わせしたカリーナは午後七時ぴったりにやってきた。カリーナはサングラスをつけ、かつらを被りジャケットとスラックス姿で紫色のコートを羽織っていた。
殺人現場のアパートは、図書館から歩いて十分程の場所にあった。
アパートでは警察が付近にロープを張り、現場検証を行っていた。野次馬も十人程いた。カリーナがIDカードを見せると、カリーナと俺は中に通された。
殺風景な部屋だった。家具はテレビと小さな机しか無い。畳の部屋で、広さは六畳ほどだった。
エア・パトカーの着陸する音が聞こえた。死体は今、運ばれるところらしかった。
ベッドの上に横たわったイラン人は左胸の心臓付近を赤く血で染めていた。額には鋭利な刃物で十文字の傷が彫られていた。イラン人の眼は恐怖のためか大きく見開かれていた。
死体は常に空虚な存在だった。ほんの何時間か前に生きて活動していたのに、そうとは思えない空虚さがあった。やがてイラン人の死体はエア・パトカーに運ばれて行った。部屋は荒らされた跡は無かった。たぶん抵抗する暇も無く即死にされたのだろう。
俺とカリーナはアパートを後にした。近くのファミリー・レストランに入った。
俺はポーク・ステーキとライスを注文し、カリーナはたらこスパゲッティーを注文した。
「安藤弘男というヤクザが殺されたのが一昨日の深夜二時頃、アヤトラ・アッバースというイラン人が殺されたのもやはり昨日の深夜二時頃。珍しいわね、シンガが二日連続殺しをやるなんて」
「アッバースというのは何をしていたんだ?ニュースでは会社員になっていたけど」
「やはり麻薬の売人よ。アッバースが独り身だったのが不幸中の幸いよね。家族がいれば巻き添えを食っていたでしょうから」
カリーナも俺も死体を見慣れているせいだろうか。死体を見た直後だというのに、食欲は全く落ちない。
「アッバースが死んで儲かるのは?」
「やはり“タミールの虎”と“三合会”よ」
「そうか。“タミールの虎”に探りを入れたが、下っぱはシンガの安藤弘男殺害を聞くと、すごい動揺を見せたが、ボスのシンという奴は全く関係が無いと言ってた。このシンというボス、肝っ玉が座っていて、本当の事を喋っているのか、嘘をついているのか全くわからん」
俺は食後のコーヒーをカリーナの分と共に、ウエイトレスに頼んだ。
「“タミールの虎“と“三合会”の関係はどうなんだ?」
「そうね。スネークヘッドが壊滅してから、各エスノ・コミュニティーのマフィアがしのぎを削ってたんだけど、ニッポンのヤクザとイランのマフィアの両キー・パーソンが消えた。今や“タミールの虎”と“三合会”の天下ね。今までのところこの二つの組織は冷戦状態にあって、友好関係には無いけど、お互いに手は出し合わないわ」
「そうか」
「それより後頭部の怪我は平気?だいぶ腫れてるけど」
「大丈夫だ。痛みもだいぶ軽くなってきた。明日は“三合会”を当たりに行くが、少しやり方を考えないとな」
カリーナは俺の後頭部を優しく撫でた。
「私たち、こうして事件の時にばかり会ってるわね」
カリーナが少し不満そうな眼で俺を見た。
「仕方ない。これがお互いの仕事なんだからな。この一件が片づいたら、二人でゆっくりしよう」
俺は苦笑した。カリーナもつられて笑った。
「何回そのセリフ聞いたかしら」
二人は席を立ち、勘定を済ませて店の外に出た。
「くれぐれも無茶しないでね」
カリーナは茶目っ気っぽく笑って、二人は別れた。

(つづく)

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