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登場人物
男(18)ファッション・ヘルスのボーイ
女(自称18)ヘルス嬢
医師(55)
看守(35)

医療少年院・診察室八月某日昼
医師の前に男が座っている。男の目は虚ろである。ひどいショック状態にある。
医師「楽にしていいよ」
男「……」
医師「出生地、山形。一八才ね」
男は医師の話を聞いていない。心ここにあらずといった感じだ。
医師「だいぶショックを受けてるね。犯行の動機について聞きたかったんだが」
男「……」
医師「嫉妬かね」
男、急に医師の方に向き直る。目の光が尋常ではない。
男、大きな叫び声を上げて自分の椅子を壁に向けて思い切り投げつける。
看守「どうしました?!」
あわてて外から入ってきた看守が男をはがい締めにして取り押さえる。
男はハアハアと肩で息をし、医師を直視する。
男「嫉妬?!そうだよ。俺はあの女が憎かった!」
男をじっと観察するように見つめる医師。
男「俺はあいつに嫉妬して、憎くて、あの桟橋に呼びつけたんだ。ヘルスの仕事が終わってからな!」
(男の声がかぶって場面が変わる)

八月・診察室の一週間前夜中の港の桟橋
あたりには人けがない。
女「ちょっと、どこまで行けばいいのよ」
男「うるさい!黙ってついてくればいいんだ」
女は男の速い足取りに遅れまいとついていく。やがて桟橋のはてに来る。灯台の明かりが時々あたりを照らすだけで、あたりは真っ暗。しかしジリジリと暑い。風もない。
女「で、用って何なの?」
男はいきなり女の顔を平手打ちする。
女「何すんの?痛いじゃない」
男「おまえ、店長とデキてるだろ?」
女「えっ?」
男「とぼけるな!おまえ店長のところに泊まっただろ?」
女「ちょっと。誤解だよ。あれは……」
男「ごまかすな!いいか。ボーイの俺は月に二十万も稼げねえ。だがヘルス嬢のおまえは稼ごうと思えば五十万以上稼げる」
女「ちょっと……」
男「その上、店長の愛人になりゃ、今の汚いアパートを出て、リッチなマンションで暮らせるってか?!」
女「あたしの話しも聞いてよ!」
男「話しなんて聞かねえ。大体客とシックスナインする商売をしているおまえが、どうしてつきあってる俺に手も握らせないんだ」
女「それは」
男「おまえは俺と将来結婚したいと言った。これでもつきあってるって言えるのか?!」
女「だから……」
男は女をいきなり押し倒した。
女の上に馬乗りになり、ワンピースを引き裂き、ブラジャーの紐をちぎった。
女の見事に発達した乳房があらわになった。
男「やっと拝ませてもらったぜ。おまえのおっぱいをよ」
男は女の乳首にむしゃぶりつく。それから無理やりキスをして、舌を入れた。
女「あんた、どうしたの?今日はフツーじゃないよ!」
男「ああフツーじゃないさ。俺はこの日が来るのを待ってたんだ。おまえを犯す日をな」
男はパンティーをずりおろし、女の股間を舐めた。
女「やめて!」
そして男は自ら裸になり、固く膨張したペニスを女のプッシーに強引に挿入した。
女「痛い!」
男「痛いだと?ふざけるな、ブリッ子しやがって」
男は腰をピストン運動させ始めた。
男「言えよ。いつもお客とこういうことしてるんだろ。もっとも本番は店長だけか。それとも俺の知らない他の男ともやってるのか?!」
女「やめて!!」
男「うるせえ!!言え!店長とどんな風にやったんだ。こんな風にか」
激しく腰を振る男。
女「お願いだからやめて!あたし、あんたとだけはこういうことしたくないの」
男「何?!」
それまで性欲で興奮していた男が腰の動きをぴたっと止め、表情を変えた。
男「おまえ、俺が好きじゃなかったのか?たぶらかしてたのか?」
女「そうじゃないよ。ただ……」
男「ただ、何だ?」
男は女の目をじっと見た。
女「(哀願するように)お願い。したくないの」
男はその言葉に激昂した。
男「この野郎。殺してやる」
男の目に憎しみの殺意の影がよぎった。
セックスしている正常位の体勢のまま、女の首を両手で力一杯締める男。
女「やめて……あんた……」
男「この野郎!死ね!死ね!死ね!」
女「あたしは……ただ……」
男は女の首を五分以上両手で締め続けた。女は少しずつ力がなくなり、やがて女は息をしなくなった。
男「(ハアハア言いながら)ざまあみろ。俺をもてあそぶ女はみんな殺してやる」
肩で息をしていた男は女のプッシーからペニスを引っこ抜くと、自分のペニスが血で真っ赤に濡れていることを知る。
男びっくりする。
男「バ、バカな。おまえ……初めて……でも店長と……」
男、自分の誤解を悟り、港全体に響きわたるような大声で咆哮する。

医療少年院・診察室八月某日昼(1の続き)
男「俺は嫉妬していたんだ。だから憎くて殺した」
医師「……」
男「いや最初は殺す気は無かったんだ。ただ店長とやって俺とやらせないあいつを犯してメチャクチャにしてやりたかっただけだ」
医師黙って聞いている。
男「ところがあいつ『あんたとはしたくない』と言いやがった。それが許せねえ。それが許せなくて殺したんだ」
医師「なるほど」
男「でも、先生よう。あいつが処女だったってのは、どういうことなんだ?俺には訳がわからねえ」
男は頭を抱えてうつむいてもがいた。
医師「プラトニックって言葉知ってるかい?」
男「何だって?プラ……」
医師「プラトニックだ。プラトニック・ラヴとも言う。相手を本気で愛しているが故に、セックスをせず双方の貞操を守り、精神の高揚をはかっていこうという一つの愛の形だ」
男「俺は中卒だから難しいことはわからねえ」
医師「彼女はフーゾクで働くため一八才と言っていたそうだが、実際は一六才だったそうだ。知ってたかい?」
男「いや」
医師「汚れた天使とでも言うべきなのかな。調べると彼女の実家はとても貧しく、病気の父親と四人の弟や妹がいるそうだ。こずかいが欲しいために援助交際に走る今時の女の子とは違って、古典的な売春婦のパターンだ。知ってたかい?」
男「ちらっとそんなこと言ってたこともあったけど、別に気は……」
医師「彼女自身、家族のためとはいえ、他の男に自分の体をまかせる商売を快く思っていたとは思えない。君とセックスしなかったのは何故だと思う?」
男「そこんとこが全然わからねえんだ!!」
医師「君を本気で愛していたからだよ」
男「俺を?!まさか!!」
医師「金で体を求めに来る客の男たちと差別するために、君との間には純潔を守った、というふうには考えられないかい?」
男「考えられるもんか!」
医師、机の引出しから封を切られた手紙の封筒を取り出し、中の便箋を男に差し出す。
医師「では読んでみたまえ。彼女が親に書いた手紙だ」
男、奪い取るように便箋をつかみ、読みはじめる。
(女の声で)「お父さん、お母さん、元気ですか。弟、妹たちは元気にしていますか。私はこっちでまじめに一生懸命働いています。今日は私の将来の旦那さんになる人をちょっと紹介します。びっくりした?この写真に写ってる人です。二つ年上で、とてもまじめで優しい人です。私は………」
(回想シーン)遊園地で仲むつまじく、近くにいる人にカメラで写してもらう男と女。二人、手にソフトクリームを持って笑っている。
男「そんな……バカな……そんなことが……だったら俺はどうして……あいつを……」
男は大きく動揺し、両眼から涙をあふれさせる。

看守がノックして入ってくる。
看守「先生、時間です」
医師「わかった。じゃ君、また話そう」
男、看守に腕をつかまれ外に出されそうになる途中、
男「先生!!だったらよお、じゃなんであいつはそう言ってくれなかったんだよ。そう言ってくれれば俺は……!!」
男、泣きじゃくっている。
医師「愛というのは言葉だけじゃない。今となっては残念だが……君には本当の愛というものをまだ理解できなかったんだ。残念だ。君は……あまりに若すぎた」
男「そんなこと……畜生!!」
看守「こら、いいかげんにしないか」
看守、男をはがい締めにして、診察室を出る。
二人が去ってドアが閉まる。
医師は立ち上がり、窓から外を何かを考えている様子で眺めている。

(了)

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