カムイミンタラ逍遥 その8(最終葉)

7月20日 晴れのち曇り

テント場
テント越しにトムラウシを望む
トムラウシ
朝のトムラウシと昨日歩いてきた高根が原の眺め
2:30起床。がさごそとパッキングを始めると周りも起き出した。幸いにもテントが結露していなかったので一気に撤収して朝食は外で食べることにした。
今日もトムラウシがきれいに見えた。運動会の本部はすでに撤収を済ませ、その跡地に大勢の人たちが立ったままで朝食を摂っていた。

4:24 出発(高度計:1890m, 温度計:13.1℃)

白雲小屋
トムラウシ、白雲小屋、テント村
トイレが大混雑し相棒Kが15分も待たされるというハプニングが生じ、出発が予定よりも遅れてしまった。かつりんも用を足したかったが、2:30に起きたときいったん済ませたし、もうこれ以上遅れたくなかったのでそのまま出発。朝食は白雲分岐で食べることにした。この時間に出発する人たちはみんな南に旅立っていく。白雲岳方面に登っているのは我々くらいだった。途中で振り返るとテント村が鮮やかだった。トムラウシや昨日歩いた高根が原、そしてなにより今日も雲海がすばらしい。
相棒は、朝食を摂らずにいきなり登り始めたのがかなり堪えるらしく、しまいには吐き気まで訴えた。食べ物が入っていないので体が燃えず、手足がかなり冷たくなっていた。しかし道の途中で炊事をするわけにもいかないのでそのまま根性で登りつづける。かつりんはキャラメルを舐めながらの登りでさほどきつくはなかった。

4:55 白雲分岐(2020m, 13.0℃)

雲海
雲海と桂月岳・黒岳・烏帽子岳
到着と同時に速攻で炊事開始。エスプレッソパスタの朝食を摂る。ほとんど風がなかったのは幸いだった。
分岐は地形的には峠であり、北の展望が開けた。黒岳や桂月岳の向こうに雲の大海原が広がっていた。食事をしていると、小屋の方から夫婦連れがやってきて白雲山頂へと向かった。続いてあの運動会本部のパーティがやってきたが、こちらは小休止しただけで北海岳へと去っていった。白雲に登られたら騒々しいだろうなあと思ったが、これで静寂は保たれそうだ。
エスプレッソパスタは名前に反してなかなかできあがらず、結局、食事を済ませて山頂に向かったのは5:30を回っていた。後の行程を考え、戻ってきて7:00には北海岳に向けて出発することにした。温かいミルクティーを詰めたテルモスと、カメラと三脚だけの軽装で出発。

6:10 白雲岳登頂(2140m, 16.9℃)

旭岳
美しい旭岳の残雪模様
白雲岳山頂には誰もいなかった。そして360度の大展望が待っていた(ぐるぐる写真)。阿寒や羅臼のような遠くの山々もはっきりとわかる。北鎮岳はなんだかのっぺりとしていて、お鉢展望台や裾合平から見るときのような精悍な面立ちとはかけ離れた印象だった。旭岳の残雪模様は2年前、8月に見たときとは違い、まだ雪が豊富に残っていてとても美しかった。
7:00に分岐を出発するには遅くとも6:30には下山を開始しなければならない。・・・当然、そんなことができるわけもなく、ゆっくりとお茶をしながらこの展望を楽しみ、6:50頃ようやく重い腰をあげたのだった。本当は、時間さえ許せば2時間でも3時間でもいたいところだったのだ。

7:11 白雲分岐(2050m, 23.0℃)

花畑
分岐直下の残雪周りの花畑
分岐に戻って休憩。朝寒かったのでカッパ上下を着ていたが、ずいぶん気温が上がってきたので脱いだ。小泉岳の方からぱらぱらと人がやってきて、白雲山頂を目指していく。もう20人くらいは登っていっただろうか。静かな山頂を味わえたことをあらためて喜んだ。
分岐は7:30に出発した。

8:41 北海岳(2105m, 29.7℃)

北海岳
北海岳南斜面
稜線
北海岳山頂からこれから歩く道が見えた
北海岳の南斜面は一面花畑になっていた。しかも今日は眺望がよく、遠くトムラウシまで見えた。山頂は目前だがここでザックを下ろしてしばし見入る。往きもこんなにきれいだったかなあ。景色が見えると全然印象が違うのだ。
花畑から山頂まではほんの10数分だ。北海岳までくるとお鉢一周の登山者が行き交うようになった。この分では裾合平も相当混んでいるに違いない。
ちょっと尿意をもよおしたが、けっこう人が通るし、さえぎるもののない稜線上なのでちょっと憚られる。しかたない、我慢して歩くか。

稜線

タカネスミレ
タカネスミレと間宮岳
北海岳からお鉢の稜線を行く。砂でザレた道をちょっと下り、ちょっと登り、一気に下り、だらーっと登る。最初はメアカンキンバイが多く咲いているが、一気に下るあたりからタカネスミレの小さな可憐な花がちらほらと混じり始め、だらーっとした登りで群落となった。
みんな花に気付かないらしく、すれ違いで避けるときに踏みつけてしまう。ふと後ろを振り返ると、ザックを下ろして休憩中の10人くらいの団体が、登山道から外れたところにずかずかと入り込んで景色を眺めているのが見えた。

9:49 間宮岳分岐(2125m, 26.6℃)

旭岳
間宮岳分岐から旭岳を望む
分岐には大量のザックがデポしてあった。お鉢一周の途中で旭岳をピストンする人たちのものらしい。旭岳の山頂や登山道となっている雪渓に、たくさんの人が列を成しているのが見えた。
ここからは、平坦だが歩きにくい石ゴロの道になり、中岳分岐への下りでは雨でえぐれた道になる。

11:19 裾合平(1705m, 24.8℃)

裾合平
裾合平
裾合平
裾合平
中岳温泉は休憩する人たちで混んでいると考え、温泉に下る前に尾根で休憩をとった。そして一気に裾合平へ。噂どおりの大群落に感動。残雪で埋まった沢の中の大石にザックを置いて、撮影会となった。心配したほどの混雑はなく、ゆっくりと花を見られた。
よく「見渡す限りの花畑」「一面の花畑」と言うが、今日のこの裾合平こそこれらの言葉がふさわしい。チングルマで覆われた中にエゾコザクラのピンクが時折混じるのが愛らしい。

12:30 裾合平発

裾合平
裾合平と旭岳
裾合平
裾合平と大塚
裾合平のチングルマ大群落は、思ったとおり、いやそれ以上のすばらしさだった。まさに旅のフィナーレを飾るにふさわしい大花畑であった。ここを最終目的地にしてよかったと思った。
ロープウェイが混雑して待たされると困るので、この大草原に別れを告げた。それにもう膀胱が限界に達していたのだ。木道が終りぬかるみに入ると、足をとられ思うようにスピードが出せないのがもどかしい。

13:51 姿見(1555m, 24.3℃)

夫婦池
姿見も花盛りだった
姿見の周辺もツガザクラなどがきれいだった。チングルマはもうほとんど終わっていた。
朝トイレに寄らなかったことを激しく後悔しつつ、軽い尿漏れ状態でゴールイン。すぐさまトイレに駆け込んだら、ここがまた混んでいて少し並んだ。この時間がたまらなく辛かった・・・
ロープウェイはまださほど混んではいず、1回待っただけで次の便に乗れた。我々の後行列が長くなってきたので、まさに大混雑寸前といったところだった。失禁の恐怖によるとはいえ、帰りのスピードをあげておいてよかったと思った。

旭岳温泉

ロープウェイから降りて公衆電話に駆け寄って電話をかけまくる。しかし旭岳温泉・天人峡温泉ともに全ての宿で満室だった。そこで日観連の窓口に電話。連盟加盟の宿では空いているのはあと1軒だけだという。一も二もなく予約を頼み、一安心した。
17時のバスまで時間が空いたので、白樺荘で1週間ぶりに風呂に入って汗を流した。生き返った気がした。風呂から出たら最初に何を飲もうかと風呂の中でさんざん考えたが、結局、お気に入りの旭岳麦酒を飲んだ。しかし久しぶりのアルコールは体が受け付けないのか、あまり美味しくなかった。こんなことなら缶コーヒーにすればよかったとものすごく後悔した。

旭川にて

バスは18時過ぎに旭川駅に着き、18:30頃宿にチェックインできた。宿はサンホテルという典型的なビジネスホテル。駅から歩いて5分と近いのがありがたかった。
さて夕食であるが、いろいろ悩んだ結果、大雪地ビール館で地ビールとジンギスカンを楽しむことにした。ジンギスカンの「ジンギスカン」をずっと歌いながら歩いて行ってみると、なんと店は貸切で20:30にならないと一般客は入れないという。猛烈な空腹と絶望に襲われた。今は19:30、あと1時間待つか? いや、ジンギスカン専門店に行けばいいじゃないか!! ということで、道内ではとても有名な松尾ジンギスカンという店へ、再度「ジンギスカン」を歌いながら行った。

夕食

ジンギスカン
松尾ジンギスカンの特上ラム
松尾ジンギスカンに到着してみると、広々とした1階の座敷のテーブルの上には食べ終わったばかりの食器が散乱していた。おそらく開店第一波のお客がちょうど帰ったばかりのところだったのだろう。残っている客は3組ほどだった。いよいよ生肉・生野菜・生ビールの「三生」にありつけるのだ!! 唾液が洪水のように出てきた。ふたりで、特上ラム・ラム・マトンロース・マトン2・ラムステーキ・野菜盛り(小)2をたいらげ、生ビール2・カクテル・ボトルワインを胃袋に流し込んだ。大げさでなく、生きている幸せを感じた。これだけ食べて8,000円ちょっとだった。ラムよりもマトンの方が羊っぽくて美味しかった。ラムよりも安いのだけれど。

7月21日

空港へはタクシーで行った。約30分で、4,000円くらいだった。タクシーの運転手は、今年の7月は晴れの日が少なくて寒く、ストーブを焚いた日もあったということだった。
空港の各施設は8:45が営業開始。みやげなどを買った。しかし大好きな富良野地ビールを売っているスタンドだけは開店が9:30ということで、今回は飲めなかったのが非常に残念だった。

後記

浄水器について

携帯浄水器
携帯浄水器「Sweetwater」
今回の新兵器である携帯浄水器は Cascade Designs 社の Sweetwater という製品。モンベルショップで8,000円ちょっとで買ったが、ネット通販ではもっと安いものも見かけた。周知のように北海道の沢水はエキノコックス虫卵に汚染されている恐れがあって生では飲めない。煮沸してから飲むのが一般的に行われている方法で、これまで我々もそうしてきた。しかし湯冷ましの水のまずさはたまらない。料理の油分が混じったりすると最悪だ。そこで浄水器を導入することに決めたのだ。この浄水器は0.2ミクロン(0.0002mm)の物質を除去でき、エキノコックス虫卵は30ミクロン(0.03mm)なのでバッチリろ過可能。重さもこの Sweetwater なら260gと軽い。
原理はいたって簡単で、ポンプで水を吸い上げて、フィルターを通してろ過するだけ。メーカーのサイトの写真では水源から直接ポンプアップしているが、それはたまり水だからできることで、流れの速い沢の水でやるとかなりたいへんだった(忠別岳のテント場でやったが、時間が倍くらいかかったように思う)。タンクで水を汲んできて、テントサイトでしゅぽしゅぽやる方が、ラクだし水場を占拠しなくてすむ。ちなみに、ほかに浄水器を使っているのを見かけたのは1パーティだけだった。
さて使用後のインプレッションです。
湯冷ましの味が嫌で導入したこの浄水器だが、残念ながらセラミックのろ過パーツ(0.2μのフィルタではなく、水源に入れるチューブの先につけて砂のような粗いものをふるい落とす1次的なろ過部分)の匂いがけっこうきつかったので、できあがった水は決しておいしいとはいえなかった。しかしどうかすると匂いが移らないことがあり、その辺は使い込むとよくなるのかなあ。
しかし、なんといっても水が冷たいのがいい。煮沸すると冷めるまで水筒に入れられないが、これならそんな心配はいらない。これは行動中に水を補給する場合にさらに威力を発揮する。かなりの大休憩でないと沸かす・冷ます・入れるまではできない。水筒は全部テルモスだし、飲むのもお湯でいい、という人でもバーナーは冷ましてからでないとしまえないはず。そうそう、沸かさなくてよいということは燃料の節約にもつながるのだ。

燃料(ガスカートリッジ)

冒頭に記したようにイワタニの500Tと250Tを1本ずつ購入し、使用した。まず500から使い始め、18日の夕食の調理まで使いつづけた。翌朝は火力が弱くなったのでメインを250にし、500は湯沸し専門とした。結果、500をほとんど使いきり、250も半分くらい使った感じで結構軽くなっていた。飲み水もすべて煮沸していたらもっとガスを使っていたことだろう。
使用後のカートリッジの処分にちょっと困ったが、どうしようもなくてそのまま空港に持っていって処分してもらった。ごめんなさい。
ページ内を句点で改行する