トムラウシ - 旭岳縦走 2006年7月27 - 30日 テント縦走

計画

トムラウシ温泉から入ってオプタテシケ・十勝へ縦走することも考えたが、これがシーズン最初のテント山行ということもあって無理をすることは避け、標高差の比較的小さい沼の原コースから入山することにした。沼の原・五色が原は3年前にも歩こうとして果たせなかったコースで、ずっと憧れていた道だ。
ヒサゴ沼 - 白雲岳間は歩いたことのある道なので安心感がある。最終日に白雲岳に泊まっていれば、下山コースはよりどりみどりだ。

7月26日 曇り

渡道

旭川行きの飛行機がとれなかったので、千歳からJRで旭川に向かうことになった。千歳便の方が運賃は安いが、JRの料金を合わせると旭川便とトントン。
千歳行きはボーイング767でデカかった。2階だての飛行機なんて初めてだ。90分ほどで新千歳空港に到着。まずは空港1階のJALUX(売店)でガスボンベを購入。層雲峡のロープウェイ駅でも売っているが、そこまで行って売切れだとにっちもさっちもいかなくなるので、早めに入手したかったのだ。
店でいきなり予約の有無を尋ねられ驚いたが、聞けば在庫がなくなるときがあるので、確実に欲しいなら予約しろとのこと。たまたま在庫があったので事無きを得た。ちなみにプリムス。
過去の経験から、北海道では我々ふたりは3泊で250を1缶使い切る計算。今回は3泊+予備日1泊なので、ちょっともったいないかも知れないが2個購入した。途中で足りなくなるのは死活問題だししかたない。だがこのためガスの残りを気にすることなく湯を沸かすことができた。結果、持参した携帯浄水器は今回は出番がなかった。

旭川へ

千歳は空港の地下がそのままJRの駅になっている。旭川までは2時間ほど。快速エアポートは混んでて座れないんじゃないかと思ったが、がらがらだった。南千歳で地上に出てからは徐々に混んできて、最終的には立ち客も出るほどになった。窓から見える林は白樺で、北に来たことを感じさせてくれた。
札幌で大部分の乗客が降り、電車は進行方向と名前を「特急ホワイトアロー」に変えて進む。景色が単調で少ししたら飽きてしまい、うとうととしてしまった。
旭川着は昼どき。層雲峡行きのバスは14時過ぎなので、時間はたっぷりある。まず駅前のファッションビル「エスタ」に入っている食堂で昼ごはんをとってから、西武デパートに移動して食材の買いだし。プチトマト、みかん、キュウリ2本と小さなマヨネーズを買う。

層雲峡へ

層雲峡着は16時半ごろ。途中、上川の駅前がすっきりと変貌していて驚いた。建物と人がますます減ったような気がした。
層雲峡ではまず宿にチェックインして荷物を置き、すぐにビジターセンターに向かい情報収集。沼の原コースに関する具体的な情報はなかったが、「そろそろキンバイがいい頃なのでは」という話だった。
その後温泉街(?)を散策した。ガスボンベを売っていたスーパーさかもとが、売店部門をやめて食堂だけになっていたようだった。そしてその隣になんとコンビニ(セイコーマート)ができていた。

今宵の宿は5年前に泊まったことのあるペンション山の上。ここはオーナーが高山蝶のマニアで、この日もなにやらそんな仲間が集まっていたようだった。夕食は、洋食コースで予約しておいたら、同じキャニオンモール内のビアグリル・キャニオンに案内され、イタリアンのコースを楽しむことができた。
翌朝のタクシーを予約し、風呂(ここの「黒岳の湯」が結構好きだ)に入り、パッキングをすませて眠りについた。

7月27日 スーパー快晴

4時起床。本当に雲ひとつない、まさに快晴だ。宿の朝食はおにぎり弁当に変更してもらってあるので、それを食す。でかいおにぎり4つ(2人前)だったので、1つを残して行動中に食べることにする。
層雲峡から登山口までタクシーは40分強で9,000円だった。登山口には水場がなさそうだったので、宿で水を汲んでいった。五色の水場で補充できるだろう。

6:05 クチャンベツ登山口発(高度計:1085m, 温度計:17.0℃)

渡渉
丸木橋の渡渉
悪路
悪路が立ちはだかる
トイレをすませて出発。いきなり丸木橋の渡渉が2回あり、ずるずる滑るのでちょっと緊張した。その後はゆるゆると登っていく。
1/25,000図だと1回大きくカーブを描いてから急登が始まることになっていて、カーブがあったらいよいよだなと思っていたのだが、道が変わってしまったのか唐突に急登が始まった。歩き出して30分過ぎのことだ。これがまたえらい悪路のうえに、一直線で先まで見通せるという精神的にやりきれない道だった。しかしこの日はあまりの晴天にすっかり舞い上がっており、モチベーションは最高。登れば登るだけ、写真でしか見たことのない素晴らしい風景に近づいているのだと思うと嬉しくてしかたない。登りがこれほど楽しかったのは生涯初めてだった。

7:42 沼の原湿原(1430m, 24.6℃)

トムラウシ
トムラウシ!
湿原
五色が原と忠別岳をバックにワタスゲの広々とした湿原を行く
唐突に始まった急登は唐突に終わり、平坦な道になった。よほどきちっとした台地の地形なのだろう。平坦といってもゆる〜い登りは続く。ちょっとうんざりしかけたところで初の木道に到達。小さな池塘があり、そこが沼の原湿原の入口だった。ここではまだトムラウシは見えない。
次の林を抜けそうになったところで右手の奥にトムラウシが見えた。もっとドラマチックに出現するもんだと想像していたのでちょっと拍子抜けした感じだった。
林を抜けると広々とした草原の端に到着。台地の上だからか開放感があり、ワタスゲがぽつんぽつんと揺れていてなんとも楽園ちっく。池塘越しに眺めるトムラウシは雄々しく美しく、その右に伸びやかに広がる化雲平から五色が原の広がりが爽快だ。

8:08 沼の原分岐(1445m, 25.9℃)

木道
トムラウシを正面に眺めながら歩く
木道は湿原の中を大きくU字を描くように進む。その途中に沼の原分岐がある。「沼の原湿原」と書かれた古ぼけた木の大きな看板があった。
分岐からはトムラウシを正面に眺めるように進む。ずっと見たかった景色を目の当たりにして感激し、しょっちゅう立ち止まって眺めながら歩いていると、あっという間に時間が経っていった。

8:26 大沼着(1460m, 29.1℃)

大沼
大沼からのトムラウシ
大沼のほとりに出ようと思ったが、分岐に近い方はぬかるみがひどくてパス。そのまま木道を進み、五色が原寄りから降り立つ。沼は水が引いていて幕営は可能だった。しかし水が引いていると眺めとしてはいまいち。先ほどの池塘の方がよかった。
ここで大休止し、ひとつ残しておいた朝食おにぎりを食べた。

8:56 大沼発(1450m, 26.9℃)

大沼では、忠別岳避難小屋から下ってきたという人に出会ったほか、2人組が我々同様休憩をしていただけ。とても静かだった。

9:25 五色の水場(1455m, 33.7℃)

大沼からは木道が切れ切れになり、いったん下ってから少し登りかえしたところに五色の水場があった。周囲にはキンバイソウなどがちらほらと咲いていた。ここで持参の水筒類をすべてマンタンにする。
ここから本日2番目の難所、ぬかるみの急登が始まる。踏みあとのステップがついてはいたが、ずるずる滑って歩きにくいことこの上ない。するととうとう転んでしまった。大きな段差のところで、笹を頼りに腕で身体を引っ張りあげようとして足を滑らせてしまったのだ。笹につかまっていたので宙ぶらりんになって助かったが、そうでなければかなり落ちていただろう。このとき顔を地面に打ち付けてしまい、あごに擦り傷をつくってしまった。水は汲んだばかりなので顔を洗うのももったいなく思い、しかたなくそのまま進んだ。
急登じたいは大した時間はかからなかった。

五色が原・下部

台地
台地に乗り上げると沼の原やニペソツが見えた
登山道
エゾコザクラに囲まれた木道を行く
急登のあとは沼の原の手前と同じような「台地に乗り上げた感」があり、見下ろすと大沼や沼の原湿原が見渡せた。しばらく笹の中を行くと「五色が原」の看板があり、とうとうやって来たのだ、と思う。やがて沢に突き当たり、ここで左に向きを変えて沢を登っていくようになる。沢には一部に雪が残っていたが、雪解けあとはお決まりのエゾコザクラなどが咲いていてきれいだ。
じわじわ登ると木道に到達。木道のまわりも花に囲まれてきれいだ。さらにじわじわ登ると前方の草原が白く染まっているのが見える。大群落の予感にときめきながら近づく。

五色が原・中部

五色が原
五色が原の大花畑にトムラウシが浮かぶ
やはりそれはチングルマの大群落であった。そのさらに上にはエゾツガザクラ。
そしてここでとうとう左手にトムラウシが姿を現し、興奮はピークに達した。大花畑の向こうに浮かぶトムラウシの図。これが見たくてここまでやってきたのだ。木道の待避線にザックをおろしてこの絶景を堪能することにした。

五色が原・上部

五色が原
五色が原のキンバイソウ群落にトムラウシが浮かぶ
五色が原
トムラウシの逆の斜面は花が多い
雪田植物群落のあとしばらくは、笹をかきわけるような道になる。それが終わると上部の草原に到達する。チシマノキンバイソウがぽつぽつと咲いていた。このあたりは近年はチシマザサの侵入によって、以前ほどの大群落はなくなってきていると、層雲峡のビジターセンターで聞いたことがある。写真集のあのイメージで行くとがっかりしてしまうのだ。
それでもトムラウシとは逆の方向にはたくさん咲いていたし、かなり上部まで登れば見応えのある花畑もあってよかった。なによりも、こののびやかで開放的な広々とした草原をトムラウシを眺めながらゆったりと歩けるのがたまらなく楽しい。ここまで同じ方向は1パーティ、対向も3パーティくらいと会っただけで静かなのもいい。

12:49 五色岳登頂(1860m, 23.7℃)

五色岳
五色岳から旭岳・白雲岳を望む
トムラウシ
木道の向こうにトムラウシが浮かぶ
五色が原を去ることを惜しみつつ五色岳に登頂。朝からの好天はまだ続いており、旭岳・白雲岳がよく見えた。ここから先はハイマツの海をかきわけて行く。あれっ、ここのハイマツって、こんなに凄かったっけ?
30分くらい歩くとハイマツとの格闘も終わり、木道区間となる。木道は7月中は残雪に埋まっていることもある。
これを過ぎればいよいよ化雲平だ。

14:08 化雲岳東の分岐(1880m, 26.6℃)

化雲平
化雲平の大花畑の向こうにトムラウシが浮かぶ
化雲分岐
化雲岳分岐付近を行く、バックは1952mピーク
カムイミンタラ(神遊びの庭)とも呼ばれる化雲平の花畑は、大雪山中で最も好きな場所のひとつだ。大きな期待を寄せていたが、しかしこの日はなんだかあまりぱっとしなかった。昼を過ぎて逆光になり、強烈な午後の日差しで花の色が飛んでしまっている感じだ。チングルマも盛りを過ぎ、あの圧倒的な量感がないのは残念だった。自分の過去2回の訪問は7月中旬であり、この日は月末。年により差があるだろうが、それでも10日間の違いで咲く花は大きく変わってしまうのだろう。
いちおうザックをおろして休憩する。

14:26 化雲岳南の分岐(1915m, 25.8℃)

トムラウシ
木道の伸びた先にトムラウシが浮かぶ
ちょっぴりがっかりしつつ、巻き道を南の分岐へ。ここも過去の訪問ではハクサンイチゲの大群落が凄かったが、この日はすでに終わっていた。
さらにがっかりしつつ、ここは通過してヒサゴ沼に向かう。

15:26 ヒサゴ沼避難小屋着(1715m, 32.0℃)

ヒサゴ沼
ヒサゴ沼を見下ろす
ヒサゴ沼
ヒサゴ沼のテント場
ヒサゴ沼への道は雪はだいぶ融けていて、上の方はほとんど夏道が出ていた。下は雪の中だったが、区間は短いので迷うことはなさそうだった。
テント場は、いちばん奥の一等地を確保できた。やはり雨があまり降っていないのだろう、どろどろの印象の強い地面が乾きぎみだった。テントを張ってすぐにトイレに行くと、おびただしい数のハエが窓にべったりと張りついていて、ぞっとした。巣箱の中のミツバチのようだった。
本日の夕食は岳食シリーズのデミグラスシチューと豆のサラダ。生のキュウリが美味しかった。
結局この日のテントは7張で、とても静かだった。
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