トムラウシ山縦走 2011年7月24日 - 27日 テント縦走

計画

気象

週間予報の確度はAランクになっているが、気象庁が配布する「週間天気予報解説資料」では、北日本はオホーツク海高気圧の影響で太平洋側を中心に雲が広がりやすいとあった。しかも、500hPaに-6℃の寒気が流入し、不安定になるという。これでどーして晴れで、しかも確度Aなのかが全く解せなかったが、まあ専門家の言うことだから、きっと自分なんかには分からない要素がどっかにあって、それで晴れるとしているんだろう。理解できないオレが悪いのだ。釈然としないまま飛行機の予約を済ませたのは出発前々日の木曜日の夜だった。
ところが翌金曜日になって急転直下、曇りの続く予報に変わってしまった。だから言わんこっちゃない。でももう飛行機も休暇もとってしまった。もう行くっきゃない。

行程

山中3泊なので、沼の原から入ってヒサゴ沼に2泊してトムラウシ山をピストンし、その後白雲小屋に北上して、裾合平を通って下山するという計画にした。五色が原・化雲平・裾合平の3大花畑を堪能できるコースだ。(しかしこれは調査不足で、沼の原の林道が不通ということを現地で知り、行程を変更することとなった)
旭川便は帰りはとれたが往きはダメだったので、新千歳からJRで旭川に向かうことにした。

装備

ガスカートリッジを予約しようと新千歳空港売店のJALUXに電話をすると、取扱店が閉店したとのことで、スノーショップという店に聞いてくれとのこと。あらためてスノーショップに電話すると、O.K.だった。ちなみに取扱はイワタニだけで、250は税込で1個630円。これを2個予約した。携帯浄水器は持っていかないことにした。
上述のように、今回は寒気が入っているという。過去に7月のヒサゴ沼で霜を経験したことがあって、夏装備ではかなり寒かった。また、低体温症で9人が亡くなった2年前のあの大量遭難事故のようなこともないこともない。ということで、念のため下着などは秋に使う厚手のものも携行することにした。

7月23日 曇り

旭川へ

旭川駅
旭川駅のホームの階段(12:22)
天気予報が悪化したことで下がったテンションは、夏の北海道に上陸すると、再び爆あげになった。スノーショップに寄って予約したガス缶を受け取り(寒冷地仕様だった)、直通のスーパーカムイで旭川駅に着いたのは12時過ぎだ。降りてびっくり、なんと旭川駅がチョーきれいになっていた。どうもまだ工事中らしくて部分開業のようだが、勝手が違ってかなり戸惑った。
まずは駅前の西武でプチトマトとキュウリとキャベツとみかんを購入。続いてその近くのコンビニでパン、駅前ビルのエスタでANAの機内誌に載っていたサン蔵人とかいうメーカーのお菓子を若干購入。それから新しくなった駅に戻ってFICAというカフェで焼肉サンドなどの昼食をとった。予想に反して(失礼)、ちゃんとした味だったので満足。
それでもまだ13時半。層雲峡行きのバスは14時半なので、時間はたっぷりある。だだっ広くて人の少ないコンコースのベンチで休んでいる間に相棒がキオスクで地元メーカーのシュークリームを見つけてきたので、それをデザートに食べたりした。このとき、キオスクで北海道産のじゃがバターパウチ食品をついでに購入。山中でもなにか北海道らしいものを食べようという相棒の考えだ。

層雲峡へ

旭川駅前のバス停では、縦走を終えたばかりという人と話ができた。聞けば、この人は毎年大雪を歩いている人だそうで、今年は花が1週間くらい遅く、山の上は花盛りだということだった。
層雲峡の宿は前にも泊まったことのあるホテルノーザンロッジ。バス停から近い宿だ。風呂が良いのは前と変わらず。夕食はチーズフォンデュを選択。これも昔と変わらない。
チェックインして早速、翌朝の車を予約しようとタクシー会社へ電話をすると、なんと沼の原登山口への林道が前年の豪雨で崩落して不通となっており、開通は未定だという。沼の原に入るには十勝側からじゃないとダメなのだ。エアリアマップをよくよく見ると、ヤンベ分岐のところにその記載があった。登山口しかチェックしてなかったから、全然気づかなかったのだ。
のっけから計画変更を余儀なくされた。こうなると白雲・ヒサゴ沼と泊まりトムラウシ温泉へ抜けるのがオーソドックスなコースだが、十勝側に下りると帰りが面倒だ。風呂につかりながらいろいろ考えた結果、初日は白雲小屋まで行って、次にヒサゴ沼に2泊して山頂をピストンし、天人峡へ下山することに決めた。
入山口は黒岳と銀泉台の2つが考えらえるが、まだ夏に歩いたことのない銀泉台を選択した。天人峡への下山路は、10年前に苦しんだあの悪路だ。あんな道、もう2度と歩くまいと思っていたのだが・・・まあ、こんなことでもないと歩く機会はないし、ちょうどいいやと気を取り直す。

花火
峡谷火まつりの花火(20:36)
翌朝は早いのでさっさと寝ようとしたら爆音が響き渡った。時刻は20時半だ。実はこの日から層雲峡は「峡谷火まつり」とかで、花火を打ち上げているのだった。こりゃうるさくてとてもじゃないけど眠れないわい。窓を開けてみると、意外にも打ち上げは至近距離で、小さいながらもなかなかの迫力。広場には結構な見物客もいるようだが、我々は部屋からのんびり眺めることができる。すっかり景気づけられて、気分は否応なく盛り上がったのだった。

7月24日 晴れのち曇り

銀泉台
銀泉台の登山事務所(06:52)
4時に起床。さっそくテレビで天気予報を確認。すると、15時に雨マークがついていた。はあ。
部屋で朝食おにぎりを食べてから、6:02のバスに乗るべくバスターミナルへ向かった。出発間際には結構な人数が並んだ。我々は席は確保できたが、数人が座れなかった。バスの乗客は荷物から見てもほとんどが日帰りのようだった。
バスは窓枠にガムテープが貼ってあった。ずいぶんオンボロだなあと思ったが、林道に入るとその訳が分かった。林道はもんのすごい砂埃で、ガムテープはその侵入を防ぐための目張りだったのだ。しかしそれもほとんど役に立たず、車内はすぐにもうもうとして、息苦しいくらいだった。
銀泉台は2007年の秋に来て以来だ。そのときはあったヒュッテの建物は取り壊されて跡形もなくなっており、登山事務所が新しくなっていた。

7:10 銀泉台発(高度計:1475m)

第一花園
第一花園付近の眺め(07:25)
道
ぬかるみの道が何度か現れる(07:56)
靴ひもをしめたり水を汲んだりなどの準備をしてから出発した。
秋はあんなに色とりどりだった山は、緑一色だった。第一花園では2度ほど残雪を渡った。花は咲いてはいたもののさほど多くはなかった。休憩適地の小広場を過ぎ(団体が占拠していた)、ハイマツの間のぬかるんだ道を行ったあとの開けたところが第二花園だ。

8:12 奥の平(1745m)

雪
第二花園の残雪を登る(08:02)
第二花園には残雪がどっさり残っていた。その残雪の一番下、融け出したところにエゾコザクラが群落を作っていた。空は見事に晴れ渡っていて、サクラソウのピンク色がよく映えた。夏の大雪山に来たんだということを実感した。
気分よく残雪を登りきると奥の平に着いた。秋なら紅葉が美しいところだ。ここは雪が融けたばかりという風情。エゾコザクラに加えてチングルマが咲いていた。

8:27 コマクサ平(1800m)

コマクサ平
コマクサ平の眺め:中央の雪が第三雪渓(08:46)
コマクサ
陽射しが強くてコマクサの影もくっきり(08:50)
登りきって平らになるとコマクサ平だ。第三雪渓に雪がべっとりついているのが見えた。
名前のとおりそこかしこにコマクサが咲いていたが、高根が原ほどの量ではなくてちょっと拍子抜けした。ここからチシマキンレイカが増えてきた。

9:03 第三雪渓(1850m)

道
青空のもと、第四雪渓の右脇を登る(09:40)
第三雪渓は左端に道がついているが、まだ一部が雪の下だった。露出した部分はガレガレのザレザレで歩きにくい。道の脇の花は美しかった。ここでようやくエゾツガザクラを発見。ミヤマキンポウゲとエゾコザクラの組み合わせもいい。
第三雪渓を登りきっていったん平らになり、次に第四雪渓の右端を斜上していくが、この間もずっと花畑は続いた。エゾツガザクラ、アオノツガザクラ、チングルマ、エゾコザクラ、ヨツバシオガマなど。

10:00 赤岳着(2090m)

赤岳
中央のギザギザ岩が赤岳山頂、奥の残雪の山は北鎮岳(09:58)
第四雪渓を過ぎると稜線に出る。稜線とはいっても丸みをおびた鯨の背中のようななだらかなもので、本州だと北ア双六岳のあたりが似たような感じだ。風の強いところだが、この日は微風でとにかく暑かった。道の周囲にはエゾツツジが一面に咲いていて、花もこれまでの雪田植物から風衝地の花に変わったことがよくわかる。
赤岳山頂部はただの岩の塊でおよそ山頂らしくない印象だが、ちゃんと標識も立っている。眺めはよく、旭岳や北鎮岳が見えた。大雪山らしい眺めだ。
コマクサ平から歩きっぱなしだったので、ここでザックを降ろして小休止。スタートでは重く感じられた肩の荷は、いつの間にか全く平気になっていた。素晴らしい花や景色を見て、アドレナリンが出まくっているのに違いない。

10:19 赤岳発(2095m)

道
荒涼とした道を振り返る(10:29)
赤岳を出る頃にはだいぶ雲が増えてきて、到着直後には見えていた旭岳も隠れようとしていた。
小泉岳への道に入ると、ついにウルップソウが登場した。しかしウルップソウはもう花期をだいぶ過ぎていて、紫色の花が残っている株はごくごく少数だけだった。ほかには、やはり風衝地に咲くツメクサや、大雪固有のキバナシオガマが増えてきた。もちろん、エゾツツジもチシマキンレイカも健在だ。

10:47 小泉岳分岐(2160m)

道
分岐の標識付近からの白雲岳:雲が急に増えてきた(10:45)
岩ごろごろの荒涼とした道をゆっくり歩いていく。本来ならこのあたりでトムラウシが見えるところだが、南は雲だらけでそれは叶わなかった。

10:57 白雲分岐(2130m)

シオガマ
ヨツバシオガマの花畑(11:18)
花
ミヤマリンドウとヨツバシオガマ(11:19)
分岐に着いた頃にはすっかり上空は曇っていた。北海岳の方を見ると、斜面が色づいているのがよく分かった。あそこはいつも凄いんだよなあ。いつもは何度か雪渓を渡る道には、べっとりと雪がついていた。
展望は望めそうもないし雨も心配なので白雲岳は省略するか、と思ったが、相棒が登りたいというので、ザックをデポしてすぐに立ち上がった。持ち物はカメラと水だけだ。
白雲平に差し掛かると、例によってヨツバシオガマの花畑。そして山頂直下のチングルマやツガザクラの花畑が素晴らしかった。

11:40 白雲岳登頂(2225m)

花
白雲岳山頂直下のチングルマ群落(11:30)
花
白雲岳山頂直下のエゾツガザクラやらの群落(11:30)
山頂は真っ白だった。この時季なら美しいであろう旭岳の縞々模様も、もちろん見えなかった。ナキウサギが頻りに鳴いていたが姿は見えず。
20分ほどいたが、展望は望めそうにないので下山を開始した。帰りはのんびりと花を眺めながら歩いていく。

12:48 白雲分岐着(2130m)

小泉岳
雲が湧く小泉岳稜線(12:44)
雨が降る気配はまだない。分岐の広場に腰をおろして休憩をとった。

13:00 白雲分岐発(2130m)

道
白雲小屋への下りも花がいっぱい(13:05)
拳大の石がごろごろしていて歩きにくい道を白雲小屋へと向かう。この下りもまたまた花が美しい。ハクサンイチゲ、エゾコザクラなどだ。ハクサンイチゲはきっと道産子のエゾノハクサンイチゲなのだろう。
ヒバリのような美しい声で鳴いている野鳥がいて、ずっと姿が見えなかったがここでようやく目撃できた。喉が赤い。本州では渡りの途中にしか見られないというノゴマで、見たのは初めてだ。ちょっとテンションがあがった。

13:34 白雲岳避難小屋着(2000m)

早い時間に白雲小屋に着くことができた。この日の最大高度は2230m、最低高度は1475m、積算上昇は775m、積算下降は260mだった。1日で白雲小屋に入るルートとしては銀泉台コースが一番ラクみたいだ。

まったりとした白雲小屋の午後

テント場
白雲テント場とチシマキンレイカなどの花(17:01)
着いたときはまだテントは2張りしかなかった。早速テントを張って中に入ってくつろいでいると、15時頃に雨がぽつぽつと降ってきた。予報どおりだ。雨は降ったり止んだりを繰り返したが、大崩れするほどでもなく、夕方にはあがった。あたりはすっかりガスに覆われ、時には小屋すら見えないときもあった。寝る前に小屋の裏に行ってケータイで天気予報を確認したところ(テント場は通じないが小屋裏では通じる)、明日はあまり芳しくない。上川と十勝で予報が違うのがまた悩みどころだ。いずれにしても曇りで、晴れることはなさそうだ。
夕食は、常温保存可能なレトルトハンバーグに、旭川駅で買った「ふらのバタじゃが」を添えた。なかなかイケた。食後にカフェオレを飲もうとして大失態に気づいた。なんとマグカップを持ってくるのを忘れていたのだった。しかたないので、ごはん用のプラスチックのボウルにいれて飲んだ。これはこれでカフェオレボウルみたいで雰囲気があるし、真空じゃないので冷めるのが早くて、熱々に淹れてもすぐに飲めるようになる。と、無理やり利点を探して自分を慰めるのだった。
テントは最終的には5張りで、みんな単独か2人組で、とにかく静かだった。
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