EHP 科学セレクション 2014年5月1日発表
自閉症的行動への手がかり:
内分泌かく乱物質の役割を調べる

ケリン S. ベッツ(*)
情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection, 1 May 2014
Clues to Autistic Behaviors: Exploring the Role of Endocrine Disruptors
Environ Health Perspect; DOI:10.1289/ehp.122-A137
Kellyn S. Betts
http://ehp.niehs.nih.gov/122-a137/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年5月12日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/14_05_ehp_Clues_to_Autistic_Behaviors.html

 (*)ケリン S. ベッツは、EHP及びES&Tを含む出版のために環境汚染物質、ハザード、及び環境問題を解決するための技術について書いている。

sehp_122-a137_g001.png(35535 byte)
研究者らは、出生前の化学物質曝露が ASDsに寄与するかもしれない可能性ある経路として内分泌かく乱性を調査している。
Fetus: c Jellyfish Pictures/Science Source; trans-nonachlor molecule: c Jane Whitney
 二つの証拠が、内分泌のかく乱が自閉症スペクトラム(ASDs)のひとつの要因かもしれないということを示唆している。第一に、男性の方が女性より4倍、ASDsと診断されやすいかもしれないという観察は、ホルモンの関与を示唆している[1]。第二に、副腎、生殖腺及び甲状腺ホルモンは胎児の神経形成に重要な役割を果たし[2, 3, 4]、したがって、これらのホルモンの活動を阻害するどのような化学物質も脳の発達をかく乱する可能性がある。アメリカとカナダの研究者らのチームは、前向き出産コホート研究からのサンプルとデータを分析することにより、自閉症スペクトラム(ASDs)の原因となり得る物質として更なる研究に役立つと彼らが信じる少数の内分泌かく乱化学物質(EDCs)を特定した[5]。

 自閉症スペクトラム(ASDs)は、800以上の潜在的な遺伝的リスク要素に関連する複雑な障害一式を包含すると、カリフォルニア大学デービス校の研究・卒後教育副学部長であり、この研究には関与しなかったアイザック・ペサーは述べている。2014年3月に、疾病管理予防センターは、自閉症スペクトラム(ASDs)である子どもの数の推定を88人に1人から、68人に1人に上方修正した[6]。

 ”我々は、環境及び遺伝子が出生前に胎児に又は出生後非常に早い時期に作用して自閉症のリスクを増加または減少させるのではないかと考えている”と、ブラウン大学公衆健康部門の疫学者であり、この研究の著者のジョセフ・ブラウンは述べている。この症状に対する環境的リスク要因を特定することは重要なのに、内分泌かく乱物質(EDCs)への暴露が自閉症スペクトラム(ASDs)に果たすかもしれない役割について驚くほどわずかな研究しか行われていないと彼は述べている。

 この新たな研究は、環境の健康影響と測定(HOME)研究に参加した175人の女性のデータを分析した。この調査集団(コホート)は、2003年から2006年までの間に妊娠したオハイオ州シンシナティ市都市部に住んでいた女性からなる。女性らは妊娠中に血液と尿のサンプルを提供し、それらは52種の内分泌かく乱物質について分析された。4歳から5歳の子どもたちは、母親により、自閉症スペクトラム(ASDs)に典型的に関連する行動を評価するためのツール、対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale: SRS)を用いて評価された。

 女性の化学物質曝露は、全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)における2003年−2004年調査で報告されたレベルと同等であった。研究者らは、潜在的な交絡因子を調整した後、trans-ノナクロル及び PBDE-28 への母親の高い暴露が、対人応答性尺度(SRS)の高い平均スコアに関連していることを発見した。trans-ノナクロルは、高い残留性のある禁止されている農薬クロルデンの成分であり、PBDE-28 は 2005年以前に製造されたポリウレタンフォームを含む家具やマットレスなどの商品中の難燃剤として使用されたポリ臭化ジフェニルエーテルの一種である。

 同調査はまた、他の4つの化学物質と対人応答性尺度(SRS)の高平均スコアとの間にネガティブな関連性を発見した。これらは次の 4 物質である。有機塩素系農薬であるβ−ヘキサクロロシクロヘキサン(β-HCH);多くの産業用ポリマーとテフロンなどの製品を製造するために使用される化合物であるペルフルオロオクタン酸(PFOA);かつて数百の産業・商業用途で使用されたポリ塩化ビフェニル(PCB)の一種であるPCB-178;ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDE)のもうひとつの同族であるPBDE-85。これらの結果はいくつかの以前の研究と一貫性があるが、その他の研究とは一貫性がない。著者らはこの明白な矛盾は調査された評価項目と暴露評価のタイミングの相違の結果かも知れないと示唆している。

 ”[この新たな研究の]多種化学物質及び多種評価項目アプローチは革新的であり、我々全てが化学物質の混合に複合暴露しており、神経毒素は暴露時期に依存す異なる影響を持つかもしれないという、現実の世界を反映している”と、ハーバード大学公衆健康学部の環境健康・非常勤教授であり、この研究には関わっていないフィリップ・グランジャン博士は述べている。

 しかしグランジャン博士はまた、リンゴとオレンジ(訳注:比較できないもの)を比較することに対して警告をしている。”大きな不正確さをもって測定されたこれらの物質は、例えば、共通である短期間の変わりやすさのために、自閉症様の行動への寄与の可能性について過小評価されているようである”と、彼は説明する。一方、”残留性物質は不正確さが少なく、したがってそれらはもっと重要であるかのように誤って見える(訳注:過大評価される)こともあり得る”。

 この研究は、参加者が暴露していたであろう数千の環境化学物質のうち、わずか52種だけを測定したにもかかわらず、”避けることのできる潜在的な自閉症の環境要因についての体系的な研究であることを示しているので、重要である”とマウント・サイナイ医科大学アイカン校の予防医学部教授及び議長のフィリップ・ランドリガン博士は述べている。この研究のアプローチは、彼と他の専門家らが2012年EHPの論説で概説した自閉症及び他の神経発達障害の環境的要因を発見するための戦略に”まさしく合致している”と彼は述べている[7]。

References

1. Boyle CA, et al. Trends in the prevalence of developmental disabilities in U.S. children, 1997-2008. Pediatrics 127(6):1034-1042 (2011); http://dx.doi.org/10.1542/peds.2010-2989.

2. Auyeung B, et al. Foetal testosterone and autistic traits in 18 to 24-month-old children. Mol Autism 1(1):11 (2010); http://dx.doi.org/10.1186/2040-2392-1-11.

3. Henrichs J, et al. Maternal hypothyroxinemia and effects on cognitive functioning in childhood: how and why? Clin Endocrinol 79(2):152-162 (2013); http://dx.doi.org/10.1111/cen.12227.

4. Ronald A, et al. Prenatal maternal stress associated with ADHD and autistic traits in early childhood. Front Psychol 1:223 (2011); http://dx.doi.org/10.3389/fpsyg.2010.002?23.

5. Braun JM, et al. Gestational exposure to endocrine-disrupting chemicals and reciprocal social, repetitive, and stereotypic behaviors in 4- and 5-year-old children: the HOME Study. Environ Health Perspect 122(5):447-455 (2014); http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1307261.

6. CDC. Prevalence of autism spectrum disorder among children aged 8 years?Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network, 11 sites, United States, 2010. MMWR Surveill Summ 63(2):1?21 (2014); http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/ss6302a1.htm?s_cid=ss6302a1_w.

7. Landrigan PJ, et al. A research strategy to discover the environmental causes of autism and neurodevelopmental disabilities. Environ Health Perspect 120(7):A258-A260 (2012); http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1104285.


訳注:自閉症関連情報


化学物質問題市民研究会
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