SFGate 2011年7月5日
米大学の自閉症研究
環境的要因が遺伝子的要因より大きいという
驚くべき事実を示す


情報源:SFGate, July 5, 2011
UCSF, Stanford autism study shows surprises
By Erin Allday, Chronicle Staff Writer
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2011/07/05/MNG01K5FK7.DTL&ao=all

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年8月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/110705_SFGate_autism_study.html


【サンフランシスコ】 発達障害についての研究の焦点を劇的に揺り動かす可能性があるカリフォルニア大学(UCSF)とスタンフォード大学が発表した新たな研究によれば、環境的要因は従来想定されていたより自閉症を引き起こすもっと重要な役割を果たす。

 7月5日(月)に『Archives of General Psychiatry』に発表された研究は、カリフォルニアの192組の双子の調査と数学的モデルにより、自閉症のリスク要因は遺伝子が約38%であるのに対し、環境的要因は約62%であることを示した。

 従来の双子研究は、自閉症は遺伝特性が高く、世界中の症例の概略90%が遺伝子要因であると示唆していた。そのような状況の中で、もっと最近の自閉症研究は遺伝子をたどり、自閉症に関連する複雑な遺伝子を解明することに絞り込んでいた。

 ”我々は遺伝子要素がないと言っているのではない。全くその逆である。しかし自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)(訳注1)をもつほとんどの個人にとって、単純に遺伝的原因だけではない”とこの研究を設計したカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)ヒト遺伝子研究所のディレクター、ネイル・リッシュは述べた。

 自閉症専門医師と患者支援者らは、恐らく今後も双子や兄弟姉妹による同様な研究により引き継がれるであろうこの研究は、自閉症研究に大きな影響を及ぼすことになるであろうと述べた。

以前に信じられていたこと

 20世紀中頃の数十年間、自閉症はほとんど環境的要因、特に不十分な子育て−その多くが母親のせいであると非難された−に関連するというものであった。自閉症の発症率は1980年代と1990年代に急騰したが、現在はアメリカの子どもの1%に影響を及ぼしていると考えられており、科学者と患者支援者らは家族のせいであると非難しなくなった。

 過去10〜15年の間は、研究ははっきりした遺伝子的要素に焦点を絞り込んでいた。しかし現在、科学者らはその研究領域を広げ、自閉症発症に遺伝子と環境的影響がどのように相互作用するのかについて目を向けようとしている。

 ”我々は遺伝子が非常に大きな役割を果たすことを知っている。しかし驚くべきことは環境的要因が過少評価されてきたことである”と、この新たな双子研究に参加し資金援助をした患者支援団体 Autism Speaks の医療プログラムの副代表クララ・ラジョンシェルは述べた。

 ”家族らは現在、研究者等がよりよく説明していると考えている”とラジョンシェルは述べた。”多くの両親は遺伝子は長期的な解決であると見ている。彼等は、我々が答えを今すぐ見つけることができるようにするために、どのようにすれば研究の速度を早めることができるかを知りたいと望んでいる”。

 双子研究は、医学的障害に関する環境と遺伝子の影響を見分けるためにしばしば用いられている。一卵性双生児はほぼ100%、二卵性双生児は約50%、彼等の遺伝子を共有している。どちらの場合でも、双子の初期の発達環境−胎内及び出世以後−は非常によく似ている。

 過去10年間に行なわれたいくつかの小規模な双子研究は、双子が自閉症の診断を共有することがどのようによくあることかに目を向け、これらの研究の結果は、遺伝子を自閉症の主要原因であるとしてきた。しかしある科学者らは、これらの研究は一卵性及び二卵性の双子の間で共有される診断率の相違を認めるためには十分に大きくはないと考えた。

多様な研究

 この新たな研究は、双子に着目した研究の中で最大規模であり、最も多様なものである。研究における192組の双子のうち、54組が一卵性で、138組は二卵性であった。少なくとも各双子の一人は自閉症であり、すべての子どもは診断を確認するために研究者により、インタビューを受けた。

 もし、自閉症が完全に遺伝的疾病なら、科学者らは一卵性双生児の一人がこの病気なら、もうひとりも同じ病気であろうと予想した。また、二卵性双生児の場合には、もしひとりがこの病気なら、もうひとりは、一般の子どもたちより自閉症を発症するリスクがわずかに高いであろうと予想した。以前の研究は、双子ではない兄弟姉妹の一人が自閉症なら、他の兄弟姉妹の約5%がこの病気を発症するチャンスがあるということを示していた。

 しかし、この研究で研究者等は、一卵性双生児の約 60〜70 %の組が、ともに自閉症であるという予想より低い事実を見つけた。また二卵性双生児の場合には 20〜30%と予想よりはるかに高い発症率であった。

これらの発症率は、もし自閉症が完全に遺伝的、又は環境的に引き起こされるなら科学者らが見出すであろそれらの予想発症率とともに数学的モデルにインプットされ、その結果、研究者等は、自閉症リスクの38%だけが遺伝子に関連しているであろうと結論付けた。

 ”(二卵性)双生児の発症率は、あまりに高いので、我々はごちゃ混ぜにしたのではないかと思って、もう一度、全ての結果を入力しなおした”とスタンフォード大学精神医学部准教授でこの研究の主著者であるジョアシム・ハルマイアー博士は述べた。”このことは、要因としての環境と、共有された環境要因が今まで想定していたよりも大きな役割を果たしているという可能性に、我々の目を向けさせた”。

 何人かの科学者らは、新たな研究が初期の環境的要素、特に胎児が発達中の出生前の環境条件に向けてシフトし始めたと思うと述べた。

抗うつ剤の役割は?

 7月4日(月)の『Archives of General Psychiatry』に発表された、これらの線に沿ったひとつの研究が、母親の妊娠前及び妊娠中の抗うつ剤の使用の可能性ある役割に目を向けていた。カイザーパーマネンテ北カリフォルニアの298人の自閉症児の研究は、母親が出産前の年のある時期に抗うつ剤を服用するとこの病気のリスクが2倍に増加することを発見した。

 この研究は、抗うつ剤が実際に自閉症を引き起こすことは証明しておらず、研究者等はそのような薬を服用している女性は、妊娠中又は妊娠予定でも服用を止めるべきではないと強調した。しかし、このような研究は、特に自閉症への環境影響についての新たな情報がある中で、重要性を増していると研究者等は付け加えた。

 ”我々は、この研究にとりかかったばかりである”と、オークランドにあるカイザー研究部門自閉症研究プログラムのディレクターで抗うつ剤研究の主著者であるリサ・クロエンは述べた。”我々は、遺伝子要素に目を向け続けなくてはならないが、非遺伝子要素を見ることもまた重要であり、重要なことは両方とも一緒に見ることであろう”。

 この記事は、『サンフランシスコ・クロニクル』のA-1頁に掲載されたものである。


訳注1:自閉症スペクトラム障害
訳注:関連情報
USA TODAY 08/15/2011 Siblings of autistic children at a 20 times higher risk



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