EHP オンライン2006年6月21日
自閉症スペクトラム障害とサンフランシスコ湾岸地域の
有害大気汚染の分布との関連

ゲイル C. ウインドハム(カリフォルニ州健康サービス局環境職病疾病コントロール部門)ら

(訳注:論文の概要及び序説を翻訳、紹介)

情報源:EHP-in-Press Children's Health June 21, 2006
Autism Spectrum Disorders in Relation to Distribution of Hazardous Air Pollutants
in the San Francisco Bay Area
Gayle C. Windham1, Lixia Zhang2, Robert Gunier1, Lisa A. Croen3, Judith K. Grether1
1Division of Environmental and Occupational Disease Control,
California Department of Health Services, Richmond, CA;
2Impact Assessment Inc, La Jolla, CA;
3Kaiser Permanente Medical Care Program Division of Research, Oakland, CA
http://www.ehponline.org/docs/2006/9120/abstract.html
http://www.ehponline.org/members/2006/9120/9120.pdf Original (PDF File)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年7月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/06_06_ehp_inpress_ADS_APs_SF.html

 概要

目的:
 自閉症スペクトラム障害(ADS)(訳注1)と環境暴露との関連を調べるために、我々はカリフォルニア自閉症調査システムと米環境保護庁(EPA)により編集された有害大気汚染(HAP)推定濃度を関連付けた。

方法:
 対象は1994年にサンフランシスコ湾岸地域で生まれた384人のASDの子どもと657人のコントロールからなる。1996年のHAPsデータベースに基づく潜在的な神経系毒性物質、発達系毒性物質、及び/又は内分泌かく乱物質について、出生地域毎に暴露レベルを割り当てた。
 これらの物質の多くの濃度は互いに非常に高い関連性があるので、我々は、サマリー・インデックス・スコアーを計算しつつ、これらの化学物質を機械的及び構造的グループに統合した。我々は、これらグループ・スコアーの上位四分位又は個々の化学物質のASDリスクを人口構成要素で調整しつつ、中央値以下と比較して計算した。

結果:
 調整されたオッズ比(AOR)は、塩素系溶剤(訳注2)及び重金属の上位四分位で50%高められたが(95%信頼区間(CIs) = 1.1-2.1)、芳香族系溶剤ではそうはならなかった。これら3つのグループを調整すると溶剤ではリスクは減少し、金属では増加した(金属のオッズ比:第4四分位 1.7, 95% CI 1.0-3.0; 第3四分位 1.95, 95% CI 1.2-3.1)。これらの関連に最も寄与する個々の化合物は水銀、カドミウム、ニッケル、トリクロロエチレン、及び塩化ビニルなどであった。

結論:
 我々の結果は、自閉症と、出生地周辺の大気中の金属、及びおそらく溶剤の推定濃度と関連性があることを示唆しているが、将来の研究での確認と、さらなる精度の高い暴露評価が必要である。


 序説

 自閉症は、社会的対応障害、言語的又は非言語的コミュニケーション障害、及びその他の制限された行動によって特徴づけられる深刻な神経発達障害である。過去10年間、自閉症スペクトラム症候群(ASD)の子どもたちの数は劇的に増加しているが、実際の発生率がどの位増えているのか、そして病気の知識の普及及び診断精度の向上がどの位寄与しているのかについては、その原因は分っていないBarbaresi et al. 2005; Croen et al. 2002a, 2002b; Newschaffer et al. 2005; Yeargin-Allsopp et al. 2003)。

 自閉症は、主に胎児期の神経生物学的メカニズムの混乱の結果であると信じられており、おそらく多くの遺伝子座(gene loci)(訳注:染色体中にある遺伝子が占める位置)が関与する強い遺伝的要素を持つことが広く認められている。非遺伝子的要素もまた関与しているようであり、発生率の増加についていくらかの説明となるかもしれない。
 子宮中のサリドマイドやバルプロ酸などの薬品は自閉症の発症に関連している(Moore et al. 2000; Rodier and Hyman 1998; Stromland et al. 1994)。母親の妊娠中の喫煙もまた関連しており(Hultman et al. 2002)、胎性アルコール症候群や自閉症を持った子どもの事例も報告されている((Aronson et al. 1997)。
 神経発達を阻害することを知られている又は疑われている他の外因性暴露もまたASDの病因としての役割を演じるかもしれない。
 鉛や水銀のような重金属は、神経系発達の阻害との関連について比較的よく研究されているが(Bellinger et al. 1984; Burbacher et al. 1990; Grandjean et al. 1997; Mendola et al. 2002)、自閉症との関連を検証した研究は少ない。
 内分泌系をかく乱する化合物もまた、ひとつの役割を果たしており、特に母親の甲状腺ホルモンに影響を与えるものは胎児の脳の発達にとって重大である(Brouwer et al. 1998; London and Etzel 2000)。
 さらに母親のある溶剤への暴露は子どもの発達の遅れに関連していることが示されている(Laslo-Baker et al. 2004)。

 1990年の大気浄化法で定義されたように、有害大気汚染物質(HAPs)は、がん、神経及び発達への影響などの有害健康影響に関連している化合物である。ほとんどの場合、これらの汚染物質のモニタリング・データは限られている。したがって、米環境保護庁(U.S. EPA)は、HAPs のモデル化された年間平均濃度を持った全国版データベースを開発した(Rosenbaum et al. 1999)。
 ある金属を含むいくつかの化合物についての推定濃度は、カリフォルニア州及び連邦政府双方の慢性毒性のための健康ベースのベンチマーク濃度を越えている(Morello-Frosch et al. 2000; Woodruff et al. 1998)。

 自閉症の発生率を追跡し、症状の記述的なデータを提供するために、いくつかの州で調査が開始されている。疾病管理予防センター(CDC)によって調整されたこれらのプログラムは、自閉症発達障害研究疫学センター(CADDRE)、及び自閉症発達障害モニタリング(ADDM)で計画された(Rice et al. 2004; Yeargin-Allsopp et al. 2003)。
 サンフランシスコ湾岸地域の6つの郡で、我々は、発達障害を持つカリフォルニア住民にサービスを提供する発達サービス局(DDS)からはもちろん、臨床ソースからも特定したASD症例を確認するために、複合源調査を実施中である。

 我々は、ASD病因としての妊娠中又は生後の若年期の大気化学物質暴露の潜在的な役割を検証するために、我々の自閉症調査データをサンフランシスコ湾岸地域のHAPs データに関連付けるケース・コントロール分析を実施した。


参考資料:
訳注1:自閉症スペクトラム障害(ppt/pdf)
http://homepage3.nifty.com/aries/asd.pdf

訳注2:有機塩素系溶剤による環境汚染
http://www.env.go.jp/chemi/communication/factsheet/data/yougo/005.html



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る