EHP 2006年7月号 Focus
自閉症の起源を追う
広範な新たな研究


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 7, July 2006
Tracing the Origins of Autism: A Spectrum of New Studies
http://www.ehponline.org/members/2006/114-7/focus.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年7月15日


 医学的症状の病因論は、強烈な感情を駆り立てる対象のようには見えなかったかもしれない。最近の自閉症のように科学者や一般公衆の中で激しい情熱と対立をもって活気付いた医学的疾病は他にほとんどない。議論の熱気は、ウォール・ストリート・ジャーナル、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー、ワイヤード誌などのような医学的論争には不似合いに見える定期刊行物にすら注意をひきつけた。この熱狂は何か?

 台風の目は、自閉症スペクトラム障害(ASDs)のひとつであると診断された子どもたちの数の驚くべき増加にある。最も深刻な ASD は自閉症的障害(autistic disorder 、しばしば単純に”自閉症(autism)”と呼ばれる) であり、他にはアスペルガー症候群(Asperger syndrome)及びまれなケースとして小児期崩壊性障害(childhood disintegrative disorder)がある。『自閉症と発達障害ジャーナル』2003年8月号に掲載された報告によれば、アメリカにおける ASDs の診断は、1980年代の 10,000 人当たり 4〜5 人から 1990年代の 10,000 人当たり 30〜60 人と、10年の間に約 10 倍増大した。『罹患率と死亡率ウイークリー・レポート』2006年5月5日号は 2003年と 2004年の二つの”両親調査”について述べているが、それによれば 10,000 人当たり 55〜57 人の子どもが自閉症である。しかし、同誌編集注が、調査の特性のために ASDs 以外の子どもも自閉症児として報告されているかもしれないと指摘している。

 ある科学者らは、これらの急増の多くは ASDs の認知度が広まった結果、又は診断基準の変化の結果であると信じており、このことはこの障害の実際の発症は時間経過に対して一定であるということを示唆している。他の科学者らはその説に同意しない。”発症の増加はないと言うのは早すぎる”とコロンビア大学の神経病学・解剖学及び神経生物学の教授 W. イアン・リプキンは述べている。”今日まで、この問題に決定的に対応して設計された研究はひとつもない。”

 ASDs の増加は何がこれらの障害を引き起こすのかという基本的な疑問を提起する。もし、発症数が実際に増加しているなら、環境中の何らかの変化が全体の数を押し上げているように見える。このことが科学者らを対立する陣営に分断するひとつの理由である。彼らはこの障害の病因として遺伝子及び環境的要素の相対的な重要性にそれぞれ同意することができない。

 しかし、発症増加の疑問に答えることでこの議論が終わるわけではない。”たとえ自閉症の増加が一定であったとしても、環境的引き金の可能性を除外することはできない”−とリプキンは述べている。それは自閉症を引き起こすメカニズムについて、それらは環境的なのか遺伝的なのか、ほとんど分っていないからである。

 ”自閉症の研究は最近まで心理学の分野によって大きく支配されていたが、そこでは行動を特性化し診断のための信頼性あるツールを開発することが、過去数十年間、研究の主要な領域であった”−とカリフォルニア大学デービス校の疫学者イルバ・ヘルツ−ピチオットは述べている。

 実際、ASDs の中心的症状−社会的無関心、反復的で過度に集中する行動、コミュニケーションの問題、通常は 3歳以前に発現する−は報告書でよく記述されている。しかしこれらの症状の原因に焦点を合わせた研究は非常に少なかった。

 『精神遅延と発達障害リサーチ・レビュー』1998年春季号の報告書によれば、1970年代のいくつかの調査は、一卵性双生児は二卵性双生児に比べて、双方が ASDs である割合が高いということを示している。これらの研究は、これらの障害が強い遺伝的要素を持っていることを示す最良の証拠である。しかし、関連する、ましてや ASDs を引き起こす遺伝子の特定は確立されていない。さらに、一卵性双生児の双方発症も100%ではなく、そのことは少なくともある場合には環境的又は後天的要素が関連していることを示唆している。

 ASDs のいくつかのケースは明らかに環境的要素と関連していることを示している。これらには、風疹やインフルエンザ・ウィルスのような感染症因子とともに、サリドマイドやバルプロ酸(訳注:抗てんかん剤)などの化学的薬剤への母親の暴露がある。一卵性双生児の同時発生が100%ではないということは、遺伝的素質はトリガーとして働く化学的及び微生物学的要素を必要とするということを示唆している。

 このようなもつれた手がかりが科学者らに ASDs の研究課題を再考させることを働きかけた。ハーバード大学医学校の小児神経学者マーサ・ハーバートと彼女の同僚らは、これらの障害に重要かもしれない環境的に影響を受けやすい遺伝子を特定するためにゲノミクス(訳注)の手法を適用している。

訳注:ゲノミクス/出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


 ”自閉症の脳の中に見ることができる広範囲なな変化は、免疫系のような体の広範な変化と同時に又はそれに引き続いて起きるかもしれないということ、そしてこれらの変化は環境的なきっかけで起きているかもしれないということを認識すれば、遺伝的脆弱性についてもっと広く考える方法を探し始めることになる。それは単に脳の遺伝子だけのことではありえない”−とハーバートは述べている。

 いくつかの新しい疫学的研究もまた遺伝子−環境的相互作用を探求している。疫学者であり、米疾病管理予防センター(CDC)のいくつかの自閉症研究プロジェクトのひとつを担当しているダイアナ・シェンデルによれば、これらの CDC の取組は、子どもたちの異なるサブグループにおける障害の進展をもたらすかもしれない遺伝的及び環境的双方の原因を含んで ASDs の可能性ある原因経路を検証することができるとしている。

 これらのプロジェクトのあるものはすでに立ち上がっており、その他のプロジェクトも直ぐに始まろうとしている。この問題に関わっている科学者の全ては、皆が探している答えのいくつかを最終的に見い出すであろうと信じている。


遺伝及び環境による小児自閉症リスク(CHARGE)プロジェクト
Childhood Autism Risks from Genetics and the Environment project

 遺伝及び環境による小児自閉症リスク(CHARGE)プロジェクトは、大規模な ASD 疫学研究の中でユニークである。それは自閉症だけに特化し、感染症因子及び医学的暴露とともに、食品、消費者製品、及び大気など広範な環境的要素の調査を強調している。この研究は国立健康研究所(NIH)が資金を出している。

 CHARGE は、2歳から5歳までの自閉症児の子どもたちのグループを同年齢のコントロール・グループと比較するケース・コントロール研究である。”カリフォルニア州発達サービス局の地域センター(医療介護の世話をし、発達障害をもつ市民を支援する非営利企業)のシステムであるために、我々は、定義した地域においてある期間、自閉症であると新たに診断された子どもたちを数え上げて、高い割合であることを知る機会を得た”−と CHARGE 調査の主任研究員であるヘルツ−ピチオットは述べている。”同様に、我々は同一地域同一期間に自閉症ではない子どもたちを数え上げることができる。したがって両方のサンプルを得ることができる。”

 このプロジェクトは 1,000 人から 2,000 人の子どもたちを対象とする目標をもって、2002年に立ち上げられた。子どもたちの半分は、自閉症である。他の半分は二つのコントロール・グループを構成する。ひとつは発達遅延(しかし ASD ではない)を持つ子どもたちのグループであり、もうひとつは発達特性を考慮せずに一般集団から選択された子どもたちのグループである。

 ケース・コントロール設計の長所は、科学者らが多数の自閉症児を集めることができることである。比較としてコホート調査では、研究者らは自閉症の同じ数を収集するために、非常に大きなサイズのサンプルを必要とする。

訳注(参考資料):ケースコントロール研究 Case-control study とコホート研究 Cohort study
http://www.kdcnet.ac.jp/hepatology/technique/statistics/observe.htm

 ヘルツ−ピチオットは、最初の基金支給期間の終わりである2006年8月までに700人近くの子どもたちの登録を期待している。”私はその後の5年間の基金を申請しており、その期間で900人の登録を望んでいる。したがって1,600人の子どもたちの登録を得ることになる”−と彼女は述べている。

 CHARGE チームは胎児期及び幼児期の可能性ある暴露に目を向けている。データのあるものは両親との包括的なインタビューを通じて集められるが、ヘルツ−ピチオットはこれは暴露を探す最良の方法ではないと打ち明けた。”人々に質問すると、彼らの答えは彼らが自閉症の子どもを持っているという事実によって脚色されるかもしれない。彼らは、自分たちがしたことや、何か悪いことをしたのではないかということについて考えるのに多くの時間を費やし、自閉症をもたらした原因について先入観を持つかもしれない。彼らが目標ではない”−と彼女は述べている。そのような診断後のインタビュー情報の問題点は”さかのぼり研究(retrospective studies)”の弱点として認識されている。

 科学者らは、それぞれの子どもの医療記録と彼らの母親の妊娠中及び出産の記録−日常的な出産介護の過程で収集された非主観的なデータ−を検証することによってこの問題の回避している。彼らはまた、ラボで分析される血液、尿、及び毛髪サンプルを収集している。
 この研究はすでにいくつかの興味ある手がかりを提供した。”我々は、自閉症では免疫系はより低いレベルで機能するように見えることを発見している”−とヘルツ−ピチオットは述べている。”それは重要な手がかりである。それは自閉症を引き起こすものはどのようなものでも免疫系をもかく乱するということを意味する、又は、免疫系は妊娠中又は出生後初期に神経の発達を阻害しその結果、脳の回路を狂わせることがあり得ることを意味する。”CHARGE 研究についての詳細は、本号1119ページを参照のこと。


自閉症出生コホート調査(ABC)
Autism Birth Cohort Study

 現在、ノルウェーで実施中の自閉症出生コホート(ABC)調査は、100,000 人の赤ちゃんに関する情報を収集することを目指す大規模な前向き(prospective)設計である。この作業はコロンビア大学公衆健康メイルマン校の科学者らによって指導されているが、彼らは、アメリカ国立神経障害脳卒中研究所から資金を得ているノルウェー公衆健康研究所の仲間たちと提携している。

 ”ある集団において、ある人々が他の人々に比べてリスクが大きいかどうかを知るためには、コホート調査を用いることが最良の答えである”−とコロンビア大学の疫学者であり ABC プロジェクトの共同研究員であるエズラ・サッサーは述べている。”我々が ASDs の環境的要素について考えるとき、我々は出生前、又はおそらく出生後の間もない期間に起きる現象に多分関心を持つ。そこで妊娠中のできるだけ早い時期から人々の前向き(prospective)データを収集したくなる。”サッサーによれば、ASDs は一般的ではないので、この調査が十分な統計的な力を持つためには多くの数の子どもたちを必要とする。

 現在までに ABC チームは75,000 人の妊娠したノルウェーの母親を登録したが、サッサーはもっと多くを希望している。”我々は環境的リスク要素を求めるために十分な数を確保したが、その成果が重要なものとなる遺伝子−環境の相互作用を調査するためには、もっと多くの数が必要である”−と彼は述べている。同チームが他の研究と連携することでもっと多くの数を収集することは可能である。連携先のひとつの候補はイギリスの”エイボン両親子ども長期研究”であり、それは、環境的特徴が子どもの最適な発達と健康に関連するかもしれない複雑な経路に目を向けている。しかしまだ合意には達していないとサッサーは述べている。



 たとえ状況がそうであっても、ABC プロジェクトの科学者らは彼らの研究について楽観的である。”ASDs の自然の歴史についてはわずかしか知られていない”−とこのプロジェクトの主任研究者であるリプキンは述べている。”胎児期から始めることで、我々はバイアスのかからないやり方で環境的暴露についての詳細で重要な情報を収集している。”

 科学者らはまた、血漿、血清、RNA,、DNA も収集している。”我々は驚くほどの生物学的材料を持っている。我々は有害物質や感染症因子への暴露とともに、バイオマーカーを追跡することができる。我々はまた、母親の DNA、父親の DNA、そして子どもの DNA(いわゆるトリオ・データ)を持っている。したがって我々は新たな突然変異の発現を見つけることができる”−と彼は付け加えている。

 ABC プロジェクト研究者らは時間経過とともに子どもたちを追跡し、両親からは彼らの子どもの 6、18,、36月齢ごとに、健康と社会的相互作用についての質問票への回答を得ることになっている。”この発達の軌跡は、ASDs の病因について我々がかつて単一のある時点から得ていたより多くのものを提供するであろう”−とこのプロジェクトに参加するコロンビア大学の医学者マディ・ホーニグは述べている。

 このプロジェクトの可能性を求める強い熱意にもかかわらず、ABC プロジェクトの科学者らは、資金さえあれば、もっと多くのことを達成できると感じている。”残念なことは我々はこの生物学的研究をするための資金がないことである”−とリプキンは述べている。”我々はサンプルを収集し、質問をすることはできるが、環境的要因を探し出すための資金を得ることはできなかった。我々は血液を集めているが、バイオマーカー分析をするまではバイオマーカーがあるのかどうか分らない。我々は RNA を収集する資金は得たが、転写プロファイリングを行うために、我々はサンプル当たり約400ドル必要とする”−と彼は述べている。

 リプキンは、質問票での調査のための資金があるだけだと付け加えて、”我々は感染症、食餌についても要求したが、それは、何が報告されたかを確認することができるラボ評価を持つ研究や、結果との直接的関連性を見る研究と同一ではない”−と彼は述べている。

 リプキンは、問題の一部は環境的要素を探求することは ASDs における現在の研究パラダイムに反するからであると信じている。”焦点は遺伝的要素に注がれている”−と彼は述べている。”感染症、毒物学、及び免疫学は軽んじられている。我々は胎児期及び出生後の調査をするための理想的なサンプルを持っているので、ABC プロジェクトは明らかにこれら他の手がかりを追求するために適切な機会である”−と彼は述べている。

 科学者らは今、36ヶ月質問票に対する回答を受けているところである。”我々が最初の報告書を出すのにさらに2年かかるであろう”−とホーニグは述べている。ホーニグによれば、基金は現在、36ヶ月の子どもたちを調査するために充てられているが、同チームは生涯を通じて追跡したいと望んでいる。


自閉症発達障害研究疫学センター(CADDRE)
Centers for Autism and Developmental Disabilities Research and Epidemiology (CADDRE)

 2000年の子ども健康法に対応して、米疾病管理予防センター(CDC)は、ASDs の潜在的なリスク要素を調査するために、6か所に自閉症発達障害研究疫学センター(CADDRE)を設立し、資金を出した。疫学者でありジョーンズホプキンス大学ブルームバーグ校公衆健康 CADDRE サイトの主任研究者であるクレイグ・ニューシャッファーによれば、多数ヶ所アプローチは、より小さな地域的調査に比べて、一般アメリカ人の人口集団を地理学的及び人口統計学的により適切に代表する。

 ニューシャッファーによれば、CADDRE サイトは、ASD 症例の暴露パターンを同じ地理学的地域に住む子どもたちの任意サンプルと比較するケース・コホート設計(case cohort design)を用いるであろう。ASD ではない神経発達系障害児からなる第三の調査グループはサンプル集団を完全なものにするであろう。研究担当者らは、CADDRE を、この種の調査としてはアメリカで最大規模のものとするために、全サイトを通じてそれぞれの調査グループで合計650〜900人の3歳から5歳までの幼児が参加登録することを希望している。

 CADDRE は、広範な潜在的なリスク要素を調査するために、子どもたちの血液、頬の細胞、及び毛髪サンプルを収集し、保存する。”我々は、CHARGE ほどには環境に焦点を合わせていない”−とニューシャッファーは述べている。”しかし、我々は質問票に関するデータを収集しており、暴露のバイオサンプリングに加えて、暴露に関する医療記録をレビューしている。”

 科学者らは、遺伝子−環境相互作用を見るために十分なサンプル数を持つべきである。”我々は各グループの両親及び子どもたちの DNA を収集している。我々は3つのグループのそれぞれについて強力なデザインとしてトリオ・データを持つであろう”−とニューシャッファーは述べている。

 CADDRE の科学者らはまた、随伴症状と異常な身体的特徴について述べるとともに、子どもたちの行動を特性化している。目標は自閉症スペクトラム内の異なる病因サブグループを分類することである。ニューシャッファーが説明するように、”我々が遺伝的及び非遺伝的リスク要素の答えを見つけ出すのになぜ苦労しているのかについては多くの理由がある。それらのひとつは自閉症が、子どもを類似の表現型(phenotypic)プロファイルを持つように見えるようにする異なる病因を持つ異質の症状のようであるということである。もし異なる病因グループを分離しなければ、遺伝子又は暴露との関連を見つけ出すことは非常に難しい。もし、我々が確実なプロファイルを持った子どもたちだけに分析を限定すれば、どのようなプロファイルがリスク要素の出現を許すかについて詳しい情報に基づく推測をすることを可能にする”−と彼は述べている。CADDRE サイトは2006年秋にこの調査に参加する子どもたちの募集を開始する。


もっと多くの研究、もっと多くの”頭文字”研究
More Studies, More Acronyms

 もっと規模の小さないくつかの疫学的調査がある。カリフォルニアでは科学者らが、妊娠中の母親及び出生時の子どもから採取した血液を保存している試料保存バンクをうまく利用している。”自閉症のための早期マーカー(Early Markers for Autism (EMA))”調査が、約100人の ASD(主要な自閉症)の子ども、100人の発達遅延の子ども、そして200人の一般母集団からの子どもについてケース・コントロール設計を採用している。”我々は母親と子どもたちに起きていることを関連付けることができる。それは実際興奮させられることだ”−と周産期疫学者で、カリフォルニアのカイザー・パーマネンテ社研究部門のプロジェクト主任研究者のリサ・クロエンは述べている。

 クロエンによれば、EMA は、疫学者、遺伝子学者、免疫学者、神経生物学者、及び内分泌学者による複合分野連携プロジェクトである。”自閉症は非常に複雑なので、これらの研究者全てがお互いに情報交換することが重要である。私は EMA は自閉症をどのように研究するかのひとつのモデルであると考えている”−と彼女は述べている。クロエンによれば、EMAは、妊娠期間中及び出産時における ASDs の非常に早い進展の生物学的マーカーを探している点でユニークである。”このことは自閉症になったための結果としてのメカニズムではなく自閉症をもたらすかもしれないメカニズムに我々は焦点を合わせることができる”−と彼女は述べている。

 EMA の科学者らは、ASDs の免疫調節不全仮説に焦点を合わせつつ、遺伝的及び非遺伝的要素を調査している。”我々は、イムノグロブリン(immunoglobulin)レベルと特定の感染症因子、シトキン(訳注:リンパ球やその他の細胞から分泌される活性液性因子; 生体の防御機構全体に作用し抗腫瘍効果を発揮する)、及び自己抗体(訳注:同一個体内の抗原に反応してつくられる)を含む、異なる種類の免疫マーカーを測定している”−とクロエンは述べている。”我々は、自閉症ではない子どもたちと自閉症であると診断される子どもたちを区別する方法を探している。それは、自閉症の発病原因−発達における調節不全をもたらすメカニズムを我々が理解するのに役に立つ。”

 EMA のプロジェクト期間3年のうち、現在は最後の年である。”我々は分析すべき多くのことを持っている。”−とクロエンは述べている。”しかし、我々は、いくつかの論文を書き始めたところである。我々は、母親が妊娠中に採取された循環血液中で測定されたあるたんぱく質のレベルが子どもたちの間で異なることを発見した。私はこの調査は我々の生物学の理解に対して大きく寄与すると考えている。”

 クロエンはまた、”カリフォルニア自閉症双生児調査(California Autism Twin Study (CATS))”の研究者でもあるが、この調査は1987年から1999年の間に生まれた一卵性及び二卵性の双子で、少なくとも片方が ASD である子どもたちを少なくとも300人募集することを期待している。双生児を比較することは科学者らが ASDs の遺伝性、すなわち関連する遺伝子とこの障害に対する環境的寄与を推定することを可能にする。”双生児の行動及び発達の相違を知ることは遺伝子発現、子宮内環境、及び環境的トリガーを我々が理解する上で役に立つ”−とクロエンは述べている。



 ヘルツ・ピチオットはまた、彼女と彼女の同僚が直ぐに開始したいとしている 5ヶ年調査について興奮している。 CHARGE とは違って、新たな取組である ”赤ちゃんの自閉症リスクのためのマーカー/早期の兆候を知る(Markers for Autism Risk in Babies - Learning Early Signs(MARBLES))”は、子どもたちが診断される前にデータが収集される前向き(prospective)調査である。すでに自閉症の子どもを少なくとも一人持つ妊娠女性は妊娠の初期に登録される。母親は、彼女らの症状と健康関連の出来事について日記に記録し、研究者らは臍帯血サンプルと胎盤を収集する。

 以前の研究に基づき、ヘルツ・ピチオットは自閉症を持つ兄姉(きょうだい)10人に対し 1人は自閉症を持ち、そしておそらく 4 人 又は 5 人に 1 人は自閉症関連であるが、アスペルガー症候群のように軽度の症状を持った”オン・スペクトラム”、又は言葉遅れ、及び社会的対応障害のような広範な行動表現型の症状を持つことを予期している。”この取組は、ケース・コントロール アプローチを補完するものであり、我々が CHARGE で発見することの上に構築するであろう多くの情報を我々に提供するであろう。それは驚異的なリソースである”−と彼女は述べている。


大変革を望むと言う
You Say You Want a Revolution


 2004年4月に、アメリカ健康福祉省(DHHS)は、省庁間自閉症調整委員会(IACC)によって召集された専門家委員会によってなされた勧告を記述した『自閉症研究の状況に関する上院歳出委員会報告書 Congressional Appropriations Committee Report on the State of Autism Research』を発表した。IACC 委員会は、ASDs の遺伝的及び非遺伝的原因のとそれらの相互作用を7〜10年の期間内に特定するとともに、環境的リスク要素とそれらに関連する発達的ウィンドウを4〜6年の期間内に特定することを含む野心的な議題を提案した。

 IACC 委員会のメンバーであるヘルツ・ピチオットは、これらの目標は話半分に聞くべきだと考えている。”私は、2008年〜2010年の間にいくつかの環境的リスク要素を特定し、いくつかの他のものを除外することについて楽観的であるが、しかし決して最終的なものではない。遺伝子と遺伝子−環境相互作用はもっと手ごわい。残念ながら、自閉症に対する環境的寄与に関して取り組んでいるグループは十分であるとは見えないので、見積もられているよりもっと遅くなるかもしれない”−と彼女は述べている。

 自閉症児の両親の団体である”セイフマインド(SafeMinds)”の副代表であるマーク・ブラキシルもまた、環境的リスク要素は十分な扱いを受けていないと信じている。”疾病管理予防センター(CDC)は自閉症危機に対して責任ある対応をしていない”−と彼は述べている。”彼らは警告を発すべきなのにそれをしなかった。彼らはなぜそのように多くの子どもたちが病気になるのかを問うべきであった。それなのに、彼らは自閉症の増大についてある程度の疑いを示唆しようと試み、また、環境的原因から注意と資金を逸らそうとしている。”

訳注(参考資料):セイフマインド報告書
SafeMinds' Report Shows CDC Ignored Autism-Mercury Data

 CDCのシェンデルはこれに反論して、”以前に比べてより多くの子どもたちが ASD であると分類されるようになっている。我々は共通の発達障害、特 にASDs を緊急の公衆健康の懸念として取り扱うことが重要である。この公衆健康の懸念に対応する CDC の取組は、ASD の傾向を理解するための ASD 監視プログラムへの資金手当て、ASDs の遺伝子と環境的要因についての研究への資金手当て、及び発達障害を持つ全ての子どものための早期の特定とタイムリーな対応を推進するための教育と援助プログラムを含んでいる。”−と述べている。

 新たな疫学的研究の約束にも関わらず、ある研究者らは、ある科学者が表現したように失望している。すなわち、”遺伝学者らがショーを取り仕切っており、環境的側面を無視している。状況を変えるためには何が必要なのか?” ブラキシルは哲学者トーマス・クーの考えを引用している。彼は科学的大変革は古いパラダイムが新しいパラダイムによって置き換えられたときに起きると示唆している。”我々は今、パラダイムシフトの途中にいると私は信じている”−とブラキシルは述べている。”自閉症発症の劇的な爆発は遺伝子モデルでは説明できない。それは古いパラダイムを葬る異常な出来事である。”

ミカエル・ズピール(Michael Szpir)



化学物質問題市民研究会
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