PEDIATRICS(小児科学) 2006年7月号
モントリオールの広汎性発達障害
有病率と予防接種との関連

エリック・フォンボン (マクギル大学精神医学部、モントリオール小児科病院/カナダ)ら
(アブストラクトの紹介)
情報源:PEDIATRICS Vol. 118 No. 1 July 2006
Pervasive Developmental Disorders in Montreal, Quebec, Canada:
Prevalence and Links With Immunizations
http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/118/1/e139
Eric Fombonne, MDa, Rita Zakarian, MEda, Andrew Bennett, PhD, CPsychb,
Linyan Meng, MSca and Diane McLean-Heywood, MAb
a Department of Psychiatry, McGill University,
Montreal Children's Hospital, Montreal, Quebec, Canada
b Lester B. Pearson School Board, Montreal, Quebec, Canada


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年7月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/pediatrics/06_07_ped_PDD_Canada.html

参考資料:モントリオール研究報告に対する関連記事2編紹介

自閉症と水銀を含むワクチンとの関連は見いだされなかった−新たな研究が報告
 Bloomberg.com July 5, 2006
セイフマインド プレスリリース2006年7月5日
 エリック・フォンボン博士の自閉症研究は不正確で不完全 セイフマインドは誤報を正すことを目指す



アブストラクト
背景
 広汎性発達障害(prevalence of pervasive developmental disorders 訳注1:)の有病率は近年増加している。麻疹・、流行性耳下腺炎・風疹ワクチン(訳注2:MMR ワクチン)の麻疹成分と他のワクチンによるチメロサール(訳注3)への累積暴露との関係は自明なこととして仮定された。

訳注1:
広汎性発達障害/出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2:MMR ワクチン(measles-mumps-rubella vaccine)
新三種混合ワクチン/出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注3:
チメロサールとワクチンについて/横浜市衛生研究所感染症・疫学情報課

目的
 この研究の目的は、カナダ、モントリオールにおける1987年から1998年の間に生まれたコホートでの広汎性発達障害の有病率を見積もり、広汎性発達障害発症の傾向と下記項目との関連性を評価することであった。 (1)小さな子どもの予防接種スケジュールの変更により生じているエチル水銀(チメロサール)への累積暴露の変化
(2)麻疹・流行性耳下腺炎・風疹(measles-mumps-rubella)ワクチン(MMR ワクチン)の使用の傾向と調査期間中の MMR ワクチンの 2回接種スケジュールの導入

方法  我々は、最も大きい英語使用学区の55校から参加した1987年から1998年までに生まれた27,749人の子どもたちを調査した。広汎性発達障害を持った子どもたちは特別養護チームによって特定された。
 2歳までのチメロサールへの累積暴露は、1987年〜1998年出生コホートに対し計算された。エチル水銀暴露は1987年〜1991年までの中位(100〜125μg)から1992年〜1995年までの高位(200〜225μg)、そしてチメロサールが完全に廃止された1996年以降のゼロの範囲にあった。
 各出生コホートのMMRワクチン接種範囲は予防接種実施率の調査によって推定された。予防接種スケジュールは、1995年までの12月齢における1回のMMR接種、及び1996年以降の18月齢における2回目のMMR接種であった。

結果
 我々は、調査に参加した学校において広汎性発達障害を持った180人の子ども(男児が82.8%)を発見したが、これは広汎性発達障害の有病率として10,000人当たり64.9人になる。広汎性発達障害の有病率の内訳は、自閉症が10,000人当たり21.6人、他に分類されない広汎性発達障害が10,000人当たり32.8人、アスペルガー症候群が10,000人当たり10.1人であった。調査期間中、広汎性発達障害の有病率は統計的に有意な線形増加を示した。
 広汎性発達障害の有病率について、チメロサール・フリーの出生コホートは、チメロサール暴露コホートに比べて有意高かった(10,000人当たり82.7人と10,000人当たり59.5人)。
 有病率データのロジスティック回帰モデルを使用して、連続変数又はカテゴリカル変数のどちらかとして用いられたチメロサール暴露の有意な影響は見いだされなかった。したがって、チメロサール暴露は広汎性発達障害の有病率の増加とは無関係であった。
 データの生態学的特性に起因する可能性がある限界に対応するために、及び暴露又は診断に関する分類の誤りの潜在的な影響を評価するために、追加的な分析が実施されたが、これらの結果は揺るぎなかった。
 MMRワクチンの接種率は調査期間中平均93%であり、年長出生コホート(1988〜1989年)の96.1%から若い出生コホート(1996年〜1998年)の92.4%まで統計的に有意な減少傾向が見られた。このように広汎性発達障害の有病率は、MMRワクチン接種率が有意に減少した時に、有意に増加した。
 さらに、広汎性発達障害の有病率は、1996年に導入された第2回MMR接種の前後で同じ率で上昇し、2歳以前のMMRの2回接種スケジュールに関連する汎性発達障害のリスクの増大はないことが示唆された。
 暴露又は診断に関する分類の誤りの潜在的な影響をテストするために追加分析が実施されたが、結果は真であった。このように、広汎性発達障害の有病率と1回又は2回のMMR接種スケジュールとの間には関連が見いだされなかった。

結論
 モントリオールの広汎性発達障害の有病率は高く、ほとんどの国で見いだされるように最近の出生コホートでは増加していた。増加の原因要素には、診断の概念と基準の拡大、障害についての認知の普及 、したがって共同体及び疫学的調査における広汎性発達障害をもった子どもたちの特定が増えたこと、及び医療サービスが受けやすくなったことが挙げられる。
 研究結果は、広汎性発達障害と、1990年代にアメリカで経験されているものと同等な高いレベルのエチル水銀暴露、及び1回又は2回MMRワクチン接種のどちらとの関連も除外した。


キーワード:学齢期児童(chool-aged child)、自閉症(autism)、アスペルガー症候群(Asperger syndrome)、小児期崩壊性障害(childhood disintegrative disorder)、広汎性発達障害(pervasive developmental disorder)、有病率(prevalence)、疫学(epidemiology)、予防接種(immunization)、チメロサール(thimerosal)、エチル水銀(ethylmercury)、麻疹ワクチン(measles vaccine)、MMR(MMR)
Abbreviations: PDD-pervasive developmental disorder, PDDNOS-pervasive developmental disorder not otherwise specified, CDD-childhood disintegrative disorder, MMR-measles-mumps-rubella, LBPSB-Lester B. Pearson School Board, MEQ-Ministry of Education of Quebec, DSM-IV-Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-Fourth Edition, Hib-Haemophilus influenzae type b, CI-confidence interval,OR-odds ratio, df-degrees of freedom


訳注(参考資料):モントリオール研究報告に対する関連記事紹介(1)
自閉症と水銀を含むワクチンとの関連は見いだされなかった−新たな研究が報告
 Bloomberg.com July 5, 2006
 http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=anUke37oUgqY&refer=us

以下は Bloomberg.com 2006年7月5日の記事を要約したものです。
  • 新たな研究によれば、モントリオールにおける学齢児童の自閉症の有病率は、水銀を含まないワクチンの導入の後にも衰えていない。

  • 研究者らはある予防接種に使用された水銀が自閉症を引き起こすという説をテストした。北アメリカでは1000人中3人〜6人の子どもたちが自閉症であると言われている。

  • 幼児期に接種された学齢児童の自閉症は、調査期間の最後の2年間に保存用エチル水銀が除去されたにもかかわらず線形的に増加しているとし、もし水銀が自閉症にある役割を果たしているなら、その診断数は変動するはずである−とモントリオール子ども病院の小児精神医学ディレクターであり、この研究を率いたエリック・フォンボンは述べた。

  • 2004年5月に発表された米国の医学協議会(Institution Of Medicine : IOM)の予防接種安全性検討委員会の報告書は、以前の報告書を検討した結果、自閉症とチメロサールを含むワクチンとを関連付ける証拠はないとしている。
     訳注: Immunization Safety Review / Institute of Medicine

  • 米疾病管理予防センター(CDC)によれば、アメリカではいくつかのインフルエンザ・ワクチンを除いて予防接種は行われていない。チメロサールはすでに使用されていない。

  • 自閉症の診断が毎年増えているのは、自閉症の定義の変化、自閉症の認知の普及、患者のサービス施設の増加のためであるとフォンボンは述べた。

  • フォンボンは、アメリカで予防接種の保存剤チメロサールからの水銀が自閉症を引き起こしたとして訴訟を受けているワクチン製造会社のために専門家証人として活動しているが、今回の研究には産業側からの資金援助はない。


訳注(参考資料):モントリオール研究報告に対する関連記事紹介(2)
■セイフマインド プレスリリース2006年7月5日
 エリック・フォンボン博士による自閉症研究は不正確で不完全
 セイフマインドは誤報を正すことを目指す
(当研究会訳)
 SafeMinds Press Release July 5, 2006
 http://www.safeminds.org/pressroom/pres_releases/Fombonne-6-30-06.pdf

 アメリカ小児科学界の公式ジャーナルである『Pediatrics(小児科学)』2006年7月号に掲載されるケベック研究報告は、ワクチン中の水銀ベースのチメロサールと自閉症の発症は関係がないことは非常に明確であると述べている。マクギル大学健康センターのエリック・フォンボン博士の意見は、彼らのカナダ、ケベック州の学齢児童の調査に基づいている。しかしセイフマインドの分析によれば、その研究手法は不適切であり、多くの理由で懐疑的である。

 この調査は、モントリオール学区の27,749人の学童を調べ、187人の自閉症児を特定した。これらの症例のほとんどの子どもたち(90%以上)は、チメロサール・ワクチンがアメリカと同じくケベック州でも幼児に広く使用されていた年代に生まれている。自閉症児のわずかな一部だけがチメロサール・フリーのDTP 及び Hib ワクチンが投与された時に生まれており、これらの子どもたちは、モントリオールで人口の4分の1以上を占める外国生まれの両親を持つ幼児のために新たに勧告された B 型肝炎ワクチンのチメロサールに暴露していたかもしれない。

 フォンボン博士は、アメリカ、イギリス、及びデンマークでの大規模調査もまた水銀と自閉症の関係を否定していると不当に主張し、”自閉症の広がりはない(no autism epidemic)”と述べている。彼は、水銀のような環境要素がアメリカやその他の諸国における自閉症の増加を引き起こしているかもしれないということを示す多くの科学的証拠を都合よく無視している。

 フォンボン博士の行ってきた行動は自閉症児を持つ家族にとって利益になるものではなかった。彼はチメロサール関連訴訟において様々な製薬会社のために専門家証人として証言してきた。

 チメロサールは、吸入、接種、皮膚を通じて有害な有毒物質である。さらにチメロサール含有ワクチンは、神経に有害な結果をもたらすと知られているレベルにまで体内の水銀レベルを高める。どのような小児科医でも我々の子どもたちに水銀を注射することを正当化するのは無責任である。

 全ての自閉症スペクトラム障害(ASDs)の有病率は過去20年間に166人の子どものうち1人までに上昇している。いくつかの独立系連邦政府機関や尊敬されている科学者と研究者らは、自閉症の発生及び水銀とASDsの間にありそうな生物学的関係を調査するために連邦政府の資金を得ている。多くの研究が小児期のチメロサール含有ワクチン接種と自閉症との間に関連があることを示している。水銀と自閉症の間の関連を否定する結論はなされていない。

 セイフマインド(SafeMinds)連合(Sensible Action For Ending Mercury-Induced Neurological Disorders/水銀誘導神経障害を終わらせるための思慮ある行動)は、ワクチン中のチメロサールを含んで医療品からの水銀暴露による幼児と子どものリスクをを調査し認識を普及するために設立さた非営利団体である。セイフマインドはフォンボン博士のケベック調査のような決定的でない研究に挑戦し、このパズルの欠落を埋めるための研究と教育を推進する。

 セイフマインド及び水銀暴露の有害な影響に関する詳細については下記ウェブサイトを参照下さい。
 http://www.safeminds.org
 http://www.cleanair.org/Air/mercury.html



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