EHP 2014年9月 サイエンス・セレクション
大気汚染暴露で自閉症?
吸入される超微粒子とマウスの脳の変化


情報源:Environmental Health Perspectives,
September 2014, VOLUME 122, ISSUE 9
Science Selections
Echoes of Autism? Inhaled Ultrafine Particles and Brain Changes in Mice
by Carol Potera
http://ehp.niehs.nih.gov/122-A250/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年9月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehp/
14_09_ehp_Autism_ultrafine_particles_and_brain_changes_in_mice.html


 疫学的証拠が大気汚染への暴露が自閉症スペクトラム障害(ASDs)(参照1, 2, 3)及び統合失調症(参照4)のリスク要素になり得るという可能性を提起している。例えば、カリフォルニアに住む子どもたちについての最近の研究のひとつは、妊娠中及び生後1年の間に交通に関連する最も高いレベルの大気汚染に暴露した子どもたちは、最も低いレベルの汚染に暴露した子どもたちより 2 倍多く、ASDs を発症するらしいことを報告した(参照2)。EHPの本号では、研究者らが、このような発見について説明することが可能な実験室レベルの研究成果を発表している(参照5)。

正常及び脳室拡大を示す
マウスの脳の断面
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生後14日のコントロール(A)及び暴露(B)マウスの側脳室の画像は、粒子状物質(大気濃縮粒子(CAPs))に暴露した結果の脳室拡大を示す。
Image: Allen et al. (2014)(参照5

 ロチェスター大学医学センター(URMC)のデボラ・コリースレヒタに率いられたチームは、生後早い時期に超微粒子に暴露すると、ヒトの ASDs と統合失調症を暗示する脳の変化をマウスに引き起こすことを発見した(参照5)。とりわけ、暴露したオスのマウスの脳は、脳室拡大と呼ばれる側脳室(lateral ventricles)が拡大した状態を示した。ヒトの脳室拡大は ASDs (参照6)や統合失調症(参照7)を含む行動を結果としてもたらすので、それは警戒すべき事態であると、コリースレヒタは述べている。

 研究者らは、大都市の交通混雑時に匹敵する濃度の超微粒子(径100 nm 以下)にマウスを暴露させた。出生後4-7日及び11-13日に1日当たり4時間暴露させた。マウスの生命の最初の2週間はヒトの妊娠第三期にあたり、したがって脳の発達に非常に重要な時期であると、コリースレヒタは述べている。

 ひとつのマウスのグループは暴露後24時間に検査が行われた。メスの脳は、炎症の証拠を示し、オスの 側脳室(lateral ventricles)は、正常のものより2〜3倍大きかった。これらの変化は、出生後55日(マウスの思春期)に検査されたメスに、また生後270日(成獣後期)に検査されたオスに残っており、このことは脳の永久的な損傷を示唆している(参照5)。

 ”我々は、超微粒子が脳に対して明らかに有毒であるとは考えていなかった。今、その可能性について検討すべき時である”と、ロチェスター大学医学センター(URMC)の研究准教授である第一著者のジョシュア・アレンは述べている。他のマウス研究では、URMC チームは超微粒子の吸入はまた、神経発達を損なうことを示しつつ、行動(参照8)と記憶(参照9)の変化に関連していたことを報告していた。

 アメリカでは、8歳児の ASDs の推測される発症は、少年42人に1人、少女では189人に1人である(参照10)。著者らによれば、幼年期初期における超微粒子への早期の暴露は、ASDs のリスク要素となる。しかし重要なことは、この発見は示唆的ではあるが、大気汚染がっ人々に ASDs を引き起こすというこれらの結果から結論を出すのは早すぎる。

 この新たな結果が提供するものは、超微粒子の発達中の神経系への潜在的な影響に関する新しい情報であると、シアトルにあるワシントン大学の毒性学教授であり、この研究には関わっていないルシオ・コスタは述べている。  彼らはまた、大気汚染への暴露と神経発達の異常との間の因果関係を示唆する証拠に彼らの発見を付け加えることになる。”この分野の研究は、そのような関連を厳密に調べ、根底にあるメカニズムを定義するために、更なる研究が必要であることを正当とする”と、コスタは述べている。

参照
1. Volk HE, et al. Residential proximity to freeways and autism in the CHARGE Study. Environ Health Perspect 119(6):873 - 877 (2011); doi: 10.1289/ehp.1002835.

2. Volk HE, et al. Traffic-related air pollution, particulate matter, and autism. JAMA Psychiatry 70(1):71 - 77 (2013); doi: 10.1001/jamapsychiatry.2013.266.

3. Becerra TA, et al. Ambient air pollution and autism in Los Angeles County, California. Environ Health Perspect 121(3):380 - 386 (2013); doi: 10.1289/ehp.1205827.

4. Pedersen CB, et al. Air pollution from traffic and schizophrenia risk. Schizophr Res 66(1):83 - 85 (2004); doi: 10.1016/S0920-9964(03)00062-8.

5. Allen JL, et al. Early postnatal exposure to ultrafine particulate matter air pollution: persistent ventriculomegaly, neurochemical disruption, and glial activation preferentially in male mice. Environ Health Perspect 122(9):939 - 945 (2014); doi: 10.1289/ehp.1307984.

6. Movsas TZ, et al. Autism spectrum disorder is associated with ventricular enlargement in a low birth weight population. J Pediatr 163(1):73 - 78 (2013); doi: 10.1016/j.jpeds.2012.12.084.

7. Wright IC, et al. Meta-analysis of regional brain volumes in schizophrenia. Am J Psychiatry 157(1):16 - 25 (2000); http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10618008.

8. Allen JL, et al. Developmental exposure to concentrated ambient particles and preference for immediate reward in mice. Environ Health Perspect 121(1):32 - 38 (2013); doi: 10.1289/ehp.1205505.

9. Allen JL, et al. Developmental exposure to concentrated ambient ultrafine particulate air pollution in mice results in persistent and sex-dependent behavioral neurotoxicity and glial activation. Toxicol Sci 140(1):160?178 (2014); doi: 10.1093/toxsci/kfu059.

10. Baio J, et al. Prevalence of autism spectrum disorder among children aged 8 years?autism and developmental disabilities monitoring network, 11 sites, United States, 2010. MMWR Surveill Summ 63(2):1?21 (2014); http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/ss6302a1.htm.


訳注:自閉症関連情報


化学物質問題市民研究会
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