EHN 2009年1月9日
自閉症の流行 診断基準の変化のためではない
多分、環境的要因による

マーラ・コーン EHN 編集主幹

情報源:Environmental Health News, Jan 9, 2009
Autism epidemic not caused by shifts in diagnoses; environmental factors likely
By Marla Cone, Editor in Chief Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/autism-and-environment

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年1月15日
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"http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090109_autism_epidemic.html


 カリフォルニア州の自閉症が7倍増加した理由は、医師の診断基準が変化したためではなく、環境的暴露のためであるように最も見えるとカリフォルニア大学の科学者らは1月8日に報告した。

 新たな研究を発表した科学者らは、赤ちゃんや胎児が暴露する農薬、ウイルス、家庭用品中の化学物質などの環境中の潜在的な要因に目を向けるよう自閉症研究の全国的な転換を提唱している。

 いまや、”カルフォルニアの自閉症の著しい増加を引き起こしている犯人を探し始めるべき時である”と、この研究を率いたカリフォルニア大学デービス校疫学教授イルバ・ヘルツピッチオットは述べた。

 過去15年間、全米で自閉症の子どもの数が劇的に増加している。自閉症の子どもは社会と情報を交換し相互に反応し合うことに障害があり、その症状は通常子どもの幼児期に明白となる。

 カリフォルニアでは1990年には205症例であった自閉症が、2006年には3,000以上の新たな症例が報告された。ジャーナル『 Epidemiology(疫学)』に発表されたこの研究によれば、1990年には同州で生まれた子どもについて1万人当たり6.2人が5歳までに自閉症と診断されたが、2001年には1万人当たり42.5人となった。それ以来、その数は増加し続けている。

 原因を明確にするために、科学者らはひとつの神秘を解き明かさなくてはならない:環境中の何が変わって、1990年代初頭以来、自閉症のそのような急激な増加を引き起こしたのか?

 長年、多くの医療担当官は、この傾向は人為的なものであり、この障害が実際に増加したのではなく、診断基準又は移民パターンの変化のためではないかと疑った。

 しかし、新たな研究はこれらの要因は自閉症の増加のほとんどを説明することができないと結論付けた。

 カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)公衆健康科学部のヘルツピッチオットとローラ・デルビッチェは、発達障害を追跡する同州の17年間分のデータを分析し、出生記録とセンサス局(Census Bureau)データを自閉症率と診断の年齢を計算するために使用した。

 結果:同州への移民は影響を及ぼしていない。医師の障害診断の方法と時期及び州医療当局の報告時期の変化は増加の半分以下しか説明できない。

 いまや、カルフォルニアの自閉症の著しい増加を引き起こしている犯人を探し始めるべき時である
カリフォルニア大学デービス校疫学教授
イルバ・ヘルツピッチオット(Irva Hertz-Picciotto)
 今回の新たな研究には加わっていないが、ロチェスター大学医学センター環境医学及び小児科教授のバーナード・ウェイス教授は、研究で報告されている自閉症の割合は”驚くべきことのように見える”と述べた。彼は環境的原因がもっと注目されるべきであることに同意した。

 自閉症のことが認識されるようになってきたので、医師らは従来より早い時期に自閉症を診断しつつあると研究者らは結論付けた。しかし報告書によれば、この変化は5歳までに自閉症であると報告された子どもたちについて約24%の増加に寄与しているだけである。

 ”診断のより若い年齢へのシフトは明らかであるが、それほど大きくはない”と報告書は述べている。

 また、医師がより軽い症例を(自閉症であると)診断することへのシフトは他の58%の増加を説明する。したがって、自閉症に関する州報告の変化分は約120%に寄与している。

 これらの要素を合わせても診断症例における600%〜700%の増大にはならないとヘルツピッチオット述べた。

 このことは、120%以外の残りの部分は説明できず、妊婦や胎児が暴露している何か、あるいは遺伝的要素と環境的要素の組み合わせによって引き起こされているらしいことを意味する。

 ”遺伝と環境がある。そして遺伝はそのような短期間には変化しない”と自閉症の主導的研究施設であるUC Davis の神経発達障害医学調査研究所(M.I.N.D. Institute) の研究者であるヘルツピッチオットは1月8日のインタビューで述べた。

 多くの研究者が、妊婦の化学物質への暴露、特に金属と農薬は赤ちゃんの脳の構造の発達に変化を与え自閉症の引き金となり得ることを理論化している。

 多くの親たちのグループは、ワクチンには保存剤として水銀化合物チメロサールが含まれていたので、幼時のワクチン接種が自閉症の原因であると信じている。しかし、チメロサールは1999年にほとんどのワクチンから取り除かれているが、自閉症はまだ増え続けている。

 環境中の数十の化学物質は神経発達毒素であり、そのことはそれらが脳の成長を変更することを意味する。水銀、PCB類、鉛、臭素化難燃剤、農薬などがその一例である。

 ある物質、例えばPCB類への暴露は最近の十数年間で減少したが、家具や電子機器に使用される難燃剤やピレスロイド殺虫剤など他の物質は増加している。

 まだ未発表のある研究によれば、自閉症の子どもの母親は、有機リン又はピレスロイドを含むペット用ノミとりシャンプーを2倍使用していたらしい。もうひとつの新たな研究は自閉症と、ビニルや化粧品中で使用されるフタル酸エステル類との関係を見つけた。抗菌せっけんなど、そのほかの家庭用品もまた免疫系を変化させることにより脳に損傷を与える成分を含んでいるとヘルツピッチオットは述べた。

 さらに、胎児と幼児は、免疫系や脳の構造に変化を与えるようなウイルスやバクテリアなど全く新たな流行性微生物に暴露しているかもしれない。1970年代に自閉症は風疹(ふうしん)ウィルスのために増加した。

 犯人は、細菌の世界及び化学物質の世界にいるのではないかとヘルツピッチオットは述べた。

 ”この自閉症の問題には、決定的な犯罪証拠はひとつだけであるとは思わない”と彼女は述べた。”それは非常に大きな世界であり、我々は現時点ではほんのわずかしか分かっていない”。

 しかし彼女は、科学者らは1年位で少しは手がかりを開発することを期待すると付け加えた。

 UC Davis の研究者らは、自閉症の子どもたちの難燃剤と農薬への暴露と関係があるかどうかを研究している。その結果はまだ発表されていない。

 ”もし我々がカリフォルニアの自閉症の増加をとめようとするなら、我々はこれらの研究を進め、可能な限り拡大することである”とヘルツピッチオットは述べた。

 自閉症の原因としての遺伝子研究への資金供給は環境的原因研究への資金供給より10〜20倍多い。それは非常にバランスを欠く”と彼女は述べた。

 ロチェスター大学のウェイスは、”原因として遺伝が過剰に強調された”と述べて同意した。

 ”分子遺伝学の進歩は、遺伝子は常に特定の環境中で作用するという原則をあいまいにする傾向がある。この研究は我々の考えに対するあるバランスを復活させるであろうと私は考える”と彼は述べた。

 この増加は単に作られた事実の報告によるものなのかどうかに関連するいくつかの論点は、まだ未解決である。診断と報告に関わるその他の未知の論点があるであろうと科学者らは言う。

 自閉症の急増は、説明できない理由で大流行した幼児期のぜん息の増加と似ている。医療当局もまた当初は、この疾病の報告が増えためではないかと考えたが、現在、彼らは過去におけるよりもっと多くの子どもたちが実際にぜん息であることを認めている。専門家らは環境汚染物質又は免疫の変化のためではないか疑っている。

 自閉症は、個々の子どもの健康だけでなく、教育、健康介護、経済にまで重大な影響を及ぼす。

 ”カリフォルニアの自閉症の発症は、峠を超えたという兆候はまだない”とヘルツピッチオットとデルビッチェは研究報告の中で述べている。


訳注:当会が紹介した自閉症関連情報


化学物質問題市民研究会
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