EHP 2014年10月 サイエンス・セレクション
農薬と自閉症スペクトラム
CHARGE 研究からの新たな発見


情報源:Environmental Health Perspectives,
October 2014, VOLUME 122, ISSUE 10
Science Selections
Pesticides and Autism Spectrum Disorders:
New Findings from the CHARGE Study
By David C. Holzman
http://ehp.niehs.nih.gov/122-A280/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年10月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehp/
14_10_ehp_Pesticides_and_Autism_Spectrum_Disorders.html


 まだ数は少ないが、妊娠中の農薬曝露と自閉症スペクトラム(ASDs)(訳注1)の特質又は実際の自閉症診断との関連を報告する文献が増大している(参照 1, 2, 3)。EHP に今月発表されたひとつの研究は、妊娠中に農薬が散布された畑の近くに住んでいた母親子のどもたちの中に ASD 診断のリスクが増大していると報告して、その証拠の重みに付け加えている(参照 4)。

 このケース・コントロール研究は、ASD と診断された486人の子どもたち、発達遅れと診断された168人の子どもたち、及び、2003年に立ち上げられ、現在実施されている遺伝子及び環境からの幼児期の自閉症リスク(Childhood Autism Risks from Genes and Environment (CHARGE))研究からのらの316人のコントロールからなる。研究者らは、各母親の住居の1.75km以内の農薬散布の時機と程度を、受胎前3か月から出産に至るまでの全期間に渡り評価した。これらのデータは、1990年以来、農地、ゴルフ場、墓地、及びその他の場所について、1平方マイル(約2.5平方キロメートル)に散布された農薬を報告しているカリフォルニアの農薬使用報告書に基づいた(参照 5)。

sehp_122-A280_g001-213x300.jpg(5587 byte)
spacer2x2.gif(809 byte)
新たな研究が農薬は自閉症のリスク要素として更なる研究のための適切な候補かもしれないことを示唆している。
(c) Tony Hertz/AgStock Images/Corbis
 その研究は、有機リン系、ピレスロイド系又はカルバメート系農薬が散布された農地への妊婦の近接さと、後になされた ASDs や発達遅延を含む神経発達障害の診断との関連を検証した。著者らは、ASDs と妊娠第三期中の非特定の有機リン系農薬の散布、及び妊娠第二期中のひとつの特定の有機リン系農薬クロルピリホスの散布との間に最も強い関連性を発見した。彼らはまた、ASDs とピレスロイド系散布の受胎前及び妊娠第三期中との間の統計的に有意な関連、及びその見積もりは少ない症例数に基づくものではあるが、カルバメート系農薬散布と発達遅延との間の関連を報告している(参照 4)。

 この新たな研究は、以前の研究で報告された関連を支持するものであると、イギリスのニューキャッスル大学農業・食料・郊外開発学部の上席講師であり、この研究には関わっていないカーステン・バランズは述べている。第一著者であり、カリフォルニア大学デービス校公衆衛生科学部の大学院生ジャニー・シェルトンは、最も重要な発見はクロルピリホスと ASDs との間の関連であったと述べている。この化合物は住宅用としての使用は禁止されているが、農業用としては最も一般的に使用されている農薬のひとつである彼女は述べ、農薬は漂流して散布地点周囲の緩衝地帯を越えて家や職場にまで到達することができるとのべた(参照 6)。

 しかし重要なことは、この研究は、遡及的なデータ収集であったために、また妊娠中に収集された生物学的サンプルが欠如していたために、限界があるということである。その他の限界には、複合暴露はもちろん、他の潜在的な暴露源(例えば家庭で使用される農薬)を説明できないこと、そして農薬使用報告書中の誤りをそのまま報告する可能性があることなどがある。また曝露は、妊娠中のどの期間(初期、中期、又は後期)にもわたるかもしれないので−妊娠中の暴露を研究する時にいつも生じる問題である−妊娠期間中の特定の時間枠に関連を対応させることは難しい。

 さらに、”ケースとコントロールが異なる方法で、いつ募集されたのかということが常に重要である”と、ハーバード大学公衆衛生校の環境健康学非常勤教授であり、この研究には関与していないフィリップ・グランジャンは述べている。”例えば、南カリフォルニアからのケースよりコントロールははるかに少ない”。しかし、著者らは、ケースとコントロールの人数の違いを少なくとも部分的に説明するために、彼らの分析に重みづけをした(参照 4)。

 限界はあるにもかかわらず、グランジャンは、”研究者らは、農薬使用に関するデータを妊娠中のジオコード化(訳注2)された居住場所に関連付けることができたことについて称賛されなくてはならない”と付け加えた。ブラウン大学疫学部の准教授ジョセフ・ブラウンは、この研究を”自閉症の環境的決定要因の研究の最先端”であると述べた。ブラウンもまた、この研究には関与していない。

 研究に限界があるにもかかわらず、この研究は探究のための新たな方向を示している。”約5年前までは、自閉症に関するほとんどの研究は事実上、この病気は完全に遺伝子に起因し、環境的暴露は関係ないと想定していたと、マウントサイナイ医科大学環境健康部門長ロバート・ライトは述べている。ブラウンは、この研究には関与していない。”自閉症率が増大しており、多くの非常に大きな遺伝子研究がこの分野に大きく転換して注力したにもかかわらず、遺伝的原因を見つけることはできなかった・・・。これらの化学物質はフォローされる必要のあるしっかりした手がかりである”。

参照

1. Eskenazi B, et al. Organophosphate pesticide exposure and neurodevelopment in young Mexican-American children. Environ Health Perspect 115(5):792 - 798 (2007); doi: 10.1289/ehp.9828.

2. Roberts EM, et al. Maternal residence near agricultural pesticide applications and autism spectrum disorders among children in the California Central Valley. Environ Health Perspect 115(10):1482 - 1489 (2007); doi: 10.1289/ehp.10168.

3. Shelton JF, et al. Tipping the balance of autism risk: potential mechanisms linking pesticides and autism. Environ Health Perspect 120(7):944 - 951 (2012); doi: 10.1289/ehp.1104553.

4. Shelton JF, et al. Neurodevelopmental disorders and prenatal residential proximity to agricultural pesticides: the CHARGE study. Environ Health Perspect 122(10):1103 - 1109 (2014); doi: 10.1289/ehp.1307044.

5. State of California. Pesticide Use Reporting (PUR) [website]. Sacramento, CA:Department of Pesticide Regulation, State of California (2014). Available: http://www.cdpr.ca.gov/docs/pur/purmain.htm [accessed 27 August 2014].

6. Lee SJ, et al. Acute pesticide illnesses associated with off-target pesticide drift from agricultural applications: 11 states, 1998?2006. Environ Health Perspect 119(8):1162?1169 (2011); doi: 10.1289/ehp.1002843.


訳注1:自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラム/ウィキペディア

訳注2:ジオコード化
ジオコーディング/ウィキペディア

訳注:自閉症関連情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る