EHN 2010年2月26日
 花に由来するが無実ではない
ピレスロイドが新たな懸念を提起

by Ferris Jabr

情報源:Environmental Health News, February 26, 2010
Derived from flowers, but not benign: Pyrethroids raise new concerns
By Ferris Jabr, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/pyrethroids-raise-concerns

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月28日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_100226_Pyrethroids.html


 花に由来する化学物質は無害であるにように聞こえるが、新しい研究は、実質的にはどの家庭用農薬にも用いられている菊から合成して作られた成分についての懸念を提起している。

少なくと10年間、ピレスロイドは、ヒトや野生生物にとってもっと有毒である有機リン系農薬に代替するものとして、消費者の選択する農薬であった。しかし、ピレスロイドへの切り替えは新たな生態系及びヒト健康リスクをもたらしているとする証拠が増大している。

 今月発表された研究訳注1)によれば、アメリカでは約70%の人々がピレスロイドに暴露しており、特に子ども達が最も高い暴露である。ヒト健康への影響は未知であるが、動物研究では神経系、免疫系、及び生殖系にダメージを及ぼす証拠がある。

 さらに、ピレスロイドは庭や庭園から流れ出して小川や川を汚染しているが、その濃度は魚類やその他の水生生物の生存にとって重要な小さな生物を殺すことが出来る。カリフォルニアと米環境保護局(EPA)は安全性の懸念からこの化学物質を再評価中である。

 ”ピレスロイドは、有機リンより明らかに安全な代替であるが、しかし、それらが”より安全である”ということは、それらが”安全である”ことを意味しないと、ジョージア州アトランタのエモリー大学公衆衛生ローリング校の研究教授であるダナ・ボイド・バールは述べた。バールは、アメリカの集団におけるピレスロイド暴露を初めて測定したこの研究の著者である。

 ピレスロイドは、家庭、作物、庭、庭園で使用される3,500以上の製品中で見出されるが、それらには、ノミ・シャンプー、屋内用殺虫煙、ペット用ノミ・スプレー、アリ、スズメバチ、蚊、アブラムシ、クモなどに対する殺虫剤が含まれる。消費者は、ピレスロイド系殺虫剤を成分のラベルの表示で、名前の最後が”スリン(thrin)”で終わるもの、例えば、 ビフェンスリン(bifenthrin)、ペルメトリン(permethrin)、シペルメトリン(Cypermethrin)で特定することが出来る。

 これらの化合物はピレトリン(pyrethrin)と呼ばれる除虫菊から取れる天然の殺虫剤の合成物質版である。化学者らは、太陽光線中でもっと安定させ、その毒性を強化するために、ピレトリンの分子構造を変えている。これらの化学物質は基本的に神経細胞の機能を阻害することによって昆虫を殺す。昆虫と他の無脊椎動物はそれらに非常に影響を受けやすいが、一方、鳥類や哺乳類はそれらの影響に対して強い。

 新たな研究で、1999年から2002年の間にアメリカの成人と子どもから採取された5,046の尿サンプルはピレスロイド殺虫剤の5つの代謝物についてテストされた。代謝物は化学物質が体内で分解した結果である。

 少なくともひとつのピレスロイド代謝物の痕跡が2001年〜2001年にテストした人々の75%に、1999〜2000年にテストした人々の66%に、見出された。2010年2月3日にEnvironmental Health Perspectivesのオンライン発表されたバールらによる研究(訳注1)によれば、子どもの濃度は青年と成人に見出される濃度より50%以上高かった。

 子ども達は、”床の上で過ごす時間が長く、口に手をやる行動が多い”ために、ピレスロイドにより高く暴露している”とバールは述べた。”ピレスロイドは、空気中に簡単には蒸発しないので家庭内のホコリや表面に堆積する傾向がある”。2008年の研究は、ノースカロライナ州及びオハイオ州の家庭及び介護センターから集めた掃除機中のホコリの中にピレスロイドとそれらの代謝物を見出した。

 家の中に残っているピレスロイドを吸入したり吸収することに加えて、この化学物質は野菜や果物、穀物などに使用されるので、人々は食物中の残留ピレスロイドを摂取する。

 2006年のEPAのレビューで、食事を通じての暴露のリスクは、ほとんどの人々に対するEPAの懸念レベル叉はそれ以下であった。しかし、その調査はまた幼児はある食物、特にバナナ、パイナップル、乾燥麦の幼児食の摂食で高いレベルで暴露する。

 ”我々は今、人々が広くピレスロイドに暴露していることを知っているので、それによる健康影響は何なのかを調べる必要がある”とバールは述べた。

 現在までのところ、ヒト健康への潜在的な脅威を評価している科学的データはほとんどない。

 2006年のEPAレビューによれば、動物による研究は、行動の発達障害、免疫系の変化、生殖ホルモンのかく乱などはもとより、ピレスロイド暴露を甲状腺、肝臓、及び脳神経系に関連付けている。EPAによれば、ピレスロイドは全ての動物に共通である神経系の機能に作用するので、これらの動物研究はヒト健康にも関連がある。

 あるピレスロイドは女性ホルモンであるエストロゲンを模倣し、乳がん細胞中のエストロゲンのレベルを増大させることが出来る。EPAは昨年、明確な関連はないと結論付けたが、他のデータは、この化学物質を使用している人々はアレルギーの悪化やぜん息のリスクがあると示唆している。

 農薬製造会社は、ピレスロイドは安全であり、農業や、ウェストナイル・ウィルスやその他の疾病をもたらす蚊の駆除に重要であると言う。

 ”ピレスロイドは、公衆衛生と農業の用途にとって極めて重要な殺虫剤成分である”と、農薬会社を代表する業界団体のクロップライフ・アメリカ(CropLife America)の副代表であるレクス・ラニヤンはe-メールで述べた。ラニヤンは、ラベルに表示されている指示に従って使用されるなら、”ヒト健康叉は環境に不合理な影響を及ぼすことない”と付け加えた。

 ヒト健康への懸念についてのデータはほとんど存在しないが、ピレスロイドは水生生態系を害するという証拠が増大している。カリフォルニア、テキサス、及びイリノイの小川や河川の調査は、この農薬が水路に生息し食物連鎖の基礎を形作る小さな生物を殺すということを示唆している。

 さらに、いくつか研究訳注2)はピレスロイドが淡水魚の成長と生殖に影響を与えることができることを示している。

 2009年の調査は、ヒアリ(fire ant)や地虫(grub worm)を駆除するためにピレスロイドが広く使用されているテキサス中部の都市の川の堆積物中にこの農薬を見出している。その濃度は、健康な川に必要な無脊椎動物への農薬影響を調査するために研究室で一般的に使用される生物種であるヨコエビ( Hyalella azteca)と呼ばれる小さなエビの様な甲殻類にとって致死量である。

 ”我々の試料採取現場は全て、手入れの行き届いた芝生のある近隣に非常に近い”とオクラホマ州立大学動物学者でありジャーナル『Environmental Pollution(環境汚染)』に発表された研究訳注3)の著者であるジェーソン・ベルデンは述べた。”ある人々は最良の管理方法を実施していない。彼らは農薬について十分に注意していない。我々は全て、農薬は本当に必要とする時にだけ使用するという努力が必要である。

 ピレスロイドは堆積物の中だけでなく、カリフォルニアの河川の流れの中に、魚類やその他の動物が捕食する昆虫や水生無脊椎動物に有毒であるレベルで存在する。

 カリフォルニア大学バークレー校の生物学者ドナルド・ウェストンはカリフォルニアのサクラメントサン・ジョキアン川のデルタ地帯で都市排水、下水処理プラント排水、農業廃水等の中の殺虫剤を探した訳注4)。研究室でウェストンは、ヨコエビに関するサンプルの毒性をテストした。

 ”事実上、都市コミュニティからのどの排水もピレスロイド存在しているのでヨコエビに有毒である。”

 今回初めて、ウェストンと彼のチームは下水処理プラントの排水中のピレスロイドについて報告したが、それは驚くべきものであった。

 ”我々が試料をテストした排水の約半分は有毒であった”とウェストンは述べた。”ほとんどの人々はピレスロイドがこの処理システムから流れ出してるということを予測していなかった。人々は、多分それらの多くは底の汚泥によって捕捉されるであろうと考えていた。しかしこのシステムからの排水は有毒であった”。

 一方、『Environmental Science and Technology』に今月発表された研究によれば、農業廃水はたまにピレスロイド源になるだけである。

 ”農薬というと、世間の平均の人々は農業のことを考える傾向があると思う”とウェストンは述べた。”彼らは都市の家庭のことは思い浮かべず、まして都市の家がピレスロイド毒性の常時の源であるとは考えもしない”。

 この研究訳注5)は、都市の二つの小川と、デルタ地域で最もきれいな川のひとつであると考えられているアメリカ川の30キロメートルにわたる毒性を報告した。

 ”水は、あなたの浴室の蛇口から流れ出ている水と同じくらいに全くきれいであった”とウェストンは述べた。”しかし、サクラメントに入リは始めると、この川の最後の30〜40マイルは非常に汚染されていた。これらのコミュニティの排水の全てがアメリカ川に流れ込み、それは毒性をもたらすのに十分であった”。

 ウェストンは、化学物質が、堆積物の中だけでなく、水の中に見出されたことは非常に懸念すべきことであると述べた。

 ”ピレスロイドは厄介であり水に溶けそうにないので、その多くは堆積物中に存在する”とウェストンは言った。”しかし、わずか 2pptという非常に微量でも有毒である。カリフォルニア州は現在、堆積物粒子について懸念しなくてはならないのみならず、水についても心配しなくてはならない。そしてその水の流れは、はるか下流にまで至る”。

 ウェストンが記録した毒性のレベルは、健康な川の生態系のために必要な昆虫やその他の無脊椎当物の宿主全体を殺すのに十分である。研究者らは流れの中の生き物が死んだということは報告していない。しかし、水と堆積物が研究室の甲殻類に有毒なら、それは水路の中の同様な生物にも有毒であろうというサインである。

 ”川底に生息する無脊椎動物やカワゲラ(stoneflies)や mayflies などは基本的に食物連鎖の底辺である。懸念はこれらの無脊椎動物が魚類が依存している食物連鎖の低位から除かれようとしているかどうかである”とウェストンは述べた。”これは生態学的影響だけでなく、リクリエーションや商業への影響もある”。流れの中のレベルはある魚にとって十分に有毒というわけではないが、その魚は食べなくてはならない”。

 この毒性の懸念に対応して、カリフォルニア農薬規制当局は2006年にピレスロイド規制の再評価訳注6)を開始した。同州は、ピレスロイドの安全性に関し製造者からの追加データを要求しており、家庭と農場で使用されている少なくとも700種類の製品を分析し始めている。

 レビューが進んできた時に、同州農薬局のディレクター、マリーアン・ワーマーダムはロサンゼルスタイムズ紙に、同州の評価は、”我々は懸念する理由を見つけたので、農薬製造者は懸念を払拭する、叉は製品の調合を変える、叉は市場からの撤去を検討するというデータを提出する必要があることを警告するものである”と話した。

 カリフォルニア州は、ヒト健康への懸念から家庭での使用を禁止されたクロルピリホスのような有機リン系農薬の使用に後戻りすことを望んでおらず、我々が報告した環境影響を最小化するようピレスロイドの使用を管理することを望んでいる”とウェストンは述べた。

 ”カリフォルニア州は再評価の結果に基づき、製品を禁止する権限を持っている”とウェストンは述べた。”しかし、そのようなことが起きることを誰も期待していないが、ピレスロイド使用に関する更なる規制がありそうである”。

 また、EPAは今年、2010年の農薬レビューの一部としてピレスロイドの再評価を実施している。EPAは15年毎に登録されている全ての農薬の再評価を体系的に実施している。可能性ある結果としては、ある地域でのピレスロイドの禁止、政策の強化、叉は規制の変更なし−が考えられる。しかしEPAプロセスはさらに6〜8年かかるであろう。

 また、フィプロニル(fipronil)と呼ばれる殺虫剤は、ある地域で特にシロアリとアリの害を防ぐために、部分的にピレスロイドにとって替わっている。ピレスロイドと同じように、フィプロニルは昆虫以外の鳥類や哺乳類に対しては毒性が低いが、やはり小さな水生生物を殺すことが出来る。一方、消費者には選択できるある代替がある。バールは、野菜やハーブから叉は植栽した除虫菊から抽出した製品を示唆する。天然の除虫菊中に見出されるピレスリンは、化学的に合成されたもののように環境中に残留しない。ある害虫を殺すもうひとつの選択肢はホウ酸である。

 ウェストンは、他の化学物質に切り替えることは解決ではないという。彼は人々は農薬をどのように使うかについて根本的に意識の転換をはかる必要があると信じている。多くの人々は、庭や庭園に非常に多くを散布し、それらは水路に流れ込む。

 ”私は、どのような農薬でも、我々が知っている理由のためだけでなく、我々が知らない理由のためにも、暴露を最小にするのが良い考えであると思う”とウェストンは述べた。”私はこれらの製品の多くが必要であるとは思わない。使用量を減らすことができればできるほど、それは良いことである” 。


訳注1
Environmental Healt Perspective, 03 February 2010
Urinary Concentrations of Metabolites of Pyrethroid Insecticides in the General U.S. Population: National Health and Nutrition Examination Survey 1999-2002

訳注2
Environ Toxicol Chem. 2008 Aug;27(8):1780-87
Acute, sublethal exposure to a pyrethroid insecticide alters behavior, growth, and predation risk in larvae of the fathead minnow (Pimephales promelas).

訳注3
Environ Pollut. 2009 Jan;157(1):110-6. Epub 2008 Sep 16.
Occurrence and potential toxicity of pyrethroids and other insecticides in bed sediments of urban streams in central Texas.

訳注4
Environ Sci Technol. 2010 Mar 1;44(5):1833-40.
Urban and agricultural sources of pyrethroid insecticides to the sacramento-san joaquin delta of california.

訳注5
Environ Sci Technol. 2010 Mar 1;44(5):1833-40.
Urban and agricultural sources of pyrethroid insecticides to the sacramento-san joaquin delta of california.

訳注6
California Department of Pesticide Regulation
Reevaluation Pyrethroids

訳注7
US EPA Pesticides: Regulating Pesticides
Pyrethroids and Pyrethrins Current as of February 26, 2010


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