ピコ通信/第129号
発行日2009年5月25日
発行化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

EUが16年間の農薬リスク評価完了
ほとんどの有機リン農薬を不認可



 本紙125号(09年1月23日発行)で紹介しましたが、EUの新たな農薬法案が09年1月13日にEU議会で採択されました。本年後半には発効する農薬に関する新しい規則は、環境と健康に関する基準が強化されます(末尾に概要紹介)。
 また、3月16日、1993年から16年間にわたって進められてきた農薬のリスク評価が完了したことが発表されました。公表されたデータベース(注1)によると、日本では広く使われている有機リン農薬や有機塩素系農薬のほとんどが、不登録農薬、すなわち不認可とされています。
 有機リン系農薬は神経毒性等による深刻な影響から、製造・使用をやめるべきだと私たちは主張してきていますが、EUではそのほとんどが不認可農薬とされたのです。

■EurActivの報告
 EurActiv(EUの行政、議会の動きを伝える民間の情報機関) 2009年3月16日付解説記事は、今回の動きを以下のように報告しています。
  • 1991年以前に農薬での使用が認可されていた約1,000の活性成分の詳細なヒト健康と環境リスク評価が完了し、その3分の2以上が市場から撤去されることになった。

  • このリスク評価の見直しは、各成分について、消費者や農民、地下水や鳥、哺乳動物、ミミズ、ミツバチなど農薬の標的以外の生物の健康に関して実施された。

  • 欧州委員会によれば、リスク評価の見直しが立ち上げられた1993年の時点では、市場に出ている数万の製品中に含まれる活性成分は約1,000種存在した。

  • 見直しの結果、これらの成分の3分の2以上が市場から撤去されることになった。

  • 成分の大部分、約67%は、書類一式が提出されていないか不完全であるために取り消されたか、あるいは産業側によって取り下げられていた。約70種の物質はヒト健康と環境にリスクを及ぼすことがわかったので、市場から撤去された。

  • 他の約250成分(26%)は、調和の取れたEU安全評価を通過した。認可された活性成分は、本日(3月16日)立ち上げられたデータベースで見ることができる。

  • 昨年暮れに、欧州議会と理事会は、2006年2月に欧州委員会によって提案された農薬の新たな認可規則に関して合意に達した。2009年後半に発効するこの規則は、16年間の見直しが実施されてきた農薬の上市認可に関する1991指令に置き換わり、現在認可されている成分の評価プロセスを再開する。

  • 新たな規則は認可のための環境及び健康基準を強化し、いくつかの有害化学物質を禁止し、EUの3地域(北部、中央、南部)内での市場認可の義務的な相互認証の原則を確立する。

■公表された不認可成分は766
 公表されたデータベースを見ると(注1)、活性成分の総数は1,209、そのうち認可成分が334、不認可成分が766、保留が67、農薬に使われていない物質(エタノール、ワックス等)42となっています。

【不認可成分リストに記載】
▼有機リン系農薬のほとんど
アセフェート、カズサホス、ダイアジノン、ジクロフェンチオン、ジクロルボス、フェニトロチオン(スミチオン)、トリクロルホン、マラチオン(マラソン)、チオメトン、イソキサチオン、エチオン、フェンチオンなど。(クロルピリホス、クロルピリホスメチルは認可リストに入っている)。

▼有機塩素系農薬のほとんど
D-D、2,4,5-T、DDT、クロルピクリン、クロルフルアズロン、ジコホル、エンドスルファンなど

▼ピレスロイド系農薬の多く
ペルメトリン、フェンバレレート、アレスリン、ビオアレスリン、テフルトリン、テトラメトリン(フタルスリン)、レスメトリンなど。(シペルメトリンは認可リストに入っている)。

▼その他不認可成分
ディート(注)等
注:日本でも農薬としては非登録だが、虫よけ剤によく使われている。

■ネオニコチノイド系農薬は認可
 認可農薬の中には、ハチの蜂群崩壊症候群の原因として疑われている以下のネオニコチノイド系農薬が含まれています。
 イミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、チアクロプリドなど。
 イミダクロプリドの評価書を見ると、「イミダクロプリドを含む農薬は、指令 91/414/EECに規定される安全要求を満たすであろうと期待してもよい」とあるのですが、但し書き条件の中には特別に注意を払うべきことの中に「ミツバチの保護、特に散布時に」とあります(注2)。
 ドイツでは2008年にミツバチへの影響を理由にクロチアニジンと他の7種の殺虫剤の使用を禁止、フランスでは1999年にイミダクロプリドが禁止されたという情報があります。
 今後、新たな農薬規則によって、再評価が行われることが予想されます。

■新しい規則に基づく更なる評価が始まる
 このように、日本で一般に広く使われている農薬の多くが不認可農薬とされているわけです。我々が製造・使用をやめるべきだと主張している有機リン系農薬は、ほとんど認可されていません。そして、EUでは今後は環境と健康に関する基準がさらに強化された新しい規則に基づいて、現在認可リストに入っている農薬の評価が再開されるということです。
 さらには、農薬の空中散布の禁止、公共の場所での農薬使用の禁止などの農薬使用に関する規制についても期待されます。
 EUにひきかえ、日本の農薬行政の全くの遅れを痛感します。

■おさらい:EUの新たな農薬規則
▼農薬使用と認可規定に関する合意
  • 使用できる"活性成分"のポジティブリストはEUレベルで作成される。農薬はこのリストに基づき国レベルで認可される。
  • 暴露影響が無視できない発がん性、変異原性、又は生殖毒性があるもの、内分泌かく乱性があるもの、及び難分解性、生体蓄積性、及び有毒性(PBT)、又は高難分解性で高生体蓄積性(vPvB)の場合には禁止される。
  • 発達神経毒性及び免疫毒性の物質には、高い安全基準が課せられるかもしれない。
  • 作物栽培に本質的に必要であると証明されれば、上述の禁止物質はその後5年間使うことができる(エッセンシャル・ユース)。
  • より安全な代替物質が存在するなら3年以内に代替する。
  • ミツバチに有害らしい物質は禁止される。
  • EUを3地域(北、中、南)に分け、各地域内で義務的な相互承認制度とする。 しかし、加盟国は特定の環境又は農業の状況により、特定の農薬を禁止できる。
  • 現行法で市場に出すことができる農薬は有効期限が切れるまで利用可能である。
▼農薬の持続可能な使用に関する合意
  • 加盟国は農薬のより安全な使用に関する国家行動計画を作成し、農薬の全体削減目標を設定する。
  • 代替原則を実践し、化学物質を使わないことを目指す統合害虫管理(IPM)を2014年から適用する。
  • 加盟国の例外的承認がある場合を除いて、作物への空中散布を禁止する。
  • 水環境と飲料水供給保護のために、水域周辺に"緩衝地帯"、地表水/地下水のための"安全防護地帯"を設ける。
  • 公園や学校のグラウンドなど公共の場所での農薬の使用を禁止する、又はそのような場所での農薬の使用を最小にする。
 (安間節子)


(注1):欧州連合(EU)の農薬データベース(EU Pesticides database) について
 http://ec.europa.eu/sanco_pesticides/public/index.cfm


2009年3月16日に立ち上げられた欧州連合(EU)の農薬データベース(EU Pesticides database)からは、
活性成分(Active Substances)と残留農薬基準(MRLs)に関する情報が得られる。

■活性成分(Active Substances)
下記のStaus を選択できる 。(entries数は2009年5月22日現在)
  • All 全活性成分対象:1209 entries
  • Inclided:認可されている成分(理事会指令91/414/EEC の Annex I にリストされている):334 entries
  • Not included:認可されていない成分:766 entries
  • Pending:保留:67 entries
  • Not a plant protection product:農薬には使われていない:42 entries
■残留農薬基準(MRLs)
下記のアプローチができる。
  • 特定農産物(Product)の全活性成分の残留基準値
  • 特定の農産物の特定活性成分の残留基準
(注2):当会ウェブサイトの海外環境情報のページ(09/05/22掲載)を参照のこと
欧州委員会健康・消費者保護総局  2008年6月20日 活性成分イミダクロプリドのレビュー・レポート 2008年9月26日 食物連鎖と動物健康に関する常任委員会で決定


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