EHP 2007年5月号 フォーラム
マラリア対策の蚊帳

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 5, May 2007
Forum
Safety Net for Malaria?
http://www.ehponline.org/docs/2007/115-5/forum.html#safe

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年5月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/07_05_ehp_Safety_Net_for_Malaria.html

 ピレスロイド処理をした蚊帳はマラリヤを防ぐ効果を失っているかもしれない−と 『Emerging Infectious Diseases』2007年2月号に掲載された研究(訳注1)が述べている。ロンドン衛生・熱帯医療校の上席講師であるマーク・ローランと彼の同僚らは、その遺伝子を持った蚊はピレスロイドの神経毒性に影響を受けにくいというkdr遺伝子が広まっているアフリカのベニン(共和国)地域においては、殺虫剤処理蚊帳はマラリヤ媒体のハマダラカのわずか30%しか殺さないということを発見した。kdr遺伝子がほとんど見つからない地域では殺虫処理蚊帳が蚊の98%を殺している。”これらの発見は、高いレベルでkdr耐性を持つハマダラカの集団を制御することにピレスロイドは失敗していることを示す初めての明確な証拠である”と研究者らは書いている。

 殺虫剤処理蚊帳はマラリヤが流行している諸国ではマラリヤ対策の主要な手段である。”ここで発見したことは状況が悪くなっている問題の出発点であと私は考えている”とローランドは述べている。”我々がベニンで発見したことは他のどこにも存在するが、その点を証明するための十分に厳格な調査はなされていない。”

 WHOの科学者であるピエール・ギルは、kdr遺伝子の影響についてのもっと広範な結論を引き出すために、媒介昆虫の殺虫率だけでなく殺虫剤処理蚊帳による実際のマラリア発生の低減に関して、もっと多くの調査が必要であると述べている。2月に発表された論文はまた、コートジボワールでは殺虫剤処理ネットは蚊のkdr遺伝子の広がりに関係なくマラリアを防いでいると言及しているが、ローランドはコートジボワールのハマダラカは恐らく異なるタイプではないかと推測している。

 この殺虫剤は蚊を殺し又は寄せ付けないので、現実の状況において蚊帳そのものではマラリヤを防ぐのに十分な効果が得られない物理的な蚊帳の機能を強化するものであるとギルは説明している。この研究でボランティアがその地域の住民が住む典型的な小屋に滞在した。殺虫剤処理蚊帳がkdr遺伝子を持った蚊に致命的ではなくても、小屋に侵入してくる耐性蚊の44%を阻止した。

 ノートルダム大学の生物科学教授フランク・コリンズによれば、この調査の意味するところは”蚊の耐性が進んでいる”ということである。蚊は最終的には耐性を獲得するので、新しい殺虫剤が最終的な回答ではない。それぞれ異なる行動メカニズムを持つ二つの異なる殺虫剤を蚊帳に練りこむことにより不測の事態の発生は遅らせることができるとコリンズとギルは指摘している。

 そのような戦略はまだ存在しないが、耐性が広がるということに直面しても、殺虫剤処理蚊帳は不可欠であるとローランドは述べている。”蚊帳は我々が知る限りマラリヤ対策として最良の手段である。”殺虫剤処理蚊帳を供給する取組は世界中でのキャンペーンとなっている。ラハイナ・ユナイテッド・メソディスト教会やナショナル・バスケットボール協会などの団体の多様な連合が資金提供をしている”何もなくても蚊帳 Nothing But Nets”キャンペーンは蚊帳を買いアフリカに配布するための資金を集めている。

ハーベイ・ブラック(Harvey Black)


訳注1
米疾病管理予防センター(CDC)Emerg Infect Dis. Volume 13, Number 2 - February 2007 ピレスロイド耐性蚊発生地域ベニンにおいて マラリア防除のための農薬蚊帳と屋内散布の効果が低減−エグゼクティブ・サマリー

■農薬蚊帳とピレスロイド系殺虫剤の有害性



化学物質問題市民研究会
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