EHN 2007年7月3日による論文解説
ペルメトリンはライディッヒ細胞の
ミトコンドリア細胞膜損傷を通じて
テストステロン生合成を
かく乱するかもしれない


情報源:Environmental Health News, July 3, 2007
Zhang, S-Y, Y Ito, O Yamanoshita, Y Yanagiba, M Kobayashi, K Taya,
C-M Li, A Okamura, M Miyata, J Ueyama, C-H Lee, M Kamijima and T Nakajima.
Permethrin may disrupt testosterone biosynthesis
via mitochondrial membrane damage of leydig cells in adult male mouses
http://www.environmentalhealthnews.org/newscience/2007/2007-0703zhangetal.html

Orijinal:Endocrinology, in press
http://endo.endojournals.org/cgi/content/abstract/en.2006-1497v1

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2007年7月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_070703_Permethrin.html


ペルメトリンは殺虫剤又は忌避剤として消費者製品中で広く使われている。

概要: Dr. Sue Nagel and Wendy Hessler

 広く使用されている合成殺虫剤ペルメトリンは、6週間暴露させたオスの成マウスのテストステロンのレベルと精子数を劇的に低下させる。ペルメトリンは、睾丸中のテストステロン合成の開始段階を変更することによって、テストステロン製造が低下し、生殖障害を引き起こす。

 テストステロン処置のしないマウスに比べて、よく使用されているこの殺虫剤の最も高いレベルで暴露したマウスは睾丸中のホルモンは75%以下であり、血中では95%以下であったが、一方、精子の数は半減した。この研究は過去の研究結果を確認し、家庭や農業で使用され、家屋内の埃や食品中に見いだされるペルメトリンのような合成ピレスロイドがオスの生殖ホルモンを減少し精子数と運動性に影響を与えるメカニズムを明らかにしている。

何をしたか?

 ザーンらは、オスの成マウスを3つの用量(0、35、70 mg/kg)のペルメトリンに6週間暴露した。1ヶ月半の暴露の最後に彼らは血液と睾丸のテストステロンのレベル、精子の数と質、ステロイド合成酵素発現レベル、及び生殖器重量を測定した。

何が分ったか?

 35 又は 70 mg/kg の cis-ペルメトリンへの暴露により、処置された両方のグループの精子の数はそれぞれ30%、45%減少した(右図)。

 睾丸テストステロン製造はそれぞれ50%、75%減少した。血中のテストステロンはそれぞれ70%及び90%減少した右下図)。

 黄体形成ホルモン(LH)は体から出てテストステロン製造を増すよう睾丸に作用する。テストステロンのレベルが下がるとテストステロン製造を刺激しようとして、もっと多くの LH が分泌される。この調査では、ペルメトリンはそれぞれ LH が500%、1,000%と著しく増加するという結果となった。

 テストステロンのレベルと暴露後のそれぞれのマウスの睾丸中の cis-ペルメトリンの残留物との間に顕著な関連が観察された(r2=0.88)。すなわち、ペルメトリンのレベルが睾丸中で上昇するとテストステロンのレベルは下降する。

 cis-ペルメトリン処置後に、体、生殖器官重量、及び精子形態に顕著な変化は見られなかった。このことはテストステロンと精子数に及ぼすペルメトリンの影響はこの化学物質の一般的な有毒影響に帰するものではないということを示している。

 精子数の減少とテストステロンのレベルの下降の原因を調査するために、ザーンらはテストステロン合成に必要ないくつかの遺伝子の発現を調べた。遺伝子発現はたんぱく質合成における第一段階である。

 ペルメトリン暴露は、StAR たんぱく質と P450scc 酵素の睾丸mRN とたんぱく質発現レベルを著しく減じた。これらのふたつのたんぱく質はテストステロン製造の第一段階で必要とされる。

 睾丸中にあるライディッヒ細胞は精子を製造する。ペルメトリン処置されたマウスでは、これらの重要な細胞の内部にあるミトコンドリアを囲む細胞膜がダメージを受けた。著者らは、”殺虫剤ペルメトリンは、コレストロールのミトコンドリアへの移送を減じ、細胞中でコレストロールのプログネノロン(Pregnenolone)への転換を減じ、したがってテストステロン製造を減じることによって、ライディッヒ細胞中のミトコンドリア細胞膜を損傷しテストステロン生合成をかく乱する原因となるかもしれない”と示唆している。

何を意味するか?

 テストステロン・レベル精子数は過去25年から80年間の男性において減少している。内分泌かく乱物質この減少に関係していることが示唆されている。人は、アンドロゲン(訳注:男性ホルモン)作用を減少させ、潜在的に繁殖能力を減少させる様々な化学物質に暴露している。

 この研究は、一般的によく使用されている殺虫剤のひとつであるペルメトリンが正常なテストステロン製造を阻害するようなやり方で成人男性の生殖系に影響を与えるということを結論付けている。比較的高いレベル(しかしげっ歯類を殺す有毒レベルよりは十分低い)の殺虫剤が睾丸と血中のテストステロンを減少させ、黄体形成ホルモン信号の血中レベルを増大させ、ライディッヒ細胞中のミトコンドリア細胞膜を変化させ、重要なたんぱく質を制御する遺伝子発現を変化させ、精子の健康と数を低減する。

 その結果は、他の関連するピレスロイド系殺虫剤の男性生殖系に与える影響を観察した過去の研究と同様である。この研究はまた、血液と睾丸のホルモン・レベル低下をもたらすテストステロン製造を阻害する細胞機能を化学物質がどのように変更するのかについての更なる情報を提供するものである。この研究は、"cis-ペルメトリン暴露が主にライディッヒ細胞膜の損傷を誘因し、steroidogenic process の限られた段階をかく乱することを示した”最初ののものである。

 ペルメトリンは屋内やペットによく使用されており、いつもこの殺虫剤を使用する人、及びその子どもたちはこの化学物質を吸入し、または口から摂取するかもしれない。

 この研究で使用された用量は高いが、テストステロン・レベル、StAR 遺伝子発現、及び精子数に及ぼす影響は重大である。著者らは、”人の職業暴露の用量は概略0.12mg/kg(未公開データ)であると見積られ、重量ベースで暴露マウスより約100倍低いレベルである”と述べている。

 重要なことは、テストされた用量の全てがテストステロンと精子数を減少させる結果となったことである。もっと低い暴露レベルも同様であるようということは非常にありそうなことであるが、しかし恐らく劇的ではなく小さな影響であろう。

 また、これらの影響が成ラットで観察されたということに留意することも重要である。胎児や若いマウスはペルメトリンの影響にもっと感受性が高いように見える。それらのマウスの生殖器官の発達は、正常に発達するためのテストステロンの適切なレベルに依存する。この研究は低レベルのペルメトリンは発達中の期間にとって危険であるかもしれないことを示唆している。

 さらに、StAR 発現は、ステロイド合成における第一段階として、コレストロールがミトコンドリア細胞膜を横断して移動させることが必要である。今回の研究はペルメトリンのメスにおける影響を検証しなかったが、エストラディオールのような他のステロイドホルモンのレベルがこの殺虫剤によっって低下するかもしれないということはありそうなことである。


Resources:

訳注:ピレスロイド/ペルメトリン関連記事(当研究会訳)


化学物質問題市民研究会
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