Beyond Pesticides 2006年9月15日
マラリア対策のためのDDT使用は公衆の健康を脅かす

情報源:Beyond Pesticides Daily News, September 15, 2006
Groups Say DDT Use for Malaria Control Threatens Public Health
http://http://www.beyondpesticides.org/news/daily_news_archive/2006/09_15_06.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html

掲載日:2006年10月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_09/060915_bp_DDT_Malaria.html


 開発途上国でマラリア対策のために DDT を使用する取組は、マラリア予防のためのより安全な代替の利用が可能なら、DDT を使用することによる健康リスクを正当化することはできないとして環境団体は異議を唱えている。
 開発途上国でのマラリア対策のために DDT の屋内使用を推奨するという世界保健機関(WHO)の2006年9月15日の記者会見での新たな方針の発表(訳注1)に関し、環境と公衆健康の団体らは、よい意図もこの場合には間違った方向に導かれると警告している。ワシントンに拠点を置く非営利団体ビヨンド・ペスティサイドによれば、マラリア予防のための魔法の解決策として農薬、特に DDT に頼ることを唱道することは非常に危険である。害虫問題の根底にある原因に対して適切に目が向けられないと、DDT のような有毒農薬に依存し続けることは短期的な視点で目を向けられることよりももっと大きな長期的な問題を引き起こす。

 ”DDT の有毒性とその残留性に関連する健康への有害影響については十分に報告されているのだから、国際社会はDDT の使用を拒否し、マラリアのような昆虫媒介の病気を防ぐ共同体レベルの健全で安全な害虫管理を実施する社会的な責任がある”−とビヨンド・ペスティサイド代表のジェイ・フェルドマンは述べている。フェルドマン氏の団体は蚊の発生の予防、防虫剤、蚊帳、殺幼虫剤、そして蚊の発生をもたらしている開発途上国の貧困状態に目を向けた開発取組の戦略を主張している。

 アメリカの政府機関及び国際機関は DDT を発がん性及び神経毒性がある物質として分類している。さらに悪いことには DDT とその代謝物質は内分泌かく乱物質として特定されているということである。DDT 使用の推進者はしばしば、”毒性は用量による”と主張して、DDT の便益がリスクに勝るということで使用することができると主張する。しかし、DDT はエストロゲン様の作用をするので、生命の脆弱な期間に微量でも暴露すると深刻な有害影響を引き起こして生物系に深刻な破壊をもたらす。

 『環境汚染 Environmental Pollution 144 (2006) 902-917』 に発表された研究、 ”南アフリカのマラリア流行地域のヒトの母乳中の DDT とピレスロイド残留の同時存在” によれば、南アフリカにおけるマラリア対策の DDT は、DDT 散布がなされていない住居に住んでいる家族にすら、女性の体内の DDT 残留は国際基準の77倍、WHO の乳児許容接収量の12倍という値をもたらした。科学者らは、広範な人体の汚染は漁獲と飲料用の汚染された水の結果であると信じている。このことは、なぜ社会が、特に発展途上国の社会が、世界中に広がる生態系への DDT の影響に無関心なのかということに光をあてている。

 2006年9月15日の記者会見で、WHO のパネリストらは、DDT の屋内での使用は”安全”であると繰り返し言い、EPAによりクラス B:”恐らく(probable)”ヒト発がん性物質と分類されており、多くの研究が内分泌かく乱性のような他の有害影響を示しているにもかかわらず、科学は DDT がヒトに害を与えないということを示していると述べた。
 発言者らはまた、DDT に反対する人々は自然については懸念するが、アフリカの赤ちゃんのことを考えていないと暗示することで環境/公衆健康の運動家らに亀裂を生み出そうと試みた。
 WHO のマラリア対策部長アラタ・コチ博士(訳注:古知 新(こち・あらた)博士))は、記者会見の冒頭で次のように述べた。”私は環境について懸念する全ての人々に伝える緊急のメッセージをもって、今ここにいます。あなた方の懸念、あなた方の活動、あなた方の英雄的行為は、地球上の野生生物と自然を保護することに役立ってきたし、これからも役立ち続けるでしょう。今日、私はあなた方にお願いがあってここにいます。どうかあなた方が環境を守ることを支援するように、アフリカの赤ちゃんを救ってください。”

 ビヨンド・ペスティサイドのような団体は、マラリアの発生地域で次世代の子ども達を毒することなく効果的にマラリアと戦うことが可能であると信じている。”この化学物質(DDT)に依存した措置では最終的には誰にとっても致命的なこととなるので、我々は、有毒なバンドエイドで貧困と開発に対処するのではなく、昆虫媒介の病気の根本的な原因に目を向けるべきである”−とフェルドマン氏は述べた。


訳注1:
訳注2:(関連記事)




化学物質問題市民研究会
トップページに戻る