ピコ通信/第132号
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2009年度第1回ODA政策協議会
マラリア予防の農薬蚊帳配布 第三者機関によるリスク評価に基づく リスクマネージメントが求められる 2009年度NGO・外務省定期協議会/第1回ODA政策協議会が2009年7月24日に外務省で開催され、外務省(9名)、NGO(23人)、JICA(2名)が出席しました。当研究会からも2名がNGOとして参加しました。 ODAとは、開発途上国への「政府開発援助」のことです。 全体の議題は末尾に示す通りですが、本稿では、外務省定期協議会/ODA政策協議会について簡単に紹介するとともに、今回の議題のうち、「協議事項(2) ODAのリスクマネージメントを考察する−マラリア予防の農薬蚊帳(オリセット)配布を例にして−」の背景と、この議題に対する当研究会の安間武の発言要旨を報告します。 NGO側の問題提起に対し外務省側は「WHOが」「メーカーが」という主体性のない説明に終始し、安間の発言に対しても時間切れで回答することもなく、会議は終りました。次回のODA協議会に出席する機会があれば、この点についてフォローします。 なお、農薬蚊帳の問題についてはピコ通信第128号(2009年4月)と第118号(2008年6月発行)でも取り上げました。 NGO・外務省定期協議会/ODA政策協議会について ■NGO・外務省定期協議会 NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的として、ODAの情報提供やNGO支援の改善策などに関して定期的に意見交換する場として設けられました。2002年度より全体会議に加え小委員会を設立されました。 ◆ 全体会議 開催頻度:年1回 内容:小委員会での協議事項の確認等 ◆ 小委員会 (1)ODA政策協議会 開催頻度:原則として年3回 内容:ODA政策全般 (2)連携推進委員会 開催頻度:原則として年3回 内容:NGOと外務省の実務面での連携推進 (以上外務省ウェブページより) 2000年度以降の各会議の議事録は外務省の下記ウェブサイトに掲載されています。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/kyougikai.html ◆ODA政策協議会 公募で選出された5名のコーディネーター(*)がNGOと外務省の協議の場を確保し、ODA政策についての協議を深化させるための責務を担います。具体的には、各NGOから議題を収集し、外務省と調整を行い、議論の論点を絞り込み、議運(案)を練ります。 (ODA政策協議会事務局からの案内メールによる) (*)ODA政策協議会コーディネーター 西井和裕 (特活)名古屋NGOセンター 池田晶子 農業・農村開発NGO協議会 加藤良太 (特活)関西NGO協議会 高橋清貴 ODA改革ネットワーク 谷山博史 (特活)国際協力NGOセンター - ------------------------------------------------------ 協議事項(2) ODAのリスクマネージメントを考察する −マラリア予防の農薬蚊帳(オリセット)配布を例にして− ------------------------------------------------------ 1.議題の背景 NGOが事前に提出した議案では、次のように述べています。 ■昨年度第2回ODA政策協議会で議論された農薬蚊帳(オリセット)の危険性について、フォローアップとして、今回は、危険性の指摘されている物品をODA資金で配布することの是非といった普遍的課題を、オリセットの配布を例にして議論したい。 ■2008年12月2日開催の「2008年度第2回ODA政策協議会」にてODAによるマラリア予防の農薬蚊帳(オリセット)の配布について議論したが、外務省側は@農薬蚊帳の有害性は一部の学者が論文を上梓したに過ぎず証明されていない。AWHOが認めたものである。との理由でNGO側が求めた配布の妥当性に関する検討を退けた。(但しWHOおよびその下部機関やしかるべき公的機関からの危険性の指摘に関しては、NGO側からの情報の提供を歓迎、外務省としても内容を把握していく旨の「前向き」な回答もあった。) ■同協議会でNGOより出されたODAのリスクマネージメントに関する問題提起(安全性が証明されていない住友化学製の農薬蚊帳をはじめ、それに類する物品をODA資金で配布することの責任について議論を深めたい。 2.議題に関わる問題点 コーディネーター、池田晶子氏(農業・農村開発NGO協議会)から、ODAのリスクマネージメントとして、将来的に危険性が証明される可能性のあるものを途上国に提供することの是非について問題提起がありました。(詳細略) 3.リスク評価とリスクマネージメント 池田晶子氏の問題提起を受けて、当研究会の安間武が問題点の説明を行いました。発言の要旨は下記の通りです。 (1) 巨額のODA資金を供与するにあたっては、その案件に関し第三者機関により科学的なリスク評価が行われることが重要であり、そのリスク評価に基づき、供与案件とするかどうかのリスクマネージメントが行われなくてはならない。 (2) マラリア予防の農薬蚊帳(オリセット)に関しては、外務省は、「WHOが認めている」、「メーカーが安全であると言っている」など主体性のない説明で、オリセットの正当性を擁護しているが、これはリスク評価ではない。 (3) 科学的なリスク評価を行うために下記が考慮されなくてはならない。 ▼ペルメトリンの有害性について様々な指摘がある。例えば (a) 欧州連合では農薬としての活性成分ペルメトリンは水生生物に有害であることが主たる理由で2000年に登録が抹消された。 (b) 発がん性について米EPAは「ヒトに発がん性があるらしい」と分類している。 (c) ペルメトリンの有害性を報告する研究がある。本日の会議の冒頭でもサパ(*)の野澤氏からペルメトリンが血管の新生を阻害するという新たな研究報告が配布された。 (注)上記以外に、サパを通じて外務省に文書ですでに示したものとして、国際化学物質安全性カード(ICSC番号:0312)のペルメトリンに関する下記指摘がある。 ・水生生物に対して毒性が非常に強い。 ・通常の使用法でも環境中に放出される。 ・不適切な廃棄などによる放出を避けるよう充分に注意すること。 (*)特定非営利活動法人 サパ=西アフリカの人達を支援する会 ▼マラリア予防のための蚊帳には、有害な農薬ペルメトリンを練りこんだオリセット以外に、農薬を使用しない安全な通常蚊帳があり、十分な実績と効果があることがサパから報告されている。 ▼蚊帳の選択にあたっては、効果、費用、安全性について、第三者独立機関により科学的に評価されるべきである。 ▼ペルメトリン耐性蚊発生の報告がある。 ▼オリセットの安全性評価は、オリセット使用時の安全性だけでなく、製造時、使用時、廃棄時というライフサイクルでの人と環境に及ぼす影響が評価されなくてはならない。 ▼ペルメトリンは水生生物に有害なので、使用済みの膨大な量のオリセット(外務省の説明では2008年度の供与数は140万帳としているが、ODA供与対象以外も含めてアフリカで配布されているオリセットの数を精査する必要がある)の廃棄処分について十分なリスク評価が必要である。 (4) リスク評価に基づくリスクマネージメントにおいて考慮されるべきこと ▼リスクマネージメントにおいては、予防原則とノーデータ・ノーマーケット原則が適用されるべきである。 (予防原則) ▼予防原則は、合理的な懸念があれば科学的に必ずしも因果関係が十分に立証されていなくても、事前に予防的措置をとるという考え方であり、欧州連合の環境政策では予防原則が前提となっている。 ▼予防原則を適用すれば、被害を最小限に食い止めることができた事例として、日本には水俣病やアスベスト被害がある。 (ノーデータ・ノーマーケット) ▼従来の化学物質管理においては、被害を受けた側がその化学物質の有害性を立証しなくてはならず、有害性が立証されなければ規制されないというノーデータ・ノーレギュレーションの考え方が主流であった。 ▼しかし、近年、欧州連合を中心に、予防原則の考え方とともに、化学物質の供給者がその化学物質が安全であることを示さなければ市場に出すことはできないとするノーデータ・ノーマーケットという考え方にシフトしてきている。 ▼2006年6月発効の欧州連合の新たな化学物質規則 REACHは、予防原則とノーデータ・ノーマーケットの理念に基づいている。 (5) 結論 第三者による科学的なリスク評価を実施し、予防原則とノーデータ・ノーマーケットに基づくリスクマネージメントにより、ODA資金で農薬蚊帳を配布することの是非を決定すべきである。 (安間 武) 第1回ODA政策協議会議題 外務省報告事項【外務省】 (1) 国際協力局機構改革について (2) ラクイラサミットについて 協議事項【NGO】 (1) ODA中期政策改定に向けて前回改定時(2004年度)プロセス振り返り (2) ODAのリスクマネージメントを考察する マラリア予防の農薬蚊帳配布を例にして |