EHN 2009年6月16日
農薬は現在のものも過去のものも
家庭の床に残留している

解説:ヒーサー・ハムリン、ウェンディ・ヘスラー

情報源:Environmental Health News, Jun 16, 2009
Pesticides linger in homes, whether we use them or not
Synopsis by Heather Hamlin and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/pesticides-linger-in-homes-whether-we-use-them-or-not/

オリジナル:Stout, DM, KD Bradham, PP Egeghy, PA Jones, CW Croghan, PA Ashley, E Pinzer, W Friedman, MC Brinkman, MG Nishioka and DC Cox. 2009. American healthy homes survey: a national study of residential pesticides measured from floor wipes.
Environmental Science and Technology 43:4294?4300.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年6月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090616_pesticides_linger_homes.html


 新たな研究が、アメリカの市場で禁止されて数十年経つ農薬が家庭に残留し続けていることを示している。これらの農薬への現在の暴露は健康リスク評価で検討されるべきである。子どもたちは床に接触することが多いので特にリスクが高いであろう。

何をしたのか?

 専門家がワイパーで床の表面を拭き取り、残留殺虫剤を分析できるよう埃のサンプルを採取した。サンプルは全米で500家庭から採取された。

 拭き取りは、ヒトが頻繁に歩いたり調理する場所(例えば調理ストーブの前)などから離れた場所の台所の床で行われた。

 サンプルは、現在及び過去に住宅用に使用されている(された)有機塩素系、有機リン系、ピレスロイド系及びフェニルピラゾール系の家庭用殺虫剤(訳注1)に対して24時間の分析が行われた。


何がわかったか?

 フィプロニル(訳注2)とペルメトリンは、それぞれ40%及び89%の家庭で見つかった。

 すでに数十年前から禁止されているDDTとクロルデンは、それぞれ42%及び74%の家庭で見つかった。DDTの分解物質であるDDEは33%の家庭で見つかった。

 この数年間、住宅地での使用が既に許可されていないクロルピリフォスとダイアジノン(訳注3)はそれぞれ78%及び35%の家庭で見つかった。

 現在使用されているピレスロイド系農薬は最高のレベルで検出されたが、その濃度は家庭や化学物質のタイプにより大きく変動した。有機塩素系及び有機リン系農薬は非常に低いレベルで検出され、テストされた家庭の中でかなり一貫していた。

何を意味するか?

 この研究は、多くの殺虫剤、そのうちのあるものはアメリカの市場では数十年間禁止されている−は、家庭で残留し続けていることを示している。

 現在禁止されている農薬の残留性、及び、ペルメトリン(訳注4)やフィプロニルのような現在使用されている農薬の新たに出現している健康影響は、農薬の危険性をもっと評価する必要性をハイライトしている。アメリカ人は現在使用している。著者らは、”クロルデン、クロルピリフォス、ペルメトリンの高い頻度での検出が観察されるされるということは、これらの化合物は我々の生活空間のあらゆる場所に存在しており、過去のものも現在のものも家庭に存在に残留している”と指摘している。

 これらの家庭の大人も子どももこれらの化学物質に間違いなく暴露しているであろうが、そのレベルと影響は分からない。子どもたちは床への接触頻度が高いので特に健康リスクが懸念される。長らく禁止されている農薬がアメリカの家庭に残留しているのだから、将来の世代もまたそれらに暴露することになる。

 これらの新たに特定された暴露は、公衆安全規制を導く健康リスク評価において検討されるべきであると著者らは勧告している。

 数十年間の禁止にも関わらず、DDTとクロルデン(最も高頻度で検出された殺虫剤3つのうちの1つ)は未だに多くの家庭に存在している。DDTは、その文化物質DDEより高い割合で見出されている。このことは、DDTは家の中では太陽光やバクテリアが不足なので、家の中では十分に分解しないことを意味するかもしれない。そのことはまた、アメリカの住民は現在のDDTに暴露していることを意味するかもしれない。

 現在使用されているピレスロイドは、最も共通に検出される殺虫剤であり、最も高頻度に検出される。ペルメトリンは測定された中で最も高い濃度であった。著者らをもっと驚かせたことはクロルピリフォスのレベルであった。クロルピリフォスは住宅用とではもはや利用できないことを考えると”高すぎる”ように見えた。

 ぺルメトリンもまたテストされた家庭の90%近くから検出された。この化学物質はヒトの精子に損傷を与え(Human Reproduction 23: 1932-1940)(訳注5)、動物のホルモン生成を変えることを示す最近報告があり懸念される。しかし、ペルメトリンへのヒトの暴露と影響についてそれ以上にはほとんど知られていない。アメリカでは床上に測定可能な量のペルメトリンが残留している家庭の割合が高いので、もっと多くの研究が必要である。

 この今研究は、人々が現在暴露している共通の汚染物質のタイプとレベルを理解する上で規制当局の助けとなる農薬の頻度と量の基準線を確立した。この様な研究は、アメリカにおける健康懸念を及ぼす家庭要因を特定するのに役立つ。


訳注1:殺虫剤
訳注2:フィプロニル
訳注3:クロルピリフォスとダイアジノン
訳注4:ペルメトリン
訳注5:ペルメトリン暴露によるヒトヒト精液の質と精子DNA損傷
  • Human Reproduction 2008 23(8):1932-1940; doi:10.1093/humrep/den242 published online on June 25, 2008 / Human semen quality and sperm DNA damage in relation to urinary metabolites of pyrethroid insecticides
    ピレスロイド系殺虫剤の尿中代謝物に関連するヒト精液の質と精子DNA損傷
    アブストラクトの概要:
    背景:合成ピレスロイド系殺虫剤への暴露は広範囲にわたっており、他のよく使用される殺虫剤の法的使用制限のためにそれらに代替されるので、一般大衆の暴露が増加することが推測される。限定された研究によれば、ピレスロイド暴露により動物とヒトの生殖系又は内分泌系が影響を受けるという証拠がある。
    方法:本研究は、不妊治療クリニックから募集した207人の男性について、尿中のピレスロイド代謝物[3-phenoxybenzoic acid (3PBA) 及び cis- and trans-3-(2,2-dichlorovinyl)-2,2-dimethylcyclopropane carboxylic acid (CDCCA and TDCCA)]、 精液の質、精子運動パラメーター及びDNA損傷をコメットアッセイ(neutral comet assay )により測定した。
    結果:
    結論:ピレスロイド系農薬の尿中代謝物に関して精液質低下と精子DNA損傷の証拠を明らかにした。これらの発見はピレスロイド系農薬使用の増大と広範なヒト暴露のために懸念となる。


化学物質問題市民研究会
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