再び夢幻飛翔様の百合ノベル。
●聖霊天華〜君とこそ 春来ることも待たれし〜
「聖霊天華」シリーズ。中国風ファンタジー世界で繰り広げられる物語です。
現在は1本だけ公開ですが全4作予定とのこと。
春の都の物語。
主人公・たんぽぽは、貧しい村で生まれ育ちます。両親は亡くなり1人で暮らしていた時、小さな女の子が村に迷い込み、たんぽぽは彼女を助け姉妹のように一緒に暮らします。
「うーちゃん」と呼ぶ少女との生活は貧しく、常に死と隣り合わせながらも、共にいられることが幸せ…だったのですが、ある日突然「うーちゃん」はたんぽぽの元から連れ去られてしまいます。
彼女を連れ去った人々は背に翼を持つ特別な人達。生命力を操ることも出来る神様のような力を持つ「天華」と呼ばれる人でした。舞台となる春の都では3人の「天華」がいます。
成長したたんぽぽは、「うーちゃん」の手がかりを求め、天華に近づくための手段として神職になるための試験に挑戦し続けます。「神職」は天華の仕事を助ける補佐役のようなものでこの世界では役人に近い感じの地位。身分や血筋は問われず、試験に合格すればなれるため、たんぽぽは10年もの間必死に試験を受け続けて何とか神職になろうとします。
そんなある日、たんぽぽは都の郊外で、「うーちゃん」にそっくりの天華に会います。でも彼女は初対面のように振舞い、こちらを覚えていないようでしたが…
てところから始まる話です。
正直言って「百合ノベル」って片づけられるとちょーっと勿体ないー。たんぽぽちゃんは文字の読み書きすら出来ないよーな所から這い上がって、いやもちろん運も味方はするけど、それでも、もんのすごい努力を重ねる。才能もない、特別でもない、頭が悪い、無能、とさんっざん周りから蔑まれ罵られても諦めず、「うーちゃん探し」だけではなく、天華の力にまつわる奇跡をその純粋な心で育ててゆく。最後すっごい逆転ホーランなんですよ、爽快です。成長譚としてもなっかなか面白いですヨこのお話。
百合とは言ってもそこまで恋愛恋愛していない。キッスはあるけど、なんつーか、機能としてそうする必然性みたいなのがついて来るので色っぽさ皆無(※いい意味で)。
「百合」に引きずられず女子成長物語としても良き良き。なので百合が敬遠材料になっちゃってたりするとちょっと残念だなー。いい話。
あと不思議ルビはだいぶ少ないので気になりません!w
●Euphoric_Create
こちらはWindows版は3作目まで公開済。Androidに来ているのは2本目まで。
世界観が。見た目荒廃はしていないもののだいぶディストピアです。ある意味withコロナの時代っぽいんだけれど最初のリリースは2015年なのでそういう意識ではなかったとは思うのですが。
人間が他人と関わることを止めてしまった世界。人々はベーシックインカム制度が整備されているので働く必要性すらない。主人公の弥生ちゃんも必需品のお買い物以外はほぼ外に出ることなく引きこもり生活ですが、「引きこもり」という言葉自体がある意味死語になっている。みんながそうだから。
人間は工場で「生産」され(人工授精で、なのでロボットって訳じゃない)、AIやらロボットやらによって最低限の教育を施されて社会に送り出される。結婚セックス妊娠出産というプロセスは絶滅している。「趣味で」家族を作る(結婚っぽいことをする)人もいるけど、やっぱり妊娠出産はめんどくさいのでやらないものらしい(もちろんやりたいという人もいる…ので、妊娠出産で生まれた登場人物も出て来る)。
買い物は相変わらず店でやるものだけれど店員はいない(機械がやっている)。ちなみに通信販売もあるにはあるが送料がバカ高い。運ぶ(という仕事を担う)人間がいないからだ。
この世界に於いて大きな存在はもう1つ、「ディジアイン」という薬。飲むと自分の幻想を具現化することが出来るという代物で弥生ちゃん曰く「依存性のない麻薬」。彼女も自分の部屋や買い物の行き帰りなど、理想の「彼氏」を隣に侍らせたりして日常的に使っている。商品を売る店でも、食料品や日用品の販売棚よりディジアインの販売スペースの方が明らかに広くて大量に並んでいる。値段は「風邪薬より安い」ぐらいのものらしい。もちろん合法。弥生ちゃんも、食糧が切れた、よりも、ディジアインが切れた、で買い物に行こうと仕方なく外出する、程度には「必需品」であるらしい。
…そんな世界で生きている主人公・弥生ちゃん、当然「両親」も存在しない。彼女は生まれてこの方、自分以外の人間と関わったという経験が全くない。
そんな弥生ちゃんの前に、ディジアインの「幻想」を使った大道芸のようなことをしている少女・千架ちゃんが現れる。弥生ちゃんは千架ちゃんが操る幻に魅かれ、その幻に「触れた」途端に、今まで感じたことのない感情に襲われる。他の通行人がいなくなってしまっても千架ちゃんから目が離せなくなってしまった弥生ちゃんは、自分のその気持ちが、フィクションでしか知らなかった「恋愛」なのではないかと気づいて動揺する。
それでも、千架ちゃんと離れがたいと感じてしまった彼女は、見様見真似で千架ちゃんと同じようにディジアインの「幻想」を操ろうとして失敗するのですが、その努力を見初められて千架ちゃんは弥生ちゃんを、自分たちの拠点である「コミュニオン」に招待する。
千架ちゃんはディジアインの幻ではなく人と人が直接関わることを大切にしようとしていた。コミュニオンのメンバーもその理念で集めたメンバーらしいのですが、メンバーたちのほとんどは弥生ちゃんと同じように、千架ちゃんが操る幻に触れたことで彼女に心酔しているらしいことが見えて来る。たくさんのライバルに囲まれながら、弥生ちゃんは千架ちゃんに認められたいという気持ちのままに徐々に変わって行くのですが…。
みたいな感じのお話です。
こちらも百合モノ…ではあるけど弥生ちゃんの変化ぶりを追いかけるお話でもあると思います。人と関わるという経験値ゼロの人間が「他人と会話する」ことがちゃんと出来るのはちょっと不思議っちゃー不思議ではあるけど……まあ教育の成果ってことにしておきますか(笑)。元々ぼっちの主人公はそれを特殊と思っていないので、変に同調圧力とか空気を読んでみたいな感じにならないのはいいなーと思う。
登場人物に男が1人もいないの徹底してるなぁ…。男女である必要性のない世界観だからそれでも違和感ありませんしね。恋愛、というモノが絶滅しかかっているこの世界だと「人を好きになる」こと自体がある意味で狂気というか…「歪んでる」感じ。
最後はほんの少しの希望も見えます。…それにしても主人公の弥生ちゃんモテ過ぎだな(笑)。
●Euphoric Create〜Stairs of Affection〜
2作目。同じ世界観の中で違うカップルが描かれます。
こちらの主人公は公務員の撫子。この世界では「公務員」は工場で生産される時から公務員になるべくして育てられ、機械の歯車のように同じ日々を繰り返して一生を終わるものとされている。その生活が当たり前だと撫子は思って日々を過ごしている。
彼女の役割は「守る」こと。ディジアインが普及したこの世界では、幻想の中でなら犯罪もやりたい放題のため、かえって現実での犯罪は激減していて平和そのもの…なのだが、まれにディジアインに呑まれてしまい理性を失い犯罪行為を行なってしまう人間もいる。そんな人間は「発狂者」と呼ばれ、殺すことも認められている。家族も職場もない世界なので誰かが死んだとしてもどーこー言うやついませんしね。
撫子は毎日街を見回り犯罪行為を取り締まる。出会う確率は半年に1回あるかないか程度らしいです。
…でそんな見回りの時に、発狂者らしき女性に襲われている女の子を助けた…はずなのだが、助けた少女・百々は、「暴力はいけない」と何故か撫子に説教する。面食らっている間に発狂者は逃げてしまう。百々はその発狂者と「話をしようとしていた」と訴える。
そして、どういう訳か百々に気に入られてしまったらしい撫子は、その逃げた発狂者を一緒に探すことになり、あまつさえ、その発狂者を落ち着かせ現実に引き戻すことに成功してしまう。普段は「処分」して終わりなのに。
ただ、その過程で百々の置かれた特殊な事情に気づくことになってしまい、今まで感情など感じたことのなかった撫子の心に変化が起き始める。
百々ちゃんは前作にも出て来る組織「コミュニオン」のメンバーです。という訳でコミュニオンの方々もがっつり出て来ます。弥生ちゃんも千架ちゃんも。
この世界の機能維持のために働くのみ…のロボットのような撫子が、人と直接関わる人を是とする百々に振り回され、本来は不必要なはずの「感情」を徐々に取り戻してゆく物語、という感じではあります。
前作ではどっちかっつーと魔法っぽい描写だったディジアインの成り立ちにおける闇がちらちらと語られるのもなかなかに興味深い。確かに「薬」として作られてるんだからそーゆーことになるのですよねえ…。このディジアインの「過去」を知ると、百合モノとして作られているけれども世界観がやっぱりディストピアSF…っていう感じです。ある意味だいぶ怖い。
固定リンク / 2021.10.30
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