被団協新聞

非核水夫の海上通信【2017年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2017年12月 被団協新聞12月号

被害者援助 日本は貢献できる

 核兵器禁止条約は第6条で、核兵器の使用・実験で被害を受けた人々に医療的、社会的、経済的援助を行う義務を締約国に課している。また、核兵器の使用・実験に関連する活動で汚染された環境を回復する義務も課している。人道・人権法の観点から定められた条項だ。広島・長崎の被爆者援護の歴史と福島の除染を経験している日本はまさに貢献できるし、しなければならない分野だ。
 条約は50カ国が批准すると90日後に発効する。それから1年以内に締約国会議が開かれる。以後2年ごとに同会議が開かれる。核兵器禁止条約プロセスが始まるのだ。
 その中で、核廃棄の検証制度や被害者援助の詳細を決めていくことができる。
 締約国会議には非締約国もオブザーバー参加できる。仮にすぐには署名・批准しなくても、日本はこうした議論から逃げることは許されない。

2017年11月 被団協新聞11月号

廃業と検証 核兵器放棄の道すじ

 核兵器禁止条約は、核保有国が核を放棄する道筋を定めている。締約国は核兵器を保有しているか申告し(第2条)、核兵器をかつて保有していた国または現に保有している国は廃棄、検証を行う(第4条)。「廃棄した後で条約に入る」か「条約に入った後に廃棄する」かの二つの道筋がある。後者の場合は時限を切った廃棄計画を策定し、国際機関の監視の下で検証する。核兵器そのものだけでなくその「計画」すなわちインフラも完全に解体し再核武装を防ぐ。
 核廃棄をどのように検証するかなど実務的な詳細は今後の締約国会議で議論され、議定書を作ることもできる。
 例えば今後北朝鮮が核放棄を受け入れた場合、禁止条約の下で確実な核放棄をさせることができる。北朝鮮の核があるから禁止条約に参加できないではなく、北朝鮮の核問題の解決のためにも禁止条約が有効なのだ。

2017年10月 被団協新聞10月号

条約第1条 威嚇、援助、勧誘も禁止

 核兵器禁止条約は第1条で、禁止事項を定めている。(a)核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵。「実験」は核爆発実験に限らず未臨界実験なども含まれると解される。(b、c)核兵器とその管理の移譲と受領。(d)使用および使用するとの威嚇。原案には「威嚇」は含まれていなかったが、交渉の中で取り入れられた。
 さらに(e、f)これらの行為の援助、奨励、勧誘。(g)自国内への配置、設置、配備。これらの項目は、日本のように自らは核を持たないが核保有国と協力している国にとって重要だ。「融資」や「通過」は禁止事項に入らなかったが「援助」に含まれると解しうる。
 第一条は締約国は「いかなる場合も」これらの行為を行なわないとしている。国家の自衛のためとか、どこかの国が約束を破ったからこちらも、との言い訳は許されない。

2017年9月 被団協新聞9月号

禁止条約前文 核兵器の使用を否定

 核兵器禁止条約のポイントを今月から数回にわたり解説する。まずは前文について。
 前文には、条約の理念や拠り所が記されている。核心は、いかなる核兵器の使用も国際人道法違反であるとしている点だ。その前提として、核兵器がもたらす破滅的な人道上の結末やそのリスク、被爆者や核実験被害者が受けてきた苦しみが位置づけられている。
 核実験で特に苦しめられてきた先住民族への言及や、放射線が女性に影響をもたらすことへの言及もある。
 その上で核軍縮の遅さと核兵器に依存した軍事政策への憂慮を表明。既存のNPT、CTBT条約の重要性も確認している。
 平和教育の重要性を掲げ、核廃絶に向けた赤十字やNGO、被爆者らの努力を認識すると締めくくっている。被爆者を含む市民社会が主体であることを明示したものといえる。

2017年8月 被団協新聞8月号

禁止条約 日本はどうする

 歴史的な核兵器禁止条約が採択された。9月20日に賛同国の署名が始まる。
 日本政府は、核兵器国と非核兵器国の協力が必要であり、外交上のアプローチが異なるので署名しないと説明している。条約の中身については「条約交渉に参加していないのでコメントしない」のだそうだ。
 中身の批判はしていないものの、本質的問いから狡猾に逃げている。現にここにある条約に、署名するのか、しないのか。しないなら、なぜか。
 禁止条約は核を作らない、持たない、使わない、他国の核を配備しない、これらを援助しないと定めている。日本は作らない、持たない、持ち込ませないは非核三原則で約束済みだ。残るは「使用しない、援助しない」である。

2017年7月 被団協新聞7月号

運搬手段 ミサイルをどうする

 北朝鮮がミサイルの発射を繰り返している。日本では電車を止めたり避難訓練をしたりといった動きもあるが、北朝鮮が日本に実戦攻撃をしかけてきているかのように受け止めるのは行き過ぎだ。北朝鮮は核兵器を運搬する手段としてミサイルを開発している。核弾頭をミサイルで運ぶ能力があることを世界に見せつけようとしている。米本土に届く長距離ミサイルもいずれできるというメッセージを発しているのは、米朝交渉を見こしたデモンストレーションだろう。
 日本ではミサイル迎撃の新システム導入論が高まっている。だが実戦での精度は疑わしく、米軍事産業を利するだけ。結局、北朝鮮の核とミサイル開発を凍結させる取引と合意を結ぶほかない。その交渉をどう進めるかの議論こそ重要なのに、危機感を煽って制裁強化の一辺倒では、出口は見えてこない。

2017年6月 被団協新聞6月号

国連会議 全会一致と拒否権

 5月のNPT準備会合で米国は「コンセンサスの文化」が重要だと述べた。コンセンサス(全会一致)に基づく意思決定が大切で、その放棄は害悪だという。暗に核兵器禁止条約交渉を牽制したものだ。禁止条約は、コンセンサスが無理なら多数決での成立を想定している。
 コンセンサスといえば響きはよいが、実際には拒否権を認めることだ。2015年NPT再検討会議では、まとまりかけていた最終文書を米英など3カ国が拒否して決裂させた。ジュネーブ軍縮会議はコンセンサス方式のため20年にわたり機能マヒだ。核物質生産禁止に反対するパキスタン1国が全体作業を止めている。
 現にコンセンサスを妨害してきたのは他でもない核保有国だ。禁止条約はまずは保有国抜きの多数決でも成立させ、その後保有国を関与させていくというのが合理的な道だ。

2017年5月 被団協新聞5月号

ミサイル攻撃 国連憲章で原則禁止

 アサド政権が化学兵器を使用したとして米国はシリアにミサイル攻撃を行なった。国際法に完全に違反する行為だ。
 国連憲章は2条で加盟国による武力の威嚇と行使を原則禁止している。その上で国連の集団的軍事行動と自衛権発動の場合を例外としている。今回はどちらにも当たらない。
 化学兵器の使用が疑われた場合は化学兵器禁止機関による査察を進めるのが筋だ。最終手段で軍事行動をとるのなら、国連安保理決議を通さなければならない。かつてイラク戦争を強行したブッシュ政権でさえ、安保理決議を通すことを試みはした。トランプ政権はその試みもせず、一気に軍事行動に出た。
 翻って日本国憲法9条は、武力の威嚇や行使を「永久に放棄」している。だが今や日本は武力を基軸とした米外交を全面支援しているのが現実だ。

2017年4月 被団協新聞4月号

NPT 第6条に核軍縮義務

 核兵器禁止条約を新たに作ることは現存の核不拡散条約(NPT)体制を脅かすものだとの批判がある。だがそれは言いがかりだ。
 そもそも核兵器禁止条約は、NPT第6条の核軍縮の「効果的措置」として議論が始まったものだ。第6条は核軍縮に関しNPT加盟国は「誠実に交渉する」と定めている。禁止条約交渉をボイコットすることは、この誠実交渉義務に違反する。
 禁止条約ができるとNPTを脱退する国が現れるとか、禁止条約では北朝鮮を規制できないとかいう指摘もある。だがそれらはそもそも現存のNPT自体が抱えている問題だ。
 5月にNPT準備委員会が始まるが前進は見通せない。トランプ政権は核軍縮義務などどこ吹く風で、中東問題も絶望的だ。NPTは行き詰まっている。だから新たなアプローチが必要なのだ。

2017年3月 被団協新聞3月号

日米首脳会談 「核の傘」は安全か

 トランプ政権初の日米首脳会談で、米側は日本を防衛する約束は「揺るぎない」と表明。日本政府は「安堵」したと報じられた。これまでの言動から、トランプ氏は日本防衛から手を引くのではないか心配されていたからだ。
 両首脳の共同声明は「核及び通常戦力」を使って米国は日本を防衛すると明記した。「核の傘」を再確認した形だ。
 8年前、オバマ大統領は核の先制不使用政策を採用しようと試みた。だが日本などが「核の傘」の弱体化を心配して抵抗し、結局実現しなかった。
 しかし今日、米国が日本のために核を使用するとか先制使用までするといったことが現実的にありえるだろうか。
 現実的検討より、「核の傘」が日本を安全にしているというドグマの方が、未だにこの国の政策決定を支配しているようだ。

2017年2月 被団協新聞2月号

核禁止条約 非核国が作る意味

 昨年末の国連軍縮長崎会議では、核保有国や日本など核の傘下国が核禁止条約への反対論を異口同音に唱えた。その主張は3点。第一に禁止条約はNPTに反する。第二に核兵器禁止は安全保障を軽視している。第三に核保有国の参加しない禁止条約には意味がない。
 一つずつ反論しよう。第一に核兵器禁止条約はNPT第6条の核軍縮のための措置として提起されたものだ。禁止条約はNPTを補完する。第二に核兵器禁止は現実の核リスクを減らす。核抑止が永久に保たれると信じるのは非現実的だ。第三に対人地雷でもクラスター弾でも、まずは保有国抜きで禁止条約が作られ、それが後に保有国を動かす力となった。
 プーチン、トランプ両氏は核軍拡に舵をとっている。だからこそ今良識ある非核国が核兵器禁止条約を作ることに意味がある。

2017年1月 被団協新聞1月号

2017年 核兵器禁止の年に

 2017年は核兵器禁止条約をつくる歴史的な年となる。核の非人道性に関するこれまでの運動を土台に、3月に国連で交渉が始まる。過去の地雷やクラスター弾の例をみれば、1〜2年で条約をつくることは十分に可能だ。
 核保有国が交渉に参加しなくとも、圧倒的多数の非核国で国際ルールをまず作り、保有国を包囲する。問題は、日本のような「核の傘下」の国々だ。
 核の傘下国は、核兵器の実験や保有は既にNPTで禁止されている。問題は核の使用だ。傘下国は核を自ら核を使う訳ではないが、米国に使用してもらう。そのための援助、輸送や協議もする。
 核抑止とは核使用の威嚇だ。禁止条約交渉はこうした核抑止政策の合法性を問うものになる。必要論を説く者もあろう。核の使用が何を意味するのか、今改めて語らねばならない。