浜野氏

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パックマン・トミーFL濱野氏インタビュー付録:トミーLSIゲームスカタログ


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19early80年のクリスマスとあけて81年の正月、任天堂のゲーム&ウォッチがおもちゃ売り場で突然バカ売れする現象がおこった。当時の問屋たちは業界誌でああだこうだと勝手な解釈を展開していたが、それは子供たちが自分の時計が欲しかったから、と見抜いた者はひとりもいなかった。自分専用の時計は、その頃の少年たちにとってLSIゲームの出現以上に事件だったのである。
ただ、ゲーム&ウォッチとは”時計になるゲーム機”。これをどうどうと学校へ持っていくと先生にしかられたので、チビッコたちは、塾へいく時間管理のためだとか言って、なんとか凛とした腕時計を左腕につけたかった。だからして、そういう僕らが欲しがっていた腕時計というものは、ミッキーマウスのお子様用ではなく、いかにもビジネスっぽいかっこのつくものでなくてはならなかったのだ。

 前置きが長くなったが、1981年にトミーから発売された初代ウォッチマンは、ゴルフボーリングというゲーム内容が示すように子供向けの製品ではなかった。しかし、文具売り場などでも展開していたにもかかわらず、結局玩具売り場で子供が買うケースが一番多かったときく。理由は述べたとおりで、これは任天堂G&Wも全く同じ構図だった。

皮肉なことに、子供向けにターゲットをしぼった結果、第二世代以降のウォッチマンはより軽くよりカラフルで子供が好きなキャラクター志向に移るようになってしまった。当然バリエーションは増えたものの、時間を見るだけに腕時計を何本も買うという人間もいないわけで、結局、G&Wと同系統のデジプロ3000シリーズでの展開となり、キッズ向け玩具への道をまい進してしまった。

items気に入らなかったのは中学生くらいのせのびざかりの世代(つまり僕)だ。たしかにフィッシングは史上1、2を争う傑作だし、プロレス水道管のアニメも悪くない。けど、入試や模試会場でこんな腕時計のイミテーションをつけている奴はバカにされた(^^;。 じゃあ、普通の腕時計をつければいいじゃないか、と言われそうだがそれもちょっと違う。普段はまぎれもないビジネス時計が、スイッチひとつでゲーム機にトランスフォームする、そんな対世間を意識した時計こそ腕につけたかったのだ。そしてそれをトミーならやれるとふんでいたのだ。というのは、第二次キッズ系ラインアップの中に、唯一マーシャンウォーなる高価でアダルトな異色の機種が存在したからだ。こいつは金属製で二層式液晶。ゲームがつまらなそうなのが、スリムボーイみたいなも対ヤングアダルト製品だったのだ。ただ、マーシャンウォーは時計モードのUFOの絵がまだ子供さというか、ハイセンスに一歩及ばないものがあり、これを試験会場につけていくのはまだちょっと違うだろうと思った。

その溜飲が下がる大傑作がやがて登場する。おそらくウォッチマン最終作(1983年):モンスターヒーロー。当時僕はプロトタイプを紹介したカタログだけでしかその存在をしらなかったが、こいつはビジネスマンが腕につけていても違和感がなく、しかもゲームとしてもとびっきり最高のものを備えていた。
 まず、時計として数字が大きい。時計機能はおまけではないという主張、通常画面だけ見ると、とてもゲームができる時計とは思えない。ミニデジタル表示による日付、カレンダーもついている。ランプが点き、アラーム機能に、消音機能までついていた。
ゲーム機としてはさらにすごい。4方向マイクロジョイスティック搭載(!!!)でパックマン型自在に動かせ、ギブアップスコアが存在し達成感があるドットイート。こんなに小さいのにフルーツターゲットもちゃっかり出現したし、さらに迷路が刻々と変わるモードBまで搭載されていた。
 ゲームと時計を両立される手段が、ぜいたくすぎる2層式液晶スクリーン構造だ。これだけ充実していて他機種とさしてかわらない6,000円。ブラックの渋い色目。玩具には全く見えない。完璧! 計算や防水機能は蚊帳の外ではあったが、世界でこんな最高の時計があっただろうか。

モンスターヒーローこいつをなんとか入手した頃は、僕はすでに高校生だった。発売後数年たった電子ゲームブームも過去の頃で、地方のおもちゃ屋を回ってもみつからなかったし、本当に発売されたのかさえ疑問だった。初めて見たときは心躍ったし、案の定、その期待にたがわぬ喜びと興奮を僕に与えてくれた。当然クラスの誰の腕時計よりもクールだったが、これまた案の定、部室のロッカーから盗まれてしまった。

その後、SPOONなどに浮気しながらも、数年後に社会人デビューした後、ようやくモンスターヒーローを再入手したんだけど、上等品にはとにかくうるさい上司、ビジネスマナーに超厳しい先輩までが「お前の時計はおもしろいなあ」「それなら得意先につけていっても大丈夫だよ」と太鼓判を押してくれたのには心底うれしかった。
 モンスターヒーローとは、僕が世間と電子ゲームの関係を考える上で欠かすことの出来ないスーパーガジェットなのだ。トキマなんて目じゃない。誇らしきクラシックゲーム機なんである。


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