骨 子
1 原爆症の要件である起因性の証明は相当程度の蓋然性の程度で足りる。
2 遠距離被爆における具体的、個別的被爆者の呈する個々の傷害又は疾病ないし治癒能力と放射線の影響の有無を検討するにあたって、DS86自体を絶対的尺度としてそのまま適用することには躊躇させる要因がある。
3 行政通知は、具体的、個別的被爆者の呈する個々の傷害又は疾病ないし治癒能力と放射線の影響の有無を検討するにあたっての判断基準として十分に参酌されなければならない。
4 被控訴人は、旧原爆医療法七条一項前段・後段の一括適用によりあるいは同項後段の適用により原爆症と認められる。
5 被控訴人の疾病と原爆放射能の起因性を否定できるとした原子爆弾被爆者医療審議会の調査及び判断の過程には看過し難い過誤、欠落があり、これに依拠してなされた本件却下処分には取り消すべき違法事由がある。 判決要旨へ
声明
「長崎原爆松谷訴訟」福岡高裁判決について
1997年11月7日 日本原水爆被害者団体協議会
長崎原爆松谷訴訟にかかわる福岡高裁の判決が本日言い渡された。判決は原告=国の主張をしりぞけ、松谷英子さんの障害が原爆症と認定すべきものであることを長崎地裁判決につづいて再度確認した。今日、われわれは国の被爆者対策の根幹にかかわる松谷訴訟においてふたたび完全な勝利をおさめた。この勝利は、さまざまな困難にうちかって長年の裁判闘争をたたかいぬいた松谷さん、「支援する会」をはじめ、この訴訟支援に力を借しまれなかった多くの国民と全国の被爆者の共同のたたかいの成果である。これらの人々と心からこの勝利の喜びを分かち合いたい。
松谷さんが3歳で被爆し、原爆瓦の直撃を受けて右半身不随の身に陥れられてから52年が過ぎた。初めて原爆症の認定申請をおこなってから10年9カ月、長崎地裁提訴以来じつに9年1カ月、厚生省の不当な控訴から4年5カ月を経た。この間の松谷さんの苦しみ、悲しみは筆舌に尽くしがたいものであった。この苦しみがこの度の判決によって多少とも報われることを願う。
この判決は、たんに松谷英子さん個人の「原爆症認定」の成否にとどまるものではなく、原爆被害のとらえ方をふくむ国の被爆者対策の基本にかかわるきわめて重要な意義をもつものである。現行の認定制度が、原爆被害を放射線障害だけに限定し矮小化するなど、被爆の実態を無視し、矛盾に満ちたものであることは、われわれがたえず主張してきたところであり、今回の判決はわれわれの主張の正当性を証明するものとなった。
目本被団協は、本日の判決を踏まえ、つぎのことを政府に要求する。
1.国は福岡高裁の判決を誠実に受けとめ、上告することなく、ただちに松谷英子さんを原爆症と認定すること。
2.裁判のなかで明らかにされたように、国が原爆症の認定にあたりこれまで唯一の拠り所としてきたDS86は、実際においても科学的にも完全に破綻した。国は、爆心地から2キロ以内で線引きをするというこれまでの不合理な認定のやり方を改め、実態に即した原爆症認定をおこなうこと。
3.被爆者がガンになった場合は、すべて原爆症と認定すること。
4.原爆被害にたいし国家補償をおこなうこと。
1997年11月7日
厚生大臣 小泉純一郎様
(財)長崎原爆被災者協議会
長崎原爆松谷訴訟を支援する会
本日、福岡高等裁判所は長崎原爆松谷訴訟(平成5年(行コ)第17号原爆被爆者医療給付認定申請却下処分取消請求控訴事件)について、貴職の控訴を棄却する旨の判決を言い渡しました。
私たちは、1993年5月26日の長崎地方裁判所での判決につづくこの判決を、貴職が厳粛に受け止められ、ただちに下記の事項の実現をめざし、誠意をもってとりくまれるよう、ここに要請します。
記
1.厚生省は上告することなく、ただちに松谷英子の障害を原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第11条第1項にいう「原子爆弾の傷害作用に起因する」ものとして認定すること。
2.厚生省は、長崎地裁および福岡高裁の判決の趣旨をふまえ、いわゆる原爆症の認定のあり方について、国家補償の立場から全面的にみなおすこと。
3.原爆の被害は「遡れば戦争という国の行為によってもたらされたもの」という1978年3月の最高裁判所判決に従い、早急に原爆の被害への国家補償を制度として確立すること。
以上。