「シーナの夏9」
 
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 シーナが学校を休んだ。
 どんなに具合が悪くても、休んだことなんてないのに。
 見舞いに行こうかとも思ったんだけど、きっと明日は出てくるだろう……。
 
 コウイチが私のところに来た。
「ナッツ、見舞いに行くだろ?」
「今日はダメ。東京から先生が来るし…。明日行くよ」
 コウイチが何か言いかけて、でもあきらめたかのように溜め息をついた。
「俺、行ってくるから」
「そう?よろしくね」
 ヒラヒラと私は手を振った。
 
 なんでもないって、どうして思ってしまったんだろう。
 
 その日の練習は、胸に何か重いものが詰まっているような感じで集中できなくて、 何度も先生に叱られた。
 一人居残り練習までさせられて、すっかり帰りが遅くなってしまった。
 身体中がギシギシして、へたばってしまいそうに痛い。
 ゆっくりと一足一足踏み出して、家に帰った。
 
 0時を回っていたと思う。
 いつもはとっくに寝ているはずの母親が、玄関先で待っていた。
(え!何?今日は喧嘩してきたんじゃないよ!私は無実だっ)
 いつものように、”そこに正座しなさい”って怒鳴られるのかと思ってビビル私に、 母親が駆け寄って詰め寄ってきた。
(ヒイッ)
 身が竦む。
 もうこれは条件反射だ。
 けれど、母親から発せられた言葉は、まったく予想もしていなかったものだった。
「早く行きなさい!」
「え?」
「お友達のシイナさん、病院に運ばれたのよ!あなたを待ってるわ」
 母親が鞄を奪い取られ、替わりに財布を渡された。
 
「……っ!!」
 
 一瞬で理解して私は走り出した。
 身体の痛みなんて、どこかに消えていた。
 通りでタクシーを拾い、全力で急がせて、その間ずっとずっと祈っていた。
 
 どうか、あの子を連れて行かないで!!
 まだ、見せてあげたい景色があるんだ。
 連れて行ってあげたいところが。
 
 涙も出ない。
 いや、泣いている場合じゃない!
 携帯なんて持ってなかったから、問い合わせることもできなくて、ただ、私はタクシーを急がせた。
「急いで!!……お願い」
 
 胸が…苦しい……。
 
 
 病院の玄関先に、コウイチが立っていた。
 私に気がつくと、すぐに誘導してくれる。
 
「ずっと調子が悪かったんだ。3時間くらい前に、倒れて…」
 狭い部屋にたどり着いた。
 シーナがベッドで寝ているだけで、今は他に誰もいない。
「落ち着いてるけど、かなり体力が落ちてるから、しばらく様子をみようって」
 シーナは真っ白な顔をしている。
 私は、その手を取った。
 ねえ、シーナの腕はこんなに細かった?
 腕だけじゃない。
 どこもかしこも、こんなに小さかった?
「シーナ…」
 私は、シーナに声をかけた。
「ナッツ、寝かせてやれよ。やっとさっき眠ったんだから」
「だって…、嘘でしょう。なんでシーナなのよ。何がどうなってるのよ」
 叫びそうな私は、コウイチに無理矢理廊下に出された。
「脳に、障害があるのは知ってたか?」
「…………」
「先天性のものらしい。よくわからないけど。いつ、こういうことが起こってもおかしくない体だったって」
「…………」
「シーナは、爆弾抱えて生きてきたんだ」
 
 
「それが、何だって言うのよ!今じゃなくたっていいじゃない。50年後でも60年後でもいいじゃない。 まだ何にもやってないのに。どうして今なのよ!」
 
 八つ当たりだって、わかっていても止められなかった。
 
 天を、恨む。
 全てに怒りを。
 
 ……私は、バカだ。
 
 ずっと、空を睨んでいた。
 
 
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