「シーナの夏4」
 
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 そんな私の日常が、崩れた日。
 
 あの日も隣町を歩いていた。
 レッスンの時間までちょっと間があったから、買い物でもしようかと思ったんだ。
 ちょうど某病院の前を通りかかった時だった。
 バッタリと、ありえない人物と遭遇した。
 それは……。
 
「マコト…?」
 
 私の彼氏だった。
 ありえない。
 だって、マコトは隣に女の子を連れていて、出てきたこの病院は、産婦人科だよ、おい!!
「てめえ!何してやがった!?」
 久しぶりの再会に、私は早速マコトに詰め寄った。
 マコトは真っ青になって、口をパクパクさせている。
「やめて!やめてください」
 マコトの隣の女が割り込んできた。
「乱暴しないで、死んじゃう」
 これくらいで死ぬわけないだろ。
 でも私は手を離してやった。
「お前誰だよ?」
 女に向かって訊く。
 もう、答えなんてわかってたけれど、この場合訊くしかないだろ。
「ミドリです。マコトさんの彼女です」
 この女、可愛い顔して強いんだ。
 まっすぐ宣戦布告してきやがった。
「はあ?何言ってんの?お前」
 ミドリはガバっとその場にひざまづいて、言った。
「マコトさんをください。赤ちゃんがいるんです。私達結婚するんです!」
 ……………。
 私はマコトを見た。
 腰を抜かしてワタワタしている。
 無様な男。
 思えばなんでこんなヤツと付き合っていたんだっけ?
 誠実のマコト。
 嘘つきのマコト。
 浮気モノマコト。
 小心者のくせに、抱きしめる腕だけ強かったマコト。
 
「こんな男、幸せになれるわけねーよ」
「私が幸せにします」
 …はは、そういや昔マコトに言われたっけ「ナッツを幸せにする」って。
 
 くだらねえ。
 
 世の中、嘘ばっかりだ。
 どこにも本当なんてなくて。
 みんな騙しながら生きてる。
 真面目な顔して、笑ってるんだ。
 
 無性にシーナに会いたくなった。
 考えナシのシーナ。
 
「いいよ。あんたにやる。もういらないや」
「本当ですか!ありがとうございます」
「でも、一発殴らせてよね」
 私はにっこり笑って、マコトに前に立った。
「何か言い残すことはある?」
「待て。ナッツ誤解だ。俺は裏切ってなんか……」
 慌てて手を振って否定するマコト。
「え?マコちゃん、何言ってるの?」
 ミドリの目が、弱さに揺らめく。
 
 こんな茶番はもうたくさん。
 お前の弱さは卑怯だ。
 言い訳だらけの言葉はもう聞きたくない。
 私はマコトに向かって、渾身の力で拳を打ち込んだ。
 
 キラリ+
 
 マコトは星になって飛んで行った。
「マコちゃ〜〜〜ん!!」
 ミドリの声を背後に、私は歩き出した。
 
 最初から、信じてなんていなかったさ。
 ただ、傍にいたいっていうから置いていただけさ。
 私が辛い時、いっつも傍にいてくれないマコト。
 私は、あんたの前では泣けなかった。
 私もあんたも、ただの遊びだ。
 だけど、今。
 どうしてこんなに、心が掻きむしられるんだろう。
 辛くないはず、なのに。
 
 
 寂しい。
 
 
「おい、ナッツ!」
 フラフラと歩いていた私を、コウイチが呼び止めた。
(こんなとこにいるなよ、コウイチ!)
 今は会いたくなくて、私は走って逃げた。
 そしたらコウイチは、なんと追いかけてきたんだ。
「来るな!」
 走りながら私は叫んだ。
 それでもコウイチは追いかけてくる。
 繁華街を抜けて、寂れた道へ。
 日が沈む。
 街灯が次々と灯る中を走った。
 走って走って、捕まった。
 
「来るなっていったのに」
 さすが現役男子高校生の体力には負ける。
 それともコウイチの足が速いのか。
「悪趣味な男だ」
「なんとでも言ってくれ」
 ハアハアと息をつきながら、コウイチは私の手を離さなかった。
 
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