「シーナの夏11」
 
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「いい加減にしてよ!」
 物静かな妹が声を荒げたのは、私が今日同じ所を4回も間違った時だった。
「やる気がないなら帰ってよ!邪魔しないで」
 妹に怒られたのは、初めてかもしれない。
 シーナが気になって、ボロボロに疲れ果てていた私は、言い返すこともなく帰り支度を始めた。
 やらなくちゃいけないことはたくさんあるのに、そのどれもが中途半端だった。
 
 帰って、シーナの所に行ってあげなくちゃ。
 
 疲れていた。
 ふと、何もかもどうでもいいような気がしてきた。
(一緒に死んじゃおうかな…)
 私一人くらいいなくなっても、何も変わらないよね。
 
 シーナの病室で、シーナの頭を撫でながら、ボツリと言った。
「シーナ、一緒に楽になろうか?」
 シーナはキョトンと私を見て、それから言った。
「……シーナ、いき、て…うれし……ね」
 小さな声で精一杯、私に伝えようとしていた。
『生きてるの。嬉しいの。痛いのやだ』って。
 それは、口癖のように毎日言っていた言葉。
 
 もう、
 たぶん、
 無理だって、
 わかってる。
 
 シーナは、
 このまま、
 治らない。
 
 それでも………。
 
 病室から大きな夕陽を二人で見た。
 静かな時が、沈んでいく。
 
 
 その夜半、急に容態が悪化した。
 恐くなった私は、すぐにコウイチに電話した。
 シーナの親にも電話したけれど、留守録だったので伝言を残した。
 バタバタと医者が走り回る中、私は廊下の椅子で叶わない願いを祈っていた。
 
(たすけて!)
 
(でも、きっとダメだろう…)
 
 コウイチが走って来た。
 ふふ、あの時と逆だね。
 シーナが倒れた時は、私が走って来たんだっけ。
 二人で、閉まったドアを見ていた。
 
 カチカチカチと音が聞こえた。
 なんだろうと思ったら、私の体が震えていたんだ。
 恐くて。
 逃げ出してしまいたい。
 家に帰って、布団被って、閉じこもりたいの!
 ドアが開くのが恐い!!
 
 そんな私の心をよそに、静かにドアが開いた。
 いつも陽気な看護士がうなだれている。
 医者が何か言っているけれど、わかんないよ!聞こえない!!
 
 コウイチに促されて、中に入った。
「シーナ…」
 私の呼び掛けに、閉じた瞼が開かれたけれど、もう何も見えてないね。
 焦点が合わない目で私を探すから、私はシーナの手を握った。
「いるよ、ここに」
 そうしたら、シーナは安心したように、ほほ笑んだような気がした。
「ナッツ、シーナが何か言ってる」
 
 小さく口が動いてる。
「……よかった…」
 かすかに聞こえたシーナの声。
 全ての想いがこもっていた。
 
 それから急にシーナは目を見開いて、窓の外を震える指で差したんだ。
 その先には何もなく、真っ暗な空だけなのに。
「あ、ああっ!」
 とシーナは信じられないくらい大きな声をだした。
「……あ、あそこ、にっ」
 
 何もないよシーナ。
 何を見てるの?シーナ。
「きれ、な、――のむこう、で…、また・ね……」
「え?」
 聞き取れなかった。
 なんて言ったの?シーナ。
 何が見えるの?
 
 その答えは、永遠に分からなくなった。
 
 シーナの手がポトリと落ちる。
 静かになったシーナ。
 
 
 シーナは、もう、どこにもいなくなってしまった。
 
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