|
まあいいや。 ムカツク奴らにいちいち関わってるほど、私も暇じゃないし。 帰ってレッスン受けに行こう。 最近体も動くようになってきたから、楽しいんだよね。 気持ちを切り換えて廊下を歩いていた私は、 トイレの前に固まっていた集団に驚いたような顔をされた。 (何?) そのうち1人がトイレの中に声をかけると、中にいたらしい数人がバタバタと出て来て、 みんな走って逃げてしまった。 (……この展開は) つくづく今日はついてない。 彼女たちが中で何をしていたのか、わかってしまった。 ワンパターンなんだよ!まったく。 制服のリボンの色が違うから、1年だとは思うけど。 このまま帰ろうかとも思ったけど、やっぱり中に入ることにした。 後輩のイジメなんかに興味はないけど、黙って見過ごすのはさっきの担任より気分が悪いから。 「誰か、いるの?」 床一面ビショビショだった。 転がったバケツに、放り投げられたデッキ。 そして……。 「……おまえかよ」 汚れきったシーナがいた。 私は息を静かに吐いて、何でもないかのように話しかけた。 「後輩にやられるなよ、シーナ」 俯いていたシーナは、私だとわかると、あの無邪気な顔を向けるんだ。 「えへへ。濡れちゃった」 絞れば水が滴り落ちる服を脱がせるのは、骨が折れそうだ。 けれど、水道でシーナを頭から洗ってやってるうちに、出会った頃を思い出していた。 ずっと、一人なのか?シーナ。 無知というのは罪なのだろう。 では無関心というのは? 「戦えよシーナ」 「やだよ」 シーナが即答した。 「痛いのやだよー」 「自分が痛いだろうが!」 「痛くないよ」 「え?」 「ナツがいるから、痛くないよ」 シーナだけが【ナツ】と呼ぶ。 特別な名前のような気がしてくるから不思議だ。 「痛かったらすぐに呼べ」 守るからシーナ。 戦えないあんたの代わりに戦うから。 どうか、もう、この子が傷つくことがないように。 空に祈る。 私をまっすぐ見てくれる、たった一人の友人を。 たすけて。 シーナを着替えさせて気がついた。 前よりずっと痩せたみたいだ。 触ると、骨がわかる所もある。 「ダイエットなんて似合わないよ、あんたに」 「してないよ〜」 「食べてるのか?」 「……ん」 なんだよその間は。 妹も食べられない時期があったっけ。 無理に食べさせて吐いたり…。 病気か? シーナのことだから、具合が悪くても自分で気がつかないのかもしれない。 それから数日、シーナを観察してみてわかった。 小さな怪我が増えていくんだ。 すぐに理由がわかったけど。 シーナイジメが、とても巧妙に、頻繁に、大多数の手によって行われていた。 「だって、しょうがないじゃないっ!!」 そのうちの一人を締め上げて、洗いざらい吐かせた。 「コウイチが別れるって言うから!」 綺麗な顔をグシャグシャに歪めて、元彼女は泣きわめいた。 「シーナと付き合うから、別れるって!今まで他にどんな女がいてもそんなこと言わなかったのに!」 ……コウイチ…バカだ。 コウイチが、どんどんシーナに引かれていくのは、側で見ていて私も知っていたけど。 アイツ、本当にバッカじゃねーの!! 私は元彼女の胸倉つかんで、言ってやった。 「騙されてんじゃねーよ。コウイチと付き合ってんのはアタシだよ。考えてみろよ、シーナのわけないだろ」 諭すような脅すような私の言葉を、彼女は信じた。 「そっか…。ナッツさんじゃ……負けちゃうな…」 自慢じゃないけど、数いるコウイチの彼女たちより、私の方が綺麗だ。 元彼女は、しょんぼりと大人しくなった。 私は彼女の肩を叩いて、力づけてやる。 「あんただけを見てくれる人を探した方が幸せになれるよ。可愛いんだから、モテるってあんた」 こっくり頷く彼女を残して、私はその場を後にした。 コウイチのバカヤロウ。 下手くそなんだよ、やり方が。 きちんとフってあげなきゃ、彼女たちだって次に進めないじゃないか! でも……。 初めて、本気になったのかもしれない。 ロマンチスト男には、これが精一杯なのかな。 シーナを幸せにしてあげてよ、コウイチ。 私が盾になるから。 誰にも二人の邪魔はさせないから。 シーナとコウイチが、二人で下校する姿が見えた。 それでも、一発は殴らせてもらおうと、コウイチの背中を追いかけた。 これで、みんな幸せになれると思っていた。 NEXT |
