「シーナの夏7」
 
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 まあいいや。
 ムカツク奴らにいちいち関わってるほど、私も暇じゃないし。
 帰ってレッスン受けに行こう。
 最近体も動くようになってきたから、楽しいんだよね。
 
 気持ちを切り換えて廊下を歩いていた私は、 トイレの前に固まっていた集団に驚いたような顔をされた。
(何?)
 そのうち1人がトイレの中に声をかけると、中にいたらしい数人がバタバタと出て来て、 みんな走って逃げてしまった。
 
(……この展開は)
 
 つくづく今日はついてない。
 彼女たちが中で何をしていたのか、わかってしまった。
 ワンパターンなんだよ!まったく。
 制服のリボンの色が違うから、1年だとは思うけど。
 このまま帰ろうかとも思ったけど、やっぱり中に入ることにした。
 後輩のイジメなんかに興味はないけど、黙って見過ごすのはさっきの担任より気分が悪いから。
「誰か、いるの?」
 床一面ビショビショだった。
 転がったバケツに、放り投げられたデッキ。
 そして……。
「……おまえかよ」
 汚れきったシーナがいた。
 私は息を静かに吐いて、何でもないかのように話しかけた。
「後輩にやられるなよ、シーナ」
 俯いていたシーナは、私だとわかると、あの無邪気な顔を向けるんだ。
「えへへ。濡れちゃった」
 絞れば水が滴り落ちる服を脱がせるのは、骨が折れそうだ。
 けれど、水道でシーナを頭から洗ってやってるうちに、出会った頃を思い出していた。
 
 ずっと、一人なのか?シーナ。
 
 無知というのは罪なのだろう。
 では無関心というのは?
 
「戦えよシーナ」
「やだよ」
 
 シーナが即答した。
「痛いのやだよー」
「自分が痛いだろうが!」
「痛くないよ」
「え?」
「ナツがいるから、痛くないよ」
 
 シーナだけが【ナツ】と呼ぶ。
 特別な名前のような気がしてくるから不思議だ。
「痛かったらすぐに呼べ」
 守るからシーナ。
 戦えないあんたの代わりに戦うから。
 どうか、もう、この子が傷つくことがないように。
 空に祈る。
 私をまっすぐ見てくれる、たった一人の友人を。
 
 たすけて。
 
 
 シーナを着替えさせて気がついた。
 前よりずっと痩せたみたいだ。
 触ると、骨がわかる所もある。
「ダイエットなんて似合わないよ、あんたに」
「してないよ〜」
「食べてるのか?」
「……ん」
 なんだよその間は。
 妹も食べられない時期があったっけ。
 無理に食べさせて吐いたり…。
 病気か?
 シーナのことだから、具合が悪くても自分で気がつかないのかもしれない。
 
 それから数日、シーナを観察してみてわかった。
 小さな怪我が増えていくんだ。
 すぐに理由がわかったけど。
 シーナイジメが、とても巧妙に、頻繁に、大多数の手によって行われていた。
 
「だって、しょうがないじゃないっ!!」
 そのうちの一人を締め上げて、洗いざらい吐かせた。
「コウイチが別れるって言うから!」
 綺麗な顔をグシャグシャに歪めて、元彼女は泣きわめいた。
「シーナと付き合うから、別れるって!今まで他にどんな女がいてもそんなこと言わなかったのに!」
 
 ……コウイチ…バカだ。
 コウイチが、どんどんシーナに引かれていくのは、側で見ていて私も知っていたけど。
 アイツ、本当にバッカじゃねーの!!
 私は元彼女の胸倉つかんで、言ってやった。
「騙されてんじゃねーよ。コウイチと付き合ってんのはアタシだよ。考えてみろよ、シーナのわけないだろ」
 諭すような脅すような私の言葉を、彼女は信じた。
「そっか…。ナッツさんじゃ……負けちゃうな…」
 自慢じゃないけど、数いるコウイチの彼女たちより、私の方が綺麗だ。
 元彼女は、しょんぼりと大人しくなった。
 私は彼女の肩を叩いて、力づけてやる。
「あんただけを見てくれる人を探した方が幸せになれるよ。可愛いんだから、モテるってあんた」
 こっくり頷く彼女を残して、私はその場を後にした。
 
 コウイチのバカヤロウ。
 下手くそなんだよ、やり方が。
 きちんとフってあげなきゃ、彼女たちだって次に進めないじゃないか!
 でも……。
 初めて、本気になったのかもしれない。
 ロマンチスト男には、これが精一杯なのかな。
 シーナを幸せにしてあげてよ、コウイチ。
 私が盾になるから。
 誰にも二人の邪魔はさせないから。
 
 シーナとコウイチが、二人で下校する姿が見えた。
 それでも、一発は殴らせてもらおうと、コウイチの背中を追いかけた。
 
 これで、みんな幸せになれると思っていた。
 
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