「シーナの夏10」
 
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
 私は、シーナが目が覚めるまで付き添っていた。
 ここの病院が付き添いOKで助かった。
 ま、昔から何かとお世話になってるからね、妹の件で。
 医者も看護士も、知り合いだし。
 
「えへへ……」
 目が覚めて、一番最初にシーナが発した言葉だった。
 私を見つけて、驚いたように、嬉しそうに笑った。
 天使のように、綺麗な笑顔だった。
「バカだな、シーナ。早く治して家に帰るぞ」
「えへへ……」
 小さく舌を出してみせた。
 ゴメンねって、合図。
 この日は一人でトイレも行けたのに、次の日から歩けなくなった。
 立てなくなった。
 日に日に、私が側にいてもぼんやりするようになった。
 
 私もコウイチも、毎日シーナのところへ行った。
 着替えさせたり、水を飲ませたり。
 トイレと身体を拭くのは私がやった。
 これはコウイチにはさせられないってーの!
 体力に自信があってよかった。
 そんな日々を過ごすたび、ふと気がついたことがあった。
 
 シーナの親は、どうしたんだろう…?
 
 その疑問は、解けないほうがよかった。
 
 
 シーナの着替えを取りに、彼女の家にコウイチと向かった時のこと。
 一歩家に入って、私は唖然とした。
 散乱した物物物…。空き巣にでも入られたのかと思った。
「これでも、綺麗になったほうなんだけどな」
 コウイチが、頭をかいた。
「俺、掃除ってあんまり得意じゃないし」
「なんでアンタが掃除してるのよ。親はどうした!」
「もう何年も帰ってきてないってさ。他にも家を持ってるらしい」
「え?」
 よく見れば、シーナが使ってたんだろうなっていう物しかここにはない。
 散らかってるのも一室だけで、他には何にもなかった。
 がらんどうの家。
「シーナさ、一人で住んでんだよ」
「できるわけないでしょ。金は?」
 コウイチの指さした引き出しに、現金が溢れんばかりに入っていた。
「たまに、郵便で届けられるんだってさ。親から」
「………」
 理解できない。
 シーナは、ずっと……。
「シーナ、買い物はできるから。といっても料理できないから弁当しか買わないらしいけど」
 電子レンジも使ってる形跡がない。
 冷たい弁当を、毎日一人で食べてたのか?
「なんで……」
 
 教えてくれる人もいなくて、
 誰にも何も聞けなくて、
 わからないまま時間だけ過ごして、
 
 どんなイジメにあっても、学校を休まないシーナ。
 夜の街を彷徨っていたシーナ。
 私の服を、掴んで離さなかったシーナ。
 
「コウイチ、私が着替え探すから。帰っていいよ」
「そうか」
 コウイチの手から、シーナの家のカギをもらった。
 ここで、一人になってみたかった。
 あの子と同じ時間を過ごしてみたかった。
 
 
 
 シーナ、あなたが感じていた寂しさは………………
 
 
 
 ……どれだけの闇に、人は堪えられるっていうの?
 
NEXT