「シーナの夏6」
 
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 次の日、私がフられたことは、全校生徒の知るところとなっていた。
 目撃者がいたとは不覚だった。
 でも、なんか気が抜けた…。
 張り詰めていた糸が切れたみたいで。
 いつものようにじゃれ付いて来るシーナも、なんだかどうでもよくて。
 無視してるつもりはなかったんだけど。
 
 コウイチがシーナを呼んだ。
「こっち来いよシーナ。俺が髪梳かしてやる」
 クラス中がざわついた。
 私が登校してきたザワメキよりも、大きいよ。
 モテ男の自覚がないコウイチが、シーナをせっせと磨いている。
「ふーん。あんたがそんなマメな男だとは知らなかったわ」
 イヤミの一つも言ってやる。
「誰かさんが相手してやらないからだろ」
 
「何、コウイチ。シーナが好きなの?」
 
 口に出してから、失敗したと思った。
 そんな事言うつもりはなかったのに。
 コウイチは「はあぁ〜〜」とわざとらしい溜め息をついて、シーナの手を握った。
「意地悪だなあ、ナッツは」
 それで私は、一気にムカついてしまったんだ。
「それなら、コウイチが面倒みてあげればいいじゃない!」
 そして逃げるように、私は家に帰った。
 
 逃げるようにじゃない。
 逃げたんだ。
 
 
 それからシーナは、コウイチとばかりいるようになった。
「コウイチぃ」
 独特の舌ったらずの声で、コウイチを呼ぶ。
 コウイチも、嫌がらずに世話してたっけ。
 むしろ嬉しそうだった。
「そんなにシーナが好き?」
 一度だけ聞いてみた。
「可愛いじゃん。それに……気を使わなくてすむ」
 ひねくれた回答だった。
 しっくりと二人は馴染んでいた。
 私は、そんな二人を見ないように、ダンスに打ち込んでいた。
 自分一人が、取り残されていた。
 妹が、私に合わせて手を抜いた時には、容赦なく叱りとばしたっけ。
 目の前にあるはずのものに、手が届かないもどかしさに、涙が出そうだ。
 けれど、同情なんていらない。
 毎日毎日無心にレッスンに通って、やっと私は妹の隣りに立っても大丈夫なくらいになった。
 
 良かった。
 私は、何もかも失ったわけではなかった。
 まだ、胸を張って自慢できるものがある。
 ダンスだけが、惨めな私を救ってくれた。
 
 
 久しぶりに、軽くなった心でコウイチとシーナを見た。
 二人は幸せそうに見える。
 今度、シーナと一緒にコウイチのライブにでも行こうか。
 そんなことを考えていた。
 突然二人で行って、うろたえるコウイチを見るのは楽しそうだと思った。
 
 今日もレッスンのため早目に帰ろうとした時、私は担任に引き止められた。
「ちょっと待てナッツ、話がある」
「私はないよ」
「待て待て待て。俺はお前の担任だぞ」
 いつもビビってる先生が、必死に勇気を出しているのがわかったから、 私は素直に進路室まで行って向かい合って座った。
 初めて来たよ、こんなとこ。
「で、何?私忙しいんだけど」
「ここでする話は1つしかないだろう。進路希望用紙をお前だけ提出してないんだよ」
 進路希望?そんなものあったかな?
「卒業後、どうするつもりだ?」
 以前の私なら、なるようになると答えたかもしれない。
 でも今は違う。
 私にも小さな夢がある。
 
「東京に行く」
 
「は?東京の大学か?お前の成績だと……」
「違うよ。進学はしない。東京でダンサーになる」
「なっ!!」
 絶句した先生のアホ面は、かなり面白かった。
「そんなもん、なれるわけないだろう」
 マヌケ面のまま、先生が即答した。
 ……器の小さい男だ。
「先生は、私の何を知ってんの?」
 何も知らない大人が、口を出してくることほど白けることはない。
 
 私が、どんな思いで戦って来たか…。
 私だって、最初から強かったわけじゃない。
 強くならなきゃ生きていけなかった!!
 誰も、助けてなんてくれなかったじゃないかっ。
 
 睨み付ける私の視線を受けて、担任の手が恐怖で震える。
 アンタも可哀想だよね。
 新米のくせに、こんな役押しつけられてさ。
 私は立ち上がった。
「ま、まだ話が…」
 もう話しても無駄だと思った。
 私は無言で退室した。
 これ以上話したら、殴ってしまいそうだったから。
 
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