「優しい雨の降る夜に12」
 
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「コウイチ!」

え?今、声が……

たしかに、聞こえた。
幻聴じゃなく、自分を呼ぶ声が。
辺りを見回すけれど、知り合いがいるわけでもない。
「耳もおかしくなったのか?」
 
「コウイチ!!」
また聞こえた。
コウイチはゆっくり振り向いた。
全速力で、息を切らして、
まっすぐ駆けてくる小柄な彼は。
「……どうして?」
ばかばかばかばか。
ばかばかばかばか。

「コウイチのばかぁ」
アキが、コウイチの胸に飛び込んできた。

まさか、俺を探してた?
何の関係もないのに?

「なんで、お前が来るの?」
「なんでって……」
アキは言葉に詰まる。
怪我させてしまったから。
迷惑をかけたし。
それに、
もう二度と会えなくなりそうだったから。
「責任を」
「セキニン?」
真っ赤に、口ごもっているアキが面白い。
コウイチがニヤニヤと笑う。
その笑い方が、アキの気に触った。
「途中で止めた責任を取れっ」
 
ああ、何てことを言っちゃったんだろう。
お礼とお詫びのつもりだったのに。

コイツ………
面白れぇ

「………」
「………」
 
マヌケな沈黙を破ったのは、
街中に響くほどの、コウイチのバカ笑いだった。
「あっははははは!」
コウイチが笑い続ける。
「わははっははは。ひーひー」
「……ちょっと」
「ひゃっひゃっひゃっ」
「もう!そろそろいい加減にしなよ」
アキは、注目を集め始めたコウイチの手を引いた。
「帰るよっ」
まだ笑い続けながらも、大人しくアキについていくコウイチ。
傘はなかったけれど、
雨は柔らかな霧雨へと変わっていた。
優しい雨だね

雨が温かい

こんな雨なら、濡れてもかまわない、と思う。
 
 
「で、俺の3万返してくれるの?」
「もう僕のだもん」
「…じゃあ、続きを」
「途中で逃亡したのはそっちでしょ」
「えーーー!」
 
コウイチが抗議の声を上げる。
アキが笑った。
 
それは、東京に来て初めてみせるアキの笑顔だった。
 
優しい雨が降る街で、
もう一度、
ここから始めてみるのも
いいかもしれない。
僕は

俺は

そう、思った。

 

アキちゃんとコウちゃんの出会い編です。