「優しい雨の降る夜に11」
 
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コウイチは、ポケットの中のカギをもてあそぶ。
いつでも自由に使ってくれと、
同じように上京した、地元の友人から渡されていたカギだった。
そう遠くないところにあるマンション。
着替えもそこに置いてある。
せっかく乾いた服は、またびしょ濡れで、
すぐにでもマンションに向かえばいいのに。
 
どうにも、足が向かなかった。
 
会ったばかりの、彼のことばかり考えてしまう。

そういうヤツには、見えなかったけれど。
でも。

不思議と嫌悪感はなかった。
違う、と思った。
あれは、本当の彼ではない、と。

事情が、あるんだろうけど。
でも。

たとえ誰かの代理でも、
声をかけてくれたのは嬉しかった。

ホントは、あのまま
消えてしまおうかと、思っていたから。

疲れていた。
本心を見せないこの街の人間に。
需要と供給。
飛び交う現金。
上辺だけの笑顔も。
誰も彼も、自分の顔も心も厚塗りで。
信じた分だけ、裏切られる。
そんな中。

アイツは、違うと、思う。

「兄さん、ヒマなの?どっか行かない?」
「悪い。待ち合わせ中vまた今度」
軽い誘いを、サラリと流す。
今は、遊びたくなかった。金もないし。
それに。
アキの思い出を塗りつぶしたくなかった。
 
手の傷に、キスした。
今、とても心は穏やかで、
とてもいい気分だから。
この灰色の空の下、もう少しだけ、
空を眺めていたいと思う。
派手なイルミネーションと、喧騒を
最期に、この目に焼き付けておこう。

結構この街も、楽しかった、かな。
もう、いいだろ?そっちに行っても
そうしたら、また
あの声で、呼んでくれるかな。

『コウイチ』
 
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アキちゃんとコウちゃんの出会い編です。