
頚動脈内膜剥離術とは、頚動脈を切り開いて、血管の内壁の動脈硬化によって変性した部分を切り取り、血液の流れをよくしようとする手術のことです。
手術の有用性は?
70%以上の狭窄があり、何らかの虚血症状(血液が足りなくなることによって出現する神経症状)を持った患者さんに対して、この手術は内科的治療(薬物療法)より脳梗塞の再発予防に優れていると、国際的な臨床試験で証明されています。(NASCET.
N Engl J Med:1991)
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また60%以上の狭窄を持った無症状の患者さんに対しても、熟練した術者によって手術され、その手術の危険率が3%以下の場合には、内科的治療(薬物療法)より脳梗塞の再発予防に優れていると、国際的な臨床試験で証明されています。(ACAS
study. JAMA:1995)
手術の危険性は?
手術によって何らかの後遺症が出現する危険率は、何らかの神経症状を持った患者さんにおいては2-3%以下、無症状の患者さんにおいては1-2%以下と報告されています。但し、この危険性の頻度は熟練した術者によって手術を施行された場合の数字です。
手術によって起きる可能性のある後遺症としては、新たな脳梗塞の発症、術後脳内出血、下位脳神経障害(声がかすれたり、物が飲み込みにくくなったりすることがあります)、頚部の切開部分の出血や感染等があります。
バイパス手術(外頚動脈と脳内の動脈との吻合術)
まだ脳梗塞にはなっていないが、血液の供給が不十分で、将来脳梗塞をきたす可能性のある脳に血液の流れを増やしてやろうとする手術です。
頭の皮膚の血管(外頚動脈)と、脳内の血管(内頚動脈の分枝である中大脳動脈)を直接つなぐ方法が、最も一般的な方法です。
手術の有用性は?
脳梗塞の再発予防について、内科的治療(薬物療法)と比較した国際的な臨床試験では、この手術の有用性(脳梗塞の再発予防)は証明されませんでした。そのため現在米国では、通常の脳梗塞の治療としては、この手術はほとんど行われていません。
しかし、日本ではその数は減りましたが、今も施設によっては行われています。手術によって、脳の一部分の脳血流量は増えることが報告されていますので、個々の患者さんの病態によっては、手術が有用な場合もあると考えられています。しかし、手術を受ける患者さんにとって最も重要なことは、この手術によって将来的に脳梗塞の再発が予防できるかどうか、ということです。この点に関しては、この手術の有用性を証明した報告はありません。すなわち、局所的な脳血流量の増加が、本当に長期的な脳梗塞の再発予防に貢献するのか、今だに証明されていないのです。
やはり、この手術の有用性を証明するには、手術の適応をきちんと選択した上での科学的な比較臨床試験が必要です。この手術を勧められた方は、主治医の説明をよく聞いて、十分に納得されてから受けてください。
現在日本において、脳血流検査にてこの手術の適応をきちんと判断した上で、手術を受ける人と薬だけで治療を受ける人を、無作為に振り分けて手術の有効性を科学的に評価する臨床治験が進行中です。
手術の危険性は?
手術によって起きる可能性のある後遺症としては、新たな脳梗塞の発症、術後脳内出血、また脳内や頭皮の切開部分の感染の危険性もあります。しかしいずれの合併症でも、その発生率はそれ程高いものではありません。
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