
- 脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血流が一時的に悪くなって神経症状が出現しますがすぐに回復する発作である一過性脳虚血発作、および脳の血管が裂ける脳出血に分類できます。

- 脳の血管が動脈硬化などの変化によって細くなり、次第に血液の流れが悪くなり、血液の固まり(血栓)を形成し、つまってしまうことです。最近は、以下のようにさらに2つのタイプに分類しています。それぞれ成因および治療方法が異なります。

脳の深部の極めて細い血管がつまる状態です。小さな梗塞が多発することが多く、無症状の微小梗塞も多いようです。”ラクナ”とは小さな穴という意味です。
高齢者に多く、症状は比較的ゆっくりと進行します。意識がなくなることはなく、夜間や早朝に発症し、朝起きたら手足のしびれや運動障害、あるいは言葉が話しにくかったりといった症状に気がついて、病院に来られる方が多いようです。
起こり方は通常緩徐で、段階的に悪化していきます。
日本では、脳梗塞の中で最も多いタイプで、約40%を占めると報告されています。

脳内の太い動脈や頚動脈の動脈硬化が進行し、血栓を形成してつまらせたり、血栓が血管の壁からはがれて流れていって、脳内の深部の血管をつまらせてしまう状態です。”アテローム”とは、粥状硬化(じゅくじょうこうか)という意味で、動脈硬化でおこる血管の変性のことです。
起こり方は通常緩徐で、進行性に悪化する場合もあります。
元来、欧米人に多いタイプの脳梗塞でしたが、欧米型の食生活に近づいた現在の日本では、徐々に増えてきたといわれています(約20%)。欧米では頚動脈の狭窄や閉塞が、日本では脳内の血管の狭窄や閉塞が多いと報告されています。
- アテローム血栓性梗塞

心臓内や頚動脈にできた血液の固まり(血栓)が、血液の流れに乗って進み、脳の血管を閉塞させてしまうことです。症状は急激に出現し、意識がなくなる重症例もみられます。
不整脈(特に心房細動)や心臓弁膜症などの心臓病をもっている方に多いと報告されています。特に最近では、心房細動による脳塞栓症は高齢者に多くなっています。
心臓内にできた血栓は大きくなることが多く、それが脳内の太い血管を詰まらせるため、急激に重大な症状が出現し、死に至ることもあります。
脳梗塞の約30%を占めると報告されています。
脳塞栓症の画像

手足のしびれや運動障害、言葉の障害などの脳卒中の症状が、24時間以内に消失してしまう発作のことです。英語では、頭文字をとってTIA(Transit
Ischemic Attack)といいます。”虚血(きょけつ)”とは、血液の流れが不十分な状態のことです。
脳内の血管の中で、小さな血栓が一時的に血管を閉塞させるため症状が出現しますが、何らかの理由で再び流れ出すと、症状は回復します。
多くの発作は数分間で消失するか、長くても1時間以内に回復するため、そのまま放置する人が多いようです。しかしこの発作は、その後大きな脳卒中の発作をおこす前兆です。直ちに、病院へ行って専門医の診察を受けてください。この発作を経験した人のうち、20-40%がその後脳卒中の大発作をおこすと報告されています。

- 脳内の血管が切れて出血することです。その原因および出血する場所によって脳内出血(単に脳出血と呼ぶこともあります)と、くも膜下出血に分けられます。
脳の細い血管が裂けて、脳の組織の中に直接出血することです。出血した血液は固まって、血腫(けっしゅ)と呼ばれます。この血腫は、直接脳の細胞を破壊したり、周囲の脳を圧迫したりして、その部分の脳の働きを傷害します。
出血の原因は、高血圧あるいは動脈硬化によって、もろくなった血管が裂けることが最も多いと報告されています。これは、高血圧性脳内出血とよばれています。以前は生命の危機にかかわるような大出血が多かったですが、最近では出血そのものの数が減少しているなかで、比較的小さな出血が増加しているようです。
出血した場所によって、また出血量、すなわち出血した血液の固まり(血腫)の大きさによって、さまざまな症状が出現します。症状だけでは脳梗塞と区別がつかないこともあります。脳内出血は、くも膜下出血ほど生命の危険性は高くはありませんが、半身麻痺や言語障害などの重度な後遺症が残ることが多く、社会復帰を困難にさせ、日常生活でも介助が必要とされる場合が多いのが大きな問題点です。
大脳基底核部(被殻や視床と呼ばれるところ)という大脳深部の細い血管からの出血が、約80%を占めます。この部位に出血すると、出血側と反対側の半身麻痺が出現します。その他には、小脳や脳幹部にも出血が起こります。
脳内出血の画像
脳内の主要な血管は、脳とその表面にあるくも膜と呼ばれる薄い膜の間を走行しています。そのため、血管が裂けて出血した場合には、血液は脳とくも膜との間のすきま(くも膜下腔といいます)に急激に広がり、くも膜の下のすきまに広がる出血という意味で、くも膜下出血と呼ばれます。
原因
脳内の主要血管の主に分岐部に発生したこぶ(脳動脈瘤)が、何らかの原因で裂けて出血するのが最も多いくも膜下出血の原因です。こぶ(脳動脈瘤)ができる原因は不明ですが、先天的なものに、高血圧や動脈硬化などが加わって発生すると考えられています。その他には、血管奇形(脳動静脈奇形)からの出血もあります。ここでは、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血について解説して行きます。
頻度
年間発生頻度は、人口10万人当たり約6-16人と報告されています。日本およびフィンランドの発生率は特に高いと報告されています。
40-50歳台に最も多く発生しますが、最近は高齢者にも多いと報告されています。小さな脳動脈瘤は、ほとんどのものが無症状で、裂けて出血して始めて症状が出現します。
緊急に治療が必要な理由
発症すると約40%の方は死亡、治療がうまくいって助かっても重大な後遺症が残る方は約30%、社会復帰できる方は約30%とされています。
一旦裂けて出血した脳動脈瘤は、再び出血しやすく、2度目の出血によって死亡したり、重い後遺症が残る可能性は高くなります。そこで、2度目の出血がおこる前に、早急に再出血を予防する治療が必要です。
1度出血した脳動脈瘤が、再出血する頻度が一番高いのは、はじめの24時間で3-4%です。その後1か月までは1-2%/日(つまり1か月以内に30-60%が再出血します)、3か月以降は3%/年と報告されています。
症状
典型的な症状は、今まで経験したことのない激しい頭痛と嘔吐が突然起こることです。
しかし、症状の程度ははじめの出血量と関連しており、いきなり大出血をきたすと突然死あるいは昏睡状態となり、少量の出血だと軽い頭痛だけで、風邪と間違われることもあります。いずれにしても、早急に脳神経外科での診断、治療が必要です。
検査
まず必要な検査は、頭部CT検査です。これでほとんどの場合診断できますが、出血量の少ない軽症例や出血後何日も過ぎた場合には、診断できないこともあります。その場合には腰椎穿刺が必要です。
次に必要な検査は、脳血管撮影検査です。脳内の血管を調べ、出血源となる脳動脈瘤を探します。
くも膜下出血の画像
重大な合併症
脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)
くも膜下出血を起こしてから、3日目から2-3週間までの間に起こる現象で、脳の血管が収縮して血液の流れが悪くなることです。攣縮とは、血管が縮んで細くなることで、スパスムとも呼ばれます。その結果、意識状態が悪くなったり、手足のマヒや言語障害が悪化したりします。
脳血管攣縮はその程度によって症状は様々で、軽い人は無症状であり、ひどくなると脳梗塞を起こして死に至ることもあります。
最近では、それを予防する治療が行われているため、実際に脳血管攣縮によって症状が悪くなる頻度は減少してきています。
水頭症(すいとうしょう)
脳内で作られ脳および脊髄を循環している水(脳脊髄液)の流れや吸収が、くも膜下出血によって障害されて、脳内(脳室や脳の外側)に脳脊髄液が過剰に溜まる状態です。
くも膜下出血直後から生じる急性水頭症と、1か月ぐらいしてから起こる遅発性の水頭症があります。
急性水頭症は、急激に意識状態が悪くなり、緊急処置が必要です。遅発性の水頭症では、何となくボーとして意識がはっきりしないとか、ふらふらして歩きにくくなったとか、尿失禁をするようになったとか、そんな症状がゆっくり現われて、だんだん悪くなっていきます。