
脳浮腫に対する治療
血腫周囲に出現する脳のはれ(脳浮腫)は、脳のはたらきを悪化させ、生命に危険を及ぼすこともあります。脳浮腫は、脳出血の発症から数時間後に出現し、3-6日後に最大となり、2-3週間持続します。
治療としては、抗浮腫薬(グリセオール、マンニトール)といわれる点滴を、浮腫の程度にあわせて、1日に数回施行することです。
全身性合併症に対する治療
脳内出血に伴う合併症としては、肺炎、胃腸管出血(胃潰瘍)、尿路感染症などが多いとされます。

脳内出血に対する手術の適応は、比較的限られており、血腫の部位と大きさおよび意識状態によります。そして出血によって破壊された脳組織自体は、手術によっても回復させることはできません。すなわち手術によって、半身不髄などの神経症状を直ちにもと通りに改善させることは不可能なのです。手術には以下の3種類があります。
開頭による血腫除去術
全身麻酔下に、頭蓋骨を一部はずして脳を露出させ、顕微鏡下に脳内血腫を除去する治療です。直接的に出血している血管を処理することができます。
基本的には、意識障害のないもの(小出血例)は、保存的治療の方が外科的治療より治療成績は良好です。また、刺激を加えても全く動かないような深昏睡を来した場合(大出血例)では、いかなる治療でもよくならないと考えられ、手術の適応はないとされます。
そこで、これらの中間の症例の一部に、手術適応があります。一般的には、中等度の意識障害をきたした被殻部(出血量31ml以上)や小脳(血腫径3cm以上)が適応とされています。しかしこの手術は、脳内出血によって出現した運動障害などの神経症状の改善を目的としたものではなく、手術後に寝たきりあるいは植物状態になることはある程度覚悟した上で、まず生命を救う目的で行われることが多いようです。
被殻部の出血に関して、最近の小規模な科学的な対照試験(保存的治療との比較)の結果では、早期の死亡率の改善は認められましたが、長期的な改善効果は証明できませんでした。現在は欧州で大規模な比較対照試験が行われており、外科的手術が本当に有効であるのはどんな場合か、などの問題点に関して結論が出るのにはまだ少々時間が必要のようです。
定位的脳内血腫吸引術
局所麻酔下に、定位脳手術装置に頭部を固定し、CTにて3次元的に血腫の位置を計測します。そして、頭蓋骨に小さな穴をあけ、穿刺針を挿入して血腫を吸引する方法です。手術手技が簡単で低侵襲であり、高齢者でも手術できるため、この手術は日本において普及しています。
対象となるのは、主に被殻、視床、小脳あるいは脳幹(橋)の軽度から中等度の出血とされています。また全身麻酔による血腫除去術が、何らかの理由でできない場合に、この手術が選択される場合もあります。
この方法は、出血部位を直接確認することは不可能であり、止血操作もできないため、術後の再出血が約5%程度出現すると報告されています。一方最近の内視鏡下の血腫吸引術の報告では、再出血率は減少しています。
この手術が成功すると、術前のCT検査にて白く写っていた出血が、術後のCT検査おいて見事に消失し、良くなったかのように思えます。しかし残念ながら、術直後より神経症状(半身麻痺など)が劇的に改善することは稀です。
この手術の有用性については、今だに議論があり、結論は出ていません。この手術を積極的に行う施設では、機能的な予後の早期改善や入院期間の短縮に、保存的治療より有効であると信じて手術を行っています。しかし、すべての患者さんにそれらの点において有効であるわけではありませんし、最終的な患者さんの状態(長期的な機能予後)が、保存的治療より良くなったという報告もありません。この手術の有用性に関しては、内科(神経内科)の医師の多くは疑問に感じているのが実情です。手術の有効性の証明には、手術と保存的治療をきちんと比較した対照試験が必要ですが、今だに行われておらず、今後の研究が待たれています。手術を勧められた方は、担当医師とよく相談をして納得されてから手術を受けて下さい。
脳室ドレナージ術
血腫を除去する手術ではありません。出血が脳脊髄液の貯流した脳室というところに大量に流れ込むと、脳脊髄液の循環を障害する急性の水頭症と呼ばれる状態になり、脳内の圧が急激に上昇します。そんな場合に、脳室内の血腫の除去と脳圧のコントロールのために、脳室内に細い管を挿入する手術です。局所麻酔下に、頭蓋骨に小さな穴をあけ、細い管を脳室に挿入します。視床出血の場合に行われることが多いです。