
破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血の治療においてまずすべきことは、脳動脈瘤の再度の破裂による再出血を防ぐことです。再出血は、初回出血から24時間後、あるいは1-2週間後といった早期に発生することが多いと報告されています。また、初回出血時は軽症でも、再出血を来すと死亡率は高く、命が助かっても重篤な後遺症を残す場合も多くなります。
破裂脳動脈瘤の再出血を防ぐ治療として、最も広く行われている方法は、外科的開頭術である脳動脈瘤のクリッピング術です。また最近では、脳血管内治療として、脳動脈瘤内のコイル塞栓術も行われるようになってきました。また、手術をするまでの間は、絶対安静とし、血圧を安定させることが重要です。

全身麻酔下に、頭蓋骨の一部をはずして脳の表面を露出し、顕微鏡下に脳の溝や骨との隙間を徐々に開いて、脳の深部にある脳動脈瘤に到達します。そして、脳動脈瘤の根元に金属性のクリップをかけて、脳動脈瘤内へ流入する血流を遮断し、再出血を予防しようとする治療方法です。
この手術は、脳動脈瘤の再破裂の予防法として、最も確実性が高く、手術手技も確立されたものです。しかし、すべてのくも膜下出血の患者さんに対して、この手術ができるわけではありません。手術をするかどうかは、くも膜下出血の重症度、すなわち意識状態によって決まります。重症なものほど重大な後遺症を残したり、死亡する危険性が高まります。そこで、深昏睡状態で、呼吸や血圧の不安定な場合には、手術によっても改善させることは困難であり、手術の適応はないとされます。
手術は、原則的にはくも膜下出血の発症より約72時間以内の早期に行われます。それ以降は、脳血管攣縮の時期に当たり、手術自体による合併症の発生の危険性が高く、手術を避けることが多いです。発症時において患者さんの状態が悪くて手術できない時には、脳血管攣縮の時期が過ぎた約2週間目以降に手術されることもあります。
手術の危険性
術中の予期せぬ脳動脈瘤の破裂によって大出血を来し、生命に危険を及ぼす恐れがあります。
クリップの操作によっては、正常な脳血管の流れを障害して脳梗塞を来すこともあります。
その他にも、すべての開頭術に伴う危険性として、術後出血や細菌感染があげられます。
手術の写真

脳血管内治療の一つで、カテーテルと呼ばれる細く管を足の付け根の血管から、レントゲンを見ながら脳血管内へ誘導し、脳動脈瘤内にコイルを詰めて閉塞させてしまう治療です。現時点では、クリッピング術に完全に取って代われるものではありませんが、患者さんの状態や動脈瘤の形状によっては、コイル塞栓術を選択される場合があります。
コイルの見本
コイル塞栓術の利点
外科的手術と比べて低侵襲です。つまり、動脈瘤周囲の正常な脳組織または脳血管へ侵襲を与えることなく、病変部のみを処置できます。
患者さんへの負担が少なく、高齢者やいろいろな全身の合併症を持った方にも施行できます。
外見的には頭に傷を付けることなく、術後の安静が必要な期間も短くてすみます。
全身麻酔がより安全ですが、場合によっては局所麻酔でも治療可能です。
コイル塞栓術の欠点
治療の施行時に脳動脈瘤が完全に閉塞されても、その効果が永久に続くかどうかという長期的な治療効果の検討がまだ不十分です。すなわち、塞栓術後に脳動脈瘤内でコイルが圧縮され移動した場合には、脳動脈瘤が再び大きくなる危険性があります。
脳動脈瘤の頚部(根元)が広いものは、コイルで完全閉塞させるのは困難であり、その一部が残存した場合には、脳動脈瘤が再び大きくなる危険性があります。
脳動脈瘤の周辺に発生した血栓、あるいはコイル自体によって正常な脳血管を閉塞し、脳梗塞を来す危険性があります。
その他に、レントゲンの透視下で行う脳血管内治療では、脳血管の損傷による脳内出血などの合併症が一旦発生した場合には、直視下で行う開頭手術と比べて適切な処置が遅れることがあり、その結果生命に危険を及ぼしたり、重篤な後遺症を残す危険性があります。
コイル塞栓術の適応と考えられる場合
比較的小さな動脈瘤で、その頚部が明らかで狭いもの。
瘤内に血栓がないもの。
大きな脳内血腫を伴わないくも膜下出血であること。
外科的手術(クリッピング術)に伴う合併症の危険性が高いと考えられる場合(脳底動脈の動脈瘤など)。
その他の問題点
現在、外科的手術(脳動脈瘤クリッピング術)とコイル塞栓術の選択に関しては議論の尽きないところです。外科的手術は確実性の高い治療法ですが、その問題点の一つには、くも膜下出血の急性期は脳腫張が強いため、手術自体によって脳へ強いダメージを与えてしまうおそれがあることです。コイル塞栓術は、脳へのダメージは少なく、侵襲の少ない治療法ですが、新しい方法のため10年後、20年後といった長期的な信頼性がまだ確立されていません。熟練した術者によるコイル塞栓術の手技による合併症(死亡率や後遺症の発現率)は、一般的には外科的手術と同等なものであると考えられます。しかし、個々の患者さんの状態や脳動脈瘤の大きさや部位などによって、それらの危険性の程度は異なり、治療方法は各々の状態に応じて慎重に判断する必要があります。
もう一つの問題点は、コイル塞栓術などの脳血管内治療はどこの病院でも行っている治療ではなく、患者さん側から信頼できる病院や医師を選択するのは困難なことです。これらの治療を勧められた時、その病院あるいは実際に治療を担当する医師のこれまでの経験を尋ねてみられてもいいと思います。また、看護婦さんをはじめとして、他の病院のスタッフからも情報を得られると思います。
この治療には、1991年に米国で開発されたGDCと呼ばれるプラチナ製の金属コイルを使います。日本では1997年3月に保険適応となりましたが、コイルの価格は極めて高額で、一本15万円で販売されています。一方米国では同じものが425ドル(約47000円)という約3分の1の価格で販売されています。通常の大きさの動脈瘤では、数本から10本以下で塞栓可能ですが、大きな動脈瘤の場合には数十本のコイルを使うこともあります。このように輸入された医療用器具は、日本では極めて高額であり、現在の医療費の高騰の原因の一端を担っていると考えられます。
脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の実際例