突然、手足がしびれたり動かなくなったり、言葉が話せなくなったり、あるいは意識がなくなったりする発作を”脳卒中”と言います。昔は、”中気”あるいは”中風” とも呼ばれていました。
その原因は、脳の血管が詰まって血液が流れなくなったり(脳梗塞:のうこうそく)、脳の血管が裂けて出血したり(脳出血)して、脳の組織が傷害されることによります。
脳出血は、昔は”脳溢血(のういっけつ)”とも言われていました。
1980年までは、日本人の死亡原因の第1位でした。その後は少しずつ減少し、最近の統計(1997年)では、悪性新生物、心疾患に次いで第3位であり、死亡総数の15.7%を占めています。
年間死亡者数(1997年)は約13万8697人であり、その内訳は脳梗塞(86986人, 63%)、脳内出血(31786人, 23%)、くも膜下出血(14384人, 10%)、その他(5541人)と報告されています。
1996年10月に行われた患者調査では、総患者数は173万人、推計入院患者数は21万6000人となっています。
医学の進歩に伴って、脳卒中による死亡は減っていますが、脳卒中にかかる人の数は減っていません。脳出血はやや減っていますが、脳梗塞は増えています。
そして、近年の高齢化社会の中で、脳卒中は重い後遺症を残し寝たきりになる原因疾患として大きな割合を占めています。
人口10万人あたりの脳卒中の粗死亡率(1997年)は、112.6人と報告されています。
日本では、脳卒中の中で脳出血が多いためか、欧米の他の先進国と比べて脳卒中による死亡率は比較的高いと言われます。
脳卒中の人口10万人あたりの年齢補正死亡率(1992年)は、日本人は男性80、女性50です。死亡率の高い国は、ロシアでは男性290、女性200、ブルガリアでは男性300、女性190です。低い国は、フランスでは男性50、女性25、アメリカでは男性45、女性30と報告されています。
アメリカでは、脳卒中は
Stroke
(ストローク)あるいは
Brain Attack
(ブレインアタック)と呼ばれ、脳梗塞が80%を占めています。また死亡原因の第3位(年間死亡約16万人)、重い障害を残す原因疾患の第1位となっています。
一般の人々に対する啓蒙活動としては、米国心臓協会や脳卒中協会、あるいはさまざまな研究機関が、脳卒中の正しい理解と予防のために広く広報活動を行っています。たとえば、こんな言葉でキャンペーンをしています。
"Stroke is an emergency!”
脳卒中は緊急に治療が必要です!
"Time is brain”
時は脳なり(脳卒中はできる限り早く治療を始めることが大切です)
それに比べて、日本の現状はどうでしょう?脳卒中を研究している医学学会はたくさんありますが、一般の人々への啓蒙活動はまだまだ不十分です。インターネットで手に入れられる脳卒中の情報もわずかです。このホームページが少しでもその手助けになれば幸いです。
欧米では、科学的なデータに基づいた標準的な治療方法の確立や新たな治療法の開発のために、患者さんを対象とした大規模な臨床試験(たとえば、偽薬を対照とした試験)が広く行われています。
日本では、ねずみや猫の脳卒中の研究(基礎研究といいます、もちろんこれも大切なことです)は盛んに行われていますが、それに比べて人間に対する科学的な研究は少々寂しいと言わざるをえません。
日本の病院では、個々の医師の判断で、それぞれが最良であると信じている治療を行っており、科学的なデータに基づいた標準的な治療方法の確立や、新たな治療法の開発をきちんと行おうとする気運がうすいのが現状です。
たとえば、科学的な臨床治験で効果を確かめることなしに、日本国内でのみ使われていた脳循環代謝改善剤(のうじゅんかんたいしゃかいぜんざい)という名前のいくつかの薬が、1998年5月にやっと使用禁止になったことをご存じですか。これらの薬は、以前から効果が疑問視されていたもので、改めて偽薬を対照とした臨床治験したところ、その効果が否定されました。こういった効かない薬が認められ、堂々と使われていたのは日本だけです。これらの薬のために、何千億円という医療費が無駄になりました。
新しい薬や治療方法を正しく評価するためには、きちんとした方法論に基づいた臨床試験が欠かせません。これは、医師および製薬会社が全ての情報を公開し、それに納得された患者さんの協力があって初めて成立するものです。
目 次
脳卒中を起こしたら
症 状
予 防
種 類
検 査
脳梗塞の治療
脳内出血の治療
くも膜下出血の治療
脳ドック
リハビリ
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