関数の収束と数列の収束の関連性(普通の極限の場合)についての定理

 次の命題P,Qは互いに言い換え可能(つまり、命題P命題Q)である。

  命題P

   xx0 のとき、f (x)A収束する。 つまり、

lim f(x)A

、すなわち、 f (x)A (xx0) が成立する。

xx0


  命題Q

    x0収束するどんな数列 { xn }={ x1 , x2 , x3 , … } (ただし、xnx0 )に対しても、
                数列f ( xn ) }={  f ( x1 )f ( x2 )f ( x3 ),…}  が A収束する
     つまり、  [  { xn } ] [  xn x0 (n∞) f ( xn)A (n→∞) ]

  なぜ?→証明 
  cf. 右極限/左極限の場合、これらを包括して
  利用例:関数の連続性を数列の収束へ言い換える/コーシーの判定条件(十分性の証明)

 
 





(例1)x24 (x2) (和達三樹『微分積分p.26)
   関数f(x)= x2において、2に収束するよう なX内の数列として、をとる[n→∞で2に収束]。
   その像によってつくられる数列は、{4+4 (1/10)n+ (1/10)2n }。これは、n→∞で4に収束。
   2に収束するようなX内の数列として、をとる[n→∞で2に収束]。
   その像によってつくられる 数列は、{4+4/n2+1/n4 }。これも、n→∞で4に 収束。






 

 





(例2)  x→0 のとき f (x)= sin (1/x)は極限値をもたず収束しない (神谷・浦井『経済学のための 数学入門p.94.)
   X={ xR | 0<x }, Y=Rと し、f (x) = sin (1/x)とする。
   0に収束するようなX内の数列として、をとる[n→∞で0に収束]。
     その像によってつくられる 数列は、{ 0,0,0,… }。この数列は、n→∞で0に収束。
   0に収束するようなX内の数列として、をとる[n→∞で0に収束]。
      その像によってつくられ る数列は、{ 1,1,1,… }。この数列は、n→∞で1に収束。
   よって、xの0への近づき方、0へ収束するx内の数列の選び方で、その像によって作られる数列の極限が変わっている。
   したがって、x→0のとき f (x)= sin(1/x)は極限値をもたず収束し ないことになる。    






  【文献】 吹田・新保『理工系の微分積分学』(p.19) ; 杉浦『解析入門I』(p.53) ; 杉浦ほか『解析演習』第1章 [例題]§2例題2.1(pp.32-3) ; 小平『解析入門I』(pp.77 -78) ; 高木『解析概論』第1章9節(p.22)


→[《関数の極限》と《数列の極限》の関係一覧]
→[トピック一覧:1変数関数の収束・極限値] 
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[命題P命題Qの証明]   

    仮定: f(x)Axx0 )       …@
        xnx0n→∞ )       …A
        xnx0            …B
    結論: f (xn)→An→∞ )    

 この仮定から結論を導く証明:       
    関数の収束の定義に従うと、@はすなわち、
       任意のε>0をとると、
       | f(x)A |<ε ( 0<| xx0 |<δ )
       を成り立たせる正の実数δが存在する…C
    ということ。
    数列の収束の定義に従うと、Aはすなわち、
       任意の(どんな小さな)正の実数ε’に対して(でも)、
       | xnx0 |<ε’ (n≧ N)
       を成り立たたせるある(十分大きな)自然数Nが存在する  …D
    ということ。ただしBより、xnx0 。
    ε’はどんな正の実数でもいいというので、
    ε’としてCで定まるδをとっても、Dはそのまま成り立つ。
    すなわち、
       Cで定まった如何なるδに対してであろうとも、
       | xnx0 |<δ (n≧ N) 
       を成り立たたせるある(十分大きな)自然数Nが存在する  …E
    ということ。ただしBより、xnx0 。
    Eで定まった自然数N以上の項についてみると、
        | xnx0 |<δ , xnx0  
    が成り立つ。
    ならば、Cより、Eで定まった自然数N以上の項については、
          はじめに決めた任意の正数εに対して  
          | f(xn)−A |<ε  ( nN )   
       が成り立つといえる。
       数列の収束の定義から、これを以下の様に表現してよい。
           f (xn)→A  ( n→∞ )      

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[命題Q命題Pの証明]   

    仮定: f (xn)→An→∞ )       …@
        数列 { xn }は、
          xnx0n→∞ )       …A
          xnx0            …B
        を満たすあらゆる数列。
    結論: f (x)→Axx0 )         …C

 この仮定から結論を導く証明:対偶を示す。つまり、
        結論:Cf (x)→Axx0 )が成り立たないなら、
        仮定:@f (xn)→An→∞ )(xnは、ABを満たすあらゆる数列)  
        も成り立たない  
       ことを示す。
     [C:f (x)→Axx0 )が成り立たないという仮定をきちんというと、]
       C:f(x)→Axx0 )が成り立たないと仮定する。
       この仮定は、関数の収束の定義より、
           任意の正の実数ε0に対して、ある正の実数δが存在して、
           | f(x)−A|<ε0 ( 0<| xx0 |<δ )
           を成り立たせる、
       ことを否定していることになる。
       つまり、
            ある正の実数ε0が存在して、どんな(小さな)正の実数δを取ろうとも、
                0<| xx0 |<δ かつ | f(x)−A|≧ε0  
            を満たすxが存在する …D  
      (あるε0に対してδを調整してx0−δ<xx0x0xx0+δの範囲をどうとっても、
         A−ε0f(x)<A+ε0の範囲からf(x)の値を飛び出させてしまうxが存在する) 
       ことを、この仮定は意味していることになる。
          ※きっちりCの命題の否定を作れるようになるには論理式の勉強が必要。
     [C: f (x)→Axx0 )が成り立たないという仮定のもとでは…]  
      すると、x0には等しくならないが、x0に収束する数列として、
        各自然数n≧1に対して、
         0<| xnx0|<1/n を満たし、…E
        かつ
         | f(xn)−A|≧ε0 を満たす  …F
            (∵δ=1/nとするとDの仮定からこのようなxnが存在することになる) 
      ようなxnが存在する。
      これらのx1, x2,…,xn,…を並べた数列 { xn }は、EよりABを満たすが、
      そのfによる像を並べた数列{ f(xn) }はFより@を満たさない。
      @は、ABを満たす全ての数列について成立することを主張する命題であるから、
      このような反例が一つでもあれば、否定される。
      
      以上から、対偶、すなわち
        結論:Cf (x)→Axx0 )が成り立たないなら、
        仮定:@f (xn)→An→∞ )({ xn }は、ABを満たすあらゆる数列)  
        も成り立たない  
      ことが示された。
      ゆえに、
       仮定:@f (xn)→An→∞ )({ xn }は、ABを満たすあらゆる数列)が成り立てば、
       結論:Cf (x)→Axx0 )も成り立つ。

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関数の収束と数列の収束の関連性についての定理の系:

  xx0 のとき、f(x)収束するための必要十分条件は
    (x → x0 のとき、f(x)収束することと同値なのは)、
  x0収束するどんな数列 { xn }(ただし、xnx0 )に対しても、
  数列 { f ( xn ) }が収束することである。

  ※極限値の値をだしていないことに注意。

(証明)

 [吹田・新保『理工系の微分積分学』19;杉浦『解析入門I 』53.]
   必要性:f(x)が収束する→{ f ( xn ) }が収束する   
     上記の定理により成り立つ。      
   十分性:
x0 収束するどんな数列 { xn }に対しても{ f ( xn ) }が収束する→f(x)が収束する   
     は、
     x0 収束するどんな数列 { xn }に対しても一定となる。
     なぜならば、
     xnx0yn x0となる二つの数列{ xn }{ yn }に対し、
     
xnynを交互にとってつくった数列を{ zn }とすれば、
     
zn x0となるから、
     数列{
f (zn)}の極限に、部分列{ f (xn)}{ f (yn)}の極限が一致する。
     ゆえに上記の定理により成り立つ。
 (この定理を踏まえて、関数の極限の定理を数列の極限から捉えかえすと)
  関数f: X→Yにおいて、
  
x0収束するようなX内の数列xnx0)を任意にとったとき
  そのによってつくられる数列収束が常に存在して、
  しかもその収束先が数列の選び方に依存せず一つの値Aとして定まるとき、
  Aを、xx0に近づけたときのf(x)の極限と呼び、で表す。
             (神谷・浦井『経済学のための数学入門』p.94.)
  xがaに近づくというときには、
  「xがどのような近づき方でaに近づいても」という意味を含んでいる。
  しかし、近づき方をすべて調べつくすことは不可能であり、
  多くの場合には心配しないでよい。
                 (和達三樹『微分積分』p.27)  
 例1:  
   関数
f(x)= x2において、
   2に収束するようなX内の数列として、
      をとる。[n→∞で2に収束]
     その像によってつくられる数列は、{4+4(1/10)n+ (1/10)2n }。
     これは、n→∞で4に収束。
   2に収束するようなX内の数列として、
      をとる。[n→∞で2に収束]
     その像によってつくられる数列は、{4+4/n2+1/n4 }。
     これも、n→∞で4に収束。
              (和達三樹『微分積分p.26)
  例2:  x→0のときf(x)=sin(1/x)は極限値をもたず収束しない 
   X={ x∈R|0<x },Y=Rとし、f(x)=sin(1/x)とする。
   0に収束するようなX内の数列として、
      をとる。[n→∞で0に収束]
     その像によってつくられる数列は、{ 0,0,0,… }。
     この数列は、n→∞で0に収束。
   0に収束するようなX内の数列として、
      をとる。[n→∞で0に収束]
     その像によってつくられる数列は、{ 1,1,1,… }。
     この数列は、n→∞で1に収束。
     よって、xの0への近づき方、0へ収束するx内の数列の選び方で、
     その像によって作られる数列の極限が変わっている。
     したがって、x→0のときf(x)=sin(1/x)は極限値をもたず収束しないことになる。
             (神谷・浦井『経済学のための数学入門』p.94.)
 


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reference

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』項目58関数D族・列(p.158)、項目166収束(pp436).
吉田耕作・栗田稔・戸田宏『平成元年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 微分・積分 新訂版』啓林館、pp.28-33.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.93-95.
高木貞二『解析概論改訂第3版』岩波書店、1983年、p. 20.
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年 p. 76-79.。
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.26-34.
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.18-19.22-23.
住友洸(たけし)『大学一年生の微積分学』現代数学社、1987年。pp. 24-26.
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.50-54, p.60.  極限の定義が特殊なので注意。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.32-36;42-44..
Fischer,Emanuel.Intermediate Real Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Heidelberg Berlin,1983,pp. 228-231; 238-239.
Lang,Serge.Undergraduate Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg Tokyo,1983,pp.135-143.
中内伸光『数学の基礎体力をつけるためのろんりの練習帳』共立出版株式会社、2002年、pp.118-122。