不定積分indefinite integral もしくは積分関数の定義と性質:
トピック一覧


不定積分(積分関数)の定義 
・不定積分(積分関数)の性質:連続性微分 



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 →向き付き定積分
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 非有界関数の広義積分/無限区間の広義積分/スチルチェス積分
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 矩形上の2変数関数の積分/一般集合上の2変数関数の積分 

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定義:不定積分indefinite integral ないし積分関数    

   [神谷浦井『経済学のための数学入門』331;吹田新保『理工系の微分積分学』109]

(1)向きなしの定積分定義のみに基づく定義

f(x)は閉区間I[a,b]上可積とする。
定理により、Iに含まれる任意の閉区間でも可積となるので、以下の関数を定義できる。
  
このI上の関数F(x)を、不定積分[吹田新保『理工系の微分積分学』109]、積分関数[高木『解析概論100]などという。

(2) 向きつきの定積分定義に基づく定義

 f(x)が閉区間I上可積であるとする。
 aをIに属する定数とし、I上の任意の点xの関数として、以下を定義する。
 
 ただし、ここでの積分記号は、向きつきの定積分定義に従うとする。
  ※ (1)でのI=[a,b], a≦x≦bという設定が、(2)の定義では、a,xIにまで緩められている。

原始関数のことを不定積分と呼ぶこともあり、「不定積分」なる用語の定義は統一されていない。したがって、「不定積分」なる用語を用いる場合には、それが何を指しているのかを、筆者自身で読者に対してその都度つまびらかにしておく必要がある。このあたりの事情については、小平『解析入門I』165を見よ。

 

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定理:不定積分の連続性

[吹田新保『理工系の微分積分学』109; 高橋『経済学とファイナンスのための数学』81.]
有界な関数f(x)は閉区間I[a,b]上可積とすると、その不定積分、すなわち、
 
は、I上連続である。
(証明)
準備:
 閉区間Iにおけるf(x)の上限下限絶対値の大きいほうをMとおく。すなわち、
   | f(x)|≦M     …@
本題:
 
         積分の区間加法性
         積分に関する三角不等式
         ∵@から積分の単調性を用いて。
          =M|h| ∵定積分リーマン和の定義
結論:
 F(x+h)−F(x)0 (h0)
 すなわち、F(x+h) F(x) (h0)
 これは、連続性の定義に他ならない。
 [証明終わり]
以上の証明の直感的解釈 −ごく単純なケース[h>0,f(x)≧0]]
  不定積分・積分関数の連続性
  
  どう転んでも、上図の緑の領域の面積:|F(x+h)−F(x) |は、M×|h|の長方形の面積以下に収まる。
  hを小さくしてゼロに近づけてゆくと、M×|h|の長方形の面積は狭まって、ゼロに近づいていく。
  外枠がこうなるのだから、
  上図の緑の領域の面積:F(x+h)−F(x)だって、hを小さくしてゼロに近づけてゆくと、ゼロに近づいていく。
  このことは、実は、連続性の定義と重なっている。
  →1.h<0の場合も考えてみよ。2. f(x)≧0という条件を外してみよ。


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定理:不定積分(積分関数)の微分

(ゆるい前提版)

        [高木『解析概論』101;吹田新保『理工系の微分積分学』109;
              杉浦『解析入門I』231-232; 青本『微分と積分1131.]
f(x)が閉区間Iで積分可能かつI上の点x=x0連続であるなら、
向きつき定積分で定義されたf(x)の不定積分(積分関数)
  
はf(x)が連続である点x=x0 Iで微分可能であり、F'(x0)=f (x0)が成り立つ。
  ※なぜ?→証明 

(きつい前提版)

[小平『解析入門I163;神谷浦井『経済学のための数学入門』332; 青本『微分と積分1』131]
f(x)が閉区間Iで積分可能でのみならず、I上連続でもあるなら、
向きつき定積分で定義されたf(x)の不定積分(積分関数)
  
はI上の任意の点x=x0微分可能であり、F'(x0)=f (x0)が成り立つ。
※すなわち、f(x)が連続関数なら、
  F(x)はf(x)の原始関数となる。[青本『微分と積分1』131;神谷浦井『経済学のための数学入門』332]
  ※なぜ?→証明 

※「(この定理は)要約すれば、連続関数に関する限り、微分と積分とが互いに逆な算法であることを意味する。もしも連続性を仮定しないならば、この関係は成立しない。…連続関数以外では、微分積分法はむずかしい!」[高木貞二『解析概論』102ページ。]
                      

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(証明:不定積分(積分関数)の微分-ゆるい前提版)


[高木『解析概論』101=吹田新保『理工系の微分積分学』109:平均値定理; 杉浦『解析入門I』231-232:三角不等式.]

仮定: f(x)が閉区間Iで積分可能…@、f(x)が閉区間I上の点x=x0連続…A、
     …B
   ただし、ここでの積分記号は、向きつきの定積分定義に従うとする。
   
x0をI 上の端点を除く任意の点とする。
本論:
(i) h > 0のとき 
 
(step1)
   ∵B
           …C
            ∵@より向き付きの定積分区間加法性適用
 
(step2)
  @からIに含まれる閉区間[x 0, x 0+h]について、平均値の定理〇1が適用可能。
  閉区間 [x 0, x 0+h] でのf(x)の下限をm、上限をMとおくと、
  閉区間 [x 0, x 0+h]でm≦f(x)≦M となって…D
  (注:積分が定義されているとき、被積分関数が有界であると前提されているので、
              下限m上限Mは必ず存在。)
      …E
  DEより、は、mとMの間に挟まれているので、
  この二つの値の間の距離は、mとMとの間の距離以下となる。すなわち、
      …F
 
(step3)
  Aから
連続性の定義より、
  任意の正数ε
/2に対して、|f(x)f(x0) |<ε/2 (|x x0|<δ)  を満たすδが存在する。
  すなわち、まず、任意の正数ε
/2を一つきめてしまえば、
  
f(x0)−ε/2 f (x)f(x0)+ε/2とできる開区間(x0−δ, x0+δ)をつくるδが必ず存在する。…G
  Dの
hをGのδよりも小さくとって、h<δとすれば
  
閉区間[x 0, x 0+h]はGの開区間(x0−δ, x0+δ)に含まれるので、
  
閉区間[x 0, x 0+h]でのf(x)の下限m、上限Mも、
  Gで示された
f (x)についての開区間:f(x0)−ε/2 f (x)f(x0)+ε/2 に含まれる。
  つまり、
  
f(x0)−ε/2mMf(x0)+ε/2
  ゆえに、h<δとすればMm<ε。 …H
 
(step4)
  Cを代入したFに、Hを用いて、
  h<δとすれば、
  
|{F(x0+h) F(x0)}/h f(x0) |Mm<ε。
  結局、Gできめた任意の正数ε
/2にたいしてx0における連続性から正数δがきまり、
  このδ以内に
hをすれば、|{F(x0+h) F(x0)}/h f(x0) |<εとなるのだから、
  任意のε
>0に対して
   
|{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) |<ε (0h<δ)
  を成立させるδ>0が存在することになる。右極限の定義を用いて書きなおすと、
    
  つまり、
F(x)は点x=x 0右微分可能であり、そこでの右微分係数f (x0)となる。
(ii) h < 0のとき 
 
(step1)
   ∵B
           
            ∵@より向き付きの定積分区間加法性適用
           …I
                ∵向き付きの定積分の定義に従い、向きナシの積分に直す。
 (step2)
  @から
Iに含まれる閉区間[x 0+h, x 0]について、平均値の定理1が適用可能。
  
閉区間[x 0+h, x 0]でのf(x)の下限をm、上限をMとおくと、
  
閉区間[x 0+h, x 0]mf(x)M となって…J
  (注:積分が定義されているとき、被積分関数が有界であると前提されているので、
              下限m上限Mは必ず存在。)
      …K
  JKより、は、mとMの間に挟まれているので、
  この二つの値の間の距離は、mとMとの間の距離以下となる。すなわち、
      …L
 
(step3)
  Aから連続性の定義より、
  任意の正数ε/2に対して、|f(x)f(x0) |<ε/2 (|x x0|<δ)  を満たすδが存在する。
  すなわち、まず、任意の正数ε/2を一つきめてしまえば、
  
f(x0)−ε/2 f (x)f(x0)+ε/2とできる開区間(x0−δ, x0+δ)をつくるδが必ず存在する。…M
  Jのh<0を−δ<h<0となるようにとれば、
  閉区間[x 0+h, x 0]はMの開区間(x0−δ, x0+δ)に含まれるので、
  閉区間[x 0+h, x 0]でのf(x)の下限m、上限Mも、
  Mで示されたf (x)についての開区間:f(x0)−ε/2 f (x)f(x0)+ε/2 に含まれる。
  つまり、
  
f(x0)−ε/2mMf(x0)+ε/2
  ゆえに、−δ<h<0とすれば、M−m<ε。 …N
 
(step4)
  Iを代入したLに、Nを用いて、
  −δ<h<0とすれば、
  
|{F(x0+h) F(x0)}/h f(x0) |Mm<ε。
  結局、Mできめた任意の正数ε
/2にたいしてx0における連続性から正数δがきまり、
  このδを使って、−δ<
h0となるようにhをきめれば、
  
|{F(x0+h) F(x0)}/h f(x0) |<εとなるのだから、
  任意のε>0に対して
   
|{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) |<ε (−δ<h<0)
  を成立させるδ>0が存在することになる。左極限の定義を用いて書きなおすと、
    
  つまり、F(x)は点x=x 0左微分可能であり、そこでの左微分可能f (x0)となる。
以上から、F(x)は連続な点x=x 0左微分可能かつ右微分可能であり、
そこでは左微分係数右微分係数f (x0)となるので、
F(x)連続な点x=x 0微分可能であり、F'(x 0)=f (x 0)が成り立つと言える。
また、
連続な点x=x 0が閉区間Iの端点であっても、同様にして、
I上の左端では右微分可能右微分係数f (x0)
I上の右端では左微分可能左微分係数f (x0)であるといえる。

 

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(証明:不定積分(積分関数)の微分-きつい前提版)

[小平『解析入門I』163;]
仮定: f(x)が閉区間Iで積分可能…@、f(x)が閉区間I上連続…A、
     …B
   ただし、ここでの積分記号は、向きつきの定積分定義に従うとする。
   
x0I 上の端点を除く任意の点とする。
本論:
 (i) h > 0のとき 
   ∵B
             ∵@より向き付きの定積分区間加法性適用
          
= f(ζ)、ただし、ζは(x0,x0+h)に存在する或る値。
            ∵これを満たすζが
(x0,x0+h)に存在
             A:I上連続より平均値の定理〇2が適用可能となるから。
 (ii) h < 0のとき 
   ∵B
             ∵@より向き付きの定積分区間加法性適用
            ∵向き付きの定積分の定義に従い、向きナシの積分に直す。
          = f(ζ)、ただし、ζは( x0+h, x0 )に存在する或る値。
             ∵これを満たすζが
( x0+h, x0 )に存在。
              A
:I連続より平均値の定理が適用可能となるから。
ゆえに、
h0ならば、hの符合に関わらず、
 {
F(x0+h)F(x0)}/h = f (ζ) …C、
 ただし、ζは
(x0,x0+h)ないし( x0+h, x0 )に存在する或る値。…D
となる。 
ここで、h→0とすると、Dよりζ→x0 となるから、Cより{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0)
ゆえに、
微分係数及び導関数の定義より、
I上の端点を除く任意の点x0F(x)微分可能であり、F'(x)=f (x)が成り立つ。()
また、同様にして、
I上の左端では右微分可能右微分係数f (x0)
I上の右端では左微分可能左微分係数f (x0)であることを確かめられるので、
任意のx0I 微分可能であり、F'(x0)=f (x0)、ということになる。
()についての厳密な証明:
任意のε
>0に対して
   
|{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) |<ε (0|h|<δ)
を成立させるδ>0が存在することを示す必要がある(極限の厳密な定義)
仮定A
: f(x)閉区間I連続であるから、連続性の定義より、この点x0についても、
任意の正数εに対して、
|f(x)f(x0) |<ε (|x x0|<δ)  を満たすδが存在する。
すなわち、まず、任意の正数εを一つきめてしまえば、
f(x0)−ε< f (x)f(x0)+εとできる開区間(x0−δ, x0+δ)をつくるδが必ず存在する。…E
Eによって存在することが明らかなδを用いて、
0|h|<δとすれば、Dより、ζは(x0,x0+δ)ないし( x0-δ, x0 )に存在する。 
よって、ζはEの開区間に入るので、
f (ζ)は、Eより、f(x0)−ε< f (ζ)f(x0)+ε 
Cをこの不等式に代入して、
f(x0)−ε<{F(x0+h)F(x0)}/hf(x0)+ε
すなわち、
|{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) |<ε (0|h|<δ) 
よって、任意のε
>0に対して、連続性によって存在することが明らかな(E)δを用いてれば、

  |{F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) |<ε (0|h|<δ)
が成立する。つまり、

 {F(x0+h)F(x0)}/h f (x0) (h0)  ∵ 極限の厳密な定義 


 

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reference

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、202項積分法(pp.520-525)→リーマン積分、204項積分論(pp.530-533)→ルベーク積分。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.109-111.
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.79-85.
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年 pp.161-4。
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.209-211: n次元一般での定義;229-247:1変数関数の積分に特殊な性質(原始関数、…)。
高木貞治『解析概論改訂第3版』岩波書店、1983年、pp. 100-101.
青本和彦『岩波講座現代数学への入門:微分と積分1』岩波書店、1995年、130-5.軽く説明。
高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、pp.1-11: ルベーク積分の前段階として単関数を用いて定義;pp.115-117。
矢野健太郎・田代嘉宏『社会科学者のための基礎数学 改訂版』裳華房、p.115.
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.94-6.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.331:定義;p. 332-334.