広義積分における不定積分indefinite integral ないし積分関数の定義と性質 

【トピック一覧】
・定義:広義積分における不定積分・積分関数 
・定理:広義積分における不定積分・積分関数の連続性/広義積分における不定積分・積分関数の微分可能性(原始関数と不定積分との関係)
【関連ページ:1変数関数の広義積分について】
  前:有限区間における非有界関数の広義積分定義無限区間における広義積分定義性質向き付き広義積分
  次: 解析学の基本定理収束条件ガンマ関数ベータ関数 
cf. 1変数関数の定積分、2変数関数の広義積分、n変数関数の広義積分
  →参考文献一覧総目次
 

定義:広義積分における不定積分indefinite integral ないし積分関数

    cf.定積分の範囲での不定積分・積分関数の定義 
  [高木『解析概論』104→100;吹田新保『理工系の微分積分学』115→109] 

(1)向きなしの広義積分定義のみに基づく定義
 2点 a,b (a<b)を境界点とする区間I上で
  (区間Iは閉区間[a,b]でも開区間(a,b)でも半開区間[a,b), (a,b]でも無限区間でも構わない)
 広義積分可能な関数f(x)は、
 定理により、Iに含まれる任意の閉区間上で広義積分可能となるので、
 I上の不定積分[吹田新保『理工系の微分積分学』115→109]ないし積分関数[高木『解析概論』104→100] F(x)
 次式で定義できる。
  
(2) 向きつきの広義積分定義に基づく定義[小平『解析入門I』180-183]
 f(x)区間I上広義積分可能であるとする。
  (区間Iは閉区間でも開区間でも半開区間でも無限区間でも構わない)
 a区間Iに属する定数としたxの関数
  
 を、不定積分(積分関数)として定義する。なお、上式の積分記号は、広義積分を意味している。
 ただし、ここでの積分記号は、向きつきの広義積分定義に従うとする。
(1)でのI=[a,b], a≦x≦bという設定が、(2)の定義では、a,xIにまで緩められている。
原 始関数のことを不定積分と呼ぶこともあり、「不定積分」なる用語の定義は統一されていない。したがって、「不定積分」なる用語を用いる場合には、それが何 を指しているのかを、筆者自身で読者に対してその都度つまびらかにしておく必要がある。このあたりの事情については、小平『解析入門I』165を見よ。


定理:広義積分における不定積分(積分関数)の連続性

    cf.定積分の範囲での不定積分の連続性 
(1)向きなしの広義積分定義に基づく定式化
 [吹田新保『理工系の微分積分学』115→109:証明なし;高木『解析概論』104→100:証明の一部あり.]
 2点 a,b (a<b)を境界点とする区間I上で
  (区間Iは閉区間[a,b]でも開区間(a,b)でも半開区間[a,b), (a,b]でも無限区間でも構わない)
 関数f(x)広義積分可能ならば、 
      [すなわち、広義積分収束するならば、]
 その不定積分(=積分関数)    は、閉区間I[a,b]上連続となる。
 ※この定理のおかげで、 f(x)が点x=x0で連続でなくても、F(x)は点x=x0で連続となることが分かる。
  だから、例えば、f(x)開区間(a,b)だけで連続だろうが、区間内に有限個の非連続点を含もうが、
         F(x)閉区間[a,b] で連続となる。

(2)向きつきの広義積分定義に基づく定式化
 [小平『解析入門I』180-183:証明あり;.]
 2点 a,b (a<b)を境界点とする区間I上で
  (区間Iは閉区間[a,b]でも開区間(a,b)でも半開区間[a,b), (a,b]でも無限区間でも構わない)
 関数f(x)広義積分可能ならば、
      [すなわち、広義積分  が収束するならば、]
 その向きつきの不定積分(=積分関数)、すなわち、
    区間Iに属する定数cを決めた上で、xの関数として定義された
    
 は、閉区間[a,b]上連続となる。
 ※この定理のおかげで、f(x)が広義積分可能な区間とその境界点においては、
   f(x)が連続でも積分可能でもない一点x=x0でも、F(x)は連続となることが分かる。
  だから、例えば、f(x)開区間(a,b)だけで連続だろうが、区間内に有限個の非連続点を含もうが、
         F(x)閉区間[a,b]で連続となる。



証明:ケース1 [小平『解析入門I』pp.180-181.]
f(x)が開区間(a,b)で広義積分可能ならば、その不定積分F(x)は、閉区間[a,b]上連続」を示す。
設定:f(x)が開区間(a,b)で広義積分可能であるとする。
 この設定は、以下のことを意味している(その定義に遡って書き下しただけ)。
a< a'<b'<bを満たす任意の閉区間 [a',b']において、f(x)有界かつリーマン可積…@
x=a,bf(x)有界ではないゆえに、x=a,bを含む区間でf(x)定積分を定義できない。 
・しかし、極限値
     
 が存在する。これを、広義積分と呼び、
  
 と書く。
 ・f(x)が開区間(a,b)で広義積分可能であるので、
  定理より、(a,b) 内の任意の区間においてもf(x)は広義積分可能となる。…A 
本題
 まず、
開区間(a,b)に属する一点を定数cと定めて、広義積分にもとづく不定積分(積分関数)
  …B
 を定義する。なお、この積分記号は、
向き付きの広義積分を表す。
(step1)
 @より、
   「
a< a'<b'<b」かつ「BでF(x)を定義するときに決めた定数c[a',b']
 を満たす限りで任意の
閉区間 [a',b']においては、
 
広義ではない定積分にもどつく不定積分(積分関数)
    
 をつくれる。
 この広義ではない定積分にもとづく
不定積分(積分関数)F'(x)が、閉区間 [a',b']において連続であることは、
 
定理によって保証されている。広義積分は、リーマン積分可能な閉区間においては、広義でない定積分と一致するので、広義積分に基づく不定積分F(x)も、閉区間 [a',b']において連続となる。
(step2)すると、問題は、次の点に絞られたことになる。 
   
f(x)リーマン可積とならない2x=a,bにおいて、
   
広義積分にもとづく不定積分(積分関数)F(x)は、つねに片側連続(左連続右連続)となるのか
(step3) x=bにおいて広義積分にもとづく不定積分(積分関数)F(x)は、左連続となるのか?
    要点 不定積分(積分関数)が、このような扱いやすい性質を備えているのは、
       
広義積分をあのように定義し不定積分(積分関数)をあのように定義したおかげ
 Aより、
f(x)右半開区間[c,b)で広義積分可能となり、広義積分
    

 が定義される。
 この定義式の左辺は、Bで定めた広義積分に基づく不定積分
(積分関数)を用いると、F(b)と書きかえられし、
 定義式の右辺だって、Bで定めた広義積分に基づく不定積分
(積分関数)を用いて、
   
 と書ける。つまり、
 

 
よって、点 x=bにおけるF(x)左連続
      

 が成立していることがわかる。
(step4) x=aにおいて広義積分にもとづく不定積分(積分関数)F(x)は、右連続となるのか?
    要点 不定積分(積分関数)が、このような扱いやすい性質を備えているのは、
       
広義積分をあのように定義し不定積分(積分関数)をあのように定義したおかげ
 Aより、
f(x)左半開区間(a,c]で広義積分可能となり、広義積分
    
 …※
 が定義される。
 ※の左辺は、
向き付きの広義積分を用いて(a<cに注意)
    
 と書きかえられ、
 さらにBで定めた広義積分に基づく不定積分
(積分関数)を用いて、
 −
F(a)と書きかえられる。    
 ※の右辺も、
向き付きの広義積分を用いて(a<cに注意)
 

 さらにBで定めた広義積分に基づく不定積分
(積分関数)を用いて、
  
 と書きかえられる。つまり、
  

 よって、点
x=aにおけるF(x)右連続
      

 が成立していることがわかる。
 ※以上の証明の一部を用いることで、
  半開区間
[a,b), ないし(a,b]で広義積分可能ならば、その不定積分F(x)は、閉区間[a,b]上連続であることも示せる。
証明:ケース2 [小平『解析入門I』pp.181-182.]
内点に有限個の特異点を含む閉区間[a,b]f(x)が広義積分可能ならば、
  その
不定積分F(x)は、閉区間[a,b]上連続」を示す。
設定:内点に有限個の特異点を含む閉区間[a,b]f(x)が広義積分可能であるとする。
 この設定は、以下のことを意味している
(その定義に遡って書き下しただけ)
 ・
閉区間[a,b]内点のなかに、k個の特異点c(1), c(2), ,c(k) ( a< c(1)< c(2)< < c(k) <b)がある  
 ・
広義積分 
    
   
 
   
 
  が全て収束する。 
  そのすべての和
    

  
を広義積分と呼び、
    

  
と書く。
 ・
f(x)が閉区間[a,b]で広義積分可能であるので、
  
定理より、[a,b] 内の任意の区間においてもf(x)は広義積分可能となる。
  また、
区間加法性も成り立つ。 
本題
 まず、
[a,b]に属する一点を定数cと定めて、広義積分にもとづく不定積分(積分関数)
  
 を定義する。なお、この積分記号は、
向き付きの広義積分を表す。
(i) F(x)閉区間 [a, c(1)](の各点において)連続であることを示す。
 開区間(a, c(1))から任意の一点pを定数として決める。
 すると、
広義積分の区間加法性から、このpを用いて、以下のようにF(x)を表せる。
 

 ここで、は定数。
 
は、半開区間[a, c(1) )で広義積分可能であるケースでの、不定積分G(x)とみなせる。
 、
ケース1での証明より不定積分G(x)は、閉区間[a, c(1)]上連続となる。
 よって、
閉区間[a, c(1)]上連続な関数G(x)と定数の和も連続であることから、
  (定数も、連続関数とみなせるから、
連続な関数の和も連続という定理がつかえる。)
 
F(x)閉区間[a, c(1)]上連続となることがわかる。
 

(ii) F(x)閉区間 [c(1) , c(2)](の各点において)連続であることを示す。
 開区間
(c(1) , c(2))から任意の一点pを定数として決める。
 すると、
広義積分の区間加法性から、このpを用いて、以下のようにF(x)を表せる。
 

 ここで、は定数。
 
は、(c(1) , c(2))で広義積分可能であるケースでの、不定積分G(x)とみなせる。
 
ケース1での証明より不定積分G(x)は、閉区間[c(1), c(2)]上連続となる。
 よって、
閉区間[c(1), c(2)]上連続な関数G(x)と定数の和も連続であることから、
  (定数も、連続関数とみなせるから、
連続な関数の和も連続という定理がつかえる。)
 
F(x)閉区間[c(1), c(2)]上連続となることがわかる。



(iii) F(x)は閉区間[c(k1) , c(k)](の各点において)連続であることを示す。
 開区間
(c(k1) , c(k))から任意の一点pを定数として決める。
 すると、
広義積分の区間加法性から、このpを用いて、以下のようにF(x)を表せる。
 

 ここで、は定数。
 
は、(c(k1) , c(k))で広義積分可能であるケースでの、不定積分G(x)とみなせる。
 
ケース1での証明より不定積分G(x)は、閉区間[c(k1) , c(k)]上連続となる。
 よって、
閉区間[c(k1) , c(k)]上連続な関数G(x)と定数の和も連続であることから、
  (定数も、連続関数とみなせるから、
連続な関数の和も連続という定理がつかえる。)
 
F(x)閉区間[c(k1) , c(k)]上連続となることがわかる。
(iv) F(x)は閉区間[c(k) ,b](の各点において)連続であることを示す。
 開区間
(c(k) ,b)から任意の一点pを定数として決める。
 すると、
広義積分の区間加法性から、このpを用いて、以下のようにF(x)を表せる。
 

 ここで、は定数。
 
は、(c(k) ,b]で広義積分可能であるケースでの、不定積分G(x)とみなせる。
 
ケース1での証明より不定積分G(x)は、閉区間[c(k) ,b]上連続となる。
 よって、
閉区間[c(k1) , c(k)]上連続な関数G(x)と定数の和も連続であることから、
  (定数も、連続関数とみなせるから、
連続な関数の和も連続という定理がつかえる。)
 
F(x)閉区間[c(k1) , c(k)]上連続となることがわかる。
以上から、
[a,b]に属する全ての点におけるF(x)連続性が示されたので、
F(x)閉区間[a,b]上連続」といってよい。



→[トピック一覧:広義積分における不定積分 ないし積分関数の定義と性質 ]
総目次


定理:広義積分における不定積分(積分関数)の微分

[小平『解析入門I』180-3;]
    cf.定積分の範囲での不定積分の微分 
 2点 a,b (a<b)を境界点とする区間I上で関数f(x)広義積分可能であり、
      [すなわち、広義積分
            
                 が収束し、]
 かつ
 区間I上で有限個の点を除いて関数f(x)連続であるならば、
 f(x)向きつきの不定積分(=積分関数)、すなわち、
    区間Iに属する定数cを決めた上で、xの関数として定義された
    
 は、非連続点を除いたI上の任意の点x=x0微分可能であり、F'(x0)=f(x0)が成り立つ。
 ※すなわち、f(x)の非連続点以外では、、
  F(x)f(x)原始関数となる。[青本『微分と積分1』131;神谷浦井『経済学のための数学入門』332]
 (証明)→定積分の範囲での不定積分の微分をそのまま適用。[小平『解析入門I』180-3;] 


reference

高木貞治『解析概論改訂第3版』岩波書店、1983年、pp. 104-5;109.
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、pp. 115(証明なし)。
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年 pp. 180-184。
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年。